遺言書(亡くなった後の財産の分け方などを示す法律上の文書)を作れば、自分の財産を希望どおりに相続させられる。
そう考えている方は少なくありません。
たしかに、遺言書には「誰に、どの財産を、どのように承継させるか」を指定する効力があります。法定相続分(法律で定められた相続割合)とは異なる分け方を指定できるため、相続対策として非常に重要です。
しかし、遺言書があれば何でも自由に決められるわけではありません。
配偶者や子どもなど、一定の相続人には遺留分(兄弟姉妹以外の相続人に法律上認められた最低限の権利)があります。遺留分を侵害する内容の遺言を書いた場合、遺言そのものが当然に無効になるわけではありませんが、相続開始後(亡くなった後に相続手続きが始まった後)に遺留分侵害額請求(侵害された遺留分に相当する金銭を求める手続き)を受ける可能性があります。
つまり、遺言書は財産の行き先を決める強い手段ですが、遺留分を奪うことまではできません。
また、公正証書遺言(公証人が関与して作成する遺言書)であっても、この点は同じです。公正証書遺言は形式面では信頼性が高いものの、遺留分そのものを消す効力はありません。
この記事では、遺言と遺留分の関係、遺言書の効力がどこまで及ぶのか、公正証書遺言でも遺留分を防げない理由、そして遺留分に配慮した遺言書の作り方について解説します。

目次
①遺言と遺留分の関係|遺言書の効力はどこまで及ぶのか
遺言書には、財産の分け方を指定する効力があります。
遺言の基本や種類、書き方から確認したい方は、まず「遺言とは何か」を整理しておくと理解しやすくなります。
たとえば、「自宅は配偶者に相続させる」「預貯金は長男に相続させる」「お世話になった人に財産を遺贈する」といった内容を、遺言書で定めることができます。
これは、亡くなる方の最終的な意思を相続に反映させるためです。
ただし、遺言書の効力は無制限ではありません。
一定の相続人には遺留分があるため、遺言によって財産を自由に分けられるとしても、その人たちの権利まで一方的に奪うことはできません。
ここで大切なのは、遺言と遺留分を「どちらが絶対に優先するか」で考えないことです。
遺言は、財産の行き先を決めるための制度です。
遺留分は、近い親族の最低限の権利を守るための制度です。
この2つは役割が違います。
遺言書が相続でどのような効力を持つのかを詳しく知りたい方は、遺言の法的効力についても確認しておくと理解しやすくなります。
遺言の法的効力

遺言書では財産の分け方を指定できる
遺言書を作成すると、法定相続分とは異なる財産の分け方を指定できます。
たとえば、相続人が妻と長男・次男の3人である場合でも、必ず法律上の割合どおりに分けなければならないわけではありません。
「妻に自宅を相続させる」
「長男に事業用の財産を相続させる」
「次男には預貯金を相続させる」
このように、財産の内容や家族の事情に応じて、具体的な分け方を遺言書で指定できます。
また、相続人以外の人に財産を残すことも可能です。
内縁の配偶者、お世話になった親族、友人、団体などに財産を渡したい場合も、遺言書を作成しておくことで、その意思を形にできます。
このように、遺言書は自分の財産を希望に近い形で承継させるための有効な方法です。
ただし遺留分を一方的に消すことはできない
一方で、遺言書に書けば何でも実現できるわけではありません。
たとえば、次のような遺言を書くこと自体は可能です。
「全財産を長男に相続させる」
この遺言が方式や内容の面で有効であれば、相続はまずその内容を前提に進みます。
しかし、配偶者や他の子どもに遺留分がある場合、その権利まで遺言で奪うことはできません。
遺留分は、相続人の生活保障や最低限の権利を守るために用意された制度です。
そのため、「自分の財産だから自由に決めたい」と考える場合でも、遺言書を作るときには遺留分を無視できません。
遺留分を侵害しても遺言全体が無効になるわけではない
遺留分を侵害する遺言について、よくある誤解があります。
それは、「遺留分を侵害している遺言は無効になる」という考え方です。
しかし、遺留分を侵害しているからといって、遺言全体が当然に無効になるわけではありません。
遺言書としての方式や内容に問題がなければ、遺言自体は有効です。
ただし、相続開始後に遺留分侵害額請求が行われると、遺留分相当額を金銭で支払う形で調整されることがあります。
つまり、問題になるのは「遺言が有効か無効か」だけではありません。
遺言は有効であっても、遺留分を踏まえていない内容だと、結果として財産を多く受け取った人が金銭を支払う必要が出てくる可能性があります。
公正証書遺言でも遺留分の扱いは変わらない
