公正証書遺言が残されていて、自分の取り分がほとんどない、あるいはまったくない場合、「公正証書遺言なら、その内容に従うしかないのだろうか」と不安に感じる方もいるでしょう。
しかし、公正証書遺言があるからといって、遺留分までなくなるわけではありません。一定の相続人には遺留分が認められており、その取り分が侵害されている場合には、相手に金銭の支払いを求められます。
この記事では、公正証書遺言と遺留分の関係や、遺留分を侵害された場合の対応についてわかりやすく解説します。てわかりやすく解説します。
目次
①公正証書遺言で遺留分が侵害された場合

公正証書遺言がある場合でも、その内容によって遺留分が侵害されることはあります。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため、方式上の不備が生じにくいという特徴があります。しかし、「公正証書遺言だから遺留分より優先される」というわけではありません。
遺留分は、一定の相続人に認められている最低限の取り分です。そのため、公正証書遺言によって特定の相続人に多くの財産を取得させる内容になっていたとしても、他の相続人の遺留分を侵害している場合には、遺留分の問題が生じます。
ここで大切なのは、遺留分を侵害していることと、公正証書遺言そのものが無効になることは別の問題だという点です。
遺留分を侵害していても公正証書遺言は有効
公正証書遺言の内容が遺留分を侵害していたとしても、それだけを理由に遺言そのものが無効になるわけではありません。
たとえば、「長男にすべての財産を相続させる」という内容の公正証書遺言が残されていた場合でも、遺言として有効に成立していれば、原則としてその内容に従って相続手続きが進められます。
一方で、他の相続人に遺留分が認められている場合には、その相続人は遺留分を侵害されたことを理由に金銭の支払いを求めることができます。
つまり、「遺言が有効かどうか」と「遺留分が侵害されているかどうか」は、分けて考える必要があります。
遺留分を侵害された場合は遺留分侵害額請求ができる
遺留分を侵害された相続人は、財産を多く取得した相続人や受遺者などに対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができます。
これを「遺留分侵害額請求」といいます。
現在の制度では、遺留分を取り戻すために不動産などを直接分け直すのではなく、原則として金銭で請求します。
そのため、公正証書遺言の内容そのものを書き換えるのではなく、遺言に基づいて財産を取得した人に対して金銭を請求する、という考え方になります。
遺留分侵害額請求の具体的な方法や計算、請求期限については、こちらの記事で詳しく解説しています。
遺留分侵害額請求とは?請求方法・期限・請求された場合の対応まで解説
遺留分侵害額請求には期限がある
遺留分侵害額請求は、いつまでもできるわけではありません。
原則として、相続が始まったことと、自分の遺留分が侵害されていることを知ったときから1年以内に請求する必要があります。
また、それらを知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過すると請求できなくなります。
公正証書遺言の内容を確認して「自分の取り分が少ない」と感じた場合には、遺留分が侵害されているかどうかだけでなく、期限についても早めに確認することが大切です。
公正証書遺言に限らず、遺言と遺留分の基本的な関係については、こちらの記事で詳しく解説しています。
遺言と遺留分はどちらが優先?
②公正証書遺言で遺留分を侵害されたときの対応の流れ
公正証書遺言の内容を確認して、自分の遺留分が侵害されている可能性があるとわかった場合は、すぐに相手へ請求するのではなく、順番に確認しながら進めることが大切です。
大まかな流れは、次のとおりです。
まず、公正証書遺言に誰がどの財産を取得すると書かれているのかを確認します。あわせて、預貯金や不動産など、相続財産の全体像も把握します。
遺留分は、すべての相続人に認められているわけではありません。自分が遺留分を請求できる立場にあるかを確認します。
遺留分が認められる相続人や具体的な割合については、こちらの記事で詳しく解説しています。
遺留分とは?相続で取り分が少ないときに確認したい割合・法定相続分との違い
相続財産や一定の生前贈与などをもとに、自分の遺留分がどの程度侵害されているのかを計算します。財産の評価方法によって金額が変わることもあります。
遺留分の侵害額が確認できたら、財産を取得した相手方に対して金銭の支払いを求めます。後から請求した事実や時期を確認できるよう、請求方法にも注意が必要です。
請求額や財産の評価などについて相手方と折り合わない場合は、家庭裁判所の調停を利用する方法があります。それでも解決しない場合は、訴訟による解決を検討します。

遺留分侵害額の計算では、不動産などの財産評価や生前贈与の扱いによって、当事者間で意見が分かれることもあります。そのため、単純に公正証書遺言に記載された財産だけを見て、請求額を判断できない場合もあります。
また、遺留分侵害額請求には期限があります。公正証書遺言の内容を知ったあと、そのまま長期間放置せず、早めに必要な確認を進めることが大切です。
③遺留分侵害額請求を受けた場合の対応

