目次
第1セクション:はじめに|「法律用語がわからない」が遺言書の壁になる
遺言書を作ろうとすると、最初にぶつかる壁のひとつが「法律用語の難しさ」です。
「相続」「遺贈」「遺留分」など、日常ではあまり使わない専門用語が多く登場し、それぞれの意味を正確に理解していないと、せっかく書いた遺言書が無効になってしまったり、家族間のトラブルに発展したりすることもあります。
実際に行政書士としてご相談を受けていると、
「ネットで調べながら書いてみたけど、用語の意味に自信がない」
「相続させると遺贈するってどう違うの?」
「付言事項って何を書けばいいのかわからない」
といった声を多く聞きます。
この記事では、遺言書の中でよく使われる法律用語を30以上取り上げて、初心者にもわかりやすく解説していきます。
それぞれの用語について、
- 専門的な定義
- 噛み砕いた説明
- よくある誤解や勘違い
- 行政書士の視点からのアドバイス
を丁寧に盛り込み、さらに簡単な図や事例も交えて理解を深めていきます。
遺言書は、自分の想いをきちんと残し、家族の未来を守るための大切な手段です。
だからこそ、正しい用語理解がその第一歩になります。
「意味がわからないから怖い」と避けてしまうのではなく、
「意味がわかったから、自分にもできそう」と感じてもらえるよう、この記事を活用してください。
第2セクション:遺言に関する基本知識(前提解説)
遺言とは?なぜ必要なのか
遺言とは、自分の死後に財産をどのように分配するか、自分の想いをどう残すかを法的に示すための文書です。
法律上の正しい形式に則って作成することで、相続人同士の争いや不公平感を防ぎ、円満な相続を実現する大きな力になります。
日本では、遺言書がなければ「法定相続」と呼ばれるルールに従って自動的に財産が分配されますが、それが本当に自分の望む形とは限りません。
たとえば、
- 「世話になった長男に多めに遺したい」
- 「特定の相続人に相続させたくない」
- 「内縁の配偶者に財産を渡したい」
- 「ペットの世話を誰に頼むか決めておきたい」
このようなケースでは、遺言書がなければ希望が実現しない可能性があります。
遺言書の種類
遺言書には主に以下の3種類があります。それぞれに特徴と注意点があります。
種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
自筆証書遺言 | 自分の手書きで作成する遺言 | 費用がかからず手軽に書ける | 書き方を間違えると無効になる恐れ |
公正証書遺言 | 公証役場で公証人が作成する | 法的に確実/紛失・改ざんの心配なし | 手数料がかかる/手間がかかる |
秘密証書遺言 | 内容を秘密にして公証役場に預ける遺言 | 内容を秘密にできる | 実務上はあまり使われない |
多くの方にとって最も現実的なのは、「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかです。
ただし、どちらを選ぶにしても、正しい法律用語を使い、意味を理解しておくことが非常に重要になります。
なぜ法律用語が重要なのか?
遺言書には、「相続させる」「遺贈する」「包括受遺者」「遺留分」などの法律特有の用語が数多く登場します。
これらの用語の意味を正しく理解せずに使ってしまうと、次のようなトラブルが発生する可能性があります。
- 意図した相手に財産が渡らない
- 相続人間で解釈が分かれ争いになる
- 裁判で無効と判断されてしまう
たとえば、「長女に家を遺贈する」と書いたつもりが、「相続させる」と書くべきだったことで揉めるケースもあります。
用語1つで法的な意味が変わってしまう。それが遺言書の世界なのです。
行政書士からの一言アドバイス
行政書士としてよく感じるのは、
「わかっているつもりの用語ほど、実は正しく理解されていない」
という点です。
ネットやテレビで聞いた言葉をそのまま使ってしまうと、法的には全く違う意味になることがあります。
実際の現場では、「遺贈と相続を混同していた」「包括受遺者の意味を誤解していた」などの例が後を絶ちません。
だからこそ、この記事でしっかり用語の意味を把握することが、円満な相続と安心な人生設計につながります。
第3セクション:遺言書でよく使われる法律用語30選
このセクションでは、遺言書によく登場する重要な法律用語を30個取り上げ、以下のフォーマットでわかりやすく解説していきます。
各用語の解説フォーマット
- 用語の定義(法律的な意味)
- やさしい言葉での説明(初心者向け)
- よくある誤解や注意点
- 図や例(適宜)
- 行政書士視点のアドバイス
法律用語30選
1. 相続(そうぞく)
- 定義
死亡した人の財産・権利義務を、相続人が引き継ぐこと。 - やさしい説明
亡くなった人の財産や借金を家族が引き継ぐことです。 - 誤解
「プラスの財産だけ相続できる」と思われがち。実際は借金も対象です。 - 例