公正証書遺言であれば、遺留分の問題も防げると思われることがあります。
しかし、公正証書遺言でも、遺留分そのものを消すことはできません。
公正証書遺言の強みは、主に形式面にあります。
公証人が関与するため、方式の不備によって無効になるリスクを下げやすい点がメリットです。
一方で、内容面で遺留分に配慮していなければ、公正証書遺言であっても相続開始後にトラブルになる可能性があります。
そのため、公正証書遺言を作る場合でも、「形式として有効な遺言を作ること」と「遺留分トラブルを防ぐこと」は分けて考える必要があります。
遺言書の種類は3つ|結局どれを選ぶべき?公正証書遺言が安心な理由を解説
②遺留分とは?遺言を書く前に知っておきたい最低限の取り分
遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の相続人に認められている、相続に関する最低限の権利です。
遺言書では、財産の分け方を本人の意思で指定できます。
しかし、特定の人に財産を集中させる遺言を書いた場合でも、一定の相続人の遺留分まで一方的に消すことはできません。
ただし、遺留分は「必ず相続財産そのものを受け取れる権利」という意味ではありません。
現在の制度では、遺留分を侵害された相続人は、原則として金銭で不足分の支払いを求めることになります。
つまり、遺留分は遺言の内容を当然に無効にする制度ではなく、遺言による財産配分が大きく偏った場合に、金銭で調整するための権利です。
遺言を書く側から見ると、遺留分は「財産配分を考えるときに無視できない相続人の権利」といえます。
遺留分が認められる相続人
遺留分が認められるのは、基本的には次の相続人です。
配偶者
子ども
配偶者は常に相続人になります。
また、子どもがいる場合には、子どもにも遺留分が認められます。
ただし、家族関係によっては、次の人に遺留分が認められることもあります。
・子どもがすでに亡くなっている場合の孫などの代襲相続人(本来相続人になるはずだった人に代わって相続人になる人)
・子どもがいない場合の父母・祖父母などの直系尊属(亡くなった方より上の世代の血族)
遺言書を作るときは、まず配偶者と子どもの有無を確認します。
そのうえで、子どもがすでに亡くなっている場合は孫などの代襲相続人、子どもがいない場合は父母・祖父母などの直系尊属が相続人になるかを確認します。
誰に遺留分があるかは、相続人の構成によって変わります。
そのため、財産配分を考える前に、まず相続人の範囲を整理することが大切です。
兄弟姉妹には遺留分がない
兄弟姉妹には、遺留分が認められていません。
そのため、子どもや父母などの直系尊属がおらず、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、遺言書の内容が大きな意味を持ちます。
たとえば、兄弟姉妹ではなく配偶者にすべての財産を残したい場合や、お世話になった人・団体に財産を遺贈したい場合でも、兄弟姉妹から遺留分を請求されることはありません。
この点は、配偶者や子どもに遺留分が認められるケースとは大きく異なります。
遺留分は原則として法定相続分の2分の1
遺留分は、原則として法定相続分(法律で定められた相続割合)の1/2です。
ただし、相続人が父母・祖父母などの直系尊属(亡くなった方より上の世代の血族)だけの場合は、例外として法定相続分の1/3になります。
たとえば、相続人が配偶者1人と子ども2人の場合、法定相続分と遺留分は次のようになります。
| 相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 1/2 | 1/4 |
| 子どもA | 1/4 | 1/8 |
| 子どもB | 1/4 | 1/8 |
このケースでは、配偶者の法定相続分は1/2なので、その1/2である1/4が遺留分になります。
子ども2人の法定相続分はそれぞれ1/4なので、その1/2である1/8がそれぞれの遺留分になります。
一方で、相続人が父母だけの場合は、例外的に法定相続分の1/3が遺留分になります。
| 相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
|---|---|---|
| 父 | 1/2 | 1/6 |
| 母 | 1/2 | 1/6 |
実際に遺留分侵害額を計算する場合には、生前贈与(生前に財産を渡すこと)や債務なども考慮する必要があります。
そのため、遺言書を作る段階では、まず相続人の構成を整理し、誰にどの程度の遺留分があるのかを大まかに把握しておくことが大切です。
③遺言と遺留分はどちらが優先される?