公正証書遺言によって多くの財産を取得した場合、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあります。
請求を受けたからといって、相手の主張する金額をそのまま支払う必要があるとは限りません。まずは請求内容や計算の根拠を確認し、必要に応じて支払額や支払方法について話し合います。
大まかな流れは、次のとおりです。
まずは、誰から、どのような理由で遺留分侵害額を請求されているのかを確認します。請求額だけでなく、相手が何を根拠に請求しているのかも整理しておきましょう。
相手が遺留分を請求できる立場にあるか、遺留分の割合や請求額の計算が適切かを確認します。相手から示された金額だけを見て判断しないことが大切です。
遺留分侵害額の計算では、相続財産の範囲や不動産の評価、生前贈与の扱いなどが影響します。特に不動産が含まれている場合は、評価方法によって金額が変わることがあります。
請求内容を確認したうえで、支払いが必要な場合は、相手方と金額や支払方法について話し合います。手元の現金が少ない場合は、分割払いなどを相談することも考えられます。
請求額が大きい場合や、財産評価、生前贈与の扱いなどについて相手方と意見が合わない場合は、早めに専門家へ相談することも検討しましょう。
遺留分侵害額請求は、請求を受けた側にとっても、財産の範囲や評価方法を確認する必要があるため、単純に金額だけを見て対応できるものではありません。
まずは請求内容を整理し、どこに争点があるのかを確認しながら対応することが大切です。
④公正証書遺言と遺留分に関するよくある疑問
公正証書遺言と遺留分の関係は少しわかりにくいため、「公正証書遺言に書いてあれば絶対なのか」「遺留分を請求すると遺言は無効になるのか」といった疑問を持つ方も少なくありません。
ここでは、よくある疑問を整理して解説します。
Q:公正証書遺言に「遺留分を請求しない」と書けば請求できなくなる?
公正証書遺言に「遺留分を請求しないでほしい」と書かれていても、それだけで相続人の遺留分がなくなるわけではありません。
このような内容は、遺言者の希望や気持ちを伝える「付言事項」として記載されることがあります。ただし、付言事項には原則として法的拘束力はありません。
遺留分は一定の相続人に法律上認められた権利であり、遺言者が一方的に放棄させることはできません。そのため、遺留分を侵害されている相続人は、要件を満たせば遺留分侵害額請求をすることができます。
一方で、付言事項には、なぜそのような財産の分け方にしたのかという遺言者の意図や気持ちを相続人に伝える役割があります。法的な強制力はありませんが、相続人の理解を得たり、感情的な対立をやわらげたりするうえでは意味があります。
Q:遺留分を請求すると公正証書遺言は無効になる?
遺留分侵害額請求をしたからといって、公正証書遺言そのものが無効になるわけではありません。
公正証書遺言が有効かどうかと、遺留分が侵害されているかどうかは別の問題です。
Q:遺留分を侵害する公正証書遺言でも相続手続きは進められる?
遺留分を侵害する内容であっても、公正証書遺言の内容に基づいて相続手続きを進めることができます。
ただし、その後に遺留分侵害額請求を受ける可能性はあります。
そのため、「公正証書遺言どおりに相続手続きができること」と「遺留分の問題が生じないこと」は別と考えておく必要があります。
⑤遺留分トラブルを避けるために公正証書遺言を作成するときの注意点

公正証書遺言を作成しても、内容によっては相続開始後に遺留分をめぐるトラブルが生じることがあります。
そのため、公正証書遺言を作成するときは、遺言の内容だけでなく、相続人の遺留分についてもあらかじめ確認しておくことが大切です。
相続人とそれぞれの遺留分を事前に確認する
まずは、誰が相続人になるのかを確認し、その中に遺留分を持つ人がいるかを整理します。
遺留分の割合は家族構成によって異なるため、財産の分け方を決める前に、それぞれがどの程度の遺留分を持つのか把握しておくことが重要です。
遺留分に配慮して財産の分け方を検討する
特定の相続人に多くの財産を残したい場合でも、他の相続人の遺留分を大きく侵害する内容にすると、相続後に遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分を踏まえながら財産の配分を検討しておくことで、相続後のトラブルを防ぎやすくなります。
付言事項で遺言者の考えを伝える
財産の分け方に理由がある場合は、付言事項を使って、その理由や家族への思いを伝える方法もあります。
付言事項には原則として法的拘束力はありませんが、「なぜこのような分け方にしたのか」を相続人に伝えることで、遺言内容への理解を得たり、感情的な対立をやわらげたりすることにつながります。
必要に応じて行政書士などの専門家に相談して遺言内容を検討する
財産の種類が多い場合や、不動産の割合が大きい場合、特定の相続人に多く財産を残したい場合などは、遺留分まで考慮すると遺言内容の設計が複雑になることがあります。
公正証書遺言を作成する際は、行政書士に相談することで、相続人や財産関係の整理、公正証書遺言の文案作成、必要書類の確認などについてサポートを受けることができます。
公正証書遺言を作成すること自体だけでなく、相続後にどのような問題が起こり得るかも考えながら内容を検討することが大切です。
まとめ|公正証書遺言があっても遺留分は別に確認する必要がある
公正証書遺言が残されていても、それによって遺留分がなくなるわけではありません。
遺留分を侵害する内容であっても公正証書遺言そのものは有効ですが、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求によって金銭の支払いを求めることができます。
一方で、公正証書遺言によって多くの財産を取得した側が、遺留分侵害額請求を受けるケースもあります。その場合は、請求内容や遺留分の計算根拠、相続財産の評価などを確認したうえで対応することが大切です。
また、これから公正証書遺言を作成する場合は、相続人それぞれの遺留分を事前に確認し、できるだけ相続後のトラブルが起こりにくい内容を検討しておくことも重要です。
公正証書遺言の作成に不安がある場合は、行政書士などの専門家に相談しながら、相続人や財産関係を整理したうえで進めるとよいでしょう。
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