被相続人が亡くなり、遺言書が見つかった。
遺言書がある場合、その内容に従って預貯金の解約や払戻し、不動産の名義変更、遺贈の実行などの手続きを進めていくことになります。しかし、誰がその手続きを進めるのか分からず、戸惑う方も少なくありません。
本来であれば、遺言書で遺言執行者が指定されていれば、その人が中心となって遺言の内容を実現していきます。しかし、遺言執行者が指定されていなかったり、指定された人が亡くなっていたり、就任を辞退したりすることもあります。
そのような場合、まずは相続人などの利害関係人が対応することになりますが、遺言執行には戸籍収集や財産調査、金融機関とのやり取りなどが必要になることもあります。慣れない手続きに不安を感じる場合には、適切な親族がいない場合や、中立的な立場で手続きを進めたい場合には、行政書士などの専門家を遺言執行者候補者とすることもあります。
家庭裁判所では、遺言によって遺言執行者が指定されていない場合や、指定された遺言執行者が亡くなった場合などに、利害関係人の申立てによって遺言執行者を選任することができるとされています。
この記事では、遺言執行者選任申立てが必要になるケースや手続きの流れ、必要書類や費用、遺言執行者候補者の選び方について解説します。るようになることを目指しています。

目次
①:遺言執行者の選任申立てとは
遺言執行者とは
遺言執行者とは、被相続人(亡くなった方)が残した遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。
遺言書が作成されていても、その内容が自動的に実現されるわけではありません。預貯金の解約や払戻し、不動産の相続登記、遺贈の実行など、実際にはさまざまな手続きが必要になります。
そこで、遺言の内容を実現するための中心的な役割を担うのが遺言執行者です。
民法では、遺言執行者は「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とされています。そのため、遺言執行者は単なる連絡役ではなく、遺言を実現するための重要な立場にあります。
遺言執行者の役割や権限について詳しく知りたい方は、関連記事「遺言執行者とは?役割・権限・義務をわかりやすく解説」をご覧ください。
遺言執行者の選任申立てとは
遺言執行者の選任申立てとは、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を求める手続きです。
家庭裁判所では、遺言によって遺言執行者が指定されていない場合や、指定された遺言執行者が亡くなった場合などに、利害関係人の申立てによって遺言執行者を選任することができます。
例えば、遺言書に「長男に自宅を相続させる」「孫へ現金100万円を遺贈する」といった内容が記載されていても、遺言執行者が不在で手続きを進める人がいなければ、遺言の実現に支障が生じることがあります。
そのような場合に利用されるのが遺言執行者選任申立てです。
申立ての際には、申立人が遺言執行者の候補者を記載して家庭裁判所へ提出します。候補者には特別な資格は必要ありませんが、未成年者や破産者は遺言執行者になることができません。
家庭裁判所は、提出された資料や候補者の適格性などを確認したうえで、遺言執行者を選任します。
選任申立てが必要なケース

遺言執行者選任申立てが必要になるのは、遺言執行者が不在となっている場合です。
代表的なケースとして、次のようなものがあります。
- 遺言書で遺言執行者が指定されていない場合
- 指定された遺言執行者が亡くなっている場合
- 指定された遺言執行者が就任を辞退した場合
- 遺言執行者が解任され、新たな遺言執行者が必要になった場合
裁判所も、遺言によって遺言執行者が指定されていない場合や、遺言執行者が亡くなった場合には、家庭裁判所が選任できるとしています。
なお、遺言執行者が辞退した場合や解任された場合も、実務上は遺言執行者が不在となるため、新たな遺言執行者の選任が必要になることがあります。
選任申立てが不要なケース
一方で、遺言執行者が指定されていないからといって、必ずしも選任申立てが必要になるわけではありません。
まず、遺言書そのものが存在しない場合には、遺言執行者を選任する前提がありません。この場合は、法定相続や遺産分割協議によって相続手続きを進めることになります。
また、遺言書が無効である場合も、遺言を執行することができないため、遺言執行者選任申立てを行うことはできません。
さらに、遺言書で有効に遺言執行者が指定されており、その人が就任している場合には、改めて家庭裁判所へ選任申立てを行う必要はありません。