遺言は、法定相続分より優先されます。
しかし、遺留分を奪うことまではできません。
ここを分けて理解することが重要です。
法定相続分は、遺言書がない場合などに使われる法律上の相続割合です。
一方で、遺言書がある場合には、亡くなる方の意思が尊重され、遺言の内容が優先されます。
しかし、遺留分は別です。
遺留分は、一定の相続人に法律上認められた権利であり、遺言によって一方的に消すことはできません。
つまり、遺言と遺留分の関係は次のように整理できます。
| 比較するもの | 結論 |
|---|---|
| 遺言と法定相続分 | 遺言が優先される |
| 遺言と遺留分 | 遺言で遺留分を奪うことはできない |
遺言は法定相続分より優先される
遺言書がある場合、相続は原則としてその内容に沿って進みます。
理由は、遺言書が亡くなる方の最終的な意思を示すものだからです。
たとえば、法定相続分では配偶者と子どもが一定の割合で相続するとされていても、遺言書で次のように指定することができます。
「自宅は配偶者に相続させる」
「預貯金は長男に相続させる」
「事業用財産は後継者である長女に相続させる」
このように、遺言書を作成すれば、法定相続分とは異なる分け方を指定できます。
ただし、これはあくまで「法定相続分より遺言が優先される」という意味です。
遺留分まで無視できるという意味ではありません。
遺言で財産配分は指定できるが、遺留分は奪えない
遺言書では、特定の相続人に多くの財産を残すことができます。
たとえば、次のような遺言を書くことは可能です。
「全財産を長男に相続させる」
この遺言が方式や内容の面で有効であれば、相続はまずその内容を前提に進みます。
ただし、遺言でできるのは、あくまで「財産を誰に承継させるか」を指定することです。
配偶者や他の子どもなどに遺留分がある場合、その権利まで遺言で奪うことはできません。
整理すると、次のようになります。
| 遺言でできること | 遺言で奪えないもの |
|---|---|
| 特定の相続人に多く相続させる | 遺留分を持つ相続人の権利 |
| 法定相続分と異なる分け方を指定する | 遺留分侵害額請求をする権利 |
| 相続人以外の人に財産を遺贈する | 遺留分そのもの |
そのため、「全財産を長男に相続させる」という遺言が有効であっても、他の相続人の遺留分を侵害している場合には、相続開始後に金銭で調整される可能性があります。
遺言は財産の行き先を決めることはできますが、遺留分を奪うことまではできません。
「遺言が有効」と「相続トラブルが起きない」は別問題
有効な遺言書を作ることと、相続トラブルを防ぐことは別問題です。
遺言書としての形式が整っていれば、その遺言は有効なものとして扱われます。
しかし、内容が一部の相続人に大きく偏っている場合には、遺留分をめぐるトラブルが起きることがあります。
たとえば、次のような遺言は注意が必要です。
| 遺言の内容 | 起こりやすい問題 |
|---|---|
| 一人の相続人に財産を集中させる | 他の相続人から遺留分を主張される可能性がある |
| 不動産を一人に相続させる | 遺留分を支払うための現金が不足することがある |
| 相続人以外の人に多く遺贈する | 相続人との間で納得感の差が生まれやすい |
つまり、遺言書を作るときは、単に「法的に有効か」だけでなく、「相続開始後に実行しやすい内容か」まで考える必要があります。
形式面の有効性と、遺留分に配慮した内容設計は、分けて確認することが大切です。
④公正証書遺言でも遺留分は防げない?

