遺言書はあるのに、遺言執行者が指定されていない。
その場合、相続手続きが思うように進まず、困ってしまうケースは少なくありません。
また、そもそも遺言書がない場合や、指定されていた遺言執行者が辞退・死亡している場合には、家庭裁判所に「遺言執行者の選任申立て」を行う必要があります。
しかし、実際に手続きを進めようとすると、「何から始めればいいのか分からない」「自分のケースで本当に申立てが必要なのか判断できない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
遺言執行者の選任申立ては、書類をそろえて提出すれば終わる単純な手続きではありません。
どのケースに該当するのか、どのような対応が必要かといった“状況に応じた判断”が求められる場面が多く、思った以上に複雑です。
この記事では、遺言執行者の選任申立てについて、手続きの流れや必要書類・費用といった基本的な内容に加え、一人で進めるのが難しいポイントやケースごとの判断の違いを分かりやすく解説します。
あわせて、
- 自分で申立てを進めるべきか
- 専門家に依頼した方がよいのか
といった判断の目安についてもご紹介します。
「とりあえず流れは理解したい」「できれば自分で進めたいが不安がある」
そのような方が、状況に応じて適切な選択ができるようになることを目指しています。

目次
①:遺言執行者の選任申立てとは
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことをいいます。
簡単に言えば、「遺言の内容を実際の手続きとして実行する役割」です。
例えば、遺言書に「預貯金を長男に相続させる」「不動産を売却して代金を分配する」といった内容が記載されている場合、その内容を現実の手続きとして進めていく必要があります。
しかし、これらの手続きは金融機関や法務局など複数の機関にまたがり、相続人全員の関与が求められる場面も多く、スムーズに進まないことも少なくありません。
このようなときに、遺言執行者がいれば、相続人に代わって手続きを進めることができます。
相続人全員の同意を取り付けることなく、一定の範囲で単独で手続きを進めることができる点が大きな特徴です。
一方で、遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定された人が辞退・死亡している場合には、この役割を担う人がいない状態となります。
その結果、手続きを進める主体が不明確となり、相続人同士で調整が必要になったり、各種手続きが止まってしまうことがあります。
このような場合に利用されるのが、家庭裁判所に対する「遺言執行者の選任申立て」です。
裁判所が第三者を含めて適切な人物を遺言執行者として選任することで、遺言の内容を実現できる体制を整えます。
ここで重要なのは、遺言執行者の選任は単なる形式的な手続きではなく、
「誰がどのように手続きを進めるか」を決める重要な判断であるという点です。
この判断を誤ると、手続きが長引いたり、相続人間のトラブルにつながる可能性もあるため、次の章で解説する「遺言執行者がいないと困る具体的な場面」を踏まえて理解しておくことが重要です。図になれば幸いです。
②:遺言執行者がいないと困る具体的な場面

遺言執行者がいない場合、単に手続きが少し面倒になるというレベルではなく、相続手続きそのものが進まなくなるケースもあります。
ここでは、実際によくある具体的な場面を見ていきましょう。
預貯金の解約・払い戻しが進まない
遺言書に預貯金の分配方法が記載されていても、遺言執行者がいない場合、金融機関での手続きがスムーズに進まないことがあります。
多くの金融機関では、相続手続きにおいて相続人全員の関与を求められることがあり、書類の取り扱いも金融機関ごとに異なります。
そのため、「遺言書があるのだからすぐに解約できる」と思っていても、実際には必要書類の不足や手続き方法の違いで止まってしまうケースが少なくありません。
このような場合には、まずは以下のような対応が必要になります。
- 金融機関ごとに必要書類を確認する
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集する
- 相続人全員の同意書や署名・押印をそろえる
- 遺言書の内容と手続き方法が一致しているか確認する
これらを整えることで、相続人全員で手続きを進めること自体は可能です。
ただし、相続人の人数が多い場合や、一部の相続人が遠方にいる場合には、書類のやり取りや調整に時間がかかり、現実的には大きな負担になることもあります。
また、金融機関ごとに求められる書類や手続きが異なるため、「他では通用したやり方が通用しない」といった場面も出てきます。
そのため、こうした手続きを自分で進めることに不安がある場合や、相続人間の調整が難しい場合には、書類作成や手続き支援を行う行政書士や、法的な判断が必要な場面では弁護士に相談することも検討するとよいでしょう。
不動産の名義変更がスムーズにできない
遺言に基づいて不動産を取得する場合でも、遺言執行者がいないと相続登記の手続きが円滑に進まないことがあります。
相続登記は法務局で行う手続きであり、必要書類の整備や申請内容の正確性が求められます。
遺言の内容と実務上の手続きにズレがある場合には、どのように整理すべきか判断に迷う場面も出てきます。
実際には、登記原因の記載方法や添付書類の組み合わせを誤ると、補正や再申請が必要となり、手続きが大きく遅れてしまうこともあります。