遺言執行者選任申立てが必要かどうかは、遺言書の内容や遺言執行者の有無によって異なります。まずは遺言書の内容を確認し、現在有効な遺言執行者が存在するかを確認することが大切です。
相続人だけで対応できる場合は選任申立てが不要なこともある
遺言執行者が指定されていない場合でも、必ずしも家庭裁判所で遺言執行者を選任しなければならないわけではありません。
遺言の内容や相続財産の状況によっては、相続人が協力して手続きを進めることで、遺言の内容を実現できる場合があります。
例えば、相続財産が預貯金中心で、相続人の人数も少なく、遺言の内容がシンプルなケースであれば、相続人が協力して手続きを進めることで、遺言執行者を選任しなくても遺言内容を実現できることがあります。
一方で、相続人が多数いる場合や遠方に住んでいる場合、相続人以外の人へ財産を渡す遺贈が含まれている場合などは、手続きの調整や負担が大きくなることがあります。また、相続手続きを主導して進める人がいないケースでは、手続きが滞ってしまうことも少なくありません。
そのため、遺言執行者が指定されていなくても、相続人だけで対応できるのであれば必ずしも選任申立ては必要ありません。しかし、手続きを円滑に進めたい場合や、遺言を実現する担当者を明確にしたい場合には、家庭裁判所で遺言執行者を選任することも検討するとよいでしょう。
②:遺言執行者選任申立てができる人
遺言執行者の選任申立ては、誰でも行えるわけではありません。
家庭裁判所へ申立てができるのは、遺言執行者の選任について法律上の利害関係を有する「利害関係人」に限られます。裁判所では、利害関係人の例として、相続人、遺贈を受けた者(受遺者)、遺言者の債権者などを挙げています。
主な利害関係人は次のとおりです。
| 利害関係人 | 具体例 |
|---|---|
| 相続人 | 配偶者、子、父母、兄弟姉妹など |
| 受遺者 | 遺言により財産を受け取る人 |
| 遺言者の債権者 | 被相続人に対して債権を有する人 |
| その他の利害関係人 | 個別事情により法律上の利害関係を有する人 |
例えば、相続人は遺言の内容によって取得する財産や手続きに直接影響を受けるため、利害関係人として申立てを行うことができます。また、受遺者も遺言が実現されなければ権利を取得できないため、申立てを行うことが可能です。
なお、申立てを行う人と、実際に選任される遺言執行者は別です。
例えば、相続人が申立人となり、行政書士や司法書士、弁護士などの専門家を遺言執行者候補者として申し立てることもできます。反対に、相続人自身を遺言執行者候補者として申し立てることも可能です。
そのため、「誰が申立てをするのか」と「誰を遺言執行者候補者とするのか」は分けて考えることが大切です。
③:遺言執行者選任申立ての流れ

遺言執行者の選任申立ては、遺言者(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。申立てに必要な書類や費用を準備し、家庭裁判所の審理を経て遺言執行者が選任されます。
ここでは、申立てから選任までの一般的な流れを解説します。
遺言執行者選任申立ては、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
例えば、被相続人が亡くなる直前まで東京都新宿区に住んでいた場合は、東京都内の管轄家庭裁判所が申立先となります。
管轄裁判所は裁判所公式サイトで確認できます。
申立書提出先一覧(家庭裁判所)
まずは被相続人の最後の住所地を確認し、どの家庭裁判所が管轄となるのか調べましょう。
申立てを行うためには、裁判所が求める書類を準備する必要があります。
主な必要書類として、
・申立書
・遺言書の写し
・被相続人の死亡が記載された戸籍
・遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
・利害関係を証する資料
などがあります。
なお、必要書類については後ほど詳しく解説します。
必要書類が揃ったら、申立書を作成します。
申立書は裁判所が公開している様式を利用できます。申立書には申立人の情報のほか、遺言執行者として選任を希望する候補者を記載します。
候補者には特別な資格は必要ありませんが、実際に遺言執行業務を担うことになるため、相続手続きを適切に進められる人を選ぶことが重要です。
申立書と必要書類が揃ったら、管轄の家庭裁判所へ提出します。
提出方法は裁判所によって異なりますが、窓口へ持参する方法のほか、郵送で受け付けている場合もあります。