公正証書遺言でも、遺留分を防ぐことはできません。
公正証書遺言は、遺言書としての信頼性が高い方法です。
しかし、その強みは主に「形式面」にあります。
つまり、公正証書遺言にしたからといって、配偶者や子どもなどの遺留分まで消せるわけではありません。
公正証書遺言は形式面で信頼性が高い
公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言書です。
本人が自分で書く自筆証書遺言(本人が自分で全文などを書いて作成する遺言書)と比べて、方式の不備によって無効になるリスクを下げやすいという特徴があります。
たとえば、自筆証書遺言では、日付や押印、本文の自書などに不備があると無効になる可能性があります。
一方で、公正証書遺言は公証人が関与して作成するため、こうした形式面の不備は起きにくくなります。
その意味で、公正証書遺言は「有効な遺言書を作る」という点では非常に有力な方法です。
ただし遺留分を消す効力はない
ただし、公正証書遺言にも限界があります。
それは、遺留分を消す効力まではないという点です。
たとえば、公正証書遺言で次のように定めたとします。
「全財産を長男に相続させる」
この遺言が有効であれば、相続はまずその内容を前提に進みます。
しかし、配偶者や他の子どもの遺留分を侵害している場合には、相続開始後に金銭で調整される可能性があります。
公正証書遺言だからといって、遺留分侵害額請求を当然に防げるわけではありません。
ここで混同しやすいのが、「遺言書として有効であること」と「遺留分トラブルが起きないこと」です。
公正証書遺言は、前者には強い方法です。
しかし、後者まで自動的に解決してくれるものではありません。
公正証書遺言では「無効対策」と「遺留分対策」を分けて考える
公正証書遺言を作るときは、「無効対策」と「遺留分対策」を分けて考えることが大切です。
無効対策とは、遺言書としての形式を整え、有効な遺言書を作るための対策です。
この点では、公正証書遺言は非常に有効です。
一方で、遺留分対策とは、遺留分を持つ相続人がいることを前提に、相続開始後の金銭トラブルをできるだけ防ぐための対策です。
たとえば、次のような工夫が考えられます。
・遺留分を踏まえて財産配分を決める
・遺留分を支払えるだけの現金を残す
・財産を多く残す理由を付言事項で伝える
・生命保険や生前贈与も含めて全体を設計する
つまり、公正証書遺言にすること自体は重要です。
ただし、それだけで安心するのではなく、遺留分を踏まえた内容にしておくことが、相続トラブルを防ぐうえで大切です。計ができているかどうかで、その後の結果が大きく変わります。
⑤「遺留分を認めない」と遺言書に書けば有効?
遺言書に「遺留分を認めない」と書いても、それだけで相続人の遺留分をなくすことはできません。
遺言書では、財産の分け方を指定することはできます。
しかし、遺留分を持つ相続人の権利を、遺言者が一方的に消すことはできません。
そのため、特定の相続人に財産を渡したくない場合でも、「遺留分を認めない」と書けば解決するわけではない点に注意が必要です。
遺言で遺留分を一方的に奪うことはできない
たとえば、遺言書に次のように書いたとします。
「次男には一切相続させない」
「次男の遺留分も認めない」
このような内容を書くこと自体はできます。
しかし、次男が遺留分を持つ相続人である場合、その一文だけで次男の遺留分が消えるわけではありません。
遺言書によって、次男に財産を相続させない内容にすることは可能です。
一方で、次男が遺留分を侵害された場合には、相続開始後に遺留分侵害額請求をする可能性があります。
つまり、「相続させない」と書くことと、「遺留分まで奪うこと」は別問題です。
「遺留分を請求しないでほしい」と書くことはできる
遺留分を一方的に消すことはできませんが、「遺留分を請求しないでほしい」という希望を書くことはできます。
たとえば、次のような内容です。
「長男には長年介護をしてもらったため、多くの財産を相続させたい」
「次男には生前に十分な援助をしてきたため、今回の相続では長男への配分を尊重してほしい」
「家族間で争わず、私の意思を理解してほしい」
このような内容は、法的に遺留分を消すものではありません。
しかし、遺言者の考えや財産配分の理由を伝えることで、相続人の納得につながる可能性があります。
付言事項で理由や想いを伝える意味
