親が認知症になる前に…家の名義変更ができなくなる前に知っておくべきこと【行政書士が解説】

目次

1. はじめに:なぜ「今すぐ」動くべきなのか

親が高齢になるにつれて、ふと頭をよぎるのが「もし認知症になったらどうしよう?」という不安です。特に、親名義の不動産がある家庭では、「名義変更や相続の手続きはどうなるのか?」という疑問や焦りを感じている方も多いのではないでしょうか。

近年、認知症の高齢者数は年々増加しており、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。これはもはや、どの家庭でも無視できない社会的な問題です。

こうした状況の中で増えているのが、「親が認知症と診断されたために、不動産の名義変更や相続がスムーズにできなくなった」という相談です。判断能力がなくなった場合、たとえ実の子であっても、親の代わりに不動産の手続きを行うことはできません。

さらに厄介なのは、認知症の発症後には、遺言書の作成も難しくなり、将来的な相続でもめごとが発生するリスクが一気に高まることです。実際に、こうした問題がきっかけで家族間の関係が悪化したり、不動産が長期間「塩漬け」状態になってしまうケースも少なくありません。

つまり、「まだ元気なうちに対策する」ことこそが、唯一の現実的な解決策です。

この記事では、「親が認知症になったら家の名義変更はどうなるのか?」というテーマを軸に、具体的なリスクと対策、そして専門家の視点を交えながら、今あなたが取るべき行動をわかりやすく解説していきます。

2. 親が認知症になると起こる「名義変更の壁」

不動産の名義変更は、「所有者本人の意思」が確認できて初めて成立します。ところが、親が認知症を発症すると、この「意思能力」が欠けた状態と見なされ、手続きが一気に困難になります。

不動産の名義変更に必要な判断能力とは?

不動産の名義を変更するには、法的に「意思表示ができること」が必要です。たとえば、名義を子どもに移す贈与契約を結ぶ場合、親が「これは私の意思である」と理解し、納得したうえで署名・押印しなければなりません。

認知症が進行し、本人が契約の意味や内容を理解できない状態になると、その契約自体が無効と判断される可能性が高くなります。たとえ家族間の合意があっても、法的には「無効な手続き」とされるリスクがついて回ります。

判断能力がないと「名義変更」ができない理由

判断能力を失った状態の人に代わって不動産の名義を変更するには、成年後見人を立てて家庭裁判所の許可を得る必要があります。しかし、これは時間もコストもかかる制度で、簡単には進みません。

また、名義変更には以下のような法的制約があります.

  • 贈与契約は原則本人の意思表示が必要
  • 親の財産を子が勝手に移すことは「利益相反」にあたる場合がある
  • 遺言書も、認知症後には作成できない

このように、認知症になる前と後では、できることの範囲が根本的に変わってしまうのです。

相続人が複数いる場合の「調整リスク」

さらに問題になるのが、相続人が複数いる場合。名義が親のままの状態で亡くなってしまうと、その不動産は共有財産となり、誰が相続するのかを巡って家族間で揉めやすくなります。

一度トラブルになると、話し合いが長期化し、不動産が「使えない・売れない」状態に陥ってしまうことも。

認知症は、いつ発症するか誰にもわかりません。そして、発症してからでは「名義変更」というシンプルなはずの手続きが、一気に法的な壁に囲まれることになります。

3. 成年後見制度の「限界」と注意点

親が認知症を発症したあとでも、何らかの手段で不動産の名義変更ができないかと考えたとき、多くの人がたどり着くのが「成年後見制度」です。

しかし、実はこの制度、名義変更を目的とするには“限界”がある制度だということをご存じでしょうか?

成年後見制度とは? ―「判断能力を補う」制度

成年後見制度は、認知症や精神障がいなどによって判断能力が低下した人のために、家庭裁判所が選任する「後見人」が代わりに法律行為を行う制度です。

代表的な役割としては、

  • 預貯金の管理
  • 契約行為の代行
  • 不動産売却や施設入所に関する手続き など

一見すると、「じゃあ後見人が名義変更すればいいのでは?」と思われがちですが、実際にはそう簡単ではありません。

不動産の処分には「家庭裁判所の許可」が必要

親が住んでいた家を名義変更しようとすると、たとえ後見人であっても単独ではできません。

特に居住用不動産を売却・贈与・名義変更する場合には、家庭裁判所の事前許可が必須です。これは、被後見人(=親)の権利を守るために設けられた厳しい制限です。

しかも裁判所の許可が下りるまでには、以下のようなプロセスが伴います。

  • 詳細な申立書の作成
  • 財産状況や目的の提出
  • 家庭裁判所での審理・判断

これには数カ月以上かかることもあり、非常に時間と労力がかかります。

「財産が凍結されたような状態」になることも

成年後見制度の本質は、あくまで守るための制度です。

そのため、名義変更を通じた生前贈与や相続対策といった、いわば攻めの手続きは非常にやりづらいのが実情です。

後見人には、親(被後見人)の利益を最優先に考える義務があるため、例えば「節税のために子に不動産を贈与する」といった行為は、裁判所から許可が出にくいケースもあります。

