下請建設業者の工事契約書・注文書・請書の確認ポイント

建設会社の経営者が事務所で工事請負契約書や注文書などの書類を確認している様子

元請会社から工事契約書や注文書・請書を受け取ったとき、内容を十分に確認していますか。

請負代金や工期は確認していても、施工範囲や追加工事の取り扱い、支払条件などについては、細かく確認しないまま契約していることもあるのではないでしょうか。

契約条件を変更することが難しい場合でも、どのような内容に合意しているのかを把握しておくことは大切です。 工事中に問題が発生したとき、契約内容を理解しているかどうかで、その後の対応も変わってきます。

この記事では、契約の基本から、下請建設業者が工事契約書・注文書・請書で確認しておきたいポイントと、実務上の対応について解説します。

① そもそも契約とは何か

契約とは、当事者同士が約束の内容について合意することで成立するものです。

民法第522条では、一方が契約を申し込み、相手方が承諾することで契約が成立すると定めています。法律に特別な定めがある場合を除き、契約書の作成は必要なく、口頭での合意でも契約は成立します。

例えば、元請業者が下請業者に「この工事を100万円でお願いしたい」と申し込み、下請業者が「その条件で引き受けます」と承諾すれば、原則として契約は成立します。

建設工事で一般的に用いられるのが、民法第632条に定められた請負契約です。

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法 第632条

請負契約とは、請負人が仕事を完成させることを約束し、注文者がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です。

例えば、下請業者が配管工事を完成させ、元請業者がその対価として工事代金を支払う約束をする場合が、請負契約に当たります。

工事の範囲や請負代金、工期などの契約条件は、原則として当事者同士の合意によって決まります。ただし、建設業法など、法律で定められたルールにも従う必要があります。

一度成立した契約は、原則として一方の都合だけで自由に変更できるものではありません。

例えば、元請業者が契約後に工事の範囲を広げたい場合、原則として下請業者との合意が必要になります。同様に、下請業者も一方的に請負代金を増額できるわけではありません。

② なぜ契約内容を書面にするのか

書面化することの意味

契約内容を書面にすることには、当事者双方が契約条件を慎重に確認し、合意内容を明確にするという意味があります。

契約書を作成する際には、工事の範囲や代金、工期、双方の義務などを具体的に定めます。この過程で、契約条件を一つひとつ確認し、十分に理解したうえで合意することができます。

また、書面に残された内容は、契約後に双方の認識を確認するための基準にもなります。

例えば、工事中に元請業者から追加作業を依頼された場合、当初の契約書面を確認することで、その作業が元の請負範囲に含まれているのか、追加工事として扱うべきなのかを判断する手がかりになります。

建設業法が求める契約の書面化

建設業法第19条では、建設工事の請負契約について、契約内容を明確にするため、一定の事項を書面に記載して取り交わすことを義務付けています。

これは、元請業者と下請業者が契約条件を確認し、適正な契約を締結するためのルールです。

書面には、工事内容、請負代金、工期、代金の支払時期や方法、工事内容を変更する場合の取り扱いなど、法律で定められた事項を記載する必要があります。

例えば、工事の途中で施工範囲や請負代金を変更する場合には、変更内容についても書面を取り交わすことが求められます。

契約書面を作成する方法には、1通の工事請負契約書を取り交わす方法のほか、注文書と請書を取り交わし、基本契約書や契約約款と組み合わせる方法もあります。

契約書面は紙でなければならないのか

建設工事の請負契約は、一定の要件を満たせば、紙の契約書に代えて電子契約を利用することもできます。

建設業法第19条第3項では、相手方の承諾を得て、法令で定められた要件を満たす場合に、電磁的方法によって契約内容を取り交わすことを認めています。

例えば、電子契約サービスを利用して、元請業者と下請業者が契約内容を確認し、電子的に契約を締結する方法があります。

この場合も、契約内容を確認できることや、記録の保存・改変防止など、法令上の要件を満たす必要があります。

重要なのは、紙か電子かという形式ではなく、法令に従って契約内容を明確にし、双方が確認できる状態にすることです。

③ 工事請負契約で使われる主な契約書面

建設工事の請負契約では、見積書を提出し、工事内容や請負代金などの条件を調整したうえで、契約書面を取り交わす方法が一般的です。

契約書面の取り交わし方には、主に次の3つのパターンがあります。

元請業者の担当者と下請業者の経営者が、工事請負契約書や図面を確認しながら契約内容について話し合っている様子
工事請負契約では、元請・下請双方が契約書面の内容を確認し、工事条件について認識を共有することが大切です。

