代償分割で現金がないときはどうする?分割払い・期限調整などの解決策を解説

代償分割の代償金を用意できずATMの前で困っている相続人のイメージ

相続財産の大部分が実家などの不動産で、「自分が家を相続したいけれど、兄弟に支払う代償金を用意できない」と悩むことがあります。

代償分割では、不動産などを取得する相続人が、他の相続人へ代償金を支払います。そのため、手元に十分な現金がないと、「代償分割はできないのでは?」と不安になる方もいるでしょう。

しかし、現金を一括で用意できないからといって、必ずしも代償分割を諦めなければならないわけではありません。一方で、支払える見込みがないまま無理に進めると、あとから家族間のトラブルにつながる可能性があります。

この記事では、代償分割で現金がない場合に考えられる方法や、無理に代償分割を選ばないための考え方をわかりやすく解説します。

目次

①代償分割で現金がなくても進められる場合はある

相続した家を残したいものの、他の相続人に支払う代償金が足りず悩んでいる相続人を表したイラスト
代償分割では、家を取得する相続人が他の相続人へ代償金を支払います。自宅を残したくても、必要な現金を用意できないことが課題になる場合があります。

代償分割を検討しているものの、兄弟などに支払う代償金を一括で用意できない場合でも、すぐに代償分割を諦める必要はありません。

代償金については、相続人同士で支払方法や条件を話し合うことができます。たとえば、一括払いが難しければ分割払いにしたり、一定期間後に支払うよう期限を調整したりする方法も考えられます。

ただし、代償分割は、不動産を取得する人の都合だけで進められるものではありません。遺産分割協議で代償分割を行う場合は、誰がどの財産を取得するのか、代償金をいくら支払うのか、どのように支払うのかについて、相続人全員で合意する必要があります。

そのため、「現金がないから分割払いにすればよい」と考えるのではなく、支払う側が無理なく支払えることと、代償金を受け取る側が納得できることの両方を考えて条件を決めることが大切です。

代償金は必ず一括払いでなければならないわけではない

代償金を支払う時期や方法について、必ず一括払いにしなければならないと決まっているわけではありません。

たとえば、まとまった現金をすぐに用意することが難しい場合は、相続人同士で話し合い、数回に分けて支払う方法を検討できます。また、一定期間後であれば資金を用意できる見込みがある場合は、支払期限を先に設定することも考えられます。

ただし、支払期間が長くなるほど、その間に収入や生活状況が変化して支払いが難しくなる可能性もあります。

「分割なら何とか払えそう」というだけで決めるのではなく、最後まで無理なく支払える金額や期間になっているかを確認することが大切です。

支払方法や条件には相続人全員の合意が必要

代償金を分割払いにする場合や支払期限を後ろに設定する場合は、不動産を取得する人だけで条件を決めることはできません。

遺産分割協議は、原則として相続人全員の合意によって成立します。法定相続分どおりに分ける必要はありませんが、異なる分け方をする場合も相続人全員が納得していることが前提です。

特に分割払いや後払いでは、代償金を受け取る側からすると、「本当に最後まで支払ってもらえるのか」という不安があります。

そのため、支払う側の資金事情だけでなく、受け取る側の立場も考えながら、支払額や期間、支払方法について話し合うことが重要です。

遺産分割協議の進め方や、相続人全員でどのように合意していくかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
遺産分割協議とは?相続人全員での話し合い・進め方

②代償金を一括で用意できない場合の解決策

代償金を一括で用意できない場合に、分割払い、支払期限の調整、他の相続財産との調整、別の遺産分割方法を検討する様子を示した図解
代償金を一括で用意するのが難しい場合は、分割払い、支払時期の調整、他の相続財産との組み合わせ、別の分割方法などを検討することがあります。

代償金を一括で用意できない場合は、すぐに代償分割を諦めるのではなく、金額や支払方法を含めて現実的な方法を検討します。

大切なのは、「実家を残したい」という希望だけで決めるのではなく、支払う側が無理なく実行でき、代償金を受け取る側も納得できる条件を探すことです。

代償金の金額を話し合って調整する

まず確認したいのが、代償金の金額そのものです。

代償金には一律の金額が決められているわけではありません。法定相続分を基準に計算する方法はありますが、それが唯一の決め方ではなく、不動産の評価額や各相続人の事情などを踏まえて話し合います。相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる金額にすることも可能です。