また、一見問題がないように見えても、将来的な売却や二次相続の際に影響が出るケースもあるため、慎重な対応が求められます。
このように、不動産の相続登記は専門性が高く、一般の方が正確に進めるのは容易ではありません。
そのため、不動産を相続する場合には、登記手続きの専門である司法書士への相談が前提になると考えておくとよいでしょう。
相続人同士で手続きが止まる
遺言執行者がいない場合、「誰が手続きを進めるのか」が曖昧になり、相続人同士での調整が必要になることがあります。
特に、相続人の一部が非協力的であったり、遺言の内容に対して不満を持っている場合には、手続きが進まないだけでなく、トラブルに発展する可能性もあります。
この段階になると、単なる手続きの問題ではなく、利害関係の対立をどのように整理するかという問題になります。
実務上よくあるのは、「誰がこの手続きを引き受けるのか」「手間や負担を誰が負うのか」といった点で話がまとまらず、手続き自体が止まってしまうケースです。
このような場合の対応としては、まずは役割を明確にし、必要な手続きを分担することが考えられます。
例えば、預貯金の解約などの手続きは行政書士、不動産の名義変更は司法書士といったように、各手続きを専門家に依頼することで、相続人自身の負担を軽減することが可能です。
費用面についても、相続人の一人がすべてを負担するのではなく、相続人間で分担するという方法もあります。
このように、手続きの実務を切り分けることで、相続人同士の対立を避けられる場合も少なくありません。
もっとも、そもそも話し合い自体が難しい状況にある場合には、当事者間での解決は困難です。
その場合には、交渉や法的対応が可能な弁護士に依頼し、第三者を介して調整を行うことが必要になります。
遺言の内容を実現できないリスクがある
ここで注意したいのは、遺言の内容は必ずしも絶対にそのまま実行されるとは限らないという点です。
相続人全員が合意すれば、遺言とは異なる内容で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成することも可能です。
そのため、遺言執行者がいない場合には、結果として相続人間の話し合いに委ねられ、当初の遺言内容とは異なる形で手続きが進むこともあります。
一方で、遺言の内容どおりに確実に手続きを進めたい場合には、遺言執行者の存在が重要になります。
遺言執行者がいれば、遺言の内容に基づいて手続きを進める主体が明確になり、相続人間の意向に左右されにくくなります。
そのうえで、遺言の解釈や実現方法について争いが生じている場合には、法的な整理が必要になるため、弁護士への相談が有効です。
ここまで見てきたように、遺言執行者がいない場合に生じる問題は、単なる書類作成の難しさではなく、誰がどのように手続きを進めるかという「判断」の問題に関わるものが多くなります。
③:遺言執行者の選任が必要になる主なケース
遺言執行者の選任申立ては、すべての相続で必要になるわけではありません。
まずは、自分の状況が申立てを行うべきケースに該当するのかを整理することが重要です。
ここでは、実務上よくある代表的なケースを見ていきます。
遺言書に遺言執行者の指定がない場合
遺言書が作成されていても、その中で遺言執行者が指定されていないケースは少なくありません。
この場合、遺言の内容自体は有効であっても、それを実現する主体がいないため、相続人全員で手続きを進める必要があります。
しかし、これまで見てきたように、預貯金の解約や不動産の名義変更などは相続人全員の関与が求められることが多く、実務上の負担が大きくなりがちです。
そのため、手続きを円滑に進めるために、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることが検討されます。
なお、遺言執行者の指定は遺言書における必須事項ではないため、記載されていない遺言書も一定数存在します。
特に、専門家の関与なく作成された自筆証書遺言では、遺言執行者の指定が漏れているケースも見られます。
その結果、相続開始後に「誰が手続きを進めるのか」が曖昧になり、あらためて遺言執行者の選任が必要になることがあります。
指定された遺言執行者が辞退・死亡している場合
遺言書で遺言執行者が指定されていても、その人が就任を辞退した場合や、すでに死亡している場合には、実質的に遺言執行者がいない状態となります。
このような場合も、手続きを進める主体が不在となるため、相続人だけで対応するか、新たに遺言執行者を選任するかを検討する必要があります。
特に、遺言の内容が複雑であったり、相続人の人数が多い場合には、相続人のみで進めるのは負担が大きく、結果として手続きが滞ることもあります。
そのため、状況に応じて家庭裁判所への選任申立てを行い、第三者を遺言執行者として選任することが現実的な選択となるケースもあります。
相続人間で合意が難しい場合
遺言執行者がいない状態で、相続人間の関係性に問題がある場合には、手続きが進まないリスクが高くなります。
例えば、遺言の内容に納得していない相続人がいる場合や、そもそも相続人同士の関係が良好でない場合には、必要な書類への署名・押印が得られず、手続きが止まってしまうことがあります。
このような場合、遺言執行者を選任することで、手続きを進める主体を明確にし、相続人全員の関与に依存しない形で手続きを進めることが可能になります。
ただし、すでに対立が顕在化している場合には、単に遺言執行者を選任するだけでは解決しないこともあります。
その場合には、遺言執行者の選任とは別に、弁護士を通じた調整や法的対応を検討する必要があります。
