相続財産の大部分が実家などの不動産で、預貯金がそれほど多くない場合、「家を誰が相続するか」「家を相続しない人にはどう分けるか」で悩むことがあります。
こうしたときに検討される遺産分割の方法の一つが代償分割(特定の相続人が不動産などを取得し、その代わりに他の相続人へ金銭などを渡す分け方)です。代償分割では、家を相続する人が、他の相続人へ代償金(取得する財産の差を調整するために支払うお金)を支払います。
ただし、代償分割では「代償金をいくらにするのか」「不動産をいくらと評価するのか」が重要になります。
この記事では、代償分割の仕組みや具体例、代償金の決め方、不動産評価の考え方についてわかりやすく解説します。
目次
①代償分割とは

代償分割とは、相続人のうち1人または一部の人が不動産などの財産を取得し、その代わりに他の相続人へ代償金を支払う遺産分割の方法です。
たとえば、相続財産が実家3,000万円と預貯金500万円で、実家を妻が相続する場合を考えます。実家をそのまま妻が取得すると、他の相続人との取得額に大きな差が出ます。そこで、妻が長男や次男に代償金を支払い、相続する財産のバランスを調整します。
この方法であれば、実家を売却して現金化しなくても、特定の相続人がそのまま不動産を引き継ぐことができます。
一方で、代償分割を成立させるには、不動産を取得する相続人に代償金を支払うだけの資力が必要です。また、不動産をいくらと評価するかによって代償金の金額も変わるため、単純に「家を1人が相続して、他の人にお金を払えばよい」というだけではありません。
代償分割を行う場合も、遺言などで分け方が決まっていなければ、相続人全員で遺産の分け方について話し合います。誰が参加するのか、どのように合意するのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
遺産分割協議の進め方・相続人全員での話し合い
②代償分割の具体例

夫が亡くなり、相続人が妻・長男・次男の3人、相続財産が実家3,000万円と預貯金500万円だったケースで考えてみましょう。
遺産総額は3,500万円です。法定相続分(法律で定められた相続割合の基準)を基準にすると、妻は2分の1にあたる1,750万円、長男と次男はそれぞれ4分の1にあたる875万円が目安になります。
ここで、妻が3,000万円の実家を相続し、預貯金500万円を長男と次男が250万円ずつ受け取るとします。このままでは、長男と次男はそれぞれ625万円ずつ法定相続分より少なくなります。
そこで、妻が長男と次男にそれぞれ625万円の代償金を支払えば、妻は実家3,000万円を取得する一方で、代償金として合計1,250万円を支払うため、実質的な取得額は1,750万円になります。長男と次男も、預貯金250万円と代償金625万円を合わせて、それぞれ875万円を取得できます。
このように、代償分割では、不動産そのものを細かく分けたり売却したりせず、代償金を使って相続人ごとの取得額を調整できます。
ただし、法定相続分どおりに分けることが必須というわけではありません。実際の分け方や代償金の金額は、相続人全員で話し合って決めることができます。
③代償分割のメリット
実家などの不動産を売却せずに残せる
代償分割の大きなメリットは、実家などの不動産を売却せずに、そのまま特定の相続人が引き継げることです。
たとえば、夫が亡くなったあとも妻が実家に住み続けたい場合、不動産を売却して現金化すると住む場所を失ってしまいます。代償分割であれば、妻が実家を相続し、長男や次男には代償金を支払うことで、実家を残したまま遺産分割を進めることができます。
「誰も住まない不動産」ではなく、今後も家族が生活の拠点として使う予定がある場合には、検討しやすい方法です。
不動産を取得しない相続人が、現物分割より多くの現金を受け取れることがある
相続財産の大部分を不動産が占めていると、現金だけでは相続人それぞれの取得額を調整しにくいことがあります。
たとえば、不動産3,000万円、預貯金500万円という相続財産であれば、不動産を取得しない相続人に預貯金だけを分けても、取得額には大きな差が生じます。
そこで、不動産を取得した相続人が自己資金から代償金を支払えば、不動産を取得しない相続人も、預貯金だけを分ける場合より多くの現金を受け取ることができます。
ただし、これは不動産を取得する相続人に十分な支払能力があることが前提です。代償分割は不動産を残しやすい一方で、その負担が特定の相続人に集中する点もあわせて考える必要があります。
実家などの不動産を売却せずに残せる
代償分割の大きなメリットは、実家などの不動産を売却せずに、そのまま特定の相続人が引き継げることです。
たとえば、夫が亡くなったあとも妻が実家に住み続けたい場合、不動産を売却して現金化すると住む場所を失ってしまいます。代償分割であれば、妻が実家を相続し、長男や次男には代償金を支払うことで、実家を残したまま遺産分割を進めることができます。