そのため、「計算すると1,000万円だから、必ず1,000万円を払わなければならない」と考えるのではなく、その金額の前提となっている不動産評価が妥当なのか、他の相続人がどの程度の財産を取得するのかも含めて確認することが大切です。

ただし、現金がないからといって、支払う側の都合だけで代償金を低くすることはできません。不動産を低く評価すれば、代償金を受け取る側が納得できないこともあります。

支払う側が無理なく支払えることと、受け取る側が納得できることの両方を考えながら金額を決める必要があります。

代償分割の仕組みや代償金の計算方法、不動産評価について詳しく知りたい方は、こちらも参考にしてください。
代償分割とは?代償金の決め方・不動産評価・注意点

代償金を調整するときは、法定相続分だけでなく、ほかの相続人の遺留分を下回っていないかについても確認しておきましょう。
遺留分の割合と考え方

代償金を分割払いにする

一括払いが難しい場合は、代償金を数回に分けて支払う方法も考えられます。

たとえば、代償金1,000万円を数年間に分けて支払うといった方法です。相続人全員が合意すれば、分割払いにすることも可能です。

ただし、分割払いにすれば負担がなくなるわけではありません。支払期間が長くなるほど、その間に収入や生活状況が変わり、途中で支払いが難しくなる可能性も高くなります。

そのため、毎月や毎年の支払額だけを見るのではなく、支払期間全体を通して無理なく続けられるかを考えることが大切です。

代償金の支払期限を後ろに設定する

現在はまとまった現金を用意できなくても、一定期間後であれば支払える見込みがある場合は、支払期限を後ろに設定する方法も考えられます。

たとえば、近いうちにまとまった資金が入る予定がある、保有している資産を売却して代償金に充てる予定があるといったケースです。

ただし、期限を先に延ばすほど、代償金を受け取る側は支払いを待つことになります。

「今は払えないので待ってほしい」というだけではなく、いつまでに、どのように資金を用意する予定なのかまで共有し、相手が納得できる条件を話し合うことが重要です。

預貯金など他の相続財産とのバランスを調整する

代償金を考えるときは、実家だけでなく、預貯金など他の相続財産も含めて全体で考えます。

たとえば、実家を取得する人が預貯金をほとんど取得せず、その分を他の相続人が取得するようにすれば、別途支払う代償金を抑えられる場合があります。

代償分割は、実家を取得する人が自分の手元資金だけで他の相続人に現金を支払う方法とは限りません。相続財産全体を見ながら、それぞれの取得額の差をどのように調整するかを考えることが大切です。

借入れによって代償金を用意する

金融機関から資金を借りて、代償金を用意する方法も考えられます。

ただし、実際に借入れができるかどうかは、収入や年齢、担保となる不動産の状況などによって異なります。また、代償金を支払うことができても、その後の返済が生活を圧迫するのであれば、無理に借入れをするべきとはいえません。

実家を残すために生活資金を大きく取り崩したり、無理な借入れをしたりする必要がある場合は、代償分割が本当に適しているのかを改めて考える必要があります。

金額の調整や分割払い、支払期限の変更などを検討しても負担が大きい場合は、代償分割だけにこだわらず、ほかの遺産分割方法も含めて考えたほうがよいでしょう。

③現金がない状態で無理に代償分割を選ぶリスク

相続した家を取得した人が代償金を長期の分割払いで支払い、支払う側と受け取る側の双方が負担や不安を感じている様子を示したイラスト
代償金を分割払いにすると一度の負担は抑えられますが、支払期間が長くなるほど、支払う側の継続的な負担や、受け取る側の未払いへの不安が残ることがあります。

代償分割は、実家などの不動産を残しやすい方法ですが、支払える見込みが十分でないまま進めると、あとから負担やトラブルが大きくなることがあります。

特に、代償金を分割払いや後払いにする場合は、支払う側だけでなく、受け取る側にも不安やリスクが生じます。

代償金を払えず家族間のトラブルになることがある

代償分割では、不動産を取得する人が他の相続人に代償金を支払います。

そのため、遺産分割協議では合意できていても、実際の支払いが予定どおり進まなければ、家族間のトラブルにつながる可能性があります。

たとえば、「半年後に500万円を支払う」と決めたものの、予定していた資金を用意できなかった場合、代償金を受け取る側からすれば、「約束どおり払ってもらえない」という不満が生じます。