父の預金500万円と住宅ローン200万円を、長男と次男で相続。 - 行政書士コメント
相続内容次第では「放棄」や「限定承認」も検討しましょう。
2. 遺贈(いぞう)
- 定義
遺言によって、相続人以外の人に財産を与える行為。 - やさしい説明
家族以外にも遺産を残したいときに使う方法です。 - 誤解
相続と同じものと思われがちですが、法的な性質は異なります。 - 例
友人Aに100万円を遺贈。 - 行政書士コメント
相続人でない人にも渡せますが、遺留分侵害に注意が必要です。
3. 受遺者(じゅいしゃ)
- 定義
遺言により遺贈を受ける人のこと。 - やさしい説明
遺言で「この人に財産を渡す」と書かれた人。 - 誤解
相続人と混同されやすいが、法定相続権はない。 - 例
「〇〇協会に500万円を遺贈する」→ 協会が受遺者 - 行政書士コメント
法人や団体も受遺者になれます。明確な記述が重要です。
4. 包括受遺者(ほうかつじゅいしゃ)
- 定義
遺産の一定割合など、全部または一部を包括的に受け取る人。 - やさしい説明
「全財産の1/2を〇〇に渡す」といったケースの受遺者。 - 誤解
単に「○○に100万円を渡す」だけでは包括にならない。 - 例
「長女に財産のすべてを遺贈」→ 長女は包括受遺者 - 行政書士コメント
包括受遺者は相続人とほぼ同様の権利と義務を持つ点に注意。
5. 特定受遺者(とくていじゅいしゃ)
- 定義
特定の財産を遺贈される人。 - やさしい説明
「A銀行の口座を妻に」といったように、具体的なモノを渡す人。 - 誤解
特定受遺者は相続債務を原則負いません。 - 例
「弟に土地(登記番号〇〇)を遺贈」 - 行政書士コメント
不動産や株式などは詳細な指定が必要です。
6. 遺留分(いりゅうぶん)
- 定義
相続人に法律上保証された最低限の取り分。 - やさしい説明
たとえ遺言で何ももらえないと書かれていても、法律で一部は受け取れる権利です。 - 誤解
「遺言があれば全て自由に財産を配分できる」と思い込んでしまうこと。 - 例
父の全財産を次男に…と書いても、長男が遺留分を請求できる。 - 行政書士コメント
遺贈内容が遺留分を侵害していないかは事前に必ず確認を。
7. 代襲相続(だいしゅうそうぞく)
- 定義
本来の相続人が死亡している場合、その子が代わって相続すること。 - やさしい説明
先に亡くなった人の子どもが、代わりに財産を受け取れる制度です。 - 誤解
兄弟姉妹には代襲相続がない(→ 甥・姪は相続しない)。 - 例
長男が父より先に死亡 → 長男の子(孫)が相続する。 - 行政書士コメント
代襲相続の確認漏れがトラブルの原因になることが多いです。
8. 共同相続(きょうどうそうぞく)
- 定義
複数の相続人が共同して相続すること。 - やさしい説明
相続人が2人以上いる場合、相続財産はみんなの“共有財産”になる状態。 - 誤解
すぐに自分の持ち分が自由に使えると思ってしまうこと。 - 例
父の土地を3人の子が相続 → 遺産分割が終わるまで共有状態。 - 行政書士コメント
分割協議が終わるまでは勝手に売却などできません。
9. 指定相続分(していそうぞくぶん)
- 定義
遺言によって、各相続人の取り分を自由に決める割合。 - やさしい説明
遺言で「長男に5割、次男に3割、長女に2割」と分け方を指定することです。 - 誤解
法定相続分しか認められないと思っている人が多い。 - 例
「長女に全財産の50%を相続させる」 - 行政書士コメント
遺留分を侵害しない範囲であれば、自由に指定可能です。
10. 法定相続分(ほうていそうぞくぶん)
- 定義
民法で定められた相続分の割合。 - やさしい説明
遺言がなかった場合、自動的に決まる分け方です。 - 誤解
遺言があっても法定相続分が優先されると誤解されること。 - 例
配偶者1/2、子どもたちで1/2を等分。 - 行政書士コメント
遺言がない場合のスタートライン。ただし相続人の合意で変更可能です。
11. 限定承認(げんていしょうにん)
- 定義
相続によって得た財産の範囲内で、債務も引き継ぐという条件付きの相続。 - やさしい説明
「もらった財産の範囲内でしか借金を払わなくていい」相続方法です。 - 誤解
通常の相続と混同して、「全財産を引き継ぐ」と誤解されがち。 - 例
プラス財産300万円、借金500万円 → 300万円まで返済義務。 - 行政書士コメント
家庭裁判所への申述が必要。使いどころを見極めるのが重要です。
12. 相続放棄(そうぞくほうき)
- 定義
相続人が一切の権利・義務を放棄すること。 - やさしい説明
借金のある親の財産を「全部いりません」と断ることができます。 - 誤解
一部だけ放棄することはできません。「全部 or 何もなし」です。 - 例
父の借金が多いため、長男が相続放棄を申請。 - 行政書士コメント
3か月以内の申述が必要。期限を過ぎると放棄できません!
