遺言書がない場合の相続|遺産分割協議の流れと注意点を解説

遺言書がない場合の相続をイメージした魔法使いの人形とカボチャ

親や夫が亡くなったあと、遺言書が見当たらないと、どのように手続きを進めればよいのか分からず、不安になる方は少なくありません。

このようなときは、まず相続人と相続財産を把握し、そのうえで遺産の分け方を話し合います。配偶者と子どもだけの相続で、関係性も良好であれば、比較的スムーズに進むこともあります。

一方、子どもがおらず、兄弟姉妹や甥・姪まで関係する場合は、必要な戸籍が増え、連絡や調整に時間がかかることがあります。

話し合いがまとまったら、内容を口約束のままにせず、遺産分割協議書として残しておくことが大切です。金融機関での手続きや、不動産・証券などの名義変更で必要になることもあります。

この記事では、相続人と財産の確認から、遺産分割協議、協議書の作成まで、実務の流れに沿って分かりやすく解説します。

ここでは、遺言書がないと分かった後の相続人調査、財産調査、遺産分割協議について説明します。死亡直後の手続きや相続放棄、税申告を含む全体の流れは、相続手続きの流れと手順をご確認ください。

遺言書がない場合に、戸籍確認、相続財産の調査、遺産分割協議、名義変更を進める家族
遺言書がない場合は、相続人と財産を確認したうえで、相続人全員による遺産分割協議を行い、預貯金や不動産などの名義変更を進めます。

目次

①遺言書がない場合の相続

遺言書がない場合の相続では、相続人全員で遺産の分け方を決めます。

そのためには、誰が相続人になるのか、どのような財産や負債があるのかを把握したうえで、遺産分割協議を進める必要があります。

遺言書がない場合は相続人全員で遺産の分け方を決める

遺産分割協議とは、相続人全員で、誰がどの財産を相続するかを話し合う手続きです。

預貯金や不動産、株式などについて、それぞれ誰が取得するのかを決めます。法定相続分は分け方を考える際の基準になりますが、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で分けることもできます。

ただし、一部の相続人だけで決めることはできません。相続人が一人でも欠けた状態で行った協議は、原則として有効な遺産分割協議にはならないため、最初に相続人を正確に把握することが重要です。

遺言書がある場合とない場合の違い

遺言書の有無によって、遺産の分け方や手続きを進める人、必要になる書類が変わります。

比較項目遺言書がある場合遺言書がない場合
遺産の分け方原則として、遺言書の内容に沿って分ける。ただし、相続人全員が合意すれば、遺言書と異なる分け方をすることもできる相続人全員で話し合って分け方を決める
手続きを進める人遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が中心となって手続きを進める相続人同士で協議したうえで、代表して手続きを進める人を決めることがある
必要になる主な書類遺言書の内容どおりに手続きを進める場合、遺産分割協議書が不要なことがある相続人全員の合意内容を示すため、遺産分割協議書が必要になることが多い

実際に必要となる書類は、遺言書の内容や相続財産、手続きを行う金融機関などによって異なります。

相続人が一人の場合は遺産分割協議を行わない

相続人が一人だけの場合は、遺産の分け方を話し合う相手がいないため、通常は遺産分割協議を行いません。

戸籍などで自分が唯一の相続人であることを示し、預貯金や不動産などの相続手続きを進めます。

②遺言書がない場合の相続手続きの流れ

遺言書がない場合の相続では、相続人と相続財産を把握したうえで、相続人全員による遺産分割協議を行います。

遺産分割協議の前提となる相続人調査と相続財産調査は、どちらか一方が終わるのを待つのではなく、並行して進めるのがおすすめです。相続人が確定していなければ有効な遺産分割協議はできず、財産の全体像が分からなければ、適切な分け方を決められないためです。

STEP1 相続人調査と相続財産調査を並行して進める

戸籍を集めて相続人を確定する

まずは、亡くなった方の戸籍を集め、誰が相続人になるのかを確認します。

家族が把握している人だけで話し合いを始めるのではなく、戸籍をたどって相続人を確定することが重要です。後から別の相続人が判明すると、それまでに行った話し合いや遺産分割協議書の作成をやり直す可能性があります。