遺言書には、財産の分け方だけでなく、付言事項として家族への想いや理由を書くことができます。
付言事項は、法的な効力を直接持つ部分ではありません。
しかし、なぜそのような財産配分にしたのかを伝えるうえで重要です。
特に、特定の相続人に多く財産を残す場合や、ある相続人に財産を残さない場合には、理由が分からないままだと不満が生まれやすくなります。
そのため、遺留分に関わる内容を書く場合には、単に「遺留分を認めない」と書くのではなく、財産配分の背景や家族への想いを丁寧に残すことが大切です。
ただし、付言事項を書いても、遺留分侵害額請求を完全に防げるわけではありません。
遺留分トラブルを防ぐには、付言事項だけに頼るのではなく、遺留分を踏まえた財産配分や現金の確保もあわせて考える必要があります。
⑥遺留分トラブルになりやすい遺言の例

遺留分トラブルは、遺言書の内容が一部の人に大きく偏っている場合に起こりやすくなります。
重要なのは、偏った内容の遺言が必ず無効になるわけではないという点です。
ただし、遺留分を持つ相続人がいる場合、相続開始後に金銭での調整が必要になる可能性があります。
ここでは、遺言書を作るときに特に注意したいケースを紹介します。
一人の相続人にすべて相続させる遺言
もっとも典型的なのが、一人の相続人にすべての財産を相続させる遺言です。
たとえば、次のような内容です。
「全財産を長男に相続させる」
このような遺言を書くこと自体は可能です。
長男に家業を継がせたい、同居している長男に自宅を残したい、介護をしてくれた長男に報いたいなど、理由があるケースも多いでしょう。
しかし、配偶者や他の子どもに遺留分がある場合、その人たちの権利まで消えるわけではありません。
そのため、遺言の内容としては有効でも、相続開始後に他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
一人に多く残したい場合は、他の相続人の遺留分をどのように考えるかまで含めて設計することが大切です。
介護してくれた子に多く残す遺言
介護してくれた子どもに多く財産を残したい、という相談は少なくありません。
・長年介護をしてくれた子に感謝を示したい。
・他の子どもより多く残したい。
このように考えること自体は自然です。
ただし、介護への感謝を理由に財産を大きく偏らせると、他の相続人から不満が出ることがあります。
特に、他の子どもから見ると、「介護の負担はあったとしても、なぜここまで差がつくのか」と感じることがあります。
このような場合は、単に財産を多く残すだけでなく、付言事項(遺言書に添える想いや理由の部分)で理由を説明しておくことが有効です。
ただし、付言事項を書いても遺留分を消せるわけではありません。
財産配分そのものも、遺留分を踏まえて考える必要があります。
再婚相手・前妻の子・内縁関係があるケース
家族関係が複雑な場合も、遺留分トラブルが起きやすくなります。
たとえば、次のようなケースです。
・再婚相手に多く財産を残したい
・前妻との子どもにも相続権がある
・内縁の配偶者に財産を残したい
・現在の家族と以前の家族の関係が薄い
このようなケースでは、遺言書を作らなければ、希望どおりに財産を残せないことがあります。
一方で、遺言書を作ったとしても、配偶者や子どもなどに遺留分がある場合、その権利を無視することはできません。
たとえば、内縁の配偶者に財産を残したい場合、遺言書で遺贈(相続人以外の人に財産を渡すこと)を指定する必要があります。
しかし、その結果として子どもの遺留分を侵害する内容になれば、相続開始後に金銭トラブルになる可能性があります。
家族関係が複雑な場合ほど、感情面の対立も起こりやすいため、遺留分を踏まえた慎重な設計が必要です。
財産の大半が不動産の場合
財産の大半が自宅や土地などの不動産である場合も注意が必要です。
理由は、不動産は現金のように簡単に分けられないからです。
たとえば、遺言書で「自宅を長男に相続させる」と定めた場合、自宅そのものは長男が取得できます。
しかし、他の相続人の遺留分を侵害している場合、長男は遺留分相当額を金銭で支払う必要が出てくる可能性があります。
このとき、長男に十分な預貯金がなければ、支払いのために不動産を売却せざるを得ないこともあります。
つまり、不動産を特定の人に残したい場合は、不動産の承継先だけでなく、遺留分を支払うための現金をどう確保するかまで考えておく必要があります。
遺言書は、財産の行き先を決めるためのものです。