なお、配偶者が自宅に住み続ける方法は、代償分割だけではありません。配偶者居住権(配偶者が自宅の所有権を取得しなくても、一定の要件のもとで住み続けられる権利)を利用する方法もあります。
実際に、当事務所の別記事では、妻に配偶者居住権を取得させ、子どもに自宅の所有権を取得させる方法を紹介しています。妻が自宅に住み続けたいものの、他の相続人とのバランスにも配慮したい場合の選択肢として参考になります。
配偶者居住権を使って妻が自宅に住み続ける方法
④不動産を取得しない相続人が、現物分割より多くの現金を受け取れることがある
相続財産の大部分を実家などの不動産が占めていると、預貯金だけでは相続人それぞれの取得額を調整しにくいことがあります。
たとえば、実家3,000万円、預貯金500万円という相続財産で、妻が実家を相続する場合、長男と次男が受け取れる現金は、預貯金だけでは限られます。
そこで、妻が自己資金から代償金を支払えば、長男や次男は、預貯金に加えて代償金も受け取ることができます。
つまり、代償分割は「不動産を相続する人」と「現金を受け取る人」に分けやすい方法です。特に、不動産を必要としない相続人にとっては、家や土地を共有で持つよりも、現金で受け取れるほうが使いやすいこともあります。
ただし、その分、不動産を取得する相続人の負担は大きくなります。代償分割を選ぶときは、受け取る側の公平感だけでなく、支払う側が無理なく代償金を用意できるかも確認する必要があります。
⑤代償分割のデメリット・注意点
代償分割では、不動産を相続した相続人に大きな現金負担が生じることがあります。
相続財産に十分な預貯金があれば、その中から他の相続人へ代償金を支払うこともできます。しかし、一般家庭では実家などの不動産が相続財産の大部分を占め、現預金はそれほど多くないケースもあります。
その場合、不動産を相続した人は、自分の預貯金などから代償金を用意しなければなりません。代償金が数百万円、数千万円になると、その後の生活資金まで圧迫する可能性があります。
また、代償金は計算上出せても、実際に支払えるとは限りません。代償分割を選ぶときは、不動産を残せるかどうかだけでなく、支払う側が無理なく資金を用意できるかまで確認することが重要です。
さらに、不動産をいくらと評価するかによって代償金の額も変わります。評価方法によって金額に差が出るため、ここも代償分割を検討するうえで注意が必要です。
⑥代償金とは?金額はどう決める?
代償金は、不動産などを多く取得する相続人が、他の相続人との取得額の差を調整するために支払うお金です。
代償分割では、「家を相続する人が、他の相続人にいくら払えばよいのか」が重要になります。ただし、代償金には一律の金額が決められているわけではありません。
まずは法定相続分を基準に計算し、そのうえで不動産の評価額や各相続人の事情を踏まえ、全員が合意できる金額を決めていくのが基本です。
法定相続分を基準に代償金を計算する
先ほどの例で考えてみましょう。
夫が亡くなり、相続人が妻・長男・次男の3人、相続財産が実家3,000万円と預貯金500万円だった場合、遺産総額は3,500万円です。
法定相続分を基準にすると、取得額の目安は次のようになります。
| 相続人 | 法定相続分 | 取得額の目安 |
|---|---|---|
| 妻 | 1/2 | 1,750万円 |
| 長男 | 1/4 | 875万円 |
| 次男 | 1/4 | 875万円 |
妻が3,000万円の実家を相続し、預貯金500万円を長男と次男が250万円ずつ受け取るとします。
この場合、長男と次男はそれぞれ250万円しか取得していないため、法定相続分を基準とした875万円との差額は625万円です。
そこで妻が長男と次男にそれぞれ625万円を支払えば、妻の実質的な取得額は1,750万円、長男と次男もそれぞれ875万円となり、法定相続分を基準としたバランスに調整できます。
このように、まず遺産全体の金額と各相続人の法定相続分を確認すると、代償金の目安を計算しやすくなります。
代償金は必ず法定相続分どおりにする必要はない
代償金は、必ず法定相続分と同じ結果になるように決めなければならないわけではありません。
法定相続分は、遺産の分け方を考えるうえで重要な基準ですが、相続人全員が合意すれば、それとは異なる割合で遺産を分けることもできます。
たとえば、妻が今後も実家に住み続けることや、長男・次男がすでに生前に援助を受けていることなど、家族ごとの事情を踏まえて代償金を決めることも考えられます。
そのため、法定相続分は「必ず守る金額」というよりも、代償金について話し合う際の出発点として考えるとわかりやすいでしょう。
なお、遺言書がある場合は、相続人だけで自由に分け方を決められるとは限りません。遺言と異なる内容で遺産分割をしたい場合の考え方については、以下の記事で解説しています。
遺言と遺産分割協議はどちらが優先?