配偶者と子どもが相続人になる場合だけでなく、子どもがおらず、親や兄弟姉妹、甥・姪が相続人になる場合もあります。特に兄弟姉妹や甥・姪まで関係する相続では、必要な戸籍が増えやすいため、早めに収集を始めることが大切です。

また、金融機関などで預貯金や証券口座の名義変更・払戻しを行う際は、遺産分割協議書とあわせて、相続関係を確認できる戸籍一式の提出を求められることがあります。手続き先によっては、戸籍謄本そのものに代えて、法定相続情報一覧図を利用できる場合もあります。

そのため、戸籍収集は相続人を確定するためだけでなく、その後の名義変更等を進めるうえでも重要な作業です。

預貯金・不動産・負債などの相続財産を調べる

戸籍の収集と並行して、亡くなった方の財産を調べます。

確認するのは、預貯金や不動産、株式などのプラスの財産だけではありません。借金、ローン、未払金、保証債務などのマイナスの財産も把握する必要があります。

通帳、固定資産税の通知書、証券会社からの郵便物、借入れに関する書類などを確認し、財産の全体像を整理します。

財産を十分に調べないまま遺産分割協議を始めると、後から新たな財産や負債が見つかり、再び話し合いが必要になることがあります。

STEP2 相続人全員で遺産分割協議を行う

相続人と相続財産を把握したら、相続人全員で遺産分割協議を行います。

遺産分割協議では、すべての遺産について、誰が何を相続するのかを決めます。法定相続分は分け方を考える際の基準になりますが、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる分け方も可能です。

たとえば、一人が不動産を相続し、ほかの相続人が預貯金を相続する方法があります。また、不動産を取得する人が、ほかの相続人へ金銭を支払って調整することもあります。

ただし、一部の相続人だけで話し合いを進めることはできません。遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の合意が必要です。

STEP3 合意内容を遺産分割協議書にまとめる

話し合いがまとまったら、その内容を遺産分割協議書にまとめます。

遺産分割協議書には、誰がどの財産を相続するのかを明確に記載します。預貯金であれば金融機関名や支店名、口座番号などを記載し、不動産であれば登記事項証明書の内容に沿って表示します。

相続人全員が内容を確認し、通常は署名と実印による押印を行います。手続き先によっては、相続人全員の印鑑証明書も必要です。

合意内容を口約束のままにすると、後から認識の違いが生じるおそれがあります。遺産分割協議書として残すことで、相続人全員の合意内容を明確にできます。

STEP4 金融機関等で相続手続きを行う

遺産分割協議書を作成したら、その内容に基づいて各財産の相続手続きを進めます。

主な手続きには、預貯金の解約や払戻し、不動産の相続登記、株式・証券口座、自動車などの名義変更があります。

遺産分割協議書のほか、戸籍一式、法定相続情報一覧図、印鑑証明書、各金融機関所定の書類などを求められることがあります。必要書類は手続き先によって異なるため、事前に確認しておきましょう。

遺言書がない場合の相続手続きは、相続人調査と財産調査を並行して進め、遺産分割協議、遺産分割協議書の作成、名義変更等の順に進めます。

預貯金、不動産、株式、自動車などは、財産ごとに手続き先や必要書類が異なります。各財産の名義変更を含む相続手続き全体の流れは、相続手続きの流れと手順で解説しています。

相続人調査や遺産分割協議を含め、遺言書がない相続が完了するまでの目安は、遺言書がない相続は完了まで何カ月かかる?で解説しています。

③遺産分割協議ではすべての遺産を誰が相続するか決める

遺言書がない場合に、相続人全員で財産目録や家系図を確認しながら遺産分割協議を行う様子
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産の分け方を話し合い、合意した内容を遺産分割協議書にまとめます。

遺産分割協議では、相続財産を一覧にしたうえで、誰がどの遺産を相続するのかを決めます。

対象になるのは、預貯金や不動産、株式、投資信託、自動車などです。財産ごとに取得する人を決めるほか、不動産を売却して代金を分けたり、一人が不動産を取得して、ほかの相続人に金銭を支払ったりする方法もあります。

法定相続分は、遺産の分け方を考える際の基準です。ただし、相続人全員が合意すれば、必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありません。

たとえば、亡くなった方と同居していた配偶者が自宅を相続し、子どもが預貯金を相続することもできます。また、自宅の価値が預貯金より高い場合は、自宅を取得する人が、ほかの相続人へ代償金を支払って調整することもあります。

