「遺言書に証券口座を書く場合、どこまで詳しく記載すればよいのだろう?」
自筆証書遺言を作成しようとすると、不動産や預貯金だけでなく、株式や投資信託などの有価証券をどのように記載すべきか迷う方は少なくありません。
特に証券口座は、複数の証券会社を利用していたり、NISA口座や特定口座を使い分けていたりするケースも多く、遺言書へどのように整理して記載すべきか悩みやすい財産のひとつです。
また、有価証券は預貯金とは異なり、価格や保有内容が変動する財産でもあります。そのため、「銘柄や株数まで細かく書くべきなのか」「証券口座ごとに整理した方がよいのか」「包括的に記載しても問題ないのか」と迷う場面もあるでしょう。
記載内容が曖昧な場合、相続発生後の手続きで確認に時間がかかるケースがあります。一方で、遺言作成時と相続開始時では、有価証券の内容や評価額が変動していることもあるため、どのような形で記載するかは慎重に考える必要があります。
本記事では、遺言書に証券口座を書く際の基本的な考え方を、実際の記載例やよくあるミスを交えながらわかりやすく解説します。ネット証券やNISA口座を記載する際の注意点についても紹介するので、これから遺言書を作成する方はぜひ参考にしてください。
証券口座だけでなく、不動産や預貯金を含めた遺言書全体の作成方法は、「自筆証書遺言の書き方」で詳しく解説しています。
自筆証書遺言の書き方
目次
①遺言書の証券口座はどう書く?【まず結論】

遺言書に証券口座を記載する場合は、相続時に対象口座を特定できるよう、できるだけ具体的に整理して書くことが重要です。
預貯金と同様に、証券口座にも決まった記載形式が法律で定められているわけではありません。しかし、内容が曖昧だと、相続発生後に証券会社側で確認に時間がかかったり、相続人側で口座調査が必要になったりするケースがあります。
預貯金の記載方法については、「遺言書の預貯金の書き方」で詳しく解説しています。
そのため、一般的には、
- 証券会社名
- 支店名
- 口座番号
など、対象口座を特定できる情報を整理しながら記載します。
また、有価証券は預貯金とは異なり、売買や価格変動によって内容が変わる財産です。遺言作成後に株式を売却したり、新たな投資信託を購入したりすることも珍しくありません。
そのため、実務上は、銘柄や株数を細かく固定して書くよりも、
「○○証券株式会社○○支店の証券口座内の有価証券一切を長男○○に相続させる」
のように、証券口座単位で整理して記載されるケースもあります。
一方で、複数の証券会社を利用している場合は、どの証券会社の口座を対象にしているのか分かるよう、口座ごとに整理しておくことが望ましいでしょう。
また、近年は、SBI証券や楽天証券などのネット証券を利用している方も増えています。ネット証券では、通常の銀行のような支店名称とは異なる表記が使われている場合もあるため、取引残高報告書などを確認しながら記載内容を整理しておくと安心です。
さらに、NISA口座と特定口座では、相続時の取扱いが異なる場合があります。そのため、遺言書を作成する際は、どのような口座を保有しているのか事前に確認しながら整理しておくことも大切です。
なお、銀行口座などの預貯金を遺言書へ記載する方法については、「遺言書の預貯金の書き方」で詳しく解説しています。
②遺言書の証券口座の記載例
証券口座の記載方法に決まった書式はありませんが、相続時に対象口座を特定できるよう、できるだけ具体的に記載することが重要です。
もっとも、有価証券は売買や価格変動によって内容が変わる財産でもあるため、実務上は、銘柄や株数を細かく固定するのではなく、「証券口座単位」で整理して記載されるケースも少なくありません。
ここでは、実務上よく用いられる証券口座の記載例を紹介します。
基本的な記載例
証券口座を記載する場合は、対象口座を特定できるよう整理して記載します。
記載例
○○証券株式会社 △△支店 口座番号123456の証券口座内の有価証券一切を長男○○に相続させる。