代償金を決めるには不動産をいくらと評価するかが重要
代償金の計算で難しいのが、不動産をいくらと評価するかです。
先ほどの例では実家を3,000万円として計算しましたが、この3,000万円という前提が変われば、必要な代償金も変わります。
たとえば、実家を2,500万円と評価する場合と3,500万円と評価する場合では、長男や次男に支払う代償金に大きな差が出ます。
そのため、「法定相続分が何分の一か」だけでは代償金は決まりません。まず、代償分割の対象となる不動産をいくらと評価するのかを相続人の間で確認する必要があります。
相続税評価額、不動産会社の査定額、実際に売却できそうな価格など、不動産には複数の価格があります。この違いについては、後ほど詳しく説明します。
代償金の金額は相続人全員で合意する
代償金には、「この計算方法を使わなければならない」という唯一の正解があるわけではありません。
不動産を取得する人にとっては、代償金が高くなれば自己資金の負担が増えます。一方、不動産を取得しない人にとっては、評価額が低ければ受け取れる代償金も少なくなります。
そのため、一方だけが納得する金額ではなく、不動産の評価方法や代償金の計算根拠を共有したうえで、相続人全員が合意できる金額を決めることが大切です。
金額について意見がまとまらない場合は、不動産会社による査定など第三者の資料を参考にすることも検討しましょう。
代償金の金額・支払期限は遺産分割協議書に明記する
代償金について合意したら、口頭だけで済ませず、遺産分割協議書(相続人全員で合意した財産の分け方を書面にしたもの)に内容を明記しておくことをおすすめします。
少なくとも、
- 誰が代償金を支払うのか
- 誰に支払うのか
- いくら支払うのか
- いつまでに支払うのか
- 一括払いか分割払いか
- どのような方法で支払うのか
といった内容を具体的にしておきます。
口頭だけで決めていると、後になって「その金額では合意していない」「支払期限は聞いていない」など、言った・言わないのトラブルになる可能性があります。
特に代償金が高額になる場合や分割払いにする場合は、あとから話をひっくり返されたり、支払いをめぐって争いになったりしないよう、合意内容を書面で明確にしておくことが重要です。
遺産分割協議書は、代償金の約束を残すだけでなく、その後の相続登記や預貯金などの相続手続きで使用することがあります。遺産分割協議書の使い方や法務局への提出については、以下の記事で詳しく解説しています。
遺産分割協議書は何に使う?法務局への提出や相続手続きを解説
⑦代償分割では不動産の評価方法が重要

代償分割では、不動産をいくらと評価するかによって、代償金の金額が大きく変わります。
ただし、不動産には一つの価格しかないわけではありません。相続税を計算するときの価格、固定資産税のための価格、売却を想定した査定額など、それぞれ目的が異なります。
主な価格の違いは、次のとおりです。
| 価格・評価 | 主な目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| 相続税評価額(相続税を計算するための財産の評価額) | 相続税の計算 | 土地は主に路線価方式(道路ごとに定められた価格をもとに土地を評価する方法)や倍率方式(固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて土地を評価する方法)で評価される |
固定資産税評価額(固定資産税などを計算する基準となる評価額) | 固定資産税などの課税 | 市区町村が評価する |
| 公示価格(国が公表する土地価格の目安)・ 基準地価(都道府県が公表する土地価格の目安) | 土地取引の目安 | 国や都道府県が公表する |
| 不動産会社の査定額 | 売却価格の見込み | 周辺相場、成約事例、立地、需要などをもとに算出する |
| 実際の売却価格 | 実際の市場取引 | 買主との契約が成立して初めて確定する |
この中で重要なのは、どれか一つだけが「本当の価格」ではないという点です。
たとえば、相続税評価額は相続税を計算するための評価です。一方、不動産会社の査定額は、「現在の市場でどの程度なら売れそうか」という見込みを示すものです。
そのため、相続税評価額と不動産会社の査定額が一致しないことは珍しくありません。
また、不動産会社の査定額も、その価格で必ず売れることを意味するわけではありません。
たとえば、仲介を行う不動産会社が「3,000万円程度で売却できそうです」と査定したとしても、その会社自身が3,000万円で買い取ることを約束しているわけではありません。実際には市場に出し、買主が現れ、売買契約が成立して初めて売却価格が決まります。