重要なのは、一部の財産だけでなく、把握できた遺産全体を見ながら話し合うことです。財産ごとの価値に差がある場合は、取得する財産の種類だけでなく、全体としてどの程度の財産を受け取るのかも確認します。

葬儀費用や医療費、固定資産税などを相続人の一人が立て替えている場合は、その精算方法についても協議の中で確認しておくとよいでしょう。

一方、借金などの債務については、相続人同士の話し合いだけで、債権者との関係まで自由に変更できるとは限りません。債務がある場合は、遺産の分け方とは分けて慎重に確認する必要があります。

④遺産分割協議書はなぜ必要なのか

遺産分割協議書は、相続人全員で合意した遺産の分け方を記録する書類です。

遺言書がない場合の相続では、誰がどの財産を取得するのかを相続人全員で決めます。話し合いがまとまっても、口約束のままでは、後から認識の違いが生じるおそれがあります。

そのため、合意内容を明確に残し、その後の相続手続きを進めるために、遺産分割協議書を作成します。

相続人全員の合意内容を明確にするため

遺産分割協議書には、誰がどの財産を相続するのかを具体的に記載します。

たとえば、預貯金であれば金融機関名、支店名、口座番号などを記載し、不動産であれば登記事項証明書の記載に沿って土地や建物を特定します。

内容を明確にしておくことで、相続人同士の「そのような話は聞いていない」「自分は別の内容で合意した」といった認識の違いを防ぎやすくなります。

また、相続人全員が署名し、通常は実印を押すことで、全員がその内容に合意したことを示します。

ただし、遺産分割協議書は、単に書式を整えればよいわけではありません。相続人や相続財産に漏れがあると、後から協議や書類作成をやり直す可能性があります。

金融機関での相続手続きや名義変更に必要になる

遺産分割協議書は、相続人同士の合意を記録するだけでなく、金融機関などで相続手続きを行う際にも必要になることがあります。

主な手続きは、次のとおりです。

  • 預貯金の解約や払戻し
  • 不動産の相続登記
  • 株式や証券口座の名義変更
  • 自動車などの名義変更

金融機関では、遺産分割協議書のほか、戸籍一式や法定相続情報一覧図、印鑑証明書、所定の相続届などの提出を求められることがあります。

必要書類は、手続き先や財産の内容によって異なります。遺産分割協議書を作成する際は、その後の名義変更等に使用できるよう、財産を正しく特定して記載することが重要です。

⑤相続人の構成によって遺産分割の難しさは変わる

遺言書がない場合の相続では、相続人全員で遺産の分け方を決めます。

そのため、相続人の人数や関係性によって、手続きの進みやすさは大きく変わります。相続人が少なく、日頃から連絡を取り合っている場合は、比較的スムーズに進むことがあります。

一方、兄弟姉妹や甥・姪まで相続人になる場合は、戸籍収集や連絡調整の負担が大きくなりやすく、遺産分割協議に入るまでに時間がかかることもあります。

相続人が少なく関係性が近い場合は比較的進めやすい

配偶者と子どもだけなど、相続人が少なく、普段から連絡を取り合っている場合は、相続人の確認や遺産分割協議を比較的進めやすい傾向があります。

たとえば、配偶者と子ども一人だけで、家族が預貯金や不動産の状況をある程度把握している場合は、話し合いの対象となる人も少なく、連絡や書類のやり取りもまとまりやすくなります。

ただし、相続人が少なければ必ず簡単に終わるわけではありません。

相続財産の大部分が不動産である場合や、生前贈与、介護の負担などについて不満がある場合は、人数が少なくても意見がまとまらないことがあります。

相続人の人数だけでなく、財産の内容や家族関係も含めて考えることが大切です。

兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる場合は難しくなりやすい

子どものいない夫婦の相続で、亡夫の兄弟姉妹や甥・姪との関係を戸籍や家系図で確認する妻
子どもがいない夫婦では、亡くなった配偶者の兄弟姉妹や、すでに亡くなっている兄弟姉妹の子である甥・姪が相続人になることがあります。