また、申立ての際には収入印紙や郵便切手などの費用も必要になります。費用については後ほど詳しく解説します。
申立て後は、家庭裁判所が提出された資料を確認し、遺言執行者を選任することが適切かどうかを審理します。
審理の過程では、
・追加資料の提出
・書類の補正
・候補者に対する照会
などが行われることがあります。
裁判所も、審理のために必要な場合は追加書類の提出を求めることがあるとしています。
そのため、申立て後も裁判所からの連絡には適切に対応する必要があります。
審理の結果、選任が相当と判断された場合には、家庭裁判所が遺言執行者を選任します。
申立書には候補者を記載しますが、最終的に遺言執行者を選任するのは家庭裁判所です。
もっとも、候補者に欠格事由がなく、遺言執行者として適格と判断されれば、そのまま選任されることが一般的です。
選任後は、遺言執行者が遺言内容の実現に向けた手続きを進めていくことになります。
選任までにかかる期間の目安
遺言執行者選任申立てに要する期間は、事案の内容や家庭裁判所の運用によって異なります。
提出書類に不備がなく、追加資料の提出も少ない場合には比較的スムーズに進みますが、戸籍関係が複雑なケースや候補者に関する確認が必要なケースでは時間を要することもあります。
そのため、「〇週間で必ず選任される」といった明確な期間はありません。
遺言執行者による手続きを早期に開始したい場合は、必要書類を事前に揃え、申立書の内容を十分確認したうえで申し立てることが大切です。
④:遺言執行者選任申立ての必要書類
遺言執行者の選任申立てを行う際は、申立書のほかに、遺言書や戸籍関係書類などを家庭裁判所へ提出する必要があります。
裁判所が公表している標準的な必要書類は以下のとおりです。
裁判所が求める主な必要書類
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 申立書 | 裁判所所定の様式 |
| 遺言書の写しまたは遺言書検認調書謄本の写し | 執行対象となる遺言の内容を確認するため |
| 被相続人の死亡が記載された戸籍(除籍・改製原戸籍) | 遺言者の死亡を確認するため |
| 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票 | 候補者の住所等を確認するため |
| 利害関係を証する資料 | 相続人であれば戸籍謄本など |
※申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件記録が保存されている場合は、一部書類の提出が不要となることがあります。
申立書は裁判所のホームページからダウンロードできます。申立書には申立人の情報だけでなく、遺言執行者として選任を希望する候補者の情報も記載します。
【裁判所】遺言執行者の選任の申立書
また、相続人が申立てを行う場合には、被相続人との関係を証明する戸籍謄本等が必要になります。受遺者や債権者が申し立てる場合も、それぞれ利害関係を証明する資料を提出しなければなりません。
実務上は、申立書の作成よりも戸籍関係書類の収集に時間を要するケースが少なくありません。特に、本籍地が複数の自治体にまたがる場合や、古い除籍謄本が必要になる場合は、余裕をもって準備を進めることが大切です。
追加資料を求められるケース
家庭裁判所は、提出された書類だけでは判断が難しい場合に、追加資料の提出を求めることがあります。裁判所も、審理のために必要な場合には追加書類の提出を求めることがあると案内しています。
例えば、
- 相続関係が複雑なケース
- 利害関係が分かりにくいケース
- 候補者に関する確認が必要なケース
などでは、追加の戸籍や説明資料の提出を求められることがあります。
また、申立ての時点で一部の戸籍等を取得できていない場合でも、事情によっては申立後の追加提出が認められることがあります。
そのため、必要書類がすべて揃うまで申立てができないと考えるのではなく、まずは管轄の家庭裁判所へ確認してみることも有効です。
⑤:遺言執行者選任申立てにかかる費用
遺言執行者選任申立てを行う際には、家庭裁判所へ納める費用のほか、戸籍等の取得費用が発生します。
もっとも、申立て自体に高額な費用がかかるわけではありません。実際には、裁判所へ納める費用よりも、戸籍収集や各種証明書の取得にかかる費用の方が大きくなるケースもあります。
ここでは、遺言執行者選任申立てに必要となる主な費用について解説します。
申立てに必要な費用
裁判所が公表している費用は以下のとおりです。
| 費用 | 金額・内容 |
|---|---|
| 収入印紙 | 遺言書1通につき800円 |
