兄弟の相続トラブルを防ぐ方法|揉める原因と対策、実例と専門家の活用法まで

目次

1. はじめに:なぜ今、兄弟の相続トラブルが増えているのか?

かつては「兄弟仲が良い」ことが日本の家族像の理想でした。

しかし近年、相続をきっかけに兄弟間で深刻なトラブルに発展するケースが増加しています。仲が良かった兄弟が、遺産分割を巡って口もきかなくなり、何年も絶縁状態になる。そんな現実は、決して珍しい話ではありません。

背景には、相続という制度がもたらす「一度に大金が動く場面」があります。

ふだん金銭に余裕のない兄弟同士であればあるほど、「今ここで自分が主張すれば、人生が変わるかもしれない」という強い欲望と焦りが生まれやすくなるのです。

加えて、日本では「相続の話は縁起が悪い」とされ、親子間・兄弟間で生前に話し合いがなされないまま親が亡くなるケースが多く見られます。すると、遺産の分け方をめぐる話し合いが感情のぶつけ合いになるのです。

特に兄弟間では、以下のような点が争いを激化させます。

  • 子どもの頃の「親のひいき」など、過去の感情の蓄積
  • 経済状況の違いによる不公平感
  • 同居・介護の有無をめぐる「貢献度」への不満
  • 法律上の相続分と“気持ちの上での納得”のギャップ

このように、兄弟の相続争いには制度的な問題だけでなく、感情的・心理的な背景が色濃く関わっているのです。

本記事では、実体験を交えながら「兄弟間の相続トラブルを回避する方法」について、心理的背景、法律的な備え、具体的な行動、そして心の持ち方までを幅広く解説していきます。

2. 兄弟ほど揉めやすい理由とは?