子どもがおらず、亡くなった方の親もすでに亡くなっている場合は、兄弟姉妹が相続人になることがあります。

さらに、兄弟姉妹が亡くなった方より先に亡くなっている場合は、その子である甥や姪が相続人になることがあります。

このような相続では、相続人の人数が増えやすく、戸籍収集や連絡調整も複雑になりやすいです。

集める戸籍の数がぐっと増える

兄弟姉妹が相続人になる場合は、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍だけでは足りないことがあります。

亡くなった方に子どもがいないことや、親がすでに亡くなっていることを確認するために、父母などに関する戸籍も必要になります。

さらに、兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その兄弟姉妹の戸籍もたどり、甥や姪が相続人になるかを確認します。

そのため、配偶者と子どもだけの相続に比べて、集める戸籍の数がぐっと増えやすくなります。

相続人の人数が増えることがある

兄弟姉妹が複数いる場合や、甥・姪が相続人になる場合は、遺産分割協議に参加する人数が増えることがあります。

相続人が増えるほど、全員へ連絡し、財産の内容や分け方を説明し、合意を得るまでの手間も増えます。

一人でも合意しない相続人がいると、遺産分割協議は成立しません。

長年連絡を取っていない相続人との調整が必要になる

兄弟姉妹や甥・姪の中には、長年連絡を取っていない人や、遠方に住んでいる人が含まれることがあります。

住所や連絡先が分からなければ、まず現在の所在を確認しなければなりません。

また、故人との関係が薄い相続人は、財産の内容や家族の事情を把握していないこともあります。そのため、事情の説明や書類のやり取りに時間がかかることがあります。

連絡が取れない相続人を除外して協議しない

相続人の一人と連絡が取れない場合でも、その人を除外して遺産分割協議を成立させることはできません。

連絡の取れる相続人だけで話し合い、遺産分割協議書を作成しても、そのまま金融機関での相続手続きや名義変更を進められない可能性があります。

住所や連絡先の調査が必要な場合や、長期間連絡が取れない場合は、早めに専門家へ相談することが大切です。

⑥行政書士が対応した遺言書がない場合の相続事例

亡くなった夫の兄弟姉妹へ、相続関係説明図や財産目録を添えて手紙を送る準備をする妻
子どものいない夫婦の相続では、妻が相続関係や財産の内容を整理し、亡くなった夫の兄弟姉妹へ書面で連絡することがあります。

※個人が特定されないよう、一部の情報を調整して掲載しています。

東京都にお住まいの60代後半の女性から、夫が亡くなった後の相続手続きについてご相談がありました。

夫婦に子どもはおらず、夫は妻だけが相続人になると思っていたため、遺言書を作成していませんでした。しかし、夫の両親はすでに亡くなっていたため、実際には妻だけでなく、夫の兄と妹3名も相続人となりました。

主な相続財産は、評価額約7,000万円の自宅不動産と、約1,000万円の預貯金です。妻と夫の兄弟姉妹は長く疎遠だったため、妻はどのように連絡し、相続手続きを進めればよいか分からず、不安を感じていました。

また、兄弟姉妹が相続人になる場合は、夫に子どもがいないことや、両親がすでに亡くなっていること、兄弟姉妹の状況などを戸籍で確認する必要があります。そのため、配偶者と子どもが相続人になるケースと比べて、集める戸籍の数も多くなりました。

当事務所では、戸籍収集と相続人調査、相続財産の調査を行い、作成者として「IT行政書士事務所」と明記した相続関係説明図と財産目録を作成しました。

妻は、これらの書類を添付して、夫の兄弟姉妹へ手紙を送りました。口頭だけで事情を説明する場合と比べ、相続関係や財産の内容が整理された書類を添えたことで、兄弟姉妹にも状況を理解してもらいやすくなりました。

夫の兄弟姉妹は、全員が「妻がすべて相続してよい」と合意したため、遺産分割協議で対立することはありませんでした。年齢や生活環境の変化によって財産への考え方も変わっており、強く取得を主張する方はいませんでした。

全員の合意を確認した後、妻が自宅不動産と預貯金を相続する内容で遺産分割協議書を作成しました。その後、金融機関での相続手続きを進め、不動産の相続登記については司法書士が担当しました。

この事例のように、子どもがいない夫婦では、配偶者だけでなく、亡くなった方の兄弟姉妹や甥・姪が相続人になることがあります。

遺産分割協議そのものに大きな問題がなくても、戸籍収集や相続人の確定、疎遠な相続人への連絡で手続きが止まることがあります。相続関係と財産の内容を整理し、相手に伝わりやすい形で準備することが、円滑に進めるうえで重要です。