駅から遠い、周辺の需要が少ない、接道条件が悪い、土地の形が使いにくいといった事情があれば、査定時に想定した価格より低い金額でなければ買い手が付かないこともあります。
逆に、需要が高い地域では、相続税評価額より高い価格で売却できることもあります。
つまり、不動産には唯一絶対の「正解価格」があるわけではありません。大切なのは、その価格が何のために算出されたものなのかを理解することです。
代償金を決める場面では、「相続税評価額だからこの金額」「不動産会社の査定額だからこの金額」と機械的に決めるのではなく、複数の資料を確認しながら、相続人全員が納得できる基準を探す必要があります。
⑧評価額が付いていても、その価格で売れるとは限らない

不動産には評価額が付いていても、実際にその金額で売却できるとは限りません。
この点を考えるうえで参考になるのが、相続土地国庫帰属制度(相続した土地を一定の要件のもとで国に引き渡せる制度)によって国が引き取った土地の売却をめぐる動きです。
2026年6月の共同通信、日本経済新聞の報道によると、国が引き取った宅地などを一般競争入札で売却してきたものの、これまで売却実績はゼロでした。そこで財務省は、需要が乏しい土地について価格を段階的に引き下げる仕組みを検討しています。
具体的には、まず当初の評価額から3割程度引き下げ、それでも買い手が現れなければ3か月ごとに1割ずつ減額し、最終的には当初評価額の7%、つまり最大93%まで引き下げられる内容です。
ただし、ここで注意したいのは、「相続税評価額から93%値下がりする」という意味ではないことです。
この仕組みは、国が相続土地国庫帰属制度で引き取った後、買い手が付かない土地を処分するための売却方法です。相続税評価額と売却価格を直接比較した数字ではありません。
それでも、この事例からは重要なことがわかります。
「評価額があること」と「その価格で実際に買い手が付くこと」は別の問題だということです。
特に、駅から遠い土地や地方の土地、利用方法が限られる土地では、評価額が付いていても、その金額で売却できるとは限りません。反対に、需要の高い地域では、税務上の評価額より高い価格で取引されることもあります。
代償分割でも同じです。不動産の評価額だけを見て代償金を決めるのではなく、実際にその不動産がどの程度の価格で売れそうなのか、どのくらい需要があるのかまで確認しておくことが大切です。
⑨代償金を決めるときは「何のための評価額か」を確認する
代償金を決めるときは、単に「評価額はいくらか」を見るのではなく、その評価額が何のために算出されたものなのかを確認することが大切です。
相続税評価額は相続税を計算するための金額であり、不動産会社の査定額は市場で売却できそうな価格の目安です。それぞれ目的が違うため、同じ不動産でも金額が一致するとは限りません。
そのため、代償金を決める際に「相続税評価額が3,000万円だから、必ず3,000万円を基準にしなければならない」と考える必要はありません。一方で、不動産会社の査定額だけを唯一の正解として扱うことにも注意が必要です。
大切なのは、相続人の間で「今回はどの価格を基準に代償金を決めるのか」を確認し、その理由も含めて納得することです。
判断が難しい場合は、税務上の評価については税理士、実際の売却可能価格については不動産会社、より専門的な価格評価が必要な場合は不動産鑑定士(不動産の適正な価格を専門的に評価する国家資格者)など、それぞれの専門家に相談する方法があります。
特に相続財産の大部分を不動産が占める場合は、一つの評価額だけを見て高額な代償金を決めるのではなく、複数の視点から不動産の価値を確認したうえで判断するとよいでしょう。
⑩代償分割が向いているケース
代償分割は、どの相続でも使いやすい方法というわけではありません。特に、不動産を残したい事情があり、そのうえで代償金を現実的に支払える場合に向いています。
たとえば、夫が亡くなったあとも妻が実家に住み続けたい場合です。実家を売却せずに妻が相続し、長男や次男には代償金を支払うことで、住み慣れた家を残しながら財産の取得額を調整できます。
また、相続財産の大部分が不動産で、「不動産は残したいが、他の相続人にもある程度の現金を受け取ってもらいたい」という場合にも検討しやすい方法です。
ただし、代償分割に向いているかどうかを判断するうえでは、不動産を取得する相続人に十分な支払能力があることが重要です。代償金を支払うために生活資金まで大きく取り崩したり、無理な借入れをしたりするのであれば、別の分割方法も含めて考えたほうがよいでしょう。