13. 検認(けんにん)
- 定義
家庭裁判所が遺言書の状態を確認し、保全の手続をすること。 - やさしい説明
自筆証書遺言を使うには、裁判所で「本物ですか?」の確認が必要です。 - 誤解
検認=有効判定ではない。ただの形式確認です。 - 例
長男が見つけた父の自筆遺言 → 家庭裁判所で検認。 - 行政書士コメント
公正証書遺言には検認が不要。この違いは重要です!
14. 自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)
- 定義
全文を本人が自筆し、日付・署名・押印をした遺言書。 - やさしい説明
自分で手書きして作る遺言。お金がかからず簡単ですが、注意点も多いです。 - 誤解
手軽だからといって、形式ミスで無効になるリスクあり。 - 例
「すべての財産を長男に相続させる」と自筆で記載。 - 行政書士コメント
遺言保管制度の活用がおすすめ。検認も不要になります。
15. 公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)
- 定義
公証人が作成する、法的に最も確実な形式の遺言。 - やさしい説明
専門家が内容を確認してくれる安心な遺言方法。費用はかかりますが、失敗しにくいです。 - 誤解
「費用が高いだけ」と思われがちだが、トラブル回避に最も有効。 - 例
公証役場で公証人と証人立ち合いのもと作成。 - 行政書士コメント
高齢者・病気の方には特に推奨。出張対応も可能です。
16. 秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)
- 定義
内容を秘密にしたまま、公証役場で存在だけを証明する遺言。 - やさしい説明
内容を見せたくないけど、遺言があることは証明したいときに使います。 - 誤解
実務ではあまり使われません。形式不備で無効になるリスクも。 - 例
本人が作成し封印 → 公証人が署名捺印。 - 行政書士コメント
実際の利用率は非常に低い。特別な事情がない限り非推奨です。
17. 付言事項(ふげんじこう)
- 定義
法的効力はないが、想いや意図を伝える自由記載欄。 - やさしい説明
「なぜこう分けたのか」「感謝の気持ち」などを自由に書ける部分です。 - 誤解
法的に拘束力があると思ってしまうケースあり。 - 例
「長男には介護の感謝を込めて多めに渡します」など。 - 行政書士コメント
相続人の感情的な納得感を高めるために非常に有効です。
18. 遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)
- 定義
遺言の内容を実際に実行・手続きする人。 - やさしい説明
遺言の通りに財産を分けたり手続きをする代表者のような人です。 - 誤解
誰でもなれるわけではなく、相続人同士でのトラブルになりやすい。 - 例
遺言に「長男を遺言執行者に指定する」と明記。 - 行政書士コメント
遺言執行者の指定があると手続きがスムーズになります。専門家に依頼するケースも多いです。
19. 遺言能力(ゆいごんのうりょく)
- 定義
遺言書を有効に作成するために必要な判断能力のこと。 - やさしい説明
きちんと物事を理解して判断できる状態でないと、遺言は無効になることがあります。 - 誤解
高齢であれば誰でも書けると思い込んでいるケースが多い。 - 例
認知症が進んだ状態で作成された遺言が無効とされた例も。 - 行政書士コメント
高齢者が遺言を書く際は、診断書や録音で能力の証拠を残すのがおすすめです。
20. 無効要件(むこうようけん)
- 定義
遺言が法律的に無効とされる条件・理由。 - やさしい説明
書き方や内容にミスがあると、遺言が効力を持たなくなります。 - 誤解
細かいミスでも大丈夫と思ってしまいがち。 - 例
日付が書かれていない/押印がないなどで無効になる。 - 行政書士コメント
形式不備で無効になる遺言書は非常に多いです。慎重に確認を!