⑦遺言書がない場合に避けたい進め方

遺言書がない相続で、相続人の除外、財産の未確認、口約束、預金の無断引き出しに注意する場面
遺言書がない場合でも、相続人全員と財産の内容を確認し、合意した内容を書面に残してから手続きを進めることが大切です。

遺言書がない場合の相続では、相続人と相続財産を把握し、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。

手続きを急ぐあまり、確認が不十分なまま話し合いを始めたり、一部の相続人だけで進めたりすると、後からやり直しになることがあります。

相続人を確定しないまま遺産分割協議を始める

家族が把握している人だけを相続人だと思い込み、戸籍を確認しないまま話し合いを始めるのは避けましょう。

後から別の相続人が判明した場合、それまでに行った遺産分割協議は成立せず、改めて相続人全員で話し合う必要があります。作成済みの遺産分割協議書も、作り直しになる可能性があります。

まずは戸籍を集め、誰が相続人になるのかを確定することが大切です。

相続財産を調べないまま遺産分割協議を始める

預貯金や不動産など、把握している財産だけで分け方を決めるのも避けたい進め方です。

後から別の預金口座や株式、不動産、借金などが見つかると、その財産について再び話し合う必要が生じます。新たに見つかった財産の内容によっては、すでに決めた分け方とのバランスが崩れることもあります。

遺産分割協議を始める前に、プラスの財産だけでなく、借金や未払金なども含めて確認しましょう。

一部の相続人だけで遺産分割協議を行う

遺産分割協議には、相続人全員の参加と合意が必要です。

連絡を取りやすい相続人だけで話し合ったり、関係の薄い相続人を除外したりしても、有効な遺産分割協議にはなりません。

長年連絡を取っていない相続人や、意見の合わない相続人がいる場合でも、その人を外して手続きを進めることはできません。

合意内容を口約束のままにする

相続人全員で話し合いがまとまっても、口約束のままにしないことが大切です。

時間がたつと、誰がどの財産を相続することになっていたのか、認識が食い違うことがあります。また、金融機関での相続手続きや名義変更では、合意内容を確認できる書類の提出を求められることがあります。

話し合いの結果は、遺産分割協議書として残しておきましょう。

故人の財産を自己判断で処分する

相続人全員で話し合う前に、故人の預金を引き出したり、不動産や自動車、家財などを売却したりするのも避けましょう。

葬儀費用などのために預金を使う事情がある場合でも、使途や金額を記録し、ほかの相続人へ説明できるようにしておくことが大切です。

また、相続放棄を検討している場合は、故人の財産を処分した行為が判断に影響する可能性もあるため、特に慎重な対応が必要です。

⑧遺産分割協議がまとまらない場合はどうするか

遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しません。

一人でも反対する相続人がいる場合や、連絡には応じても話し合いが進まない場合は、当事者だけで解決しようとせず、早めに対応方法を検討することが大切です。

当事者だけで合意できない場合は弁護士へ相談する

相続人同士で意見が対立している場合や、相手方との交渉が必要な場合は、弁護士への相談を検討します。

たとえば、次のようなケースです。

  • 不動産を誰が相続するかで意見が合わない
  • 法定相続分より多く取得したい相続人がいる
  • 生前贈与や介護の負担について主張が食い違っている
  • 財産の評価額について合意できない
  • 相続人の一人が話し合いに応じない

行政書士は、相続人全員の合意内容に基づいて遺産分割協議書を作成することはできますが、対立している相続人との交渉を代理することはできません。

すでに争いがある場合は、交渉や法的手続きに対応できる弁護士へ相談する必要があります。

弁護士へ相談しても合意できない場合は家庭裁判所の調停を検討する

相続人同士の話し合いや、弁護士を通じた交渉でも合意できない場合は、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てる方法があります。

遺産分割調停では、裁判官や調停委員を介して、相続人同士が遺産の分け方を話し合います。

調停は、裁判所が一方的に結論を決める手続きではなく、相続人全員の合意を目指す話し合いです。調停でも合意できない場合は、遺産分割審判へ移り、裁判所が分け方を判断することになります。