さらに、不動産の評価方法や代償金の金額について、相続人全員が納得していることも大切です。金額の前提が共有できていれば、代償分割を進めやすくなります。
⑪代償分割を慎重に検討したほうがよいケース
代償分割は便利な方法ですが、条件によっては無理に選ばないほうがよい場合もあります。
まず、代償金を支払う現金が十分にない場合です。不動産を相続する人が高額な代償金を用意できなければ、計算上は成立していても、実際には支払えません。生活資金を大きく取り崩したり、無理な借入れが必要になったりするなら、慎重に判断する必要があります。
また、売却しにくく、市場価値を判断しづらい不動産が相続財産の大部分を占める場合も注意が必要です。駅から遠い土地、需要の少ない地域の不動産、接道や土地形状に問題がある不動産などでは、評価額と実際に売れる価格に差が出ることがあります。
そのような不動産を高く評価して代償金を決めると、不動産を取得した人の負担が大きくなりすぎる可能性があります。反対に、低く評価すれば、代償金を受け取る側が納得できないこともあります。
さらに、相続人の間で代償金の金額について合意できない場合も、代償分割を無理に進めるべきではありません。不動産の評価方法や支払額について意見がまとまらないと、かえって相続人同士の対立が深まるおそれがあります。
このような場合は、代償分割だけにこだわらず、他の遺産分割方法も含めて検討したほうがよいでしょう。
⑫代償分割で現金がない場合はどうする?
不動産を相続したいものの、他の相続人へ支払う代償金を一括で用意できないこともあります。
その場合は、まず分割払いが可能か相続人同士で話し合う方法があります。たとえば、代償金1,000万円を数年間に分けて支払うといった方法です。ただし、支払期間が長くなるほど、途中で支払いが滞るリスクも高くなります。分割払いにする場合は、金額や支払日、回数などを遺産分割協議書に明記しておくことが重要です。
また、金融機関から資金を借りて代償金を用意する方法も考えられます。ただし、借りられるかどうかは収入や年齢、担保となる不動産の状況などによって異なります。代償金を支払えたとしても、その後の返済が生活を圧迫してしまっては本末転倒です。
分割払いや借入れをしても支払いが難しい場合は、代償分割そのものを見直す必要があります。不動産を売却して代金を分ける方法など、ほかの遺産分割方法も含めて検討したほうがよいでしょう。
代償分割は、不動産を相続する人が実際に代償金を支払えることが前提です。「家を残したい」という希望だけで決めず、支払後の生活や返済負担まで考えて判断することが大切です。
代償金を一括で用意できない場合は、分割払い、支払期限の調整、代償金額の見直しなどを検討できる場合があります。現金がない場合の具体的な対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
代償分割で現金がない場合の対処法
⑬代償分割に関係する税金
代償分割をするときは、代償金の支払い方によって税金の扱いが変わることがあります。特に確認しておきたいのが、相続税・贈与税・譲渡所得です。
代償分割と相続税
代償分割をした場合も、相続税の計算では、各相続人が最終的にどの財産を取得したのかをもとに考えます。
不動産を取得した相続人は、その不動産の相続税評価額を基礎にしつつ、支払った代償金を考慮します。一方、代償金を受け取った相続人は、その金額を含めて取得した財産を確認します。
ただし、遺産分割で用いた不動産の評価額と、相続税を計算するときの評価額が同じとは限りません。前述したとおり、代償金を決めるための価格と、相続税評価額は目的が異なるためです。
代償分割と贈与税
贈与税(個人から財産を無償でもらったときに課される税金)についても注意が必要です。
遺産分割の一環として適切に代償金を支払うのであれば、単に「妻から長男へ現金を渡したから贈与」というわけではありません。
一方で、相続財産の取得との関係が不自然なほど高額な代償金を支払うなど、実質的に相続とは別の財産移転とみられる内容になれば、贈与税の問題が生じる可能性があります。
そのため、代償金は「なんとなくこの金額」にするのではなく、どの財産を誰が取得し、その差額をどのように調整したのかが分かるようにしておくことが大切です。
現金以外を代償財産として渡す場合は譲渡所得にも注意する
代償金というと現金を渡すケースが一般的ですが、代わりに自分がもともと所有している不動産や株式などを渡すことも考えられます。