21. 撤回(てっかい)
- 定義
一度書いた遺言を取り消すこと。 - やさしい説明
「前の遺言をやめて、新しい内容にする」ことができます。 - 誤解
一度書いたら変更できないと思い込んでしまう人が多い。 - 例
5年前の遺言 → 新しく書き直した場合、新しい内容が有効になります。 - 行政書士コメント
最新の遺言が常に優先されます。内容を見直したいときは遠慮なく書き直しましょう。
22. 共同遺言(きょうどうゆいごん)
- 定義
2人以上が同じ遺言書に遺言を記すこと。日本の法律では認められていません。 - やさしい説明
「夫婦で1つの遺言書を書く」ことは、法律上できません。 - 誤解
夫婦が1枚の紙に一緒に遺言を書いても有効だと思ってしまう。 - 例
夫婦が1通の紙に「お互いに全財産を相続する」と記載 → 無効 - 行政書士コメント
1人1通が原則です。ペアで1枚にまとめないようご注意を!
23. 共同遺贈(きょうどういぞう)
- 定義
複数の人に対して、同じ財産を遺贈すること。 - やさしい説明
「この家を兄弟3人にあげる」といったように、1つの財産を共同で与えること。 - 誤解
財産の扱い方を決めずに遺贈すると、争いの原因になります。 - 例
「土地を3人に遺贈」→ 使用や処分方法で意見が割れるケースも。 - 行政書士コメント
共有状態はトラブルになりやすいため、できれば避けるか、分割方法も明記しましょう。
24. 相続財産(そうぞくざいさん)
- 定義
被相続人が残した全ての財産(資産・負債)。 - やさしい説明
現金、不動産、車、株、借金などすべてが含まれます。 - 誤解
プラスの財産だけが対象と思われがち。 - 例
預金300万円、借金100万円、不動産1件 → すべてが相続財産。 - 行政書士コメント
財産目録を作成して、内容を正確に把握することが第一歩です。
25. 遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)
- 定義
相続人全員で、相続財産をどう分けるかを話し合うこと。 - やさしい説明
相続人同士で「誰が何をもらうか」を決める会議のようなものです。 - 誤解
話し合いをせず勝手に分けてしまうと、後で無効になるリスクあり。 - 例
兄弟3人で集まり、母の財産を話し合って分配。 - 行政書士コメント
協議書を必ず書面化しましょう。不動産登記などにも必要です。
26. 家庭裁判所(かていさいばんしょ)
- 定義
家事事件(相続、遺言、後見など)を扱う裁判所。 - やさしい説明
遺言の検認や相続放棄の手続きは、ここで行います。 - 誤解
「裁判」と聞くと身構えるが、実際は手続きの場です。 - 例
相続放棄をするために家庭裁判所へ申立て。 - 行政書士コメント
申立書類の作成・提出が重要。不備があると受理されません。
27. 祭祀承継(さいししょうけい)
- 定義
墓や仏壇などの「先祖供養に関する財産」を引き継ぐこと。 - やさしい説明
お墓や位牌を誰が引き継ぐか決める制度です。 - 誤解
財産とは別物と考えられがちだが、トラブルになりやすい要素。 - 例
長男が墓と仏壇を受け継ぐ。 - 行政書士コメント
明記しておかないと相続人間で揉めやすいポイントです。
28. 遺言保管制度(ゆいごんほかんせいど)
- 定義
法務局に自筆証書遺言を預けておくことができる制度(2020年施行)。 - やさしい説明
自筆遺言を安全に保管してくれて、検認も不要になる便利な仕組みです。 - 誤解
「役所に預けると内容を公開されるのでは」と思われるが非公開です。 - 例
書いた遺言を最寄りの法務局に持参し、保管。 - 行政書士コメント
費用も安価(3,900円)で利用価値大!おすすめ制度です。
29. 法定代理人(ほうていだいりにん)
- 定義
法律上の代理権を持って、本人に代わって行為をする人。 - やさしい説明
認知症の方などが遺言や相続に関わる場合、代わりに手続きをする人です。 - 誤解
家族なら誰でも代わりに手続きできるわけではありません。 - 例
成年後見人が就いている場合、後見人が代理人となる。 - 行政書士コメント
後見制度との関係が深いため、事前に確認・調整が必要です。
30. 相続税(そうぞくぜい)
- 定義
相続によって得た財産に対してかかる税金。 - やさしい説明
一定額以上の遺産を受け取った場合、国に納める税金です。 - 誤解
「すべての相続に税金がかかる」と誤解されがち。実際は多くが非課税。 - 例
遺産が5,000万円を超える → 相続税の申告が必要になる場合あり。 - 行政書士コメント
基礎控除の把握と、必要なら税理士との連携も視野に入れておきましょう。
第4セクション:用語の誤解が引き起こすトラブル事例(ミニストーリー)
事例①:「遺贈」と「相続」の違いを誤解してトラブルに
●登場人物
- 田中さん(被相続人)
- 長女:優子さん
- 妻:恵子さん
- 相続人ではない弟:浩一さん
●ストーリー
田中さんは生前、弟の浩一さんに感謝の気持ちを込めて、「自宅を弟に譲る」と遺言書に記しました。
遺言にはこう書かれていました。
「弟の浩一に、私名義の自宅(住所:〇〇)を相続させる」
ところが、田中さんの死後、その遺言に不備があることが判明。
浩一さんは法定相続人ではないため、「相続させる」は無効。
法律上は「遺贈する」と書く必要があったのです。
その結果、自宅は長女と妻が「相続人」として引き継ぎ、浩一さんには何も渡らず、家族間に深い溝が生まれてしまいました。
●解説:なぜこうなったのか?