相続トラブルにおいて、最も激しく、根が深くなりやすいのが「兄弟姉妹間の争い」です。

それは単に金銭の問題だけではなく、長年積み重なった感情の蓄積や、無意識の比較、育ってきた環境の違いが原因となって爆発するからです。

ここでは、なぜ兄弟が特に揉めやすいのか、その背景を具体的に見ていきましょう。

過去の感情が相続をきっかけに噴き出す

兄弟は、親という共通の存在のもとで人生を歩んできた分、「比較」されやすく、また「競争意識」も芽生えやすい関係です。

たとえば…

  • 「兄ばかり可愛がられていた」
  • 「自分だけ進学させてもらえなかった」
  • 「妹はずっと親と同居して甘えていた」

こうした子どもの頃の記憶や不満が、普段は忘れられていても、相続の場になると「取り返せるチャンス」として蘇ってくるのです。

経済的格差と埋め合わせの心理

兄弟といえど、大人になれば経済状況は大きく異なってきます。

たとえば、一方は自営業で資金繰りに困っており、もう一方は安定した職についている場合などです。

生活に困っている側は、相続を「人生を立て直す最後のチャンス」と捉え、過剰に取り分を主張してしまう傾向があります。

逆に余裕のある兄弟は「そんなにお金に執着するなんて…」と不信感を抱き、価値観の違いが顕在化してしまうのです。

介護・同居など“貢献度”をめぐる不満

「私は親と一緒に住んで世話してきたのに」
「兄は一切顔を出さなかったくせに、同じ取り分なんて納得できない」

こうした貢献度の差による不公平感も、兄弟間の火種になります。

民法上の法定相続分は、基本的に兄弟の貢献度は考慮されません。そのため、「気持ち」と「制度」が噛み合わず、怒りや悔しさが膨らむのです。

話しやすい相手だからこそ、感情をぶつけやすい

他人との交渉なら、ある程度冷静に振る舞える人でも、兄弟相手だと“素”が出てしまいます。

  • 「お前こそ親に何もしてこなかったじゃないか」
  • 「いつも自分のことばかりじゃないか」

こうした言葉が飛び交うと、話し合いはすぐに感情的なものになり、冷静な対話が不可能になります。

兄弟とはいえ、あるいは兄弟だからこそ、「一線を越えない距離感」と「建設的な対話」が必要なのです。

相続は感情の決算でもある

結局、相続とは単なる資産の分配ではなく、家族としての記憶・関係性・感情を清算する場でもあります。

兄弟間の相続トラブルは、そうした“見えない遺産”も分け合う複雑な営みであることを、まずは理解しておくことがとても大切です。

3. 【実体験】祖父が残した遺言が救った兄弟関係

相続の場面で、兄弟の関係が修復不能なほどに壊れてしまう。

そんな事例を数多く耳にする中で、筆者の身近でもまさにそうなりかけたケースがありました。

しかし一通の遺言書が、それを未然に防いだのです。

がめつい伯父と祖父の決断

筆者の祖父母には、複数の子どもがいました。

中でも一人の伯父は、常に「自分が一番損をしている」と考えるタイプで、金銭面でも非常にがめつく、家族の中でたびたびトラブルの火種になっていました。

祖父もその性格をよく理解しており、「自分が亡くなった後、相続で揉めるに違いない」と考えていたようです。

そのため、祖父は生前から、信頼できる行政書士に相談し、公正証書遺言を作成していました。

財産の内容はそれほど多くはありませんでしたが、誰に何を渡すのかを明確に記載し、さらに「なぜそうしたか」という気持ちも書き添えた、非常に丁寧な遺言でした。

遺言がなければどうなっていたか?

実際に祖父が亡くなった後、予想通り、その伯父は「自分の取り分が少ない」と不満を口にし始めました。

しかし、遺言書の存在を知ると、行政書士から法的な説明を受ける中で、不満はありながら理解せざるを得なかったようです。

もし遺言がなければ、法定相続分に基づく協議が必要となり、伯父が感情的に主張を強め、他の兄弟たちと対立したことでしょう。最悪、調停や裁判にまで発展していた可能性もあります。

けれども、祖父の遺言があったことで、その議論は最小限で済み、関係が決裂する事態は回避されました。

遺言の「内容」より「存在」が家族を救う

この経験を通じて実感したのは、遺言書の力は「内容」だけでなく「存在そのもの」にあるということです。

  • 「親が、ここまで準備してくれていた」
  • 「きちんと考えた上での決断だ」
  • 「親の思いを尊重したい」

そんな風に、争わない理由を家族に与えてくれるのが遺言です。

法律的な強制力だけでなく、感情的にも「これはもう親の意志なんだ」と納得できる材料となり、争いを回避する抑止力となるのです。

生前の備えが、遺された者を守る

「相続で兄弟げんかになるのは仕方ない」
「うちは家族仲が良いから大丈夫」

そう思っている家庭ほど、何の備えもなく、突然のトラブルに直面するリスクが高くなります。

今回のように、ほんの一通の遺言書が未来の争いを防ぐことができるのです。

相続とは、亡くなった人の問題ではなく、残された人たちの未来のための準備です。祖父の判断は、それを象徴するような選択でした。

4. 相続で兄弟げんかにならないための3つの備え

兄弟間の相続トラブルは、防ごうと思えば防げるものです。

「うちは大丈夫」と思って何も準備しないことが、後に取り返しのつかない関係の崩壊を招いてしまいます。

ここでは、相続で兄弟げんかを防ぐために、最低限やっておきたい3つの備えをご紹介します。

① 親が元気なうちから話し合いをしておく

日本では「相続の話をすると縁起が悪い」と敬遠されがちですが、実はこれは非常に危険な考え方です。

親が元気なうちにこそ、冷静に話せるタイミングがあり、親の希望をしっかり聞くことができます。

話し合いのタイミングとコツ

  • 親の誕生日や節目のタイミングを活用する
  • 直接「遺産の話をしたい」と切り出すのではなく、「これからの備え」や「介護・医療の話」から入ると自然
  • 兄弟全員が揃う場をつくる(グループLINEなどでも可)

ポイントは、「誰か1人だけが親と密に話す」状態を避けることです。

これは、他の兄弟から「情報を隠されている」「誘導された」と不信感を生む原因になります。

② 遺言書の準備をしてもらう

トラブルの多くは、「親が何を考えていたかわからない」という状態で兄弟が協議を始めることによって起こります。

だからこそ、遺言書の存在が非常に重要になります。

遺言があれば、財産の分け方が明確になりますし、親の意志が尊重されるため、感情的な争いを防ぎやすくなります。

遺言の種類と特徴

種類内容メリットデメリット
自筆証書遺言自分で書く遺言費用がかからない/すぐに書ける書き方を間違えると無効/紛失リスク
公正証書遺言公証役場で作成する正式な遺言法的効力が強い/紛失しない手数料が必要/本人が出向く必要あり