注文書・注文請書による契約

元請業者が注文書を発行し、下請業者が注文請書を提出する方法です。

例えば、下請業者が配管工事の見積書を提出し、元請業者がその内容に基づいて注文書を発行します。下請業者は注文内容を確認し、注文請書を提出します。

注文書には工事内容、請負代金、工期などが記載され、裏面に契約約款が印刷されている場合もあります。注文請書を提出すると、裏面約款にも合意したと扱われる場合があるため、表面だけでなく裏面や添付書類も確認しましょう。

また、見積書と注文書のやり取りだけで契約が成立する場合もあります。注文請書の提出の有無にかかわらず、建設業法で求められる契約内容を書面等で明確にすることが必要です。

工事請負契約書による契約

工事内容や請負代金、工期などについて合意し、元請業者と下請業者が工事請負契約書を取り交わす方法です。

例えば、下請業者が見積書を提出し、元請業者と工事条件を調整したうえで、双方が契約書に署名または記名押印します。

契約書には、工事の基本条件のほか、代金の支払方法、工事内容の変更、検査、損害賠償、契約解除などの取り扱いを定めます。

また、仕様書や図面、見積書、契約約款などを契約内容に含める場合もあります。契約書の本文とあわせて、これらの書類も確認することが大切です。

基本契約書と個別注文書・注文請書による契約

継続的な取引では、共通の契約条件を基本契約書で定め、工事ごとに注文書・注文請書を取り交わす方法があります。

基本契約書には支払方法、検査、損害賠償、契約解除などの共通条件を定め、個別契約では工事内容、請負代金、工期などを定めます。

例えば、同じ元請業者から年間5件の工事を受注する場合、基本契約書は1通、注文書・注文請書は工事ごとに5組取り交わすことがあります。

1つの基本契約書と5組の個別注文書・注文請書が線でつながり、共通の契約条件が複数の工事に適用される仕組みを示した図
基本契約書で共通の取引条件を定め、個々の工事について注文書・注文請書を取り交わす契約方式のイメージです。

この場合、基本契約の共通条件と個別契約の条件を組み合わせて、それぞれの工事の契約内容が決まります。

基本契約書と個別注文書に異なる条件が記載されている場合は、どちらの条件が適用されるのか確認が必要です。判断が難しい場合は、契約前に行政書士へ相談することも検討しましょう。

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基本契約書と個別注文書の内容が異なる場合など、契約条件の判断に迷うこともあるでしょう。

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④ 特に注意したい契約条件と実務上の対応

工事契約書や注文書・注文請書を確認するときは、請負代金や工期だけでなく、工事の範囲や追加工事の取り扱い、支払条件なども確認することが大切です。

これらの条件は、工事中に変更が生じたときや、元請業者との認識が食い違ったときの判断材料になります。

建設会社の経営者が特定行政書士に工事請負契約書や注文書について相談し、書面の確認ポイントの説明を受けている様子
工事契約について認識の相違が生じた場合は、契約書や注文書などを確認し、合意内容や確認すべき事項を整理することが大切です。

主な確認項目と、実務上の対応例を整理すると、次のとおりです。

確認項目主な確認ポイント実務上の対応例
請負範囲施工する範囲や、請負代金に含まれる作業が明確か見積書・図面・仕様書を照合し、含まれる作業と含まれない作業を確認する
追加・変更工事追加工事の指示方法や、代金・工期の変更手続きが定められているか着工前に施工範囲と金額を協議し、合意内容を記録する。金額が未確定なら概算見積りを示し、確定方法も確認する
請負代金・支払条件請負代金が工事に必要な原価を踏まえた金額になっているか。支払時期や支払方法は明確か労務費・材料費・外注費などを積算し、見積金額と契約金額を比較する。必要に応じて積算根拠を示して協議する
工期・工期変更着工日・完成日、工期を変更する場合の手続きが明確か他工事の遅れなどで影響が生じた場合は、状況を記録し、早めに工期変更を協議する
検査・引渡し検査の方法や時期、引渡しの条件が明確か検査の実施状況や指摘事項、是正内容を記録しておく
損害賠償・契約解除損害賠償が発生する条件や、契約を解除できる条件が明確か自社が負う義務や責任の範囲を確認し、不明確な点は契約前に質問する

追加工事では、金額が決まる前の対応にも注意する

例えば、元請業者から現場で追加工事を依頼されたものの、請負代金が決まっていない場合があります。

このときは、追加する工事の範囲を記録し、概算見積りを示したうえで、できる限り着工前に金額や算定方法について合意することが大切です。

ただし、見積書を一方的に提出しただけで、その金額での支払いが確約されるわけではありません。元請業者との合意内容を明確にしておく必要があります。

不当に低い請負代金になっていないか

請負代金は、工事の施工に必要な原価を踏まえて確認することが大切です。

建設業法第19条の3では、注文者が取引上の地位を不当に利用し、工事の施工に通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を締結することを禁止しています。

