遺言の特別方式とは?種類・要件・作成手順をわかりやすく解説

遺言は、自分の財産や意思を法的に確実に伝えるための重要な手段です。一般的には、自筆証書遺言や公正証書遺言などが広く知られています。しかし、災害や事故、病気などの緊急時には、通常の方法で遺言を作成することが困難な場合があります。このような特別な状況下で利用されるのが「遺言の特別方式」です。

本記事では、特別方式遺言の種類や要件、作成手順についてわかりやすく解説します。緊急時でも大切な意思を法的に保護するために、ぜひご一読ください。

遺言の特別方式とは?

特別方式遺言の定義と目的

特別方式遺言とは、通常の遺言方式が利用できない特別な状況下で作成される遺言です。たとえば、突然の事故や災害、船舶遭難、戦争地域での任務中など、緊急かつ予測不能な状況が該当します。この制度は、極限状態でも本人の最終意思を尊重し、法的に保護することを目的としています。

一般方式との違い

通常の遺言方式(一般方式)には、以下の3種類があります。

  • 自筆証書遺言:本人が全文を自筆し、署名押印する形式
  • 公正証書遺言:公証人の立ち会いのもとで作成される形式
  • 秘密証書遺言:遺言内容を秘密にして、公証人に証明を受ける形式

これに対して、特別方式遺言は、証人の立ち会いや緊急性に応じた簡略化された手続きが特徴です。一般方式では対応できない状況でも、法的効力を持つ遺言を残すことが可能です。

遺言の特別方式の種類

特別方式遺言は、状況に応じて主に3つのタイプに分けられます。

1.危急時遺言(ききゅうじいごん)

定義と適用場面

危急時遺言とは、病気や事故で死期が迫っている場合など、通常の遺言作成が間に合わない状況で作成する遺言です。たとえば、重病患者が急変した際や、事故現場で意識があるうちに意思を残したい場合に適用されます。

要件

  • 証人3人以上の立ち会いが必要
  • 遺言内容は証人の1人が代筆するか、録音・録画が可能
  • 遺言者が意思能力を有していること

効力

作成後、20日以内に家庭裁判所で「確認申立て」を行わなければ無効となります。この申立てが完了することで、法的効力が確定します。期限内に手続きをしないと無効になるので注意しましょう。

・確認手続きの必要書類

  • 申立書
  • 申立人の戸籍謄本
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 証人の戸籍謄本
  • 遺言書の写し
  • 診断書(遺言者が存命の場合)

疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

(死亡の危急に迫った者の遺言)民法第九百七十六条

こちらの記事では、豊臣秀吉の「緊急遺言」をご紹介しています。

2.船舶遭難者遺言

定義と適用場面

船舶遭難者遺言は、船の遭難や事故など、生命の危険が差し迫った海上で作成される遺言です。たとえば、難破船や救命ボート上での状況が該当します。

要件

  • 船長または上級船員の立ち会いが必要
  • 証人2人以上の同席が求められる
  • 書面または口述での遺言が可能

効力

帰港後、家庭裁判所へ遺言確認の申立てが必要です。ただ一般危急時遺言と異なりすぐに家庭裁判所で手続できないケースも多いので、期限は設定されていません。危機が去ってから速やかに手続きを行えば、遺言の効力を維持できます。海上という特殊な環境であるため、証人の証言や記録が特に重視されます。

船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。

(船舶遭難者の遺言)民法第九百七十九条

3.隔絶地遺言(かくぜつちいごん)

定義と適用場面

隔絶地遺言は、伝染病や乗船中など、外部と連絡が取れない孤立した場所で作成される遺言です。戦地、無人島、南極観測基地、宇宙空間などの状況が含まれます。一般隔絶地遺言と船舶隔絶地遺言の2種類があります。

一般隔絶地遺言の要件と効力

一般隔絶地遺言は、伝染病などで遠隔地に隔離され、通常の遺言方式を利用するのが難しい場合に認められる遺言方式です。

  • 警察官1名と証人1名の立会が必要
  • 遺言書は本人が作成(代筆や口頭で伝えて書き取ってもらう方法は利用不可)
  • 立会人全員の署名押印が必要
  • 家庭裁判所での確認手続きは不要

伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

(伝染病隔離者の遺言)民法第九百七十七条

船舶隔絶地遺言の要件と効力

船舶隔絶地遺言は、長期にわたる航海で陸地から離れた場所にあり、通常の遺言書を作成できない人が利用できる遺言方式です。

  • 船長又は事務員一人及び証人二人以上の証人の立ち会いが必要
  • 遺言書は本人が作成(代筆や口頭で伝えて書き取ってもらう方法は利用不可)
  • 立会人全員の署名押印が必要
  • 家庭裁判所での確認手続きは不要

船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

(在船者の遺言)民法第九百七十八条 

特別方式遺言の作成手順

作成の前提条件

  • 緊急性の確認 :通常の遺言方式で対応できない状況かを判断する
  • 証人の確保  :立ち会いが必要な証人をできる限り確保する
  • 意思能力の確認:遺言者が判断能力を有していることが前提

具体的な手順

遺言内容の明確化

財産分配の希望や法的効果を持たせたい意思を明確にします。

証人の立会いと記録

立会人が遺言内容を記録または代筆し、必要な署名押印を行います。

家庭裁判所への申立て

遺言作成後は、20日以内に家庭裁判所で遺言の確認を申立てる必要があります。

注意点と法的効力

  • 無効リスク   :証人が不足していたり、申立て期限を過ぎると無効になります。
  • 家庭裁判所の検認:遺言の法的効力を確実にするためには検認が重要です。

特別方式遺言が必要となる具体的なケース

緊急時の遺言作成事例

  • 災害時   :地震や津波、火災などの災害現場での緊急遺言
  • 病院での急変:手術直前や重病患者の急変時

海難や遭難時の実例

  • 船舶事故:難破船上での遺言作成
  • 遭難状況:山岳遭難や孤立した状況での意思表示

隔絶地での特別状況事例

  • 戦地や宇宙:軍事任務中、宇宙飛行士の緊急遺言
  • 孤立地域 :南極観測隊や無人島での孤立時

遺言の特別方式に関するよくある質問

Q1. 特別方式遺言はどれくらいの期間有効ですか?

危急時遺言は、家庭裁判所への申立てが20日以内に行われなければ無効になります。ただし、申立てが完了すれば法的効力は継続します。

Q2. 証人がいない場合はどうすれば良いですか?

最低限の証人確保が求められますが、緊急時には現場の状況に応じた対応も考慮される場合があります。録音やビデオ記録も補強材料となります。

Q3. 特別方式遺言と通常の遺言の併用は可能ですか?

可能です。緊急時には特別方式を利用し、その後、状況が落ち着いたら通常の遺言方式で再作成することが推奨されます。

まとめ:遺言の特別方式を理解して適切に活用しよう

遺言の特別方式は、緊急時や特殊な環境下であっても、遺言者の意思を法的に保護するための重要な手段です。

  • ポイントの再確認:特別方式の種類、要件、手続きの理解が重要
  • 備えの重要性  :緊急時に備えて、遺言書の作成や法的アドバイスを受けることが大切
  • 専門家への相談 :遺言作成の不安がある場合は、法律の専門家に相談しましょう

遺言は、遺族への最も大切なメッセージです。どんな状況でも意思が正しく伝わるよう、特別方式の知識を備えておきましょう。