特に、不動産の名義変更が先に済んでいる場合は、受け取る側にとって不安が大きくなりやすいです。

そのため、遺産分割の時点では「何とか払えそう」と考えるのではなく、資金の準備方法まで含めて現実的に支払えるかを確認しておくことが大切です。

長期の分割払いは支払う側・受け取る側の双方にリスクがある

分割払いにすると、一度に大きな現金を用意する必要がなくなるため、支払う側の負担は軽くなります。

一方で、長期間にわたる金銭の支払いは、当初は無理なく支払える見込みがあっても、その後の収入や生活状況の変化によって継続が難しくなることがあります。

たとえば、失業や病気、収入の減少などがあれば、当初決めた支払額を維持できなくなる可能性があります。そのため、代償金を分割払いにするときは、現在の収入だけで判断するのではなく、支払期間全体を通して無理なく継続できるかを考えることが大切です。

また、代償金を受け取る側にとっては、長期間にわたって「本当に最後まで払ってもらえるのか」という不安を抱えることになります。

分割払いを検討するときは、「毎月いくらなら払えるか」だけでなく、「その支払いを何年続けるのか」「支払いが遅れた場合の対応」まで、あらかじめ話し合っておくことが重要です。

不動産の評価額によって代償金が大きく変わる

代償金の金額は、不動産をいくらと評価するかによって大きく変わります。

たとえば、実家を3,000万円と評価するのか、2,500万円と評価するのかによって、他の相続人に支払う代償金も変わってきます。

そのため、「代償金が高すぎて払えない」と感じた場合は、支払方法を考える前に、その金額の前提となっている不動産評価が妥当なのかを確認することも大切です。

一方で、支払う側が負担を減らしたいからといって、不動産を低く評価すればよいわけではありません。受け取る側から見れば、不動産の評価額が低すぎることで不公平だと感じることもあります。

代償分割では、単に「いくら払えるか」だけではなく、相続人全員が納得できる評価と金額になっているかを確認する必要があります。

実家を残すことだけを優先すると生活を圧迫することがある

「実家を売りたくない」「親が残した家を守りたい」という気持ちから、無理をして代償分割を選ぶケースもあります。

しかし、代償金の支払いによって生活資金が大きく減ったり、借入れの返済が長期間続いたりすると、相続後の生活に影響が出ることがあります。

実家を残せても、その後の生活が苦しくなってしまえば、結果としてその不動産を維持できなくなる可能性もあります。

代償分割を選ぶときは、相続時点だけでなく、その後の生活費や固定資産税、修繕費なども含めて、本当にその不動産を持ち続けられるかを考えることが大切です。

現金が足りない場合は、「どうすれば代償分割を成立させられるか」だけでなく、「そもそも無理なく続けられる分け方なのか」という視点で判断したほうがよいでしょう。

④代償分割が難しいなら他の遺産分割方法も検討する

相続した実家について、1人が取得して他の相続人に現金を渡す代償分割、売却して代金を分ける換価分割、複数人で所有する共有を比較した図解
相続した実家の分け方には、1人が取得して他の相続人へ代償金を支払う方法、売却して代金を分ける方法、複数人で共有する方法などがあります。

代償金の金額を調整したり、分割払い・支払期限の変更を検討したりしても負担が大きい場合は、代償分割だけにこだわらず、ほかの遺産分割方法も考えたほうがよいでしょう。

相続した不動産の分け方には、代償分割のほかに、売却して現金で分ける方法や、複数の相続人で共有する方法などがあります。どの方法が適しているかは、「実家を残したいか」だけでなく、代償金を支払えるか、今後その不動産を誰が使うのか、管理していけるのかなども含めて考える必要があります。