しかし、財産の内容によっては、行き先を決めるだけでは不十分です。
遺留分トラブルを防ぐには、「誰に何を渡すか」とあわせて、「遺留分に対応できるだけの現金があるか」も確認しておくことが大切です。
⑦遺留分に配慮した遺言書を作るポイント

遺留分トラブルを防ぐには、遺言書を作る段階で「誰に何を渡すか」だけでなく、「遺留分にどう対応するか」まで考えておくことが大切です。
重要なのは、遺留分対策とは「遺留分を消す方法」ではないということです。
遺留分を持つ相続人の権利を一方的になくすことはできません。
そのため、遺言書を作るときは、遺留分を前提にした財産配分や、相続開始後に金銭トラブルになりにくい設計を考える必要があります。
遺留分を踏まえて財産配分を考える
まず大切なのは、誰にどの程度の遺留分があるのかを確認したうえで、財産配分を考えることです。
たとえば、長男に自宅を残したい場合でも、配偶者や他の子どもに遺留分があるなら、その分をどう調整するかを考えておく必要があります。
具体的には、次のような方法が考えられます。
・長男に自宅を相続させる代わりに、他の相続人には預貯金を残す
・特定の相続人に多く残す場合でも、他の相続人の遺留分を大きく下回らないようにする
・財産を受け取る人が、将来の金銭請求に対応できるようにしておく
遺言書は、希望を書くだけではなく、実際に相続が始まった後に実行できる内容にすることが重要です。
遺留分侵害額を支払える現金を残しておく
遺留分の問題は、最終的に金銭で調整されることがあります。
そのため、財産の大半が不動産の場合は特に注意が必要です。
たとえば、自宅を長男に相続させる遺言を書いたとしても、他の相続人の遺留分を侵害している場合、長男が金銭を支払う必要が出てくる可能性があります。
このとき、長男に十分な現金がなければ、自宅を売却せざるを得ないこともあります。
不動産を特定の人に残したい場合は、財産の行き先だけでなく、遺留分侵害額に対応できる現金をどう確保するかまで考えておくことが大切です。
生命保険・生前贈与も含めて設計する
遺留分に配慮した遺言を作るときは、遺言書だけで考えないことも重要です。
たとえば、生命保険を活用して、特定の相続人に現金を残す方法があります。
これにより、不動産を相続する人が、遺留分への対応資金を確保しやすくなる場合があります。
また、生前贈与を行うことで、財産配分を早めに調整する方法もあります。
ただし、生前贈与は遺留分の計算に影響することがあります。
そのため、「生前に渡しておけば遺留分対策になる」と単純に考えるのは危険です。
生命保険や生前贈与を使う場合も、遺言書とあわせて全体設計を考える必要があります。
付言事項で財産配分の理由を伝える
遺留分トラブルは、金額だけでなく感情の問題から起こることもあります。
特定の相続人に多く財産を残す場合、理由が分からないままだと、他の相続人が不公平感を抱きやすくなります。
そのような場合に役立つのが、付言事項です。
たとえば、次のような事情を伝えることが考えられます。
・長男が長年介護をしてくれたこと
・配偶者の生活を守りたいこと
・事業を継ぐ子に事業用財産を残す必要があること
・生前に他の子へ援助していたこと
付言事項に法的な強制力はありません。
しかし、遺言者の考えや背景を伝えることで、相続人の納得につながる可能性があります。
ただし、付言事項を書いても遺留分そのものを消すことはできません。
あくまで、財産配分の理由を伝え、トラブルを和らげるための工夫として考えるべきです。
専門家に相談して全体設計を確認する
遺留分に配慮した遺言書を作るには、相続人の確認、財産の整理、遺留分の大まかな把握、財産配分の設計をまとめて考える必要があります。
特に、次のようなケースでは専門家に相談した方が安全です。
・配偶者、子供以外の相続人がいる
・特定の相続人に多く残したい
・不動産が財産の大半を占めている
・再婚・前妻の子・内縁関係がある
・事業承継が関係している
遺言書は、書けば終わりではありません。
大切なのは、相続開始後に実行しやすく、遺留分トラブルをできるだけ防げる内容にしておくことです。
そのためには、遺言書の形式だけでなく、遺留分を踏まえた全体設計を確認しておくことが重要です。
⑧相続開始後に遺留分が問題になった場合

ここまでは、遺言書を作る側の視点で、遺言と遺留分の関係を見てきました。