結果的に、「親の財産が凍結されたような状態で、何も動かせなくなってしまった」という声も多く聞かれます。

管理コストや心理的ハードルも無視できない

成年後見制度には、以下のような負担も伴います。

  • 裁判所への定期報告義務
  • 後見人報酬(年間10万円〜20万円程度が相場)
  • 申立てや管理に関する専門家への依頼費用

加えて、後見人に選ばれるのが必ずしも家族とは限らず、まったくの第三者(行政書士・司法書士・弁護士など)になることもあります。

その場合、「親の財産を自由に扱えない」「家族の意向が反映されない」と感じる場面も出てくるでしょう。

成年後見制度は大切な制度ではありますが、自由に名義変更したいという目的には適していないのが現実です。

4. 家族信託の「可能性」と「課題」

認知症による財産管理や名義変更の問題を解決する方法として、近年注目されているのが「家族信託」です。
自由度の高い仕組みとして紹介されることが多く、「成年後見制度よりも使いやすい」と期待する人も増えています。

しかし、実際にはまだ制度として発展途上の部分も多く、過信は禁物です。

家族信託とは? ─ 柔軟な財産管理の仕組み

家族信託とは、本人(=委託者)が、信頼できる家族(=受託者)に財産の管理・処分を任せる契約です。
不動産の名義を家族に変更するのではなく、信託という形で管理・運用の権限を移すのが特徴です。

たとえば、親が元気なうちに家族信託契約を結んでおけば、将来認知症を発症しても、子どもが代わりに不動産を売却・管理することができます。

成年後見制度よりも柔軟に動ける

家族信託には、次のようなメリットがあります。

  • 家庭裁判所の許可が不要
  • 資産を「目的に沿って」管理・運用できる
  • 不動産、預貯金、株式など幅広い資産に対応できる
  • 将来的な相続の指定(受益者連続型)も可能

つまり、将来の財産の活用・承継において、かなり自由度が高い制度といえます。

ただし、制度としては発展途上の側面も

家族信託は比較的新しい制度であり、法律や判例の蓄積がまだ十分とは言えません。そのため、以下のような実務上の課題が残されています。

  • 税制上の取り扱いが複雑で、贈与税・譲渡所得税の判断が難しい
  • 金融機関によって対応が異なり、信託口口座の開設に制限がある
  • 不動産信託登記に専門的な知識が必要で、手続きの負担が重い
  • 信託契約書の設計次第で、後々トラブルになるリスクもある

また、制度自体が広く浸透しておらず、相続人や家族全体の理解と同意を得るのに時間がかかることも多いです。

家族信託を利用する際に必要なのは専門家の関与

家族信託は、自分たちだけで契約書を作って運用するのは非常に危険です。契約内容が曖昧だったり、法律上の要件を満たしていなければ、税務調査や相続時に無効とされるリスクがあります。

そのため、行政書士や司法書士、税理士などの信託に詳しい専門家と連携することが絶対に必要です。

制度の違いを理解し、「何を実現したいか」で使い分けを

  • 判断能力を失っても柔軟に財産を活用したい → 家族信託が有効
  • 判断能力が既にない → 成年後見制度が選択肢に
  • 相続人の指定・財産分配の意志を明確にしたい → 遺言書が必要