不動産を売却して現金を分ける「換価分割」

換価分割とは、実家などの不動産を売却し、その売却代金を相続人で分ける方法です。

代償分割のように、一人の相続人が自分の資金から高額な代償金を用意する必要がないため、代償金の支払いが難しい場合には検討しやすい方法です。

また、不動産を現金に換えてから分けるため、それぞれの相続人がどの程度取得するのかを整理しやすいというメリットもあります。

一方で、不動産を売却するため、実家をそのまま残すことはできません。また、売却までには時間がかかったり、仲介手数料などの費用がかかったりする場合があります。

そのため、「実家を残せないから換価分割は避けたい」と最初から除外するのではなく、代償金を無理なく支払えるかと比較して判断することが大切です。

誰も実家を利用する予定がないのであれば、不動産を売却して現金に換え、その売却代金を相続人で分ける換価分割も選択肢になります。換価分割の仕組みや売却価格、費用、進め方については以下の記事で詳しく解説しています。
換価分割の仕組み・売却方法・注意点

複数の相続人で所有する「共有分割」

実家を売却せず、複数の相続人で共有する方法もあります。

共有にすれば、代償金を一括で用意しなくても、その時点では不動産を残すことができます。そのため、「売却はしたくないが、一人で相続するための代償金も用意できない」という場合に候補に上がることがあります。

ただし、共有は将来の管理や処分で注意が必要です。

たとえば、共有している不動産を売却したり、建て替えたりするときには、共有者同士で調整が必要になる場面があります。また、その後にさらに相続が発生すると、共有者が増えて権利関係が複雑になることもあります。

そのため、「今すぐ代償金を払わなくて済むから」という理由だけで共有を選ぶのではなく、将来誰が住むのか、誰が管理するのか、最終的にその不動産をどうするのかまで考えておくことが大切です。

実家を残すことだけを優先して代償分割を選ばない

相続では、「親が残した家だから売りたくない」「自分が実家を守りたい」という気持ちが強くなることがあります。

その気持ち自体は自然ですが、実家を残すことだけを優先して無理な代償分割をすると、その後の生活が苦しくなったり、兄弟への支払いが滞ったりする可能性があります。

代償分割は、不動産を残したい事情があり、そのうえで代償金を現実的に支払える場合に検討しやすい方法です。生活資金を大きく取り崩したり、無理な借入れが必要になったりする場合は、別の方法も含めて考えたほうがよいでしょう。

大切なのは、「代償分割ができるか」だけで判断することではありません。

実家を取得した後も生活を維持できるか、代償金を最後まで支払えるか、他の相続人も納得できるかまで確認したうえで、無理なく実行できる分け方を選ぶことが重要です。

⑤代償金の支払条件は遺産分割協議書に明記する

兄弟が代償金の金額や支払期限、分割払いの条件を話し合い、遺産分割協議書にまとめている相続のイラスト
代償金を分割で支払う場合は、金額だけでなく、支払期限や支払回数などの条件も相続人同士で確認し、合意内容を書面に残しておくことが大切です。

代償金について相続人全員で合意したら、金額や支払方法を口約束だけで済ませず、遺産分割協議書に具体的な内容を記載しておくことが大切です。

特に、代償金を分割払いや後払いにする場合は、支払いが数か月後、数年後まで続くことがあります。時間が経ってから「いつ払う約束だったか」「毎回いくらだったか」と認識が食い違わないよう、話し合って決めた内容をできるだけ明確にしておきましょう。

金額・支払期限・分割回数などを具体的に決める

代償分割を行う場合は、少なくとも次のような内容を決めて、遺産分割協議書に記載します。既存の記事でも、代償金については誰が誰に支払うのか、金額、支払期限、一括払いか分割払いか、支払方法などを具体的にすることが重要としています。

たとえば、次のような項目です。

  • 誰が代償金を支払うのか
  • 誰が代償金を受け取るのか
  • 代償金はいくらか
  • いつまでに支払うのか
  • 分割払いの場合は何回に分けるのか
  • 各回の支払額と支払日
  • 振込みなど、どのような方法で支払うのか

「代償金として1,000万円を分割して支払う」とだけ書くよりも、「毎年○月○日までに○万円を支払う」など、後から見ても支払条件が分かる内容にしておくほうが安心です。

また、分割払いが長期間になる場合は、支払いが遅れたときにどうするのかについても、あらかじめ話し合っておくとよいでしょう。

遺産分割協議書は、相続人全員で合意した財産の分け方を書面にしたものです。 代償金の支払いについても、「あとで相談する」と曖昧に残すのではなく、協議の段階でできるだけ条件を詰めておくことが、後のトラブル防止につながります。