一方で、相続開始後に遺言書が見つかり、「自分の取り分が極端に少ない」「特定の相続人に財産が集中している」と感じるケースもあります。
その場合は、遺留分が侵害されている可能性があります。
ただし、遺留分の問題は、単に「不公平に感じるかどうか」だけで判断するものではありません。
誰が相続人なのか、遺留分がある立場なのか、遺言や生前贈与によってどの程度財産が偏っているのかを確認する必要があります。
遺留分侵害額請求という手続きがある
遺留分を侵害されている場合には、遺留分侵害額請求を検討することになります。
これは、遺留分を下回る内容の遺言や贈与があった場合に、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求める手続きです。
たとえば、遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていて、他の子どもの遺留分が侵害されている場合、その子どもは長男に対して金銭での支払いを求める可能性があります。
ここで重要なのは、遺留分侵害額請求をしても、遺言書そのものが当然に無効になるわけではないという点です。
現在の制度では、原則として財産そのものを取り戻すのではなく、金銭で調整する仕組みになっています。
請求には期限がある
遺留分侵害額請求には期限があります。
原則として、相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年以内に請求する必要があります。
また、相続開始から10年が経過すると、たとえ侵害を知らなかったとしても請求できなくなります。
そのため、相続開始後に遺言書の内容を見て違和感がある場合は、早めに状況を整理することが大切です。
特に、次のような場合は注意が必要です。
・遺言書で特定の人に財産が集中している
・自分の取り分がほとんどない
・一部の相続人だけが生前に多くの援助を受けている
・財産の内容が不動産中心で、金額の把握が難しい
このようなケースでは、遺留分の有無や金額を確認するために、相続人・財産・生前贈与の状況を整理する必要があります。
相続開始後は早めに状況を整理する
相続開始後に遺留分が問題になった場合は、まず状況を整理することが大切です。
確認すべきポイントは、主に次のとおりです。
| 確認すること | 見るべきポイント |
|---|---|
| 自分に遺留分があるか | 配偶者・子ども・直系尊属などにあたるか |
| 遺言書の内容 | 特定の人に財産が大きく偏っていないか |
| 財産の内容 | 不動産・預貯金・生前贈与などを含めて確認する |
| 請求期限 | 相続開始と遺留分侵害を知った時から1年以内か |
| 解決方法 | 話し合いで進められるか、専門家の関与が必要か |
遺留分は、単に「不公平だと感じる」だけで請求できるものではありません。
法律上、遺留分が認められる立場かどうか、実際に遺留分を下回っているかを確認する必要があります。
また、遺留分侵害額請求には期限があります。
そのため、遺言書の内容を見て不安がある場合は、財産や相続人の状況を早めに整理しておくことが重要です。
遺言書を作る側から見れば、相続開始後にこのような確認や話し合いが必要になる時点で、家族に負担がかかります。
だからこそ、遺言書を作成する段階で、遺留分を踏まえた財産配分にしておくことが大切です。
⑨遺言と遺留分に関するよくある質問
Q:遺言書で遺留分をなくすことはできますか?
できません。遺言書で遺留分そのものをなくすことはできません。
遺言書では、誰にどの財産を相続させるかを指定できます。
しかし、配偶者や子どもなどに認められた遺留分を、遺言によって一方的に消すことはできません。
たとえば、「全財産を長男に相続させる」と書くことは可能です。
ただし、その内容が他の相続人の遺留分を侵害している場合には、相続開始後に金銭で調整される可能性があります。
Q:公正証書遺言なら遺留分より優先されますか?
いいえ。公正証書遺言でも、遺留分を消すことはできません。
公正証書遺言は、形式面で信頼性の高い遺言書です。
方式の不備によって無効になるリスクを下げやすいというメリットがあります。
しかし、公正証書遺言にしたからといって、遺留分を持つ相続人の権利までなくなるわけではありません。
公正証書遺言は「有効な遺言書を作る方法」としては有効ですが、「遺留分を防ぐ方法」ではないと考える必要があります。
Q:遺言書の効力は遺留分より強いですか?