この場合は、譲渡所得(資産を売却・譲渡したことによって生じる所得)が問題になることがあります。
つまり、「相続人同士で財産を渡しただけだから税金は関係ない」とは限りません。現金以外の財産で代償する場合は、特に税務上の確認が必要です。
相続税・贈与税・譲渡所得の扱いは、実際に取得した財産や代償金の決め方、支払方法によって異なります。個別具体的な課税関係や税額については、税理士に確認してください。
⑭代償分割以外の遺産分割方法も比較する

代償分割以外にも、遺産の分け方にはいくつか方法があります。代表的なのは、現物分割(財産をそのまま相続人ごとに分ける方法)、換価分割、共有分割です。
それぞれの違いを整理すると、次のようになります。
| 分割方法 | 仕組み | メリット | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産・預貯金などをそのまま相続人ごとに分ける | 手続きが比較的わかりやすい | 財産ごとの価値に差があると公平に分けにくい |
| 代償分割 | 1人が不動産などを取得し、他の相続人へ代償金を支払う | 不動産を売却せずに残せる | 代償金の支払能力と不動産評価が重要 |
| 換価分割 | 不動産などを売却し、売却代金を分ける | 現金で分けやすい | 売却まで時間や費用がかかる |
| 共有分割 | 複数の相続人が不動産を共有で取得する | すぐに売却や処分をしなくてもよい | 将来の売却・管理・処分で共有者同士の調整が必要 |
相続人の誰も実家を利用する予定がない場合は、無理に誰かが取得するのではなく、不動産を売却して現金で分ける換価分割も検討できます。実家を売却する場合の流れや注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
換価分割とは?実家を売却して相続人で分ける方法
共有分割は将来の売却や管理で注意が必要
共有分割は、その場では不動産を売らずに済む方法ですが、将来の管理や処分で問題が起きやすい点には注意が必要です。
たとえば、共有している不動産を売却したり、建て替えたりする場合は、共有者同士で調整しなければならない場面が出てきます。
また、その後さらに相続が発生すると、共有者の人数が増えて権利関係が複雑になることもあります。
そのため、「今は決められないから、とりあえず共有にしておこう」と安易に選ぶのではなく、将来の管理や売却まで考えて判断することが大切です。
⑮代償分割で専門家に相談したほうがよいケース
代償分割は、相続人同士で話し合って決めることもできますが、不動産の評価や税金、書類作成など、複数の専門分野が関係します。判断に迷う場合は、内容に応じて専門家を使い分けることが大切です。
不動産をいくらと評価すべきかわからない場合
不動産の評価額によって代償金は大きく変わります。
相続税を計算するための評価を確認したい場合は税理士、実際にどの程度の価格で売れそうなのかを確認したい場合は不動産会社への相談が考えられます。より客観的・専門的な価格評価が必要な場合には、不動産鑑定士への依頼も選択肢です。
特に注意したいのは、相続の専門家だけで不動産の市場価値まで判断しようとしないことです。不動産の所在地や需要、接道状況などによって売れやすさは大きく異なるため、必要に応じて不動産の専門家にも確認しましょう。
相続税が発生する可能性がある場合
相続税が発生する可能性がある場合や、代償金を支払ったときの税務上の扱いがわからない場合は、税理士への相談が適しています。
代償金を決めるために使った不動産価格と、相続税を計算するための評価額が異なることもあるため、両者を混同しないことが重要です。
遺産分割協議書をきちんと作成したい場合
相続人全員で代償分割の内容がまとまったら、代償金の金額や支払期限、支払方法などを遺産分割協議書に明記しておくことが重要です。
行政書士(官公署に提出する書類や権利義務・事実証明に関する書類の作成を行う専門家)に、合意した内容をもとに遺産分割協議書の作成を相談することもできます。
ただし、相続人同士ですでに争いになっている場合や、代償金の額について交渉が必要な場合は、弁護士(法律相談や紛争解決を扱う専門家)への相談を検討します。
代償分割では、一人の専門家だけですべてを判断できるとは限りません。税金は税理士、不動産の市場価格は不動産会社、価格の専門的な鑑定は不動産鑑定士、書類作成は行政書士など、必要に応じてそれぞれの専門分野を活用するとよいでしょう。
⑯代償分割についてよくある質問
Q:代償金はいくら払えばよいですか?