| 郵便切手 | 家庭裁判所ごとに異なる |
| 戸籍等取得費用 | 実費 |
収入印紙は、執行対象となる遺言書1通につき800円が必要です。
また、家庭裁判所との連絡に使用する郵便切手も必要になります。必要な金額や内訳は裁判所ごとに異なるため、申立先の家庭裁判所へ事前に確認しておくとよいでしょう。
このほか、被相続人の戸籍謄本や除籍謄本、候補者の住民票などを取得するための実費も発生します。
特に、被相続人が転籍を繰り返している場合や、古い戸籍の収集が必要な場合には、取得通数が多くなり費用が増えることがあります。
専門家へ依頼した場合の費用
遺言執行者選任申立ては、利害関係人自身で行うことが可能です。
一方で、実際に選任される遺言執行者については、親族ではなく行政書士や司法書士、弁護士などの専門家を候補者とするケースもあります。
専門家が遺言執行者に就任した場合には、遺言執行業務に対する報酬が発生することがあります。
報酬額は、
- 相続財産の内容
- 財産額
- 手続きの難易度
- 業務範囲
などによって異なります。
遺言執行者の報酬について詳しく知りたい方は、関連記事「遺言執行者の報酬はいくら?相場や決め方を解説」をご覧ください。
また、遺言執行者には預貯金の解約や払戻し、不動産の相続手続き、受遺者への財産引渡しなど、さまざまな業務が求められます。
そのため、適切な親族がいない場合や、中立的な立場で手続きを進めたい場合には、行政書士などの専門家を遺言執行者候補者とすることも検討するとよいでしょう。
⑥:遺言執行者の候補者は誰を選ぶべき?

遺言執行者選任申立てを行う際は、申立書に遺言執行者の候補者を記載します。
もっとも、候補者には特別な資格は必要なく、親族や知人を候補者とすることも可能です。一方で、遺言執行者は遺言の内容を実現するためにさまざまな手続きを行うため、誰を候補者とするかは慎重に検討する必要があります。
ここでは、遺言執行者候補者の選び方について解説します。
遺言執行者候補者とは
遺言執行者候補者とは、家庭裁判所に対して「遺言執行者として選任してほしい人」として申立書に記載する人です。
裁判所が公表している申立書にも、候補者の氏名や住所等を記載する欄が設けられています。
もっとも、申立書に記載した人が必ず選任されるわけではありません。最終的に遺言執行者を選任するのは家庭裁判所です。
ただし、候補者に欠格事由がなく、遺言執行者として適格と判断されれば、そのまま選任されることが一般的です。
候補者になれる人・なれない人
遺言執行者になるために、特別な資格は必要ありません。
そのため、以下のような人を候補者とすることができます。
- 配偶者や子どもなどの親族
- 友人や知人
- 相続人
- 受遺者
- 行政書士
- 司法書士
- 弁護士
一方で、法律上、次の人は遺言執行者になることができません。
- 未成年者
- 破産者
これらに該当しない限り、基本的には誰でも候補者になることができます。
ただし、「候補者になれること」と「遺言執行業務を適切に遂行できること」は別問題です。
実際には、遺言内容の確認や相続人への通知、金融機関との手続きなどを行うことになるため、信頼できる人物を選ぶことが重要です。
候補者はそのまま選任される?
申立書に遺言執行者候補者を記載した場合でも、その人が必ず選任されるとは限りません。最終的に遺言執行者を選任するのは家庭裁判所です。
もっとも、候補者が未成年者や破産者といった欠格事由に該当せず、遺言執行者として適切と認められる場合には、そのまま選任されることが一般的です。
そのため、候補者を選ぶ際は、単に親族や知人であるという理由だけでなく、実際に遺言執行業務を遂行できるかという観点から検討することが大切です。
候補者選びで重視したいポイント
遺言執行者を選ぶ際に最も重要なのは、遺言内容を最後まで実現できるかどうかです。
例えば、相続人が1〜2人しかおらず、財産も預貯金が中心であれば、配偶者や子どもなどの親族でも十分対応できる場合があります。
一方で、
- 相続人が多い
- 相続人が遠方に住んでいる
- 預貯金口座が多数ある
- 不動産が複数ある
- 遺贈が含まれている
といったケースでは、手続きの負担が大きくなることがあります。
そのため、候補者を選ぶ際は、
- 相続手続きを進める時間があるか
- 必要な手続きを理解できるか
- 中立的に対応できるか
という観点から検討するとよいでしょう。
遺言執行者の選び方について詳しく知りたい方は、関連記事「遺言執行者は誰を選ぶべき?家族・親族・専門家の違いと選び方を解説」をご覧ください。
候補者がいない場合はどうする?