費用や時間を考えて現実的な着地点を検討する

遺産分割協議が長引くほど、弁護士費用や裁判所へ出向く負担、解決までの時間が増えていきます。

調停や審判まで進んでも、必ず自分の希望どおりの分け方になるとは限りません。最終的には、法定相続分を基準とした解決になることもあります。

多く取得することだけにこだわると、増えた取得額よりも弁護士費用や手続きの負担の方が大きくなる可能性もあります。

そのため、次の点をあわせて考えることが大切です。

  • 主張が法的に認められる可能性
  • 争うことで増える可能性のある取得額
  • 弁護士費用や調停にかかる費用
  • 解決までに必要な時間
  • 親族関係への影響

自分の希望を伝えることは重要ですが、取得額だけにこだわりすぎず、費用や時間も含めて現実的な着地点を検討しましょう。

遺産分割協議がまとまっていなくても、相続税申告の10か月期限は原則として自動的に延びません。期限までに協議が終わらない可能性がある場合は、未分割の状態での申告や、後から遺産分割が成立した場合の手続きを税理士へ確認する必要があります。詳しくは、遺産分割が終わらないまま相続税申告期限が迫った場合をご確認ください。

⑨相続手続きの段階ごとに専門家へ相談した方がよいケース

遺言書がない場合の相続では、戸籍収集、相続財産の調査、遺産分割協議、遺産分割協議書の作成、名義変更など、段階ごとに必要な作業が変わります。

相続手続きは自分で進めることもできますが、市区町村役場や金融機関などとのやり取りは、平日の日中が中心です。郵送で対応できる手続きもある一方、内容の確認や書類の不備への対応で、何度も連絡が必要になることがあります。

そのため、会社員や公務員など、平日に時間を確保しにくい方にとっては、仕事を続けながらすべての手続きを進めることが難しい場合があります。手続きが複雑な場合だけでなく、時間的な負担を減らしたい場合にも、専門家への依頼を検討するとよいでしょう。

戸籍の広域交付を利用すると、亡くなった方の戸籍を最寄りの市区町村でまとめて取得できる場合があります。ただし、兄弟姉妹や甥・姪の戸籍は対象外となることがあるため、広域交付だけですべてそろうとは限りません。詳しくは、相続で戸籍の広域交付を利用する方法をご覧ください。

相続人調査の段階で相談した方がよいケース

次のような場合は、戸籍収集や相続人の確定に時間がかかる可能性があります。

  • 兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる
  • 集める戸籍の数が多い
  • 誰が相続人になるのか分からない
  • 相続人の住所や連絡先が分からない
  • 戸籍の読み方やつながり方が分からない
  • 平日に役所へ問い合わせる時間を確保しにくい

特に、子どもがおらず、兄弟姉妹や甥・姪まで相続人になる場合は、確認する戸籍の範囲が広くなります。複数の市区町村へ戸籍を請求することもあり、相続人を確定するまでに時間がかかりやすいです。

相続人を一人でも見落とすと、遺産分割協議をやり直す可能性があります。戸籍収集や相続人調査は、行政書士へ相談できます。

相続財産調査の段階で相談した方がよいケース

相続財産の全体像が分からない場合も、早めに専門家へ相談した方がよいでしょう。

たとえば、次のようなケースです。

  • 預貯金の口座がどこにあるか分からない
  • 不動産を所有していたか分からない
  • 株式や証券口座がある可能性がある
  • 借金や未払金があるか確認できない
  • 財産目録を作成したい
  • 複数の金融機関へ問い合わせる時間がない
  • 相続放棄を検討している

プラスの財産だけでなく、借金や保証債務なども確認しなければ、相続するかどうかの判断を誤る可能性があります。

財産調査や財産目録の作成は、行政書士へ相談できます。不動産の相続登記が必要な場合は司法書士、相続税の申告や税務上の財産評価が必要な場合は税理士が相談先です。

また、相続放棄を検討している場合や、借金の扱いについて法的な判断が必要な場合は、弁護士へ相談します。

遺産分割協議の段階で相談した方がよいケース

相続人と相続財産を把握できても、遺産の分け方を決める段階で悩むことがあります。

次のような場合は、専門家への相談を検討しましょう。

  • 相続人が多い
  • 遠方に住む相続人がいる
  • 兄弟姉妹や甥・姪との連絡調整が必要
  • 不動産を誰が相続するか決まらない
  • 一人が多く取得するため金銭での調整が必要
  • 相続人同士の意見が合わない