代償金に一律の金額はありません。法定相続分を基準に計算する方法がありますが、不動産をいくらと評価するかによって金額は変わります。
相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる金額にすることも可能です。まずは不動産の評価方法を確認し、相続人全員が納得できる金額を決めることが大切です。
Q:代償金は必ず現金で支払う必要がありますか?
必ずしも現金に限られるわけではありません。自分が所有している不動産や株式など、現金以外の財産を渡す方法も考えられます。
ただし、現金以外の財産を渡す場合には譲渡所得など税務上の問題が生じることがあります。個別の課税関係については税理士に確認してください。
Q:代償金を一括で払えない場合は分割払いにできますか?
相続人全員が合意すれば、分割払いにすることも可能です。
ただし、支払期間が長くなるほど未払いのリスクも高くなります。分割払いにする場合は、支払総額、支払回数、各回の金額、支払期限などを遺産分割協議書に明記しておきましょう。
Q:代償金を決めるときは相続税評価額を使えばよいですか?
必ず相続税評価額を使わなければならないわけではありません。
相続税評価額は相続税を計算するための評価額です。不動産会社の査定額や実際に売却できそうな価格とは異なることがあります。
代償金を決めるときは、それぞれの価格が何のためのものなのかを理解したうえで、相続人全員が納得できる基準を決めることが重要です。
Q:不動産会社の査定額で代償金を決めれば公平ですか?
不動産会社の査定額も一つの参考になりますが、その金額が唯一の正解ではありません。
特に仲介会社の査定額は、「その価格で売れる可能性がある」という見込みであり、その会社がその金額で買い取ることを約束するものではありません。
必要に応じて複数の査定を確認するなど、一つの数字だけで判断しないことが大切です。
Q:代償分割と換価分割はどちらがよいですか?
どちらがよいかは、不動産を残したいか、代償金を支払えるかなどによって異なります。
不動産を特定の相続人が残したい場合は代償分割が選択肢になります。一方、誰も不動産を取得する予定がなく、売却して現金で分けたい場合は換価分割を検討しやすくなります。
まとめ|代償分割は「公平に見えるか」だけでなく「実行できるか」で判断する
代償分割は、実家などの不動産を特定の相続人が取得し、他の相続人へ代償金を支払うことで財産の取得額を調整する方法です。
不動産を売却せずに残せるため、配偶者が実家に住み続けたい場合などには有効な選択肢になります。一方で、不動産を取得する相続人には、まとまった代償金を支払う負担が生じます。
また、代償金を決めるときは、不動産をいくらと評価するかも重要です。相続税評価額、不動産会社の査定額、実際の売却価格は、それぞれ目的が異なります。評価額が付いているからといって、その金額で実際に売れるとは限りません。
そのため、代償分割では、法定相続分をもとに金額を計算するだけでなく、不動産の価値をどのように考えるのか、代償金を実際に支払えるのかまで確認することが大切です。
相続人全員で納得できる金額を決めたら、代償金の金額や支払期限、支払方法を遺産分割協議書に明記しておきましょう。
不動産評価や税金、代償金の支払い方法について判断が難しい場合は、行政書士だけでなく、税理士や不動産会社、不動産鑑定士など、必要に応じてそれぞれの専門家へ相談することをおすすめします。


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