親族の高齢化や家族構成の変化により、「頼める親族がいない」、「相続人に負担をかけたくない」というケースも少なくありません。
また、相続人自身が遺言執行者になることに不安を感じる場合もあるでしょう。
そのような場合には、行政書士などの専門家を候補者とすることも選択肢の一つです。
専門家が遺言執行者となることで、相続人が個別に手続きを進める負担を軽減できるほか、中立的な立場から遺言執行を進められるため、相続人間の調整が必要なケースでも円滑な対応が期待できます。
また、相続手続きや遺言執行の実務に慣れていることから、遺言内容をスムーズに実現しやすい点もメリットといえるでしょう。
もっとも、専門家へ依頼した場合には報酬が発生することがあるため、事前に業務内容や費用を確認しておくことが大切です。
候補者選びに迷う場合は、まず「遺言執行者は誰を選ぶべき?」の記事で選び方のポイントを確認しておくとよいでしょう。
⑦:遺言執行者選任申立ては自分でできる?
選任申立ては自分で行うことが可能
遺言執行者の選任申立ては、相続人や受遺者などの利害関係人が家庭裁判所へ申し立てる手続きです。
裁判所では申立書の様式や記載例を公開しており、必要書類を準備すれば自分で申立てを行うことができます。
また、申立てに必要な費用も、収入印紙や郵便切手、戸籍等の取得費用が中心であり、高額な費用が発生する手続きではありません。
そのため、遺言執行者選任申立て自体は、多くの場合、申立人自身で対応することが可能です。
申立て前に確認しておきたいポイント
もっとも、申立てにあたっては事前に確認しておきたい事項があります。
まず確認したいのが、遺言執行者を選任する必要が本当にあるかという点です。
遺言執行者が指定されていない場合でも、相続人が協力して手続きを進めることで遺言内容を実現できるケースがあります。遺言の内容や相続財産の状況によっては、家庭裁判所への選任申立てを行わなくても対応できることがあります。
一方で、遺言執行者候補者を誰にするかも重要なポイントです。
遺言執行者は、選任後に預貯金の解約や払戻し、財産の引渡しなどを行うことになります。そのため、候補者には手続きを最後まで遂行できる能力や時間的余裕が求められます。
また、申立て後には家庭裁判所から追加資料の提出や補正を求められることもあります。裁判所からの照会や連絡には適切に対応する必要があるため、申立て後も一定の対応が必要になることを理解しておきましょう。
選任後の遺言執行は別の手続き
遺言執行者選任申立てと、実際の遺言執行業務は別の手続きです。
申立ては家庭裁判所への手続きですが、遺言執行者として選任された後は、遺言内容に応じてさまざまな相続手続きを進めることになります。
例えば、
- 相続財産の調査
- 預貯金の解約や払戻し
- 有価証券の名義変更
- 受遺者への財産引渡し
- 相続人への通知や報告
などが必要になることがあります。
遺言執行者には、相続財産の管理や預貯金の払戻しなど、遺言を実現するための権限が認められています。詳しくは「遺言執行者の権限とは?できること・できないことを解説」をご覧ください。
遺言執行者は権限を持つ一方で、相続財産の管理や相続人への報告など一定の義務も負います。詳しくは「遺言執行者の責任とは?義務や注意点を解説」をご覧ください。
相続人が遺言執行者に就任することもできますが、相続手続きに不慣れな場合には負担を感じることも少なくありません。
そのため、適切な親族がいない場合や、中立的な立場で手続きを進めたい場合には、行政書士などの専門家を遺言執行者候補者とすることも選択肢の一つです。
専門家が遺言執行者となることで、相続人が個別に手続きを進める負担を軽減できるほか、中立的な立場から遺言執行を進められるため、相続人間の調整が必要なケースでも円滑な対応が期待できます。また、相続手続きや遺言執行の実務に慣れていることから、遺言内容をスムーズに実現しやすい点もメリットといえるでしょう。
遺言執行者の選び方について詳しく知りたい方は、「遺言執行者は誰を選ぶべき?」の記事もあわせてご覧ください。
⑧:よくある質問(Q&A)
Q:遺言執行者がいなくても相続手続きはできますか?