このように、それぞれの制度には適したタイミングと目的があります。
万能な制度は存在しないため、自分たちの目的に合わせた制度選びが重要です。

家族信託は大きな可能性を秘めた制度ですが、過信は禁物。制度の理解と適切な設計こそが、成功のカギを握っています。

5. 「遺言書」も認知症発症後には作れない

「名義変更が難しいなら、遺言で不動産の相続先を指定しておけばいいのでは?」

そう考える方も多いですが、遺言書の作成も認知症になる前でなければ実現できません。

遺言書は法的に有効な意思表示でなければならず、認知症の発症後には、意思能力の欠如によって無効となる可能性が極めて高いのです。

遺言には意思能力が必須

法律上、遺言書が有効であるためには、作成時点で遺言者に意思能力(自分の財産や相手との関係を理解し、自らの意思で判断できる能力)がなければなりません。

たとえ自筆で書かれていても、その内容に沿って遺産分割を進めようとしたときに、

  • 認知症の診断が出ていた
  • 作成当時の判断能力が不明確だった
  • 医師の診断書などがない

といった場合には、「この遺言は無効では?」と家族間で争いになる可能性があります。

認知症と診断された後の遺言は「無効扱い」になることも

現実には、「母が軽い認知症だったが、遺言を書いた」といったケースも多くあります。

しかし、相続の場面になると、他の相続人から「判断能力がなかったはずだ」と疑義を挟まれることがあり、遺言の有効性を巡る争いが裁判沙汰になるケースも珍しくありません。

また、家庭裁判所が後見制度を認定していた場合、つまり本人の判断能力がすでにないと公的に判断されていた状態で作成された遺言は、ほぼ確実に無効と見なされます。

遺言書がないまま亡くなると、相続はどうなる?

遺言書が存在しない場合、財産は民法に基づく「法定相続分」で分けることになります。

これにより、以下のようなトラブルが発生しがちです。

  • 不動産を共有状態で相続してしまい、誰も使えなくなる
  • 相続人同士で意見が対立し、売却や住み替えができない
  • 遺産分割協議がまとまらず、相続登記が長年できない

特に不動産は物理的に分けられない資産であるため、相続の中でも最も揉めやすい財産の一つです。

有効な遺言は「元気なうち」にしか残せない

こうしたリスクを防ぐには、判断能力がしっかりしている今のうちに、遺言書を作成しておくことが極めて重要です。

  • 公正証書遺言にしておけば、第三者(公証人)の確認が入るため信頼性が高い
  • 医師の診断書を一緒に添付しておくと、後に有効性を証明しやすい
  • 専門家(行政書士など)に依頼することで、形式ミスや法的リスクを防げる

遺言書は「いつでも書ける」と思われがちですが、そのいつでもは、ある日突然なくなります。
認知症と診断されたその日から、「もう遺言すら残せない」それが、現実に起こっているのです。

6. 名義変更をしないまま親が亡くなるとどうなるか?

「親が亡くなったあとに名義変更をすればいい」と考えている方も多いかもしれません。

しかし、名義変更をしないまま親が亡くなってしまうと、不動産は相続財産となり、より複雑な手続きとトラブルの可能性が待っています。

不動産は「共有財産」になるリスクがある

親が亡くなり、その不動産が遺言書などで明確に相続人を指定されていない場合、法定相続分に従って相続人全員の共有という形になります。

共有になるとどうなるか?

  • 売却や賃貸など、何か行動を起こすには相続人全員の同意が必要
  • 一部の相続人と連絡が取れないと手続きが進まない
  • 誰が住むのか、固定資産税は誰が払うのか…などで揉める

つまり、誰も自由に使えない「動かせない不動産」が生まれてしまうのです。

相続登記の義務化で放置できなくなった

これまでは、親が亡くなっても不動産の名義を変更せず、そのままにしておくケースが非常に多くありました。
ところが、2024年4月の法改正により、「相続登記の義務化」が始まりました。

【重要】相続登記の義務化とは?

  • 相続が発生したら、3年以内に相続登記を行う義務
  • 正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料
  • 相続人申告登記も義務化され、責任が明確化された

この法改正により、「名義を変えずに放置する」は通用しなくなりました。
今後、未登記不動産はペナルティ対象となるため、早めの対応が家族全員の負担を軽減することにつながります。

不動産の処分・利用ができなくなるケースも

名義が親のまま、あるいは複数の相続人で共有のままでは、以下のようなことが起こり得ます。

  • 家を売却したくても、相続人の一人が反対するとできない
  • 老朽化してもリフォーム費用の分担でもめる
  • 放置され「空き家」となり、行政から指導が入る
  • 土地の境界や権利関係が曖昧になり、トラブルを招く

不動産は価値のある資産であると同時に、「責任と管理が伴う資産」でもあります。
名義をきちんと整理しておかないと、残された家族にとっては負の遺産になってしまうのです。

「名義変更は生前に」が一番の安心材料

親が元気なうちに名義を変更しておけば、こうしたトラブルは大きく避けることができます。
また、家族の間で誰が不動産を引き継ぐのかを合意しておくことで、相続の争いも防げます。

相続はある日突然やってくるもの。
準備を後回しにすると、手続きだけでなく家族関係まで壊れてしまうリスクをはらんでいます。

7. 根本的な解決策とは?「元気なうちに対策を!」

ここまで見てきたとおり、認知症を発症してしまうと、不動産の名義変更はもちろん、遺言の作成や資産の引継ぎといった「本人の意思」が必要なあらゆる手続きが制限されてしまいます。

では、どうすればいいのか?

