初心者でも安心!遺言と相続の基礎知識と遺留分トラブル完全ガイド【事例・対策付き】

相続は「いつかはやらなければならないこと」ですが、実際にその時が来ると家族や親族の間で想像以上のトラブルが発生します。

特に、遺留分という法律で保障された「最低限の取り分」を巡っては、感情的な対立が激しくなりやすく、「遺言さえあれば安心」と思っていた人が思わぬ争いに巻き込まれるケースも少なくありません。

この記事では、初心者でも理解できるように遺言と遺留分の基礎知識から、よくあるトラブル事例、予防策や最新法改正のポイントまでを、順を追ってわかりやすく解説します。

「相続はまだ先の話」と思っている方も、「すでに相続トラブルが起きそう」という方も、これを読むことで安心して次の一歩を踏み出せるようになります。

目次

1. はじめに

相続をめぐる争いは、決して富裕層や大企業だけの話ではありません。

法務省の統計によると、遺産分割の調停・審判の約3分の2は、遺産総額が5,000万円以下の家庭で発生しています。
つまり、一般家庭でも「相続トラブル」はごく身近な出来事なのです。

特に問題となりやすいのが、遺言と遺留分の関係です。

多くの人が「遺言書があれば、全財産を好きなように分けられる」と考えがちですが、実際には法律で守られた遺留分を侵害することはできません。

この誤解が、相続人同士の対立や裁判へと発展する原因になっています。

本記事の目的は、

  • 遺言と遺留分の仕組みを正しく理解する
  • 実際のトラブル事例から学び、予防策を知る
  • 相続準備を安心して始められる知識を持つ
    ことです。

これから順に、相続・遺言・遺留分の基礎から実務上の注意点まで解説していきます。

2. 相続と遺言の基礎知識

2-1. 相続とは何か

相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産や権利義務を、法律で定められた相続人が引き継ぐことです。

財産には、預貯金や不動産、株式などのプラスの資産だけでなく、借金や保証債務といったマイナスの資産も含まれます。

つまり、相続は「財産をもらうこと」だけではなく、「負債を引き継ぐ可能性」もある手続きなのです。

2-2. 相続人の範囲と順位

民法では、相続人の順位が明確に定められています。

  1. 第1順位:子(養子を含む)と配偶者
  2. 第2順位:父母など直系尊属と配偶者
  3. 第3順位:兄弟姉妹と配偶者

配偶者は常に相続人となり、他の親族と一緒に財産を分けます。

もし子や親、兄弟がいない場合は、より遠い親族や国庫に帰属することもあります。

2-3. 遺言の役割と種類

遺言は、被相続人の意思を法的に残すための唯一の方法です。

遺言があれば、遺産の分け方や特定財産の譲渡先、相続人の廃除など、通常の法定相続よりも自由な配分が可能になります。

代表的な遺言の種類は以下の3つです。

  • 自筆証書遺言:自分で全文を手書きする遺言。費用はかかりませんが、不備があると無効になる可能性があります。
  • 公正証書遺言:公証人が作成し、公証役場で保管する遺言。形式不備の心配がなく、もっとも安全。
  • 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま公証役場で手続きを行う方法。利用は少なめです。

2-4. 「遺言で全額自由にできる」という誤解

多くの人が「遺言さえあれば、財産をすべて好きな人に遺せる」と思っていますが、これは誤解です。

遺言によっても侵害できない遺留分という制度があり、これに反する内容は相続人から請求を受ける可能性があります。
つまり、遺言の作成時には必ず遺留分を考慮しないと、トラブルの火種を残すことになるのです。

3. 遺留分とは?

