遺言執行者は、被相続人(亡くなった方)の意思を実現するために、遺言書の内容に沿って手続きを行う重要な立場です。そのため、相続財産の管理や相続人への通知・報告など、法律上さまざまな義務を負っています。
もっとも、遺言執行者がその義務を果たさなかった場合や、不適切な行為を行った場合には、解任や損害賠償が問題となることがあります。
また、相続人の立場からすると、「遺言執行者が手続きを進めてくれない」「遺産を適切に管理しているのか分からない」といった不安を感じることもあるでしょう。
そこでこの記事では、遺言執行者が負う責任や主な義務、義務違反にあたるケース、解任や損害賠償との関係についてわかりやすく解説します。
目次
①遺言執行者にはどのような責任がある?

遺言執行者は、被相続人(亡くなった方)の意思を実現するために手続きを行う立場です。
そのため、単に遺言書の内容を相続人へ伝えるだけではなく、相続財産の管理や各種手続きを適切に進める責任を負います。
民法では、遺言執行者は「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定められています。
つまり、遺言執行者には権限が与えられている一方で、その権限を適切に行使する義務も課されているのです。
ここでは、遺言執行者が負う主な義務について見ていきましょう。
相続財産を適切に管理する義務
遺言執行者は、遺言内容を実現するまでの間、相続財産を適切に管理しなければなりません。
例えば、預貯金や不動産の状況を確認したり、必要に応じて財産を保全したりすることが求められます。
遺言執行者は自分の財産として自由に扱える立場ではなく、被相続人の意思を実現するために管理を任されている立場です。
そのため、財産を放置したり、不適切な管理によって価値を減少させたりした場合には、責任を問われる可能性があります。
相続人へ通知・報告する義務
遺言執行者に就任した場合は、遅滞なくその旨を相続人(法律上、遺産を相続する権利がある人)へ通知しなければなりません。
また、相続財産の内容をまとめた財産目録(相続財産を一覧にした書類)を作成し、相続人へ交付する義務もあります。
さらに、相続人から求められた場合には、遺言執行の状況について説明し、手続き完了後には結果を報告することが求められます。
遺言執行者は独断で手続きを進める存在ではなく、相続人に対して適切に情報提供を行いながら職務を遂行する必要があります。
遺言内容を誠実に実現する義務
遺言執行者の最も重要な役割は、被相続人が遺言書に残した意思を実現することです。
そのため、遺言内容に従って預貯金の相続手続きや遺贈(遺言によって財産を渡すこと)の実行などを進めなければなりません。
一方で、自らの判断で遺言内容を変更したり、特定の相続人に有利になるよう手続きを進めたりすることは認められていません。
遺言執行者には一定の裁量が認められる場面もありますが、その前提となるのは被相続人の意思を尊重し、誠実に職務を行うことです。
②遺言執行者の義務違反にあたるケース

遺言執行者には、相続財産の管理や遺言内容の実現などの義務が課されています。
もっとも、すべてのミスや手続きの遅れが直ちに義務違反となるわけではありません。
問題となるのは、遺言執行者がその立場を利用して不適切な行為を行った場合や、正当な理由なく職務を怠った場合です。
ここでは、義務違反が問題となりやすい代表的なケースを見ていきましょう。
相続財産を私的に使用した場合
遺言執行者は、相続財産を管理する立場であり、自分の財産として自由に使用できるわけではありません。
例えば、被相続人(亡くなった方)の預貯金を無断で引き出して生活費に充てたり、自らの利益のために相続財産を利用したりした場合は、重大な義務違反となる可能性があります。
遺言執行者は、相続人や受遺者(遺言によって財産を受け取る人)のためではなく、被相続人の意思を実現するために職務を行う立場です。
そのため、自身の利益を優先する行為は許されません。
正当な理由なく職務を放置した場合
遺言執行者に就任したにもかかわらず、長期間にわたって何も対応しない場合も問題となることがあります。
例えば、相続財産の調査を行わないまま放置したり、預貯金の相続手続きを進めなかったりすると、相続人や受遺者に不利益が生じる可能性があります。
もっとも、相続財産の調査に時間を要する場合や、相続人との連絡調整に時間がかかる場合もあるため、単に手続きが長引いているだけで義務違反になるわけではありません。
重要なのは、遺言執行者が必要な職務を誠実に行っているかどうかです。
相続人や受遺者に損害を与えた場合
遺言執行者の不適切な行為によって、相続人や受遺者に損害が発生することがあります。
例えば、財産管理を怠った結果として財産価値が大きく下落した場合や、本来受け取れるはずの財産を受け取れなくなった場合などです。