その答えはシンプルです。
「まだ親が元気なうちに、必要な対策を講じておくこと」これに尽きます。

解決策① 生前贈与や名義変更を実行する

親がまだ判断能力を有しているうちに、子どもなど信頼できる人へ名義を移す方法です。
これにより、将来的に名義変更が必要になる事態を未然に防ぐことができます。

ただし、生前贈与には注意点もあります。

  • 年間110万円を超える贈与には贈与税が発生する
  • 不動産取得税・登録免許税などの各種費用がかかる
  • 相続時精算課税制度などの税制知識も必要

だからこそ、税理士や行政書士など専門家のアドバイスを受けながら進めることが重要です。

解決策② 有効な遺言書を作成しておく

贈与が難しい、または不動産をすぐには移したくない場合は、遺言書の作成が極めて有効な手段です。

  • 相続人を指定しておけば、遺産分割の争いを防げる
  • 「家は長男に、預金は次男に」など柔軟な分配も可能
  • 公正証書遺言なら法的な効力も高く、裁判リスクを大きく減らせる

ただし、意思能力があるうちにしか作成できないため、これも早めの準備が欠かせません。

解決策③ 家族信託の活用を検討する

財産を柔軟に管理・運用したい場合には、家族信託という選択肢もあります。
制度の特徴や制限をしっかり理解したうえで、行政書士などの専門家と一緒に設計することが大切です。

解決策④ 家族全体での話し合いと合意形成

制度の活用と同時に、家族間での事前の話し合いも非常に大切です。

  • 誰が不動産を引き継ぐか
  • どのように管理・運用していくか
  • 他の相続人とのバランスをどう取るか

こうした点を親が元気なうちにオープンに話し合っておくことで、相続時の混乱や感情的な対立を防ぐことができます。

「まだ元気だから大丈夫」は一番危ない

認知症は、ある日突然進行が進むこともあります。
本人も家族も「まだ早い」と思っているうちにタイミングを逃すと、できることが一気に制限されてしまいます。

逆にいえば、今だからこそ、選べる手段が多いのです。

事前対策は、「家族を守る行動」そのもの。
あとで後悔しないためにも、元気なうちに動き出す勇気と準備が大切です。

8. 専門家(行政書士)に相談することの重要性

名義変更や家族信託、遺言書の作成、これらの対策は、いずれも法的な知識と手続きが伴うものです。
「ネットで調べながら自分でやろう」と思っても、現実には制度が複雑すぎて手が止まってしまうケースがほとんどです。

だからこそ、行政書士をはじめとした専門家に相談することが、実は一番の近道なのです。

行政書士とは? どんなサポートが受けられる?

行政書士は、法律に基づく書類作成や手続きの専門家です。
特に、以下のような場面で力を発揮します。

  • 不動産の名義変更に必要な書類の作成・提出
  • 家族信託契約書の設計と登記支援
  • 公正証書遺言の作成支援・公証人との連携
  • 成年後見制度に関する申立てサポート
  • 相続手続き全般のアドバイスと実務代行