比較的シンプルな形ですが、対象となる証券口座を特定しやすい記載方法です。
取引残高報告書や口座情報画面などを確認しながら転記すると、記載ミスを防ぎやすくなります。
複数の証券口座がある場合の記載例
複数の証券会社を利用している場合は、証券会社ごとに整理して記載すると分かりやすくなります。
記載例
① ○○証券株式会社 △△支店 口座番号123456の証券口座内の有価証券一切を妻○○に相続させる。
② □□証券株式会社 ○○支店 口座番号987654の証券口座内の有価証券一切を長男○○に相続させる。
証券会社ごとに取得者を整理しておくことで、相続発生後の確認もしやすくなります。
また、口座数が多い場合は、番号を付けながら整理すると、遺言書全体が見やすくなるでしょう。
「すべての証券口座」と包括的に書く場合の記載例

証券口座が多い場合などは、「有価証券一切」と包括的に記載するケースもあります。
記載例
私名義のすべての証券口座内の有価証券一切を長男○○に相続させる。
包括的に記載することで、遺言作成後に保有銘柄や評価額が変動した場合にも対応しやすいという特徴があります。
一方で、「すべての証券口座内の有価証券一切」のように包括的に記載した場合、相続発生後に相続人側で口座調査が必要になるケースもあります。
そのため、実務上は、
「○○証券株式会社 △△支店の証券口座内の有価証券一切」
のように、対象となる証券口座を明示したうえで記載する方が、相続時に口座確認を進めやすく、特定漏れも防ぎやすい場合があります。
ネット証券の記載例
SBI証券や楽天証券などのネット証券も、通常の証券会社と同様に相続対象となる財産です。
そのため、他の証券口座と同じように整理して記載しておくことが望ましいでしょう。
記載例
SBI証券 ○○支店 口座番号123456の証券口座内の有価証券一切を妻○○に相続させる。
ネット証券では、通常の銀行のような支店名称とは異なる名称が使われている場合があります。
そのため、取引残高報告書やマイページの登録情報などを確認しながら、実際の表記に合わせて記載することが大切です。
NISA口座・特定口座がある場合
NISA口座や特定口座で保有している有価証券についても、相続対象となる財産であることに変わりはありません。
一般的に、NISA口座は相続開始によって非課税口座としては終了し、相続手続きの中で払い出しが行われます。
一方、特定口座については、相続人側で名義変更後に継続保有されるケースもあります。
そのため、遺言書を作成する際は、どの証券会社で、どのような口座を利用しているのか事前に整理しておくことが望ましいでしょう。
記載例
○○証券株式会社 △△支店 NISA口座内の有価証券一切を妻○○に相続させる。
○○証券株式会社 △△支店 特定口座内の有価証券一切を長男○○に相続させる。
NISA口座と特定口座を分けて整理しておくことで、相続発生後の確認もしやすくなります。
もっとも、実務上は、同一証券会社内の有価証券をまとめて記載するケースもあります。
③遺言書の証券口座でよくあるミス
証券口座の記載は、一見すると簡単そうに見えますが、実際には細かな記載漏れや情報不足によって、相続手続きで確認に時間がかかるケースもあります。
特に有価証券は、預貯金とは異なり、複数の証券会社を利用していたり、NISA口座・特定口座など口座区分が分かれていたりすることも多いため、遺言書作成時に整理しておくことが重要です。
ここでは、遺言書でよく見られる証券口座の記載ミスを紹介します。
証券会社名だけで内容が曖昧になっている
証券口座を記載する際、「○○証券の株式を長男へ相続させる」のような書き方では、対象口座を特定しにくい場合があります。
特に、同じ証券会社で複数口座を利用している場合や、NISA口座と特定口座を併用している場合、支店が異なる場合などは、どの口座を対象としているのか分かりにくくなることがあります。
そのため、証券会社名だけでなく、支店名や口座番号なども整理して記載しておくことが望ましいでしょう。