相続人全員の意見がまとまっており、合意内容を書面に整理したい場合は、行政書士へ相談できます。

一方、すでに相続人同士で意見が対立している場合や、相手方との交渉が必要な場合は、弁護士への相談が適しています。

遺産分割協議書を作成する段階で相談した方がよいケース

遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を記録し、その後の名義変更等に使用する重要な書類です。

次のような場合は、専門家への依頼を検討します。

  • 財産の記載方法が分からない
  • 不動産や複数の預貯金口座がある
  • 株式や証券口座がある
  • 一人が不動産を取得し、ほかの相続人へ代償金を支払う
  • 後から別の財産が見つかった場合に備えたい
  • 金融機関等の手続きに使える内容にしたい

財産の表示が不十分だったり、合意内容が曖昧だったりすると、金融機関や名義変更の手続きで使用できない可能性があります。

相続人全員の合意があることを前提とした遺産分割協議書の作成は、行政書士へ相談できます。不動産の相続登記がある場合は司法書士、相続税の申告内容に関係する場合は税理士にも確認します。

相続人同士に争いがある場合は、書類作成だけでなく交渉や法的判断が必要になるため、弁護士へ相談しましょう。

名義変更や払戻しの段階で相談した方がよいケース

遺産分割協議書を作成した後は、財産ごとに相続手続きを進めます。

次のような場合は、手続きをまとめて相談すると負担を減らしやすくなります。

  • 複数の金融機関で手続きが必要
  • 不動産の相続登記がある
  • 株式や証券口座の名義変更がある
  • 自動車の名義変更がある
  • 平日に役所や金融機関へ連絡する時間がない
  • 必要書類を何度も集めるのが難しい
  • 相続手続き全体をまとめて進めたい

相続手続きは、財産ごとに窓口や必要書類が異なります。市区町村役場や法務局、金融機関などは平日の日中の対応が中心となるため、会社員や公務員の方が仕事をしながら何度も手続きを行うのは難しい場合があります。

預貯金や証券口座の相続手続き、自動車の名義変更などは行政書士へ相談できます。不動産の相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士が主な相談先です。

手続き内容ごとの主な相談先

相続手続きは、内容によって相談先が異なります。

  • 戸籍収集・相続人調査:行政書士
  • 財産調査・財産目録の作成:行政書士
  • 遺産分割協議書の作成:行政書士
  • 預貯金・証券口座の相続手続き:行政書士
  • 自動車の名義変更:行政書士
  • 不動産の相続登記:司法書士
  • 相続税の申告:税理士
  • 相続人間の争いや交渉:弁護士

争いがない相続では、戸籍収集から財産調査、遺産分割協議書の作成、金融機関での手続きまで、一連の流れを相談できる行政書士を選ぶと進めやすくなります。

不動産の相続登記がある場合は司法書士、相続税の申告が必要な場合は税理士、相続人同士で意見が対立している場合は弁護士へ相談します。

⑩遺言書がない場合の相続に関するよくある質問

Q:遺言書がなくても預金や不動産を相続できますか

遺言書がなくても、預貯金や不動産などを相続できます。

ただし、相続人が複数いる場合は、相続人全員で遺産の分け方を決める必要があります。話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成し、その内容に基づいて金融機関での払戻しや不動産の相続登記を進めます。

相続人が一人だけの場合は、通常、遺産分割協議は行いません。戸籍などで唯一の相続人であることを示し、各手続きを進めます。

Q:遺言書がない場合は法定相続分どおりに分けるのですか

必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありません。

法定相続分は、遺産の分け方を考える際の基準です。相続人全員が合意すれば、一人が不動産を相続し、ほかの相続人が預貯金を相続するなど、法定相続分とは異なる分け方もできます。

ただし、一人でも合意しない相続人がいる場合は、その内容で遺産分割協議を成立させることはできません。

Q:遺産分割協議書は必ず必要ですか

遺産分割協議書が必ず必要とは限りません。

相続人が一人だけの場合は、遺産を分けるための協議を行わないため、通常は作成しません。また、金融機関所定の相続届に相続人全員が署名・押印することで、手続きを進められる場合もあります。