分割払いや後払いでは公正証書の作成も検討する

代償金が高額であったり、数年にわたって分割払いをしたりする場合は、支払いについて公正証書を作成することも検討できます。

金銭の支払いについて一定の要件を満たす公正証書を作成し、支払う側が「支払いをしなかった場合は直ちに強制執行を受けてもよい」という内容の強制執行認諾文言を入れておけば、未払いとなった場合に、改めて裁判で支払いを求めることなく強制執行を申し立てられる場合があります。

代償金を受け取る側からすると、長期間の分割払いや後払いには「最後まで支払ってもらえるのか」という不安があります。その意味では、公正証書を作成しておくことが支払いの確実性を高める方法の一つになります。

ただし、法律上作成できるからといって、すべての代償分割で公正証書にしたほうがよいとは限りません。

相続は家族間の問題でもあります。兄弟などの間で「支払わなければ強制執行できるようにしておきたい」と求めることで、相手が「信用されていない」と感じ、感情的な対立につながることも考えられます。

一方で、高額な代償金を何年もかけて支払うのに、家族だからという理由だけで口約束にしてしまうことも、将来のトラブルにつながる可能性があります。

そのため、公正証書を作成するかどうかは、代償金の金額や支払期間、未払いとなった場合の影響だけでなく、相続人同士の関係性も含めて検討するとよいでしょう。

遺産分割協議書の基本的な書き方や、相続登記・預貯金などの手続きでの使い方については、以下の記事で詳しく解説しています。
遺産分割協議書は法務局に提出する?

⑥代償金を調整するときは税金にも注意

現金を用意することが難しい場合、相続人同士で話し合って代償金の金額を調整することも考えられます。

ただし、代償金は単に「支払える金額まで下げればよい」というものではありません。代償分割は遺産分割の一環として行うため、誰がどの財産を取得し、その差をどのように調整するための代償金なのかが分かるようにしておくことが大切です。

通常、遺産分割の一環として適切に代償金を支払うのであれば、相続人から別の相続人へ現金を渡したという理由だけで、直ちに贈与になるわけではありません。

一方で、相続財産の取得内容との関係が不自然なほど高額な代償金を支払うなど、実質的に相続とは別の財産移転とみられる場合には、贈与税が問題になる可能性があります。

また、代償金を決めるときに使った不動産の評価額と、相続税を計算するときの評価額が同じとは限りません。不動産会社の査定額などをもとに代償金を決めていても、相続税では別の評価方法が使われることがあります。

そのため、代償金の金額を大きく調整する場合や、相続税が発生する可能性がある場合は、相続人同士の話し合いだけで決めず、税務上問題がないか税理士に確認しておくと安心です。

なお、現金の代わりに自分が所有している不動産や株式などを代償として渡す場合には、譲渡所得が問題になることもあるため、特に注意が必要です。

⑦すでに代償金を決めた後に払えなくなった場合はどうする?

遺産分割協議で代償金の金額や支払期限まで決めたあとに、収入の減少や予定していた資金を用意できないなどの事情で、支払いが難しくなることもあります。

ただし、すでに成立した遺産分割協議の内容を、一人の判断で変更することはできません。いったん合意した内容について「やはり払えないので金額を下げたい」「支払期限を延ばしたい」と考えた場合も、相手方との話し合いが必要です。既存の記事でも、一度成立した遺産分割協議を、一人の相続人が気が変わったという理由だけで一方的に変更することはできないとしています。

まずは、なぜ支払いが難しくなったのか、いつであれば支払える見込みがあるのかを整理したうえで、代償金を受け取る相続人に事情を説明します。

そのうえで、

  • 支払期限を延ばす
  • 一括払いから分割払いに変更する
  • 分割回数や各回の支払額を見直す

など、現実的に支払える方法について改めて話し合うことになります。

ただし、相手が変更に応じるとは限りません。代償金を受け取る側からすれば、すでに合意した内容どおりに支払ってほしいと考えるのも当然です。

また、支払いが滞ったことで相続人同士の対立が深まり、金額や支払条件について交渉が必要になっている場合は、当事者同士だけで解決しようとすると、さらに関係が悪化することもあります。