3-1. 遺留分の定義

遺留分(いりゅうぶん)とは、法定相続人に法律で保障された「最低限の相続分」のことです。

被相続人が遺言で「財産をすべてAさんに相続させる」と記しても、一定の相続人は遺留分として取り分を請求できます。

これは、配偶者や子などの生活を守るために設けられた制度です。

3-2. なぜ遺留分制度があるのか(法の趣旨)

もし遺留分がなければ、極端な例として「全財産を友人に遺す」という遺言が有効になってしまいます。

すると、配偶者や子が生活の基盤を失い、困窮する恐れがあります。
遺留分制度は、こうした不公平や生活破綻を防ぐためのセーフティーネットとして機能しています。

3-3. 遺留分がある人とない人

遺留分が認められるのは、以下の相続人だけです。

  • 配偶者
  • 子(養子含む)
  • 直系尊属(父母や祖父母)

兄弟姉妹には遺留分はありません。

3-4. 遺留分の割合

遺留分は、法定相続分の 1/2(直系尊属のみが相続人の場合は 1/3)と定められています。

例えば、配偶者と子1人が相続人の場合:

  • 法定相続分 → 配偶者1/2、子1/2
  • 遺留分 → 配偶者1/4、子1/4

3-5. 遺留分の計算方法(基本)

遺留分を計算する際は、相続開始時点の財産額だけでなく、生前贈与された財産や債務も考慮します。
計算式は以下のようになります。

(相続開始時の財産額 + 特別受益(生前贈与等) − 債務) × 遺留分割合

3-6. 遺留分侵害額請求の流れ

遺留分を侵害された相続人は、「遺留分侵害額請求」という手続きを取れます。

2019年の民法改正以前は「減殺請求」と呼ばれていましたが、改正後は金銭請求が原則になりました。

一般的な流れは次の通りです。

  1. 他の相続人または受遺者に内容証明郵便で請求
  2. 協議または調停で解決を目指す
  3. 合意できなければ訴訟

請求期限は、相続が開始し遺留分侵害を知った日から 1年以内(かつ相続開始から10年以内)です。

4. 遺留分と遺言の関係

4-1. 遺言で決めても遺留分は侵害できない

遺言は被相続人の意思を尊重するための制度ですが、法律上、遺留分は必ず守られます。
たとえば「全財産を長男に相続させる」と遺言に書いてあっても、配偶者や他の子には遺留分を請求する権利があります。
このため、遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、その部分は事実上修正されることになります。

4-2. 遺留分を考慮した遺言の作り方

トラブルを防ぐには、遺留分をあらかじめ計算に入れた遺言作成が不可欠です。

ポイントは以下の通りです。

  1. 相続財産の総額を正確に把握する(不動産評価や預貯金額)
  2. 遺留分の割合を計算する(配偶者や子の人数によって異なる)
  3. 遺留分を侵害しないよう、配分を調整する
  4. 財産が不動産中心の場合は、金銭や保険を活用して調整する

これにより、遺留分侵害による請求リスクを減らすことができます。

4-3. 遺留分を放棄してもらう方法

場合によっては、事前に相続人から遺留分を放棄してもらう方法もあります。
ただし、口約束や私的な合意では無効であり、家庭裁判所の許可が必要です。

遺留分放棄が使われる場面の例:

  • 家業を継ぐ長男に事業資産を集中させたい
  • 不動産しかないため分割が難しい
  • 相続人が経済的に自立しており、遺産を必要としていない

申立てには理由書や同意書などが必要で、審査の結果、正当な理由が認められなければ許可されません。

4-4. 事例:遺留分を巡る調停の一例

Aさんは生前、長男に会社を継がせるため、全財産(会社株式と事業用不動産)を長男に相続させる遺言を残しました。
しかし相続開始後、次男が「自分の遺留分が侵害されている」として請求。
長男は事業の継続に必要な資産を手放せず、結果として数年間の調停と訴訟に発展しました。
このように、遺留分を無視した遺言は、事業承継や家族関係に深刻なダメージを与える可能性があります。