(不当に低い請負代金の禁止)
第十九条の三 注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。
2 建設業者は、自らが保有する低廉な資材を建設工事に用いることができることその他の国土交通省令で定める正当な理由がある場合を除き、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

建設業法 第19条の3

例えば、元請業者から提示された金額が、労務費や材料費、外注費などを積算した金額を大きく下回る場合です。

ただし、原価を下回る契約が、すべて直ちに建設業法違反になるわけではありません。 注文者による取引上の地位の不当な利用なども判断要素になります。

下請業者としては、見積りの積算根拠を残し、提示された金額との差を確認したうえで、必要に応じて元請業者と協議することが重要です。

見解の相違やトラブルが生じたら、契約書面を確認する

工事中に元請業者との認識が食い違ったときは、まず契約書面で合意した内容を確認することが大切です。

契約書や注文書・注文請書には、施工範囲、請負代金、工期、工事内容の変更手続きなどが定められています。これらは、双方の認識を整理するための判断材料になります。

例えば、元請業者から「その作業も当初の請負範囲に含まれている」と言われた場合です。契約書だけでなく、見積書、仕様書、図面なども確認し、どこまでの作業について合意していたのかを整理します。

また、工事中に変更があった場合は、変更注文書や指示書、メールなどの記録も合わせて確認します。

ただし、契約書面を確認すれば、必ず結論が出るとは限りません。 記載内容が曖昧な場合や、双方の解釈が異なる場合もあります。

契約書面の記載内容や確認すべき事項の整理に迷ったときは、行政書士に相談することも一つの方法です。なお、相手方との法的紛争に関する交渉や代理などが必要な場合は、弁護士への相談が必要になります。

建設会社の経営者が特定行政書士に工事請負契約書や注文書について相談し、書面の確認ポイントの説明を受けている様子
工事契約について認識の相違が生じた場合は、契約書や注文書などを確認し、合意内容や確認すべき事項を整理することが大切です。

⑤ よくあるご質問

Q:注文書と注文請書だけでも契約できますか?

はい。注文書と注文請書を取り交わす方法でも、工事請負契約を締結できます。

ただし、建設業法で定められた契約事項が適切に記載されている必要があります。注文書の裏面約款や添付書類も含めて確認しましょう。

Q:毎回同じ元請業者から仕事を受ける場合も、契約書面は必要ですか?

はい。継続的な取引であっても、工事ごとの契約内容を書面等で明確にする必要があります。

基本契約書で共通条件を定めている場合も、個別の工事については、施工範囲や請負代金、工期などを注文書・注文請書などで明確にします。

Q:注文書に記載されていない条件も、契約内容になりますか?

はい。基本契約書や契約約款、仕様書などが契約内容に含まれる場合があります。

例えば、注文書には請負代金と工期しか記載されていなくても、基本契約書に支払方法や検査の条件が定められていることがあります。

そのため、注文書だけでなく、関連する書類も確認することが大切です。

Q:契約書面は、毎回行政書士に確認してもらう必要がありますか?

いいえ。すべての契約書面について、行政書士の確認が必要というわけではありません。

ただし、初めて取引する元請業者の契約書や、基本契約書の更新、これまでと異なる条件が提示された場合などは、確認を依頼することも一つの方法です。

Q. AIの契約書チェックツールだけで十分ですか?

AIの契約書チェックツールは便利ですが、指摘されたリスクへの対応まで考えることが大切です。

AIツールは、契約条項を一定の基準に照らしてチェックし、注意すべき点や修正案を示してくれます。

しかし、下請建設業者の場合、元請業者との取引関係から、契約条件の変更を求めることが難しい場合もあります。

例えば、損害賠償に関する条項について修正を推奨されても、実際には元請業者が変更に応じないこともあるでしょう。

行政書士に相談することで、契約条項の確認に加え、取引の実情を踏まえて、どのようなリスクを把握し、何を確認しておくべきかを整理できます。

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まとめ|契約内容を把握し、工事中の問題に備える

工事契約書や注文書・注文請書は、元請業者と下請業者が合意した条件を確認するための大切な書類です。

契約前には、請負代金や工期だけでなく、施工範囲、追加・変更工事の取り扱い、支払条件、損害賠償なども確認しておきましょう。

元請業者との取引関係によっては、契約条件の変更を求めることが難しい場合もあります。それでも、自社がどのような義務やリスクを負うのかを理解しておくことには意味があります。

工事中に見解の相違が生じたときも、契約書面と工事中の記録を確認することで、合意内容や確認すべき事項を整理しやすくなります。

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