司法書士は遺言書作成にどこまで関われる?業務範囲と法的制約を解説

遺言書は大切な財産や家族への想いを正しく伝えるための重要な法的文書です。しかし、「司法書士に遺言書の作成を依頼できるのか?」という疑問を持つ方も多いでしょう。実は、司法書士が業として遺言書作成を直接代行することは法的に制限されています。

この記事では、司法書士の業務範囲と遺言書作成における法的な制約、実際に依頼できる業務内容について詳しく解説します。

司法書士は遺言書作成を業として関われない?その法的根拠とは

司法書士法における業務範囲の制限

司法書士は、不動産登記や商業登記、裁判所への提出書類の作成など、特定の法的業務を行うことができる専門家です。司法書士法第3条では、司法書士が取り扱うことのできる業務が明確に定義されています。

第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
三 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第六章第二節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第八号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
五 前各号の事務について相談に応ずること。

※六項以下は、裁判における代理に関してですので割愛します。


司法書士法 第三条

しかし、ここで重要なのは、「遺言書の文案作成」や「遺言内容の作成代行」は、司法書士の独占業務として規定されていないという点です。司法書士がこれらを業務として行うと、法的な問題が生じる可能性があります。

司法書士が対応できる業務は、主に以下に内容となります。
・登記、または供託に関する手続き
・法務局(地方法務局)へ提出する書類の作成、審査請求の手続き
・裁判所若しくは検察庁に提出する書類の作成
・上記に関して相談に応ずること

司法書士ができることとできないことの具体例

対応内容司法書士が対応可能か?備考
遺言書作成の法律相談後続処理に登記などがある、
法務局への書類提出が前提
文案の形式チェック法務局保管前提に限って可能?
遺言書の作成×業として取り扱えるのは弁護士、
または行政書士
公正証書遺言の立会い証人としての立ち合いは可能だが、
司法書士以外も証人になれる
遺言執行者としての業務遺言執行者に指定された場合は対応可能だが、
司法書士以外も遺言執行者になれる

弁護士・行政書士との違い|遺言書作成サポートの境界線

司法書士と弁護士・行政書士は、遺言書作成における業務範囲が異なるため、適切な専門家を選ぶことが重要です。

弁護士・行政書士は遺言書の作成代理が可能

弁護士は、法律事務を全面的に取り扱うことができるため、遺言書の作成を依頼者に代わって代理で行うことが可能です。また、相続人間でトラブルが生じた際も法的代理人として交渉や訴訟対応ができます。

司法書士と弁護士・行政書士の連携が重要なケース

不動産を含む、複雑な遺産分割が必要なケースは、司法書士と弁護士が連携することで、より効果的なサポートが可能です。

費用や相談内容で異なる選択肢

司法書士に相談すべきケース

  • 相続登記など、後続処理で司法書士の独占業務が存在する場合

弁護士に相談すべきケース

  • 遺言書作成の代理を依頼したい場合
  • 相続争いが予想され、法的交渉や訴訟対応が必要な場合

行政書士に相談すべきケース

  • 遺言書作成の代理を依頼したい場合

遺言書作成に関するよくある質問

司法書士に依頼しても遺言書は無効になる?

いいえ。司法書士が遺言書作成に関する法的助言や形式確認を行うこと自体は合法であり、無効になることはありませんが、後続処理に司法書士の独占業務があることが前提となります。

司法書士が遺言内容を「代理作成」する場合は法的問題が生じる可能性があるため、注意が必要です。

遺言書の文案作成を頼みたい場合はどうすれば?

遺言書の文案作成を依頼したい場合は、弁護士か行政書士に相談するのが適切です。

遺産分割の内容が複雑な場合や、相続人間での争いが懸念される場合には、弁護士の専門知識が役立ちます。複雑な事情がないなど、争いの発生が予見できない場合は行政書士に依頼するとよいでしょう。

司法書士と弁護士、行政書士の誰に相談すべき?

後続処理に登記等がある場合 → 司法書士

遺言書の作成代行や法的代理人としてのサポートが必要な場合 → 弁護士

遺言書の作成代行が必要な場合 → 行政書士

状況に応じて適切な専門家を選ぶことが、安心して遺言書を作成するポイントです。

まとめ|司法書士の適切なサポート範囲を理解して遺言書作成を進めよう

司法書士は、遺言書作成において、後続処理に登記等がある前提で、法律相談や形式チェック、手続きサポートといった重要な役割を果たします。しかし、遺言内容の作成代行や法的代理人としての交渉は法的に制限されています。

遺言書作成で迷った際は、司法書士と弁護士、行政書士の違いを理解し、適切な専門家に相談することがトラブル防止への第一歩です。遺言書の作成を考えている方は、ぜひ早めに専門家へ相談してみましょう。