遺言執行者には一定の裁量が認められていますが、その判断や対応が著しく不適切であれば責任を問われる可能性があります。
このような義務違反があった場合には、解任や損害賠償の問題に発展することもあります。
③遺言執行者を解任できるケース

遺言執行者には、遺言内容を実現するために一定の権限が認められています。
しかし、その権限を不適切に行使したり、職務を怠ったりした場合には、家庭裁判所によって解任されることがあります。
もっとも、相続人が不満を持っているという理由だけで解任が認められるわけではありません。
解任には法律上の理由が必要であり、最終的には家庭裁判所が判断します。
ここでは、遺言執行者の解任について見ていきましょう。
解任が認められるケース
民法では、遺言執行者に「任務を怠ったとき」や「その他正当な事由があるとき」は、家庭裁判所が解任できると定めています。
例えば、
- 相続財産を私的に使用している
- 正当な理由なく長期間職務を放置している
- 相続財産を適切に管理していない
といったケースでは、解任が認められる可能性があります。
一方で、相続人との意見の対立や、遺言内容そのものへの不満だけでは、直ちに解任が認められるとは限りません。
重要なのは、遺言執行者に職務上の問題があるかどうかです。
解任の申立てができる人
遺言執行者の解任は、自動的に行われるものではありません。
解任を求める場合は、家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。
申立てができるのは、相続人や受遺者(遺言によって財産を受け取る人)などの利害関係人です。
遺言執行者の行為に問題があると考えられる場合には、その事実を示す資料などを準備したうえで手続きを進めることになります。
解任は家庭裁判所が判断する
解任の可否を決めるのは、相続人や受遺者ではなく家庭裁判所です。
そのため、「遺言執行者が気に入らない」「対応が遅い気がする」といった主観的な理由だけでは、解任が認められないこともあります。
家庭裁判所は、遺言執行者の行為や職務の状況を踏まえ、本当に解任が必要な状態なのかを判断します。
また、解任が認められたとしても、それだけで損害賠償責任が発生するわけではありません。
解任と損害賠償は別の問題であり、損害賠償については別途検討が必要になります。
解任トラブルを避けるためには、遺言書作成時に適切な人を選ぶことも重要です。
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④遺言執行者が損害賠償責任を負うケース
遺言執行者が義務に違反した場合、家庭裁判所による解任だけでなく、損害賠償責任を負うことがあります。
もっとも、遺言執行者が手続きを行う中で何らかのトラブルが発生したからといって、直ちに損害賠償責任が認められるわけではありません。
損害賠償が問題となるのは、遺言執行者の不適切な行為によって実際に損害が発生した場合です。
ここでは、損害賠償責任が問題となる代表的なケースを見ていきましょう。
相続財産に損害を与えた場合
遺言執行者には、相続財産を適切に管理する義務があります。
そのため、管理を怠った結果として相続財産に損害が生じた場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。
例えば、不動産の管理を長期間放置したことで建物の価値が大きく下落した場合や、財産の管理に必要な対応を行わなかったことで損失が発生した場合などです。
遺言執行者は、自らの財産ではなく相続財産を管理する立場であるため、適切な注意を払って職務を行うことが求められます。
相続人や受遺者に損害を与えた場合
遺言執行者の行為によって、相続人(法律上、遺産を相続する権利がある人)や受遺者(遺言によって財産を受け取る人)が損害を受けることもあります。
例えば、遺言内容を正しく執行しなかったことで本来受け取れるはずの財産を受け取れなくなった場合や、不適切な対応によって余計な費用負担が発生した場合などです。
このような場合には、遺言執行者に法的責任が認められる可能性があります。
もっとも、損害賠償が認められるためには、遺言執行者の行為と損害との間に因果関係があることが必要です。
解任と損害賠償は別問題
遺言執行者の解任と損害賠償は混同されがちですが、法律上は別の問題です。
例えば、職務の遂行に問題があるとして家庭裁判所が解任を認めた場合でも、必ず損害賠償責任まで認められるとは限りません。
反対に、解任されていなくても、遺言執行者の行為によって損害が発生していれば損害賠償請求が問題となることがあります。
そのため、遺言執行者に問題があると考えられる場合には、
- 解任を求めるべきなのか
- 損害賠償を請求できるのか
を分けて検討することが重要です。

⑤よくある質問
Q:遺言執行者は辞任できますか?