さらに、「なぜこの分け方にしたのか」という気持ち(付言事項)を添えることで、より納得感を高めることができます。

③ 必要であれば、専門家を間に入れる

相続は、感情と法律が交錯する非常にデリケートなテーマです。

家族だけで話し合うと、どうしても感情的になったり、情報に偏りが出てしまいがち。

そこで活用したいのが、中立的な専門家の力です。

主な専門家とその役割

  • 弁護士:トラブル対応、遺留分請求、法的アドバイス全般
  • 行政書士:遺言書作成、遺産分割協議書の作成、銀行口座の名義変更
  • 司法書士:相続登記、不動産の名義変更
  • 税理士:相続税の支払い

必要に応じて、これらの専門家に早めに相談することで、兄弟間の不要な誤解や対立を未然に防ぐことができます。

備えは「誰のため」か

これらの備えは、決して「お金をたくさんもらうための準備」ではありません。

兄弟で争わないための準備であり、自分自身が後悔しないための準備です。

大切なのは、「親の意思をきちんと引き継ぎ、兄弟の関係を守ること」です。そのために、できることを一つひとつ、今から始めていきましょう。

5. 遺言書の基本と活用のコツ

相続トラブルを防ぐ上で、もっとも効果的な備えのひとつが「遺言書」です。

しかし実際には、遺言書を用意している人はまだまだ少なく、その有無が兄弟間の争いを左右しているケースが多く見られます。

ここでは、遺言書の基本的な知識と、より効果的に活用するためのコツについて解説します。

遺言書は“家族を守る最後のメッセージ”

遺言書とは、亡くなった人が自分の財産を「誰に・どのように」残すかを示す法的文書です。

しかし、それだけではありません。遺言には、「争わないで欲しい」「これが自分の最終的な願いだ」という意思を伝える役割もあります。

言い換えれば、遺言は「お金の分配表」ではなく、家族への最終の手紙なのです。

遺言書の種類と特徴

種類概要メリットデメリット
自筆証書遺言本人がすべて手書きで作成手軽で費用がかからない不備があると無効/紛失・改ざんリスクあり
公正証書遺言公証役場で公証人が作成法的に強力・安全/保管も確実手数料がかかる/手続きがやや煩雑
秘密証書遺言内容を秘密にしたまま公証役場で提出内容を秘密にできる実務ではほとんど使われない/紛失リスクあり

現在では、法務局での自筆証書遺言の保管制度も整備され、一定の信頼性が確保されています。

法的に有効な遺言書に必要なポイント

特に自筆証書遺言の場合、形式の不備によって「無効になるケース」が非常に多いため、以下の点に注意が必要です。

有効な自筆証書遺言の条件

  • 全文を自書する(パソコンはNG)
  • 作成日を明記する
  • 署名・押印を行う
  • 財産と相続人を特定できるように記載する

また、財産の内容が不明確だとトラブルの元になるため、「預金は〇〇銀行△△支店の普通預金・口座番号□□」というように、具体的に書くことが重要です。

感情面での納得を生む「付言事項(ふげんじこう)」

法的には効力を持ちませんが、「なぜこのような分け方をしたのか」「誰にも感謝している」などを自由に書ける部分が、付言事項です。

たとえば…

長男には長年、私と同居してもらい、大変助けられました。
その感謝の気持ちを込めて、他の兄弟より多く渡すことにしました。
皆が納得して、仲良くしてくれることを願っています。

このような一文があることで、他の兄弟が「自分が軽んじられた」と感じにくくなるのです。

感情的な納得感は、相続の場面では非常に大きな意味を持ちます。ぜひ付言事項も活用しましょう。

遺言は“死後のトラブル防止策”である

遺言は単に相続分を決めるものではなく、残された家族が争うことなく、穏やかにそれぞれの人生を歩めるようにするための準備です。

「うちは大した財産がないから関係ない」

このように考える方もいますが、実際には少額の財産でも争いは起きます。

むしろ少ない財産ほど、「自分がもらえないと損」と感じやすく、もめごとに発展しやすいのです。

遺言書を作ることは、家族への“最後の思いやり”