遺言執行者がいない場合でも、必ずしも相続手続きができなくなるわけではありません。
例えば、相続財産が預貯金中心で、相続人の人数も少なく、遺言内容が比較的シンプルなケースであれば、相続人が協力して手続きを進めることで遺言内容を実現できることがあります。
一方で、相続人が多数いる場合や、遺贈が含まれている場合などは手続きが複雑になることもあります。そのような場合には、遺言執行者の選任を検討するとよいでしょう。
Q:申立先はどこの家庭裁判所ですか?
遺言執行者選任申立ては、遺言者(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
管轄裁判所が分からない場合は、裁判所の「申立書提出先一覧(家庭裁判所)」で確認できます。
Q:申立てから選任までどのくらいかかりますか?
選任までにかかる期間は、事案の内容や家庭裁判所の運用によって異なります。
提出書類に不備がなく、追加資料の提出も少ないケースであれば比較的スムーズに進みますが、戸籍関係が複雑な場合や、候補者について確認が必要な場合には時間を要することがあります。
そのため、一律に「〇週間で選任される」とは言えません。遺言執行を早く開始したい場合は、必要書類をできるだけ揃えたうえで申立てを行うことが大切です。
Q:相続人を遺言執行者候補者にできますか?
はい、相続人を遺言執行者候補者とすることは可能です。
遺言執行者には特別な資格は必要ないため、未成年者や破産者に該当しない限り、相続人を候補者として申し立てることができます。
実際にも、配偶者や子どもなどの相続人が遺言執行者に就任するケースは少なくありません。
Q:行政書士を遺言執行者候補者にできますか?
はい、行政書士を遺言執行者候補者とすることも可能です。
親族が遺言執行者に就任することが難しい場合や、中立的な立場で手続きを進めたい場合には、行政書士などの専門家を候補者とするケースがあります。
遺言執行者として選任された行政書士は、遺言内容の実現に向けて必要な手続きを進めていきます。
Q:遺言執行者候補者が辞退した場合はどうなりますか?
候補者が選任前に辞退した場合は、別の候補者を検討することになります。
また、遺言書で指定されていた遺言執行者が就任を辞退した場合や、選任された遺言執行者が辞任・死亡した場合には、遺言執行者が不在となるため、新たに家庭裁判所へ遺言執行者選任申立てを行う必要が生じることがあります。
具体的な対応は状況によって異なるため、不明な点がある場合は家庭裁判所や専門家へ相談するとよいでしょう。体像を整理できる専門家に相談することが有効です。
まとめ
遺言執行者の選任申立てとは、遺言書で遺言執行者が指定されていない場合や、指定された遺言執行者が死亡した場合などに、家庭裁判所へ申し立てて遺言執行者を選任してもらうための手続きです。
申立てができるのは、相続人や受遺者、遺言者の債権者などの利害関係人に限られます。また、申立先は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
もっとも、遺言執行者がいない場合でも、相続人が協力して遺言内容を実現できるケースでは、必ずしも選任申立てが必要になるわけではありません。まずは遺言の内容や相続財産の状況を確認し、遺言執行者の選任が必要かどうかを検討することが大切です。
一方で、相続人が多い場合や、遺贈が含まれている場合、相続手続きを主導して進める人がいない場合などは、遺言執行者を選任した方が手続きを円滑に進めやすいことがあります。
また、遺言執行者候補者には特別な資格は必要ありませんが、選任後は財産調査や預貯金の解約・払戻し、受遺者への財産引渡しなど、さまざまな業務を担うことになります。そのため、実際に遺言執行業務を遂行できる人を候補者として選ぶことが重要です。
適切な親族がいない場合や、中立的な立場で手続きを進めたい場合には、行政書士などの専門家を遺言執行者候補者とすることも選択肢の一つです。遺言執行者の選任を検討している方は、候補者選びも含めて早めに準備を進めることをおすすめします。
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