相続人同士ですでに争いになっている場合や、代償金について交渉が必要な場合は、弁護士への相談を検討したほうがよいでしょう。

代償金を決めた後に支払いが難しくなった場合は、放置せず、できるだけ早い段階で相手に事情を伝えることが大切です。

⑧代償分割で現金がない場合は専門家への相談も検討する

相続で悩む人の周囲に、行政書士、不動産の専門家、税理士、司法書士、弁護士をイメージした人物が並び、相談内容によって適した専門家が異なることを示したイラスト
相続では、書類作成、不動産、税金、登記、紛争など、相談内容によって適した専門家が異なります。まずは困っている内容を整理し、必要な専門家につなげていくことが大切です。

代償分割で現金を十分に用意できない場合は、相続人同士の話し合いだけで解決できることもあります。

一方で、代償金の条件、不動産評価、税金、相続登記、相続人同士の対立など、複数の問題が関係することもあります。

相談内容によって適している専門家が異なるため、何に困っているのかを整理したうえで相談先を選ぶことが大切です。

遺産分割協議書を作成したい場合|行政書士

相続人全員で代償金の金額や支払方法について合意できている場合は、その内容を遺産分割協議書にまとめます。

特に、代償金を分割払いや後払いにする場合は、誰が誰にいくら支払うのか、支払期限、分割回数、各回の金額などを具体的にしておくことが重要です。

行政書士には、すでに成立した遺産分割協議の内容をもとに、遺産分割協議書の作成を依頼できます。

ただし、相続人同士ですでに争いがあり、相手方との交渉が必要な場合は行政書士では対応できません。

不動産の価格を確認したい場合|不動産会社・不動産鑑定士

代償金の金額は、不動産をいくらと評価するかによって大きく変わります。

実際に売却した場合の価格を知りたいのであれば、不動産会社の査定が参考になります。

一方で、相続人同士で評価額について意見が大きく分かれている場合や、より客観的で専門的な評価が必要な場合は、不動産鑑定士への相談を検討します。

代償金を決める際は、一つの評価額だけを機械的に採用するのではなく、複数の資料を確認しながら、相続人全員が納得できる基準を探すことが重要です。

相続税や贈与税が気になる場合|税理士

代償金の金額や財産の分け方によっては、相続税や贈与税など税務上の確認が必要になることがあります。

特に、代償金を大きく調整する場合や、現金以外の財産を代償として渡す場合は、税金の扱いを確認しておいたほうが安心です。

税務上の判断や申告については、税理士への相談が適しています。

不動産の相続登記をしたい場合|司法書士

代償分割によって実家などの不動産を取得する人が決まったら、相続登記が必要になります。

相続登記の申請代理は司法書士の業務です。

遺産分割協議書の作成と相続登記は別の手続きなので、不動産を取得する場合は登記まで見据えて進める必要があります。

相続人同士で争いになっている場合|弁護士

代償金の金額や支払方法について意見が対立し、相手方との交渉が必要になっている場合は、弁護士への相談を検討します。

たとえば、「代償金をもっと下げてほしい」「分割払いには応じられない」といった主張がぶつかり、当事者同士では解決が難しくなっているケースです。

遺産分割をめぐる対立が深くなった場合は、弁護士への相談を検討する段階になります。

代償分割では、一人の専門家だけですべて対応できるとは限りません。

協議書なら行政書士、不動産評価なら不動産会社・不動産鑑定士、税金なら税理士、相続登記なら司法書士、争いになっているなら弁護士というように、相談内容に応じて専門家を選ぶと分かりやすいでしょう。

⑨代償分割で現金がない場合によくある質問

Q:現金がなくても代償分割はできますか?

現金を一括で用意できない場合でも、相続人全員が合意すれば、分割払いにしたり、支払期限を後ろに設定したりする方法を検討できます。

ただし、代償分割は「現金がなくてもできるか」だけで判断するものではありません。実際に最後まで支払えるのか、代償金を受け取る側も納得できる条件になっているのかを確認することが大切です。

Q:代償金は分割払いにできますか?

相続人全員が合意すれば、代償金を分割払いにすることは可能です。

その場合は、支払総額だけでなく、分割回数、各回の支払額、支払日、支払方法なども具体的に決めておきます。

また、支払期間が長くなるほど途中で支払いが難しくなるリスクも高くなるため、無理のない期間に設定することが重要です。

Q:代償金の支払期限を数年後にできますか?