遺言は、自分の死後、家族に対してできる最後の配慮です。

  • 「私のせいで家族がバラバラになるのは本意じゃない」
  • 「誰もが納得して、これからも関係を続けて欲しい」

そう願うなら、遺言は最も確実な手段です。


財産が多くても少なくても関係ありません。家族の未来を守るために、「書いておく」ことが何より大切なのです。

6. 兄弟間で話し合いをする際のポイントとNG集

遺言があったとしても、すべての相続問題が自動的に解決するわけではありません。


相続には話し合いがつきものです。とくに遺言がない場合や、財産の分け方について裁量がある場合には、兄弟姉妹での協議が必要不可欠になります。

しかしこの話し合いこそが、争いの最大の引き金になることも多いのです。

ここでは、兄弟で冷静に話し合いを進めるためのポイントと、避けるべきNG行動をまとめます。

話し合いは“段取り”が9割

兄弟での相続の話し合いは、「いきなり本題」に入ると失敗します。

話し合いをスムーズに進めるポイント

  • あらかじめ議題を共有する:「今日はどの財産について話すか」を決めておく
  • 中立の場を選ぶ:誰かの家ではなく、オンラインやレンタルスペースなども活用
  • 録音やメモをとる:誤解や記憶違いを防止するため、記録を残す
  • できれば第三者(専門家)を立ち会わせる:話の交通整理役になる

いちばん大切なのは、感情の爆発を起こさないような設計を事前にしておくことです。

実は最大の火種は“兄弟の配偶者”かもしれない

意外に思われるかもしれませんが、兄弟姉妹間の話し合いにおいて最も大きな火種になりやすいのが「兄弟の配偶者(義理の兄・義理の妹)」です。

配偶者は、当事者ではなく“外側から見ている存在”ですが、だからこそ血縁による情や関係性がなく、感情的にドライになりがちです。

たとえば…

  • 「あなたの兄弟は、親の面倒を見ていないのにお金だけ取ろうとしてる」
  • 「もっと強く主張しないと損するわよ」
  • 「向こうの奥さんはきっと口出してるわよ」

こうした配偶者の一言が、当事者の心をあおり、兄弟間の“信頼”や“空気感”を一気に壊してしまうケースが非常に多いのです。

また、配偶者は夫や妻の利益を優先して考えるため、「争ってでも多く取ってこい」というスタンスになりやすい傾向もあります。

そのため、話し合いの場には基本的に兄弟本人だけが出席し、配偶者は極力同席させない方が望ましいといえます。

話し合いを壊すNG行動ワースト5

以下のような言動があると、話し合いは一気に険悪ムードになります。

NG①:「お前は何もしてこなかったくせに」

相手の過去を責めるのは、最も効果の悪い一言です。事実でも、言わない選択を。

NG②:「これは父さんが生前に俺にくれるって言ってた」

口約束は証拠になりません。しかも他の兄弟からすると「後出し」に感じられ、疑心暗鬼を招きます。

NG③:「親の面倒を見たんだから当然だ」

貢献への報酬は当然と思われがちですが、法的には必ずしも評価されません。感情的な正義は、衝突のもとになります。

NG④:「もう話にならない。弁護士を立てる」

初手で戦闘モードを宣言するのは避けましょう。関係を断絶させるきっかけになります。

NG⑤:「とにかく自分の取り分が少ないのは納得できない」

感情論をぶつけるだけでは、前に進めません。冷静な根拠や具体的な提案が必要です。

感情を整理してから話すために

相続の話し合いは、実は家族の感情整理の場でもあります。

  • 「自分ばかり損をしてきた」
  • 「あの兄(弟)はずっと甘えていた」
  • 「親は最後まで自分を理解してくれなかった」

こうした想いがあるのは自然です。

でも、それをそのままぶつけてしまうと、相続の話が“過去のけじめ大会”に変わってしまいます。

一度、感情をノートやスマホに書き出してみると、自分が本当に望んでいることが整理できます。

建設的な話し合いのために意識したいこと

  • 「公平」と「平等」は違う:取り分が同じでも、納得度は違います
  • 目的は自分が勝つことではなく、家族の未来を守ること
  • 譲歩は「負け」ではない:家族との関係を守るための“投資”とも言えます

難しいと感じたら、迷わず専門家を頼る

兄弟の話し合いは、どれだけ準備してもこじれる可能性があります。
自分たちだけでは限界だと思ったら、早めに弁護士や行政書士などの専門家を間に入れる決断をしましょう。

