人生の最期を迎える前に、自身の財産をどのように分配するかを明確にしておくことは、残された家族のためにも重要です。その手段の一つとして「遺言信託」があります。本記事では、遺言信託の基本的な仕組みやメリット・デメリット、手続きの流れ、そして利用時の注意点について詳しく解説します。
目次
遺言信託とは
遺言信託とは、信託銀行などの金融機関が、遺言書の作成支援から保管、そして遺言の執行までを一括してサポートするサービスです。これにより、遺言者の意思を確実に実現し、相続手続きの円滑化を図ることができます。
「遺言信託」とは信託銀行等が提供しているサービスのカテゴリ名です。法的に「遺言信託」という言葉は存在しません。
遺言信託の仕組み
1.遺言書の作成
遺言者は信託銀行と相談し、自身の財産や相続人に関する情報を提供します。その上で、遺言内容を決定し、公証役場で公正証書遺言を作成します。この際、信託銀行の職員が証人として立ち会うことも可能です。
2.遺言書の保管
作成した遺言書の正本は、信託銀行が安全に保管します。これにより、遺言書の紛失や改ざんのリスクを低減することができます。
2024年、銀行職員によって、貸金庫内の金品が盗難される事件がありました。銀行に預けたからと言って、紛失や改ざんのリスクを防ぐことはできませんので、「低減」と表現いたしました。
3.相続開始後の手続き
遺言者が亡くなった際、指定された通知者から信託銀行へ連絡が入ります。信託銀行は遺言執行者として、遺言内容の開示、財産の調査、相続人への分配など、一連の手続きを遂行します。
遺言信託のメリット
- 専門的なサポート :信託銀行の専門スタッフが、遺言書作成から執行までをサポートするため、法律や手続きに不安がある方でも安心して利用できます。
- 遺言内容の確実な実行:信託銀行が遺言執行者となることで、遺言者の意思が確実に実現されます。
- 相続トラブルの防止 :第三者である信託銀行が介入することで、相続人間のトラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。
遺言信託のデメリット
- 費用が高額 :遺言信託の利用には、遺言書作成時の手数料や保管料、執行時の報酬など、一定の費用がかかります。
- 相続人間のトラブル対応が難しい:信託銀行は法律上、相続人間の争いに介入できないため、トラブルが発生した場合は弁護士のサポートが必要となります。

遺言信託の手続きの流れ
信託銀行の窓口で、遺言信託に関する相談を行います。自身の財産状況や相続人に関する情報を提供し、遺言内容を検討します。
公証役場で公正証書遺言を作成します。信託銀行の職員が証人として立ち会うことも可能です。
遺言書作成後、信託銀行と遺言信託の契約を締結します。この際、遺言書の正本や財産に関する資料を提出します。
信託銀行が遺言書の正本を安全に保管します。
遺言者の死亡後、指定された通知者が信託銀行へ連絡します。
信託銀行が遺言執行者として、財産の調査、相続人への分配などの手続きを行います。
一般論としての手続きの流れを記載させていただきましたが、そもそも信託銀行に口座がない場合、一定以上の金融資産を保有していない場合は、信託銀行によっては「遺言信託」の依頼を断られる可能性がある点、ご注意ください。
遺言信託利用時の注意点
- 費用の確認 :遺言信託の利用には、手数料や保管料、執行報酬などがかかります。事前に詳細な費用を確認し、納得した上で契約を結ぶことが重要です。
- 遺言内容の定期的な見直し:財産状況や家族構成の変化に応じて、遺言内容を見直す
遺言信託と遺言の違い
項目 | 遺言信託 | 遺言 |
作成サポート | 信託銀行がサポート | 自分で作成または行政書士や弁護士に依頼 |
保管 | 信託銀行が保管 | 自宅保管、法務局、または公証役場 |
遺言執行者 | 信託銀行が執行者 | 自分で指定(家族・行政書士・弁護士など) |
費用 | 高め(数十万円~) | 自筆ならほぼ無料、公正証書で数万円~ |
トラブル防止 | テキスト第三者の介入で防止しやすい | 相続人に任される |
遺言信託を利用すべきケース
- 相続財産が多い場合
数千万~数億円規模の財産を持つ場合、相続手続きは非常に複雑です。信託銀行の専門知識でトラブルなく手続きが進められます。 - 家族間のトラブルを避けたい場合
相続で揉めるケースは少なくありません。第三者である信託銀行が介入することで、不公平感や争いを未然に防げます。 - 相続人が未成年・高齢者の場合
相続人が未成年や高齢者である場合、遺言信託なら信託銀行が手続きを代行し、円滑な相続を実現します。
遺言信託の費用相場
- 遺言書作成費用:10万円~20万円程度
- 保管費用 :年間1万円~2万円程度
- 執行費用 :相続財産の1~2%(最低50万円程度)
信託銀行や財産内容によって異なります。事前に見積もりを取り、複数の金融機関を比較することが大切です。
遺言信託を利用する際の注意点
- 信託銀行の選び方
費用やサービス内容、実績を比較し、自分に合った信託銀行を選ぶことが重要です。 - 定期的な見直し
財産内容や家族構成が変わった場合は、遺言書を見直し、必要に応じて変更します。 - 遺言内容の明確化
抽象的な内容はトラブルの原因になります。誰に何を、どれだけ相続させるのかを明確に記載しましょう。

遺言信託に関するよくある質問
Q1. 遺言信託は誰でも利用できますか?
はい、基本的に誰でも利用可能です。ただし、信託銀行ごとに最低預入金額などの条件がある場合もあるので事前に確認しましょう。
Q2. 遺言信託と家族信託は何が違いますか?
遺言信託は死亡後の財産管理を目的とし、信託銀行が執行します。家族信託は生前から財産を家族に託し、管理を任せる仕組みです。
Q3. 遺言信託を途中でやめることはできますか?
可能です。ただし、途中解約には手数料が発生することが多いため、事前に契約内容を確認してください。
【まとめ】遺言信託を活用して安心できる相続を
遺言信託は、専門的なサポートを受けながら、遺言書の作成・保管・執行を一括して依頼できる便利なサービスです。費用はかかりますが、相続トラブルを避け、遺言者の意思を確実に反映できる点で大きなメリットがあります。
家族の未来のために、早めに準備を進め、信頼できる信託銀行を選びましょう。