相続人全員が合意すれば、支払期限を将来の日付に設定することも考えられます。

ただし、支払期限が長くなるほど、代償金を受け取る側は長期間待つことになります。

そのため、単に「今は払えないので数年後にしたい」と伝えるだけでなく、いつ、どのように資金を用意する予定なのかまで説明し、双方が納得できる条件を決めることが大切です。

Q:代償金を払える金額まで下げることはできますか?

代償金には法律で一律の金額が決められているわけではないため、相続人全員が合意すれば金額を調整することはできます。

ただし、支払う側の都合だけで金額を下げることはできません。

不動産の評価額や他の相続財産、それぞれの取得内容などを確認したうえで、支払う側が無理なく支払え、受け取る側も納得できる金額を話し合う必要があります。

Q:代償金の分割払いは遺産分割協議書に書いたほうがよいですか?

はい。分割払いにする場合は、合意した内容を遺産分割協議書に具体的に記載しておくことが大切です。

誰が誰にいくら支払うのかだけでなく、支払回数、各回の金額、支払期限、支払方法なども明確にしておくと、あとから認識の違いが生じるのを防ぎやすくなります。

Q:代償金の支払いについて公正証書を作ったほうがよいですか?

代償金が高額な場合や、長期間にわたって分割払い・後払いをする場合は、公正証書の作成を検討する方法があります。

一定の要件を満たした強制執行認諾文言付きの公正証書であれば、未払いとなった場合の強制執行に備えることができます。

ただし、家族間で強制執行を前提とした書面を作ることが、感情的な対立につながる場合もあります。

公正証書にするかどうかは、代償金の金額や支払期間、未払いとなった場合の影響、相続人同士の関係性などを踏まえて検討するとよいでしょう。

Q:代償金が払えない場合は実家を売るしかありませんか?

必ずしもすぐに売却しなければならないわけではありません。

代償金の金額を調整する、分割払いにする、支払期限を変更する、預貯金など他の相続財産との取得バランスを調整するなど、いくつかの方法を検討できます。

それでも代償金の負担が大きい場合は、不動産を売却して代金を分ける換価分割など、別の遺産分割方法も比較したほうがよいでしょう。

Q:代償金を決めた後に払えなくなった場合はどうすればよいですか?

すでに合意した代償金の金額や支払期限を、一方的に変更することはできません。

支払いが難しくなった場合は、できるだけ早めに相手へ事情を説明し、支払期限の延長や分割払いへの変更などについて改めて話し合います。

すでに相続人同士で争いになっている場合や、条件変更について交渉が必要な場合は、弁護士への相談を検討したほうがよいでしょう。

まとめ|現金がないときは「代償分割できるか」ではなく「無理なく実行できるか」で考える

代償分割は、実家などの不動産を残したい場合に有効な方法ですが、代償金を一括で用意できないからといって、すぐに諦める必要はありません。

相続人全員で話し合い、代償金の金額を調整したり、分割払いにしたり、支払期限を後ろに設定したりする方法も考えられます。預貯金など他の相続財産とのバランスを調整することで、必要な代償金を抑えられる場合もあります。

一方で、無理な分割払いや借入れを前提に代償分割を進めると、あとから支払いが難しくなり、家族間のトラブルにつながる可能性があります。

大切なのは、「代償分割ができるか」だけで判断することではありません。代償金を最後まで支払えるか、受け取る側も納得できるか、相続後の生活や不動産の維持まで含めて無理がないかを確認することが重要です。

それでも負担が大きい場合は、換価分割など別の遺産分割方法も比較してみましょう。

また、分割払いや後払いなどの条件で合意した場合は、支払額や期限、回数などを遺産分割協議書に明確に記載しておくことが大切です。高額・長期の支払いになる場合は、公正証書の作成も選択肢になりますが、法的な安全性だけでなく、家族関係への影響も含めて検討するとよいでしょう。

代償分割で現金が足りないときは、無理に一つの方法へこだわらず、家族全体にとって現実的に続けられる分け方を考えることが大切です。

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  • 国家資格:行政書士(登録番号:25080391)
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