遺言執行者は、一度就任した後でも辞任できる場合があります。
ただし、自由に辞任できるわけではありません。
就任後に辞任するためには、病気や高齢などの正当な事由が必要とされ、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
なお、遺言執行者に指定されただけでまだ就任していない場合は、就任を承諾しないことも可能です。
Q:遺言執行者が何もしない場合はどうなりますか?
遺言執行者が正当な理由なく職務を行わない場合には、家庭裁判所に解任を申し立てることができます。
また、その結果として相続人(法律上、遺産を相続する権利がある人)や受遺者(遺言によって財産を受け取る人)に損害が発生した場合には、損害賠償責任が問題となることもあります。
まずは本当に職務を放置しているのか、それとも手続きに時間を要しているだけなのかを確認することが大切です。
Q:遺言執行者を解任するにはどうすればよいですか?
遺言執行者の解任は、相続人や受遺者などの利害関係人が家庭裁判所へ申立てを行うことで求めることができます。
ただし、相続人が不満を持っているという理由だけでは解任は認められません。
任務を怠っている場合や、不正行為がある場合など、法律上の解任事由が必要になります。
Q:遺言執行者は損害賠償責任を負いますか?
遺言執行者が義務に違反し、その結果として損害が発生した場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。
例えば、相続財産を私的に使用した場合や、財産管理を怠ったことで財産価値が下落した場合などです。
もっとも、損害賠償が認められるためには、遺言執行者の行為と損害との間に因果関係があることが必要です。
Q:遺言執行者に報酬はありますか?
遺言執行者の報酬は、遺言書に定めがある場合にはその内容に従います。
また、遺言書に定めがない場合でも、家庭裁判所が報酬を定めることがあります。
家族や親族が遺言執行者となる場合は無報酬で対応することもありますが、行政書士や司法書士、弁護士などの専門家へ依頼する場合は報酬が発生するのが一般的です。
遺言執行者の報酬相場や家族・行政書士の費用について詳しくはこちら
まとめ
遺言執行者は、被相続人(亡くなった方)の意思を実現するために、相続財産の管理や各種相続手続きを行う重要な役割を担います。
そのため、相続財産を適切に管理する義務や、相続人(法律上、遺産を相続する権利がある人)への通知・報告義務などが課されています。
もっとも、遺言執行者が相続財産を私的に使用したり、正当な理由なく職務を放置したりした場合には、義務違反が問題となることがあります。
また、義務違反の内容によっては、家庭裁判所による解任や損害賠償責任につながる可能性もあります。
ただし、解任と損害賠償は別の問題です。解任されたからといって必ず損害賠償責任を負うわけではなく、損害賠償が認められるためには、実際に損害が発生していることなどが必要になります。
遺言執行者が適切に職務を行っているか不安な場合や、解任や損害賠償を検討している場合には、まず現在の状況を整理したうえで対応を検討することが大切です。
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