- 「相続させる」は、相続人にしか使えない表現。
- 相続人でない人には「遺贈する」と明記すべき。
- 形式的なミスでも、法的効力には重大な影響が出る。
●行政書士コメント
こういったトラブルは意外と多く、言葉1つで遺言全体が無効扱いになるケースもあります。
特に「相続」「遺贈」の使い分けには細心の注意が必要です。
事例②:「包括受遺者」と「特定受遺者」の区別がなく揉めた話
●登場人物
- 被相続人:佐藤さん
- 長男:太郎さん
- 次男:次郎さん
●ストーリー
佐藤さんは遺言で、「長男に財産をすべて渡す」とだけ書いていました。
長男の太郎さんは、すべてを相続するつもりで準備を進めていましたが、次男の次郎さんが「それはおかしい」と主張。
内容が曖昧だったため、長男が特定受遺者なのか包括受遺者なのか判断がつかず、遺産分割協議も進まず、裁判にまで発展してしまいました。
ざっくり言いますと、包括=すべて、特定=一部のような理解で問題ありません。
●解説:なぜこうなったのか?
- 「財産すべてを渡す」だけでは、法的に包括受遺かどうかの判断が難しい。
- 包括受遺者は債務も負うが、特定受遺者は負わない。
- 法的な立場が違えば、権利と責任も大きく変わる。
●行政書士コメント
包括か特定かで、手続きも責任も大きく異なります。
曖昧な表現ではなく、専門用語を正しく使うことが大切です。
事例③:「付言事項」の誤解で兄弟が絶縁に
●登場人物
- 被相続人:山口さん
- 長男:信也さん
- 次男:亮さん
●ストーリー
山口さんは遺言書の中で、長男の信也さんに大部分の財産を相続させました。
次男の亮さんには、ごくわずかな預金だけ。
そして遺言の最後に、こう書かれていました。
「亮はあまり親孝行をしなかったため、このように判断した」
この「付言事項」を読んだ亮さんは深く傷つき、信也さんに不満をぶつけるように。
財産の問題よりも、心の部分が原因で兄弟関係が絶縁状態になってしまいました。
●解説:なぜこうなったのか?
- 付言事項は「法的効力はない」が、「感情的影響は非常に大きい」。
- 表現に配慮がないと、かえって恨みを買ってしまう。
●行政書士コメント
付言事項は、うまく使えば相続人の納得を得やすくなりますが、不用意な言葉選びが、関係悪化を招く恐れもあります。
「理由」は書いても、「評価」や「批判」は避けましょう。
事例④:「遺留分」の存在を知らずに全財産を他人に
●登場人物
- 被相続人:斉藤さん(独身・子なし)
- 弟:健太さん(法定相続人)
- 親友:加藤さん(受遺者)
●ストーリー
斉藤さんは長年親交のあった友人・加藤さんに感謝の気持ちを込めて、「全財産を親友の加藤に遺贈する」
と遺言書に書きました。
しかし、弟の健太さんが「自分には一切相続されないのか」と異議を唱え、遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求)を申し立てたことで、
加藤さんは一部の財産を返還せざるを得なくなりました。
●解説:なぜこうなったのか?
- 兄弟姉妹には遺留分がないと思われがちですが、直系尊属・子・配偶者がいない場合は注意が必要。
- 本件では、争いの火種を事前に消しておく工夫が可能だった。
●行政書士コメント
遺留分についてはケースバイケースで細かい判断が必要です。
「誰にどれくらいの遺留分があるのか」を理解したうえで遺言を書かないと、争いの元になります。
事例⑤:「検認」を知らずに勝手に開封 → 無効のリスクに
●登場人物
- 被相続人:岡本さん
- 長男:直人さん
- 妻:典子さん
●ストーリー
岡本さんの死後、長男の直人さんが父の机から封筒を見つけました。
中には「自筆証書遺言」が入っていましたが、内容が気になり、家庭裁判所に届け出ずにその場で開封してしまったのです。
その後、遺言書の存在を知った他の相続人が「違法開封では?」と主張。
検認を経ていない開封がトラブルの火種となり、家庭裁判所で無効と争われる事態に…。
●解説:なぜこうなったのか?