遺言書は法定相続分より優先されますが、遺留分を奪うことまではできません。
遺言書があれば、法定相続分とは異なる財産配分を指定できます。
その意味では、遺言書には強い効力があります。
一方で、遺留分は一定の相続人に法律上認められた権利です。
そのため、遺言書の効力によって遺留分そのものを消すことはできません。
つまり、「遺言書があるからすべて決まる」のではなく、「遺言書は有効だが、遺留分による制限がある」と理解しておくことが大切です。
Q:「遺留分を認めない」と書いた遺言は有効ですか?
遺言自体は有効になる場合がありますが、「遺留分を認めない」という記載だけで遺留分はなくなりません。
たとえば、「次男には一切相続させない。遺留分も認めない」と書いた場合でも、次男が遺留分を持つ相続人であれば、相続開始後に遺留分侵害額請求をする可能性があります。
そのため、「遺留分を認めない」と書くだけでは、遺留分対策としては不十分です。
遺留分トラブルを防ぐには、財産配分そのものを見直したり、付言事項で理由を伝えたりする工夫が必要です。
Q:遺留分を侵害する遺言は無効ですか?
いいえ。遺留分を侵害しているだけで、遺言全体が当然に無効になるわけではありません。
遺言書としての方式や内容に問題がなければ、遺言自体は有効です。
ただし、遺留分を侵害された相続人が請求をした場合には、財産を多く受け取った人が金銭を支払う形で調整される可能性があります。
つまり、「遺留分を侵害する遺言=無効」ではありません。
問題になるのは、相続開始後に金銭トラブルが起きる可能性がある点です。
遺留分を侵害しているだけで遺言全体が当然に無効になるわけではありません。ただし、形式や遺言能力に問題がある場合は無効になることがあります。遺言が無効になるケースもあわせて確認しておきましょう。
遺言が無効になるケース
Q:兄弟姉妹にも遺留分はありますか?
ありません。兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
兄弟姉妹が法定相続人になることはあります。
たとえば、亡くなった方に子どもがおらず、父母などの直系尊属もいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。
しかし、兄弟姉妹には遺留分がありません。
そのため、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、遺言書で財産の行き先を指定しておく意味が大きくなります。
Q:遺言状に書けば遺留分を請求されませんか?
いいえ。遺言状に書くだけで、遺留分の請求を完全に防ぐことはできません。
一般的に「遺言状」と呼ばれることもありますが、法律上は主に「遺言」や「遺言書」という言葉が使われます。
遺言書に「遺留分を請求しないでほしい」と書くことはできます。
しかし、その記載だけで相続人の遺留分侵害額請求を法律上禁止できるわけではありません。
遺留分トラブルを防ぐには、希望を書くことだけでなく、遺留分を踏まえた財産配分にしておくことが大切です。
まとめ|遺言書を作るなら遺留分を踏まえた設計が大切
遺言書を作成すれば、法定相続分とは異なる財産配分を指定できます。
たとえば、特定の相続人に多く財産を残したり、相続人以外の人に財産を遺贈したりすることも可能です。
しかし、遺言書があるからといって、遺留分まで自由に奪えるわけではありません。
配偶者や子どもなど、遺留分を持つ相続人がいる場合には、遺言の内容によって相続開始後に金銭で調整が必要になることがあります。
特に注意したいのは、次のようなケースです。
一人の相続人に財産を集中させる場合
財産の大半が不動産である場合
相続人以外の人に多く遺贈する場合
再婚相手・前妻の子・内縁関係など家族関係が複雑な場合
公正証書遺言を作れば遺留分も防げると考えている場合
遺言書は、財産の行き先を決めるための強い手段です。
ただし、相続開始後のトラブルを防ぐには、「有効な遺言書を作ること」と「遺留分に配慮した内容にすること」を分けて考える必要があります。
公正証書遺言で形式面を整えることも大切ですが、それだけでは十分ではありません。
誰に遺留分があるのか、どの程度の遺留分が問題になりそうか、金銭での調整が必要になった場合に対応できるかまで確認しておくことが重要です。
遺言書を作るときは、自分の希望を形にするだけでなく、残された家族が実際に相続手続きを進めやすい内容になっているかも意識しましょう。
遺留分を踏まえた遺言書にしておくことで、相続開始後の不満や金銭トラブルを減らし、遺言者の意思をより実現しやすくなります。
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