5. よくあるトラブル事例

事例1:特定の相続人に全財産を遺すと書いた遺言

状況

母親が「介護をしてくれた長女に感謝を込めて、全財産を長女に相続させる」と遺言書に記載。
相続開始後、長男が「自分の遺留分が侵害されている」として請求。

問題点

  • 遺留分を無視して配分を決めたため、法的な請求権が発生
  • 長男との関係が決裂し、家族間の交流が途絶える

防止策

  • 遺留分を計算に入れた配分に修正する
  • 長男に生前説明をして理解を得る
  • 金銭や保険で遺留分相当額を確保する

事例2:生前贈与と遺留分の関係

状況


父親が生前に、長男へ多額の現金と土地を贈与。
相続開始後、次男が「生前贈与分も含めて遺留分を計算すべきだ」と主張。

問題点

  • 生前贈与は「特別受益」として相続財産に持ち戻される場合がある
  • 長男は贈与分の評価額に応じて遺留分請求を受ける可能性がある

防止策

  • 贈与時に「持ち戻し免除の意思表示」を明確にする
  • 遺言書に生前贈与の取り扱いを記載しておく

事例3:不動産しかない場合の遺留分トラブル

状況

遺産の大半が自宅不動産のみ。
遺言で配偶者に自宅を相続させたが、子が遺留分を請求。

問題点

  • 現金がないため遺留分の支払いが困難
  • 不動産を売却または担保に入れる必要が生じ、配偶者の生活基盤が不安定に

防止策

  • 生前に生命保険や預貯金で現金を確保
  • 遺言と併せて「遺留分請求に備えた資金計画」を立てる

事例4:事業承継と遺留分請求

状況

父が経営する会社を長男が継ぐ予定で、遺言で全株式と事業用資産を長男に相続させた。
相続後、次男と長女が遺留分請求。

問題点

  • 株式や事業資産は分割しにくく、金銭での解決が難しい
  • 遺留分請求が経営資金を圧迫し、事業継続が危うくなる

防止策

  • 事業承継税制や持株会社化などの制度を活用
  • 事前に遺留分放棄を家庭裁判所に申立て
  • 保険金などで遺留分支払い資金を用意

これらの事例は、すべて「遺留分を無視した遺言」が引き金となっています。

遺留分を理解し、事前に対策を取ることで、法的トラブルだけでなく家族関係の破綻も防ぐことが可能です。

6. トラブルを防ぐための準備

6-1. 家族への事前説明の重要性

遺言や相続の内容を家族に全く伝えずに亡くなると、相続開始後に「なぜ自分の取り分が少ないのか」と不信感を持たれるケースが多くあります。
事前に遺言の趣旨や配分の理由を説明しておけば、遺留分請求や感情的対立のリスクを大幅に減らせます。

ポイント

  • 全員が集まれる場で話す(口頭+書面)
  • 配分の根拠や財産の評価額を示す
  • 必要に応じて第三者(弁護士、公証人など)同席で説明

6-2. 遺言作成時のチェックリスト

遺言を作る際は、次のような点を確認しましょう。

  1. 財産の種類と評価額を正確に把握しているか
  2. 相続人全員とその法定相続分を確認しているか
  3. 遺留分を侵害していないか計算したか
  4. 形式要件(署名・押印・日付)を満たしているか
  5. 財産の分け方に現実性があるか(換金可能かなど)
  6. 付言事項で配分の理由や感謝の気持ちを記載したか

6-3. 専門家の活用法

遺言や相続のトラブルを防ぐには、専門家の力を借りるのが確実です。

  • 弁護士
    → 法的に有効で、かつトラブル回避を意識した遺言作成が可能。遺留分の計算や請求対応にも強い。
  • 司法書士
    → 登記や財産管理の手続きに精通。相続登記義務化にも対応できる。
  • 行政書士
    → 遺言書の文案作成や公正証書遺言のサポートに対応。比較的費用が抑えられる。
  • 税理士
    → 相続税対策や財産評価に必須。贈与や不動産の評価減など、節税面からもアドバイス可能。

6-4. 生前対策の具体例

  • 生命保険で現金を確保して遺留分請求に備える
  • 生前贈与を計画的に行い、持ち戻し免除の意思表示を添える
  • 財産の一部を売却して分割しやすくしておく

このように、遺留分を考慮したうえで遺言を作り、家族と共有し、必要なら専門家のサポートを受けることが、相続トラブルを防ぐための最も効果的な準備です。

行政書士は弁護士とは異なり、争いを前提とせずに中立的立場で関わることが多いため、家族全体を見渡したうえでのアドバイスが得意です。

7. 最新動向と法改正情報

7-1. 民法改正による遺留分制度の見直し(2019年)