- 自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所での検認が必要。
- 検認前に開封したことで、遺言書の真正性が疑われた。
●行政書士コメント
検認をせずに開封した場合、内容そのものが無効になることは稀ですが、裁判や争いに発展する可能性が非常に高まります。
勝手に開封せず、まず家庭裁判所へ。
事例⑥:「遺言執行者」の指定がなく混乱した相続手続き
●登場人物
- 被相続人:森さん
- 相続人:長男(実家で同居)、長女(遠方在住)、次男(連絡つかず)
●ストーリー
森さんは生前、「すべての財産を長男に相続させる」と遺言書に記載しましたが、遺言執行者を指定していませんでした。
すると、他の兄弟姉妹が「父はこんなつもりじゃなかった」と主張。
長男が単独で不動産の名義変更を進めようとしても、他の相続人全員の同意が必要となり、手続きが進まなくなってしまいました。
●解説:なぜこうなったのか?
- 遺言執行者を指定しておけば、その人が単独で手続きを進められる。
- 指定がないと、相続人全員の実印・印鑑証明が必要になる場面も。
●行政書士コメント
特に複数の相続人がいて意見が分かれそうな場合、執行者の指定は“必須”といえます。
行政書士や司法書士に第三者として依頼するのも有効な選択肢です。
小まとめ
このように、ちょっとした用語の誤解が大きなトラブルの引き金になります。
「意味はなんとなく知ってる」では済まされないのが、遺言の世界。
「法律用語の正確な理解」+「法的な手続きを怠らないこと」の重要性を浮き彫りにしています。
知識不足がそのままトラブルに直結する。
だからこそ、専門家の視点を活かした遺言作成が不可欠です。
言葉の意味を正確に理解することが、家族の未来の安心につながります。
第5セクション:自分で遺言書を書く際に注意すべきこと
自分で遺言を書く人が増えている背景
近年は、インターネットや書籍を参考にしながら、自分で遺言書を作成する人が増加しています。
とくに、2020年に施行された「遺言書保管制度」によって、自筆証書遺言の使いやすさが向上したことが理由の一つです。
費用も安く、手軽に始められる一方で、注意しないと無効になってしまうリスクも…。
ここでは、実際によくある失敗例と対策を整理します。
⚠ よくある注意点と失敗例
1. 法的に不完全な書き方をしてしまう
【例】
- 日付が不明確(「令和〇年〇月」など)
- 署名がない/押印がない
- 全文が手書きでない(PCで作成したなど)
【解説】
自筆証書遺言では、全文・日付・氏名をすべて手書きする必要があります。
一部でも欠けると、形式不備で無効とされる可能性があります。
【行政書士コメント】
手書きに自信がない方でも、最低限のルールは守りましょう。
不安なら保管制度を利用し、専門家に下書きを確認してもらうのがおすすめです。
2. 用語の使い方を間違えて意味が変わってしまう
【例】
- 「遺贈」と「相続」を混同
- 「包括受遺者」と「特定受遺者」の違いがわからない
- 財産の分け方が不明確
【解説】
遺言は一語一語に法的な意味があるため、使い方を誤ると、遺言の趣旨がまったく伝わらなくなることも。
【行政書士コメント】
よくわからない言葉を無理に使わず、わかる範囲で正確に記述しましょう。
法律用語の誤用=実行不能になるリスクです。
3. 財産の記載が曖昧で特定できない
【例】
- 「預金を妻に相続させる」←どこの銀行?いくら?