感情の渦に巻き込まれる前に、冷静な視点を持つことが、何より大切です。

7. 専門家に相談するタイミングと相談方法

相続は、「感情」と「法律」が複雑に絡み合う場面です。

兄弟間の話し合いだけでスムーズに進めば理想ですが、現実には専門的な知識や中立的な視点が不可欠になることも多くあります。

特に、争いの気配が少しでも見えたとき、または誰かが不信感を抱いたときは、
素人同士で話し合おうとしないことが大切です。

ここでは、相続の専門家に相談すべきタイミングと、誰に何を相談すればいいのかについて、具体的に解説します。

専門家に相談するべきタイミングは「早いほどいい」

「話がこじれてから相談する」のでは、手遅れになることもあります。

理想的なのは、次のような“兆候”が見えた時点での相談です。

こんなときは、すぐ専門家に相談を

  • 遺産の内容や価値が把握できていない
  • 兄弟の一人が感情的になってきた
  • 話し合いの場で口論が増えている
  • 「弁護士に相談する」と誰かが言い出した
  • 遺言がなく、誰が何を相続すべきか不明瞭

これらはトラブルの予兆です。

早めに専門家に入ってもらうことで、冷静に整理ができ、感情の対立を防げます。

専門家にも“得意分野”がある:誰に何を相談する?

相続に関わる専門家は複数いますが、それぞれ得意分野と役割が異なります。

専門家主な役割相談内容の例
弁護士法律全般・トラブル解決遺留分請求、調停、裁判、強硬な交渉が必要なとき
行政書士書類作成・遺言・相続手続き遺言書作成、公正証書化、相続人調査、遺産分割協議書作成、銀行口座の名義変更など
司法書士相続登記、不動産関係不動産の名義変更、相続登記手続きなど
税理士税金関係・相続税申告相続税の申告・節税アドバイス、財産評価など

たとえば、まだ争いになっていない段階なら行政書士にまず相談し、すでに話がこじれていれば弁護士に相談、不動産の名義変更だけが目的なら司法書士、
相続税対策をしたいなら税理士というように、目的に応じて使い分けるのがポイントです。

「地元の信頼できる専門家」を選ぶコツ


地元の信頼できる専門家と繋がっておくことは非常に重要です。

選ぶ際は以下を参考にしてください。

  • 市区町村の無料法律相談を活用して、専門家の印象をチェックする
  • 地元の行政書士会・弁護士会のHPで探す
  • Googleマップなどで口コミを確認する
  • 実際に問い合わせたときの対応の丁寧さや説明のわかりやすさも重視する

相続は非常にプライベートな内容なので、安心して話せる相手であることが大前提です。

専門家に相談するときに準備しておくと良いこと

スムーズな相談のために、以下の情報を事前にまとめておくとベストです。

  • 相続人の関係図(誰が誰の子で、配偶者がいるかなど)
  • 財産の種類と大まかな金額(不動産、預貯金、有価証券など)
  • 遺言書の有無と内容(もしある場合)
  • 現在までに起きたトラブルや、兄弟間の状況

こうした情報があると、専門家側も的確なアドバイスがしやすくなります。

相談することは“揉めたい”からではなく、“平和を守りたい”から

「専門家に頼むなんて、大げさすぎる」
「家族の問題は家族で解決するべきだ」

そう考える方も多いかもしれません。

でも実際には、専門家を入れることは「争いを避けるための一番の近道」なのです。

専門家が入ることで、冷静な判断・正確な知識・中立の立場が加わり、「自分だけ損している」「相手にだまされている」という誤解を防ぐことができます。

それは結果的に、家族関係を壊さないための最大の配慮になります。

8. 相続で壊れる兄弟関係。壊さないために持つべき視点

相続とは、「財産を分ける」行為であると同時に、兄弟関係そのものを揺るがす試練でもあります。

幼い頃は同じ屋根の下で暮らし、喜びも悩みも分かち合ってきた兄弟です。けれど、親の死と財産の問題が持ち上がった瞬間、その関係は一変することがあります。

ここでは、兄弟間の関係を壊さないために持っておきたい3つの視点・心構えをご紹介します。

視点①:「目先の利益」か「一生の関係」か

相続の場面では、多くの人がこう思ってしまいます。

「ここで強く主張しないと損をする」
「この機会を逃したら、一生取り返せない」


たしかに、相続は一度きりの機会です。

多くの人にとって、生涯でもっとも大きな金額を一度に得られるチャンスかもしれません。

しかしそのために、兄弟との関係を壊してしまったら?