一人ひとりの状況を踏まえて、「その家族に合った最適な方法」を提案してくれるのが、行政書士の大きな強みです。

登記や法務局に提出する書類の作成は司法書士の独占業務です。行政書士だけでは対応できない内容もあります。

制度を「正しく理解し、正しく使う」ために不可欠

前の章でご紹介したように、家族信託や贈与、遺言などの制度は一見するとシンプルですが、実は…

  • 税制面での誤解
  • 登記手続きの不備
  • 法的な解釈の違い
  • 家族構成による制約

など、自己判断では対応できない要素が山ほどあります。

制度を間違って使えば、「やったつもり」なのに無効になったり、かえってトラブルの原因になることすらあるのです。

専門家に相談すれば、「不安」→「行動」へと変わる

多くの方が、「何をすればいいかわからない」「何がベストなのか判断できない」という段階で止まっています。
そこで行政書士に相談すると、

  • 今の状況で取れる選択肢を明確に提示してくれる
  • 手続きの流れを一緒に整理してくれる
  • 書類作成や役所・公証役場とのやり取りも任せられる

こうして、不安が「行動」に変わるのです。

相談は「早ければ早いほど良い」

最も多い後悔の声は、

「もっと早く相談していれば、できることがあったのに……」です。

認知症発症後や、相続が発生した後では、選べる選択肢は激減します。
だからこそ、「問題が起きていないうち」に相談することが、最大のリスクヘッジになります。

費用面も明確&相談しやすい

行政書士への相談は、初回無料や低価格でのアドバイスを提供している事務所も多くあります。
また、司法書士や弁護士に比べて手続き特化のサービスが豊富なため、費用対効果の高い支援が受けられることもメリットです。

手続きのことで迷ったら、まずは専門家へ。
「よくわからないから先延ばし」こそが、最大のリスクです。

9. 【体験談】「もっと早く相談していれば…」ある家族の後悔

ここでは、実際に「親の認知症と不動産の名義変更問題」に直面したご家族のエピソードを紹介します。
制度の限界をあとから知った家族が、どのような困難に直面したのか、リアルな声にこそ、学ぶべきヒントがあります。

ケース:母が軽度認知症と診断された直後、名義変更の相談をしたが…

千葉県在住のAさん(50代・会社員)は、母親と同居しながら家族で暮らしていました。
築30年の実家は母親名義で、Aさんは「そろそろ名義を変更しておいた方がいいのでは」と思い始めていました。

そんな矢先、母親が病院で「軽度認知症」と診断されます。

「まだ日常生活には問題ないから大丈夫だろう」と思っていたAさんは、不動産名義変更について地元の司法書士に相談しましたが──

「この状態では、本人の判断能力があるとは言いきれないので、名義変更は難しいですね」

という回答が返ってきました。

選択肢は「成年後見制度」しかないと言われたが…

そこで紹介されたのが成年後見制度でした。
ただ、制度の説明を受けるうちに、Aさんは大きな不安を抱くようになります。

  • 家庭裁判所に申立てが必要で、完了まで数か月かかる
  • 手続きが複雑で、自分ひとりでは対応できない
  • 後見人に専門職(第三者)が選ばれる可能性がある
  • 後見人の報酬が毎年かかる
  • 財産管理が厳格になり、自由な運用ができなくなる

「母のためにと思って動いたのに、こんなに手続きが大変だとは……」
Aさんは途方に暮れ、結局その後も名義変更には踏み切れないまま、数年が経過してしまいます。

成年後見制度を利用しても、本人が居住する不動産に関しては一定の制限がかけられています。
仮に、Aさんが母親の成年後見人になったとしても、不動産の名義変更が行えるかに関しては場合によります。

相続発生後、兄弟間でもめることに

その後、母親が急病で亡くなり、Aさんと妹の二人で相続手続きを進めることに。

しかし、名義が母のままだったため、実家の家をどうするかで意見が食い違います。

  • Aさん:「自分が長年住んできたのだから、自分が相続したい」
  • 妹さん:「売却して現金を分けるべき」

結果、遺産分割協議がまとまらず、家の処分も登記もできないまま放置される状態に。
感情的なやりとりが増え、家族関係もぎくしゃくしてしまいました。

Aさんの後悔の声

「母がまだ元気だったときに、もっと真剣に話しておけばよかった。
遺言でも信託でも、何か手を打っていれば、こんなに揉めずにすんだのに……」

Aさんは今、同じように親の介護や財産管理に悩む知人には、必ずこう伝えているそうです。

「専門家に早めに相談して、本当にやるべきことを教えてもらってください」

このような体験談は、決して特別なケースではありません。
いつかやるつもりだったが、もうできないに変わるのは一瞬です。

10. よくある質問Q&A

名義変更や認知症対策について調べる中で、多くの方が共通して抱える疑問や誤解があります。
ここでは、相談現場でもよく聞かれる質問をQ&A形式でまとめました。

Q1. 親が「軽度認知症」と診断されました。まだ名義変更は間に合いますか?

A. ケースバイケースですが、判断能力が残っているかどうかがカギになります。
「軽度」であっても、本人が契約内容を理解・判断できないと見なされれば、贈与や名義変更は無効となる可能性があります。

その判断には医師の診断書や専門家の確認が必要になるため、すぐに行政書士などに相談されることをおすすめします。

Q2. 名義変更と相続登記はどう違うのですか?

A.