- 「不動産を長男に遺贈」←登記情報が書かれていない
【解説】
財産が具体的に特定できないと実行できないため、口座番号や不動産の登記番号、物件の所在地などを正確に書く必要があります。
【行政書士コメント】
財産目録を別紙で作る場合も、遺言と明確にリンクさせることが大切です。
4. 相続人の記載ミスや漏れ
【例】
- 実子だけ記載して、養子が抜けている
- 名前の漢字やフリガナが違う
【解説】
相続人の情報が誤っていると、誰のことなのか明確でなくなり、相続手続きが止まる原因に。
【行政書士コメント】
氏名・生年月日・続柄などをしっかり記載して、一意に特定できるようにしましょう。
5. 感情的な記述・攻撃的な表現
【例】
「二男は親不孝だったから財産は一切与えない」など
【解説】
こういった記述は法的には無効であるうえ、遺族間の感情的対立を助長するおそれがあります。
【行政書士コメント】
批判ではなく、「感謝」「配慮」「公平性」などのポジティブな文脈で気持ちを伝えるのがベターです。
「書くだけで終わり」はNG!保管と見直しも大切
- 書いた遺言書は、安全に保管し、必要に応じて見直し・書き直しを検討することも大切です。
- 法務局の「自筆証書遺言保管制度」を使えば、検認が不要になり、紛失や改ざんのリスクも減ります。
書く前にやるべき3つの準備
- 家族構成を整理する(相続人の確定)
- 財産目録を作成する(預金・不動産・動産など)
- 希望する分け方の草案を作る(感情も含めて)
行政書士からの一言アドバイス
遺言書は、「書いたら終わり」ではありません。
形式・内容・表現のすべてが正しく整って初めて機能する遺言になります。
自分で書くことは可能ですが、本当に大切なものだからこそ、確認・添削・保管まで含めて計画的に行うことが重要です。
第6セクション:専門家に相談するべきタイミングとは?
遺言書は「誰でも書ける」けれど、「誰でもうまく書ける」わけではない
遺言書は法的に誰でも作成できます。
ですが、有効に機能する遺言書を書くのは、想像以上に難しいものです。
特に以下のようなケースでは、専門家に相談することで大きなメリットがあります。
専門家に相談したほうがよい典型的なケース
1. 相続人同士の関係が複雑 or 不仲
少しでも揉める可能性がある場合は、法的な整合性+感情への配慮が不可欠。
2. 財産の種類が多い・複雑
不動産・株式・借地権・海外資産などがある場合は、専門的な知識が必要です。
3. 法定相続と異なる分け方をしたい
「長男に多く渡したい」「介護してくれた子にすべて渡したい」などは、遺留分への配慮+明確な文言が求められます。
4. 相続人以外に財産を渡したい
友人・団体・内縁の配偶者などには、遺贈の正確な表現が必要です。
5. 家族に障害のある人がいる/高齢者施設に入居中
福祉制度や信託制度と連携することで、より適切な相続が可能になります。
どんな専門家に相談すればいい?
専門家 | 相談内容の目安 |
---|---|
行政書士 | 遺言書の作成支援、文案チェック、法務局保管制度の利用サポートなど |
司法書士 | 不動産名義変更や、登記の代行など |
弁護士 | 相続争いが起きている場合、法的代理人として対応 |
税理士 | 相続税の申告、節税対策の相談など |
遺言書の作成を中心に考えるなら、「行政書士」への相談が最も適しています。
実務の現場でも、多くの遺言書は行政書士のサポートのもとで作られています。
費用の目安(参考)
項目 | 費用の目安(※地域・事務所により異なる) |
---|---|
遺言書文案作成 | 3万円〜10万円程度 |
公正証書遺言の立会・調整業務 | 5万円〜15万円程度 |
遺言保管制度の申請サポート | 1万円〜3万円程度 |
「費用が気になる…」という方も、初回相談は無料 or 低価格の事務所が多いため、まずは一度問い合わせてみるのがおすすめです。
行政書士からの現場アドバイス
実際の現場では、「書いたけど自信がない」「家族と揉めないか心配」という声をよく聞きます。
そういう時こそ、専門家のセカンドオピニオンとして相談する価値があります。
- 一緒に文面を整える
- 書いた遺言が法的に有効かをチェックする
- 財産内容や家族構成から“もめない形”を一緒に考える
こうした支援を通して、「安心して人生の整理ができた」と満足される方が非常に多いです。
自分で書いてもOK。でも迷ったら…
遺言書は「気持ち」だけでなく、「法律」によって有効性が左右されます。
だからこそ、「ちょっとでも不安を感じたら専門家に相談してOK」です。
自分の想いをしっかりカタチにして、
残された家族が笑顔で相続を迎えられるよう、書いた後の安心まで設計していきましょう。
第7セクション:よくある質問
このセクションでは、遺言書や法律用語に関する「よくある質問」を、初心者でも理解しやすい形でまとめました。
Q1. 「遺言」と「遺書」の違いって何ですか?
A:「遺言」は法律的に効力のある文書です。形式・内容・署名・日付などがきちんと整っていれば、財産の分配や意思表示として法的に認められます。
一方、「遺書」は気持ちを伝えるための手紙のようなもので、法的効力は基本的にありません。
ただし、「遺書の中に遺言の要件を満たす記述」があると、遺言とみなされる場合もあります。
Q2. 「相続させる」と「遺贈する」は何が違うの?