一方、相続人が複数いて、話し合いによって遺産の分け方を決めた場合は、合意内容を明確に残すためにも、遺産分割協議書を作成しておくことが大切です。預貯金の払戻し、不動産の相続登記、証券口座などの名義変更で必要になることもあります。

Q:相続人の一人が反対していても手続きを進められますか

遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しません。

そのため、一人でも反対している相続人がいる場合は、ほかの相続人だけで遺産の分け方を決めることはできません。

まずは当事者同士で話し合い、それでも合意できない場合は弁護士への相談を検討します。弁護士を通じた交渉でも解決しない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停へ進むことがあります。

Q:兄弟姉妹が相続人になると、なぜ戸籍が増えるのですか

兄弟姉妹が相続人になる場合は、亡くなった方に子どもがおらず、親もすでに亡くなっていることを戸籍で確認する必要があります。

そのため、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍だけでなく、父母に関する戸籍なども必要になります。

さらに、兄弟姉妹が亡くなった方より先に亡くなっている場合は、その子である甥や姪が相続人になることがあります。この場合は、先に亡くなった兄弟姉妹の戸籍も確認するため、集める戸籍の数がぐっと増えやすくなります。

Q:遺産分割協議の後に別の財産が見つかったらどうなりますか

遺産分割協議の後に別の財産が見つかった場合は、その財産について改めて相続人全員で話し合うことになります。

すでに作成した遺産分割協議書に、後から見つかった財産の扱いを定める条項があれば、その内容に従って処理できる場合もあります。

ただし、新たに見つかった財産の価値が大きい場合や、当初の分け方とのバランスに影響する場合は、再度の協議が必要になることがあります。後からの手戻りを減らすためにも、最初の財産調査を丁寧に行うことが大切です。

Q:遺言書が後から見つかった場合はどうなりますか

遺産分割協議の後に遺言書が見つかった場合は、その遺言書の内容や有効性、すでに行った手続きの状況を確認する必要があります。

遺言書が見つかったからといって、直ちにすべての手続きが無効になるとは限りません。ただし、遺言書の内容と遺産分割協議の結果が異なる場合は、相続人や受遺者との調整が必要になる可能性があります。

自宅などで保管されていた遺言書を見つけた場合は、自己判断で開封せず、家庭裁判所での検認が必要か確認しましょう。対応に迷う場合は、早めに専門家へ相談することが大切です。

夫を亡くした妻は、遺産分割だけでなく、当面の生活費、自宅、生命保険金、遺族年金なども確認する必要があります。妻が生活を守りながら手続きを進める方法は、夫が亡くなった後の手続きで解説しています。

まとめ|遺言書がない場合は相続人調査と財産調査を並行して進める

遺言書がない場合の相続では、相続人全員で遺産の分け方を決めます。

まずは、戸籍を集めて相続人を確定すると同時に、預貯金、不動産、株式、借金などの相続財産を調べます。どちらか一方が終わるのを待つのではなく、並行して進めることが大切です。

相続人と相続財産を把握したら、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するのかを決めます。話し合いがまとまったら、内容を口約束のままにせず、遺産分割協議書として残します。

遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を明確にするだけでなく、金融機関での預貯金の払戻しや、証券口座、自動車、不動産などの名義変更で必要になることがあります。

相続人が配偶者と子どもだけで、普段から連絡を取り合っている場合は、比較的スムーズに進むこともあります。一方、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる場合は、集める戸籍の数が増え、相続人の確定や連絡調整に時間がかかりやすくなります。

また、一部の相続人だけで話し合ったり、財産を十分に調べないまま協議を始めたりすると、後から手続きをやり直す可能性があります。相続人全員の合意が難しい場合は、早めに弁護士へ相談し、必要に応じて家庭裁判所の調停を検討します。

争いがない場合でも、戸籍収集、相続人調査、財産調査、遺産分割協議書の作成、金融機関での手続きには時間と手間がかかります。平日に役所や金融機関へ連絡することが難しい方や、相続人・財産の確認に不安がある方は、早めに専門家へ相談すると進めやすくなります。

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特定行政書士 野中雅敏(IT行政書士事務所)

  • 国家資格:行政書士(登録番号:25080391)
  • 経歴:IT業界出身/相続・遺言分野を専門取り組み中
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