  • 名義変更(生前):本人の意思に基づいて、贈与や売買などにより名義を変更する手続き
  • 相続登記(死後):相続が発生した後に、法定相続人が名義を移す手続き

名義変更は本人の判断能力があるうちにしかできません。
一方で相続登記は法定相続分に基づくため、家族の意見が食い違うとトラブルになりやすいです。

Q3. 成年後見制度を使えば名義変更もできるんですよね?

A.可能ではありますが、制限が非常に多く、家庭裁判所の許可が必要です。

後見人が本人の利益にならないと判断される名義変更(例:贈与など)は、裁判所に認められないことがほとんどです。

制度はあくまで「保護」が目的なので、自由な資産活用には向いていません。

Q4. 家族信託と遺言、どちらを使えばいいですか?

A.目的によって使い分けるのが基本です。

  • 家族信託:生前から財産を管理・運用したいとき(=認知症対策)
  • 遺言:亡くなった後の相続を明確にしたいとき(=相続トラブル防止)

併用することで相互補完にもなります。
信託契約+遺言の組み合わせは、特に不動産がある場合に非常に有効です。

Q5. 今は親も元気です。それでも今から準備すべきですか?

A.今がベストタイミングです。

判断能力がしっかりしている今のうちに、名義変更や遺言、家族信託など複数の選択肢から最適なものを選べます。

発症後は一気に選択肢が狭まり、リスクも増えます。
「早すぎる」対策はありません。むしろ、「あとでやる」はもう遅いかもしれません。

Q6. 行政書士と他の士業(司法書士・弁護士)との違いは?誰に相談すればいい?

A.

  • 行政書士:相続・遺言・家族信託などの書類作成・相談の入口役として幅広く対応可能
  • 司法書士:不動産登記など登記実務に強み
  • 弁護士:相続トラブルの紛争解決や裁判に対応

最初に状況を整理し、適切な対策を考えたい場合は、行政書士が相談の第一歩として最適です。必要に応じて他士業との連携も可能です。

Q7. 相談に費用はかかりますか?

A.事務所によって異なりますが、初回相談無料やリーズナブルな料金設定のところも多いです。

具体的な費用が気になる場合は、相談前に料金表を確認したり、見積もりを取ることも可能です。

ご自身の状況に近い疑問があった場合は、ぜひそのまま専門家に持ち込んで相談してみてください。
「ちょっと気になる」、「少し心配」、そのタイミングこそが、ベストな一歩のチャンスです。

11. まとめ:今できる「最初の一歩」を踏み出そう

親が高齢になってきたとき、頭をよぎる「もし認知症になったらどうしよう」という不安。
その不安は、決して漠然としたものではありません。

認知症が進行すれば、不動産の名義変更や遺言作成といった家族の将来に関わる大切な手続きが一切できなくなる現実があります。
それにより、思いがけない税負担、相続トラブル、財産の凍結、家族関係の悪化、さまざまな問題が連鎖的に発生します。

選べる「今」が、最も自由なタイミング

名義変更、生前贈与、遺言書の作成、家族信託など、どれも判断能力があるうちにしか選べない対策です。

逆に言えば、今この瞬間なら、選べる選択肢は豊富にあります。

「まだ元気だから大丈夫」と思える今こそが、最も対策しやすいタイミング。
思い立ったが吉日。備えは早ければ早いほど、家族の未来を守る力になります。

専門家に相談することで「迷い」が「行動」に変わる

制度や手続きは複雑で、情報もさまざま。
だからこそ、行政書士などの専門家に相談することで、今の状況に合った具体的な解決策が見えてきます。

  • 「何から始めればいいかわからない」
  • 「うちの場合はどうすれば?」
  • 「費用や手間が不安」

こうした声に、丁寧に寄り添い、最初の一歩をサポートしてくれるのが、専門家です。

今日が「後悔しない未来」へのスタートライン

親のこと、家族のこと、不動産のこと。
「なんとなく気になっているけど、まだ動けていない」
そんな方にこそ、この記事が背中を押すきっかけになれば嬉しいです。

認知症はある日突然やってきます。
その前にできる準備が、家族の未来を左右します。

まずはできることから始めましょう

  • 家族と話してみる
  • 今の名義や登記状況を確認する
  • 地域の行政書士に無料相談してみる
  • 自分たちに必要な制度を知る

たった1つの行動が、将来の大きな安心につながります。

「あのとき動いておいてよかった」
そう思える未来のために、今日、最初の一歩を踏み出してみませんか?