長年培ってきた信頼、気軽に連絡を取り合う関係、甥や姪との縁、そうしたお金では買えないもの”を失ってしまうリスクもあるのです。

一時的な金額よりも、一生続いていく関係の価値に目を向けることです。それが、相続で後悔しないための第一歩です。

視点②:「譲る」ことは負けではない

話し合いの場で、自分の主張を貫くことは大切です。

けれど、相手が強く感情的になっている場合、あえて譲るという選択肢も考えるべきです。

譲ることは「負ける」ことではありません。

むしろ、それによって話し合いがスムーズに進み、将来にわたって兄弟関係が維持できるなら、圧倒的に価値のある選択です。

また、譲ることで相手の心がほぐれ、「実はそこまで主張するつもりはなかった」と歩み寄ってくるケースも多々あります。

相続は「奪い合い」ではなく、落としどころを見つけるための対話です。

視点③:「自分が冷静でいる」という覚悟

兄弟全員が冷静で理性的に動けるとは限りません。

だからこそ、「自分だけは冷静でいよう」と決めておくことが、話し合いを建設的に保つ鍵になります。

感情がぶつかればぶつかるほど、泥沼化します。それを避けるためには、1人でも“理性の役割”を担う人間が必要です。

たとえば…

  • 感情的な言葉を言われても、受け止めて反応しない
  • 判断に迷ったら一晩おいて考える
  • 専門家に相談し、第三者の視点を借りる

冷静でいることは「強さ」です。
誰かが冷静でいるからこそ、家族全体が壊れずに済むのです。

最後に:失った関係は、二度と戻らない

「どうしてあんなことで仲がこじれてしまったんだろう」

相続が終わった後、そう後悔する人は少なくありません。

金銭的には多少得をしたかもしれない。
も、兄弟の連絡先も知らず、法事にも顔を出さず、甥や姪の成長も知らずに老いていく。

それは、本当に“勝った”と言えるのでしょうか?

相続をきっかけに、関係が深まる家族もいれば、壊れる家族もいます。

その分かれ道を決めるのは、その場にいるあなたの姿勢と選択なのです。

9. まとめ:兄弟だからこそ、相続で争わないために

相続は、避けることのできない「家族の通過点」です。

そしてそれは、家族の“本当の姿”が試される瞬間でもあります。

兄弟という関係は、他人よりも近く、でも他人よりも複雑です。子どもの頃から積み重ねてきた思い出や、言葉にできなかった感情、立場の違い、経済状況、そして配偶者や周囲の影響、それらが複雑に絡み合い、相続をきっかけに爆発してしまうことは珍しくありません。

けれど、私たちはその未来を変えることができます。

相続の争いは「防げるもの」

この記事でお伝えしてきたように、兄弟間の相続トラブルは事前の準備と適切な対応で、十分に回避可能です。

  • 親が元気なうちに話し合う
  • 遺言書をきちんと用意してもらう
  • 専門家の力を早めに借りる
  • 感情的にならず、冷静に向き合う
  • そして「兄弟との関係を守る」という視点を持つ

どれも簡単ではないかもしれませんが、後悔しないための今できることです。

「兄弟仲が壊れるなんて想像していなかった」

だからこそ、準備しておく。

相続で仲の良かった兄弟が疎遠になる。それは、決して特別な話ではありません。
むしろ、「うちは大丈夫」「話し合えばきっとわかる」と油断していた家族ほど、深く壊れてしまう傾向にあります。

逆に、危機意識を持ち、少しでも準備しておけば、その壊れそうな瞬間にブレーキをかけることができます。

最悪の未来は、防げるのです。

相続はお金の話であり、家族の話

相続は、単なる金銭の分配ではなく、家族の物語の「最終章」です。

どう終えるかで、残された家族の関係は大きく変わります。

争いの中で別れていく兄弟もいれば、「話し合えてよかったね」と心から言い合える兄弟もいます。

未来をどう描くかは、いまこの記事を読んでいるあなたの選択次第です。

兄弟だからこそ、大切にしたい。

争わないために、今から動こう。

相続をきっかけに、兄弟の関係が崩れてしまう。そんな悲しい未来を避けるために、できることはたくさんあります。

  • 「まだ早い」と思わず、話し合いを始める
  • 「面倒だから」と避けず、遺言を残してもらう
  • 「なんとかなる」と思わず、専門家の助けを借りる

そして何より、“争わないと決める心”を持つこと。

その心が、家族を守ります。

あなたと、あなたの大切な家族が、相続をきっかけに壊れるのではなく、より深くつながり直すことを心から願っています。