古い証券会社名・口座情報のまま記載している

証券会社は、合併や商号変更によって名称が変わっていることがあります。
また、過去には証券会社の統合や事業再編によって、現在は別会社へ引き継がれているケースもあります。
そのため、昔の証券会社名のまま遺言書へ記載すると、相続発生後に対象口座の確認へ時間がかかるケースもあります。
たとえば、次のように現在の社名へ変更されている証券会社もあります。
| 旧社名 | 現在の証券会社名 |
|---|---|
| auカブコム証券 | 三菱UFJ eスマート証券 |
| イー・トレード証券 | SBI証券 |
| One Tap BUY | PayPay証券 |
| 日興コーディアル証券 | SMBC日興証券 |
| 新光証券 | みずほ証券 |
遺言書を作成する際は、現在利用している証券会社名・支店名・口座情報を最新の取引報告書やマイページなどで確認し、現在の正式名称で整理しておくことが望ましいでしょう。

④遺言書の証券口座に関するFAQ
Q:遺言書に口座番号は必須ですか?
法律上の必須事項ではありません。
もっとも、対象口座を特定しやすくするため、実務上は口座番号まで記載しておくことが望ましいでしょう。
Q:株数や銘柄まで書く必要はありますか?
必ずしも、銘柄や株数まで細かく記載する必要はありません。
有価証券は内容が変動する財産でもあるため、実務上は、
「○○証券株式会社 △△支店の証券口座内の有価証券一切」
のように、証券口座単位で整理して記載されるケースもあります。
Q:NISA口座と特定口座は分けて書いた方がいいですか?
NISA口座と特定口座では、相続時の取扱いが異なります。
そのため、どの証券会社で、どの口座区分を利用しているのか整理したうえで記載しておくと、確認もしやすくなります。
Q:投資信託やETFも対象になりますか?
投資信託やETFなども、有価証券として相続対象となる財産です。
そのため、
「証券口座内の有価証券一切」
のように記載している場合は、一般的にはこれらも含まれることが多いでしょう。
Q:口座を移管した場合、遺言書は無効になりますか?
証券会社の変更や口座移管があった場合でも、直ちに遺言全体が無効になるわけではありません。
もっとも、現在の口座情報と大きく異なっている場合は、遺言書の内容も見直しておくことが望ましいでしょう。
Q:古い証券会社名のままでも大丈夫ですか?
旧社名のままでも、対象口座を特定できる場合には直ちに問題になるとは限りません。
ただし、証券会社の合併や商号変更が行われているケースもあるため、現在の正式名称を確認したうえで記載しておくことが望ましいでしょう。
⑤まとめ|証券口座は「特定できる書き方」が重要
遺言書に証券口座を記載する場合は、相続時に対象口座を特定できるよう、証券会社名・支店名・口座番号などを整理して記載することが重要です。
もっとも、有価証券は売買や価格変動によって内容が変わる財産でもあるため、実務上は、
「○○証券株式会社 △△支店の証券口座内の有価証券一切」
のように、証券口座単位で包括的に整理されるケースも少なくありません。
また、NISA口座と特定口座では相続時の取扱いが異なるため、どの証券会社で、どの口座区分を利用しているのか事前に整理しておくことも大切です。
さらに、証券会社は合併や商号変更が行われていることもあるため、古い証券会社名のまま記載せず、現在の正式名称を確認したうえで整理しておくことが望ましいでしょう。
遺言書は、「書けば終わり」ではなく、相続時に内容を確認できることも重要です。
証券口座について不安がある場合は、最新の口座情報を確認しながら、必要に応じて専門家へ相談することも検討してみてください。
自筆証書遺言の基本的な仕組みを確認したい方は、「自筆証書遺言とは」も参考にしてください。
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