A:簡単に言うと、対象が違います。
- 相続させる:相続人に対して使う言葉(例:妻や子ども)
- 遺贈する:相続人以外の人に対して使う言葉(例:友人、団体)
この違いを間違えると、遺言の一部が無効になる可能性もあるため要注意です。
Q3. 遺言書に書いておくべきことは何ですか?
A:基本的には以下のような項目を網羅すると良いでしょう。
- 誰に何を渡すか(財産の分け方)
- 相続人以外に渡す場合はその理由
- 遺言執行者の指定
- 付言事項(自由記述)
- 財産の詳細(預金口座番号、不動産の登記情報など)
不安な方は行政書士などに下書きをチェックしてもらうのが安心です。
Q4. 遺言書は何歳から書けますか?
A:満15歳以上であれば、誰でも遺言書を作成できます(民法961条)。
高齢者であっても、判断能力があれば有効な遺言書を作成できます。
Q5. 書いた遺言書はどこに保管すればいいですか?
A:保管方法には以下の選択肢があります。
- 自宅(金庫や引き出しなど)→ 紛失や改ざんリスクあり
- 家族・信頼できる人に預ける → トラブル防止の説明が必要
- 法務局に預ける(遺言書保管制度) → 安価かつ安全。検認も不要。おすすめ!
Q6. 遺言書の内容は誰かにバレますか?
A:遺言書の内容は、本人が亡くなるまでは非公開にしておくのが一般的です。
公正証書遺言や遺言書保管制度でも、本人が存命中は第三者が中身を見ることはできません。
Q7. 遺言書を書いたあとで気が変わったらどうすればいい?
A:遺言はいつでも撤回・変更が可能です。
新しい遺言が古い遺言に優先されるため、「書き直し=古い遺言の撤回」となります。
Q8. 相続人がいない場合、財産はどうなるの?
A:相続人がいない場合、まず「特別縁故者」(介護してくれた人など)が請求できます。
それもなければ、最終的には国庫(国)に帰属します。
Q9. 遺言執行者は誰にお願いするのがベスト?
A:相続人の中に信頼できる人がいれば、その人を指定してもOKです。
トラブル防止・中立性を重視するなら、行政書士や司法書士など第三者を選ぶのがおすすめです。
Q10. 遺言って本当に必要ですか?
A:必要かどうかは家族の状況によりますが、以下に1つでも当てはまるなら遺言は書いておいたほうが安心です。
- 相続で家族に負担をかけたくない
- 財産を特定の人に多く渡したい
- 相続人以外に渡したい人がいる
- 相続人が多い/関係が複雑/不仲
- 遺産が不動産中心で分けにくい
第8セクション:まとめ|遺言書は用語から整える
言葉ひとつで、遺言の「効力」と「未来」が変わる
ここまでご覧いただきありがとうございました。
この記事では、「相続」「遺贈」「遺留分」などの法律用語を正しく理解することの重要性を、用語解説と事例を交えてお伝えしてきました。
遺言書は、気持ちを伝える手紙ではなく、法律に基づいた意思表示です。
そのため、どれだけ想いが詰まっていても、言葉の選び方ひとつで意味が変わってしまうのです。
用語を理解すること=“家族を守ること”
- 「相続させる」と「遺贈する」の使い分け
- 「遺留分」への配慮
- 「包括受遺者」と「特定受遺者」の違い
- 「検認」の必要性 など
これらを知らずに書いた遺言は、無効や争いの種になるリスクを抱えています。
一方で、用語を正しく使いこなせれば、自分の希望を正確にカタチにし、家族に安心を残せるようになります。
自分で書くなら「慎重に」、不安があれば「相談を」
自筆で遺言書を書くことは可能ですが、失敗のリスクもゼロではありません。
だからこそ、以下のような姿勢が大切です。
- わからない言葉は調べる、または専門家に確認する
- 財産や相続人の状況を整理してから書く
- 書いた後の保管・見直しも忘れない
そして何より、「少しでも不安があれば専門家に相談する」ことを恐れないでください。
行政書士からの締めのメッセージ
私たち行政書士は、遺言を法律と感情の両面からサポートする専門家です。
「家族がもめないようにしたい」「財産をちゃんと伝えたい」
その想いを、正しく・安心できるカタチにしていくお手伝いをしています。
遺言書は、人生の最終メッセージです。
ぜひ、この記事をきっかけに「言葉」の意味を知り、あなた自身と、あなたの大切な人たちの未来を整えていってください。
本記事のまとめ
- 遺言書は法律用語によって効力が変わる
- よく使われる用語を理解することが、円満な相続の第一歩
- 自分で書くことも可能だが、誤解やミスに注意が必要
- 不安なときは、行政書士などの専門家に相談するのが最善策