2019年7月1日の民法改正により、遺留分制度は大きく変わりました。
最大の変更点は、従来の「遺留分減殺請求」が金銭請求(遺留分侵害額請求)に一本化されたことです。

改正前

  • 遺留分減殺請求をすると、不動産や株式などの「物」を直接返還してもらうことが可能だった。

改正後

  • 原則として金銭で請求・解決する仕組みに変更。
  • 不動産の共有化や会社経営の分断を防ぎやすくなった。

この改正により、事業承継や不動産相続の現場では、以前より柔軟に遺留分対策が立てやすくなっています。

7-2. 相続登記の義務化(2024年4月施行予定)

相続によって不動産を取得した場合、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請することが法律で義務づけられます。

これを怠ると、10万円以下の過料(罰金)を科される可能性があります。
この背景には、所有者不明土地問題があります。

長年登記がされないと、土地の管理や利用が困難になり、公共事業や防災対策にも支障が出るため、国は義務化に踏み切りました。

7-3. 遺留分対策との関係

相続登記義務化は遺留分そのものを変えるものではありませんが、遺言で指定された不動産の名義変更を放置すると、遺留分請求や分割協議が複雑化する恐れがあります。

そのため、遺言作成の段階で不動産の評価・名義変更の手順・登記費用の準備を盛り込むことが重要です。

7-4. 専門家の間で注目される新たな動き

  • 遺留分放棄の活用事例が増加傾向
  • AIによる相続財産評価サービスの普及
  • オンラインでの公証役場手続き試行

これらは実務の効率化を進めつつ、将来的には相続準備のハードルを下げる可能性があります。

8. よくある質問(Q&A)

Q1:遺留分は全員の相続人にあるのですか?


A:いいえ。遺留分があるのは、配偶者・子(養子を含む)・直系尊属(父母や祖父母)だけです。兄弟姉妹には遺留分はありません。

Q2:遺留分を放棄してもらうにはどうしたらいいですか?


A:家庭裁判所に申立てを行い、正当な理由があると認められた場合に限り許可されます。口約束や私的な合意では無効です。

Q3:遺留分を侵害された場合の請求期限は?


A:相続開始と遺留分侵害を知った日から1年以内、または相続開始から10年以内です。期限を過ぎると請求できなくなります。

Q4:不動産しか遺産がない場合、遺留分はどう支払うのですか?


A:原則として金銭で支払います。現金がない場合は、不動産を売却したり、ローンや担保を利用して支払うケースがあります。

Q5:生前贈与は遺留分に影響しますか?


A:はい。原則として相続開始前10年以内の贈与は遺留分計算に含まれます(特別受益)。ただし、持ち戻し免除の意思表示があれば除外可能です。

9. まとめ

相続において「遺言」と「遺留分」は切っても切れない関係です。
遺言は被相続人の意思を尊重する強力な手段ですが、遺留分という法律上の権利を無視することはできません。
この事実を知らずに遺言を作成すると、残された家族が遺留分請求をめぐって争う事態に陥りかねません。

本記事では、

  • 相続と遺言の基本的な仕組み
  • 遺留分の定義・割合・計算方法
  • よくあるトラブル事例とその予防策
  • 最新の法改正や登記義務化の動き

を解説しました。

重要なのは、「知っているかどうか」で結果が大きく変わるということです。
生前から遺留分を考慮した遺言を作成し、家族に説明し、必要に応じて専門家のサポートを受ければ、ほとんどのトラブルは未然に防げます。

相続はいつか必ずやってきます。
今日から、財産の棚卸しや遺留分の計算、専門家への相談など、できることから一歩踏み出してみましょう。
その行動が、将来の家族の安心と信頼を守ることにつながります。