④:遺言執行者選任申立ての流れ

遺言執行者の選任申立ては、家庭裁判所に対して行う手続きです。
ここでは、全体の流れを順を追って確認していきます。
申立ては、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
管轄を誤って申立てを行った場合には、その裁判所では手続きを進めることができず、正しい裁判所への移送や、場合によっては却下となる可能性があります。
そのため、事前に裁判所のホームページ等で管轄を確認しておくことが重要です。
次に、遺言執行者の選任を求める申立書を作成します。
申立書には、以下のような内容を記載します。
- 被相続人の情報
- 相続人の情報
- 遺言の有無および内容
- 遺言執行者の選任が必要な理由
- 候補者がいる場合はその情報
申立書は自分で作成することも可能ですが、専門家に依頼する場合は弁護士または司法書士が作成代行を行うことができます。
申立てには、以下のような書類が必要になります。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍
- 相続人全員の戸籍
- 遺言書(ある場合)
- 申立人や候補者に関する資料
これらの書類は取得に時間がかかることも多く、特に戸籍の収集は手間のかかる作業です。
申立書と必要書類がそろったら、家庭裁判所に提出します。
あわせて、収入印紙や郵券(切手)などの費用も必要になります。
提出方法は、窓口への持参のほか、郵送での提出が可能な場合もあります。
提出後、裁判所による審理が行われます。
必要に応じて追加書類の提出を求められることや、事情の確認が行われることもあります。
その後、裁判所が適任と判断した人物が遺言執行者として選任されます。
必ずしも申立人の希望どおりの人物が選ばれるとは限らず、第三者(専門家など)が選任されることもあります。
この段階では、手続き自体はそこまで複雑に見えないかもしれません。
しかし実際には、どのような内容で申立てを行うか、どの書類が必要になるかといった判断の部分で迷うケースが多くなります。
そのため、次の章では「一人で進めるのが難しいポイント」について、より具体的に解説していきます。
⑤:どの専門家に相談すべきか
遺言や相続の問題に直面したとき、多くの方が最初に迷うのが、「どの専門家に相談すればよいのか」という点です。
行政書士・弁護士・司法書士はいずれも相続に関わる専門家ですが、それぞれに得意分野と法的な役割の違いがあります。
そのため、依頼先を誤ると、対応できない業務であったり、別の専門家への再依頼が必要になることもあります。
ここでは、遺言執行者の選任や相続手続きに関連する範囲で、それぞれの違いを整理します。

主な役割の違い(概要)
| 項目 | 行政書士 | 弁護士 | 司法書士 |
|---|---|---|---|
| 戸籍収集・財産目録作成 | ◎ | ◎ | △(目的により対応) |
| 遺言書の作成支援 | ◎ | ◎ | ❌ |
| 家庭裁判所提出書類の作成 | ❌ | ◎ | ◎ |
| 裁判所への代理申立 | ❌ | ◎ | ❌(一部例外あり) |
| 相続人間の交渉・紛争対応 | ❌ | ◎ | ❌ |
| 遺産分割協議書の作成 | ◎ | ◎ | ❌ |
| 不動産の相続登記 | ❌ | △(代理不可) | ◎ |
※あくまで一般的な整理であり、具体的な対応範囲は個別の事情によって異なります。
行政書士に相談できる場面
行政書士は、遺言書の作成や相続手続きに必要な書類作成・資料収集を中心にサポートする専門家です。
特に、相続人間に争いがないケースでは、手続きを円滑に進めるための実務面で大きな役割を果たします。
- 遺言書の原案作成(特に公正証書遺言)
- 戸籍・住民票などの収集
- 財産目録や遺産分割協議書の作成
- 相続関係説明図の作成
- 遺言執行者としての就任(第三者として)
一方で、裁判所への代理申立や、相続人間の交渉・紛争対応は行うことができません。
そのため、争いがある場合には別の専門家への相談が必要になります。
弁護士に相談すべき場面
弁護士は、法律の専門家として、交渉・調停・訴訟などを含めた紛争解決を担うことができます。
相続においては、相続人間の対立がある場合や、法的な判断が必要なケースで重要な役割を果たします。
- 相続人同士で意見の対立がある
- 一部の相続人が手続きに協力しない
- 遺産分割協議がまとまらない
- 調停や訴訟に発展する可能性がある
- 相続放棄や限定承認などの判断が必要
弁護士は代理人として手続きを進めることができるため、当事者間での解決が難しい場合には不可欠な存在です。
司法書士に相談すべき場面
司法書士は、不動産の登記手続きを専門とする資格者です。
相続において不動産が含まれる場合には、名義変更(相続登記)が必要となるため、司法書士への相談が前提となります。
- 不動産の相続登記(法務局への申請)
- 登記に必要な書類の作成
- 法定相続情報一覧図の作成(相続発生後)
- 家庭裁判所提出書類の作成支援
登記に関しては専門性が高く、誤りがあると手続きが進まないだけでなく、将来的な不動産取引にも影響する可能性があります。
相談先に迷った場合の判断の目安
どの専門家に相談すべきか迷った場合は、次のように整理すると判断しやすくなります。
- 相続人同士の関係が良好で、手続きを進めたい
→ 行政書士(書類作成)または司法書士(登記) - 不動産の相続がある
→ 行政書士で資料整理 → 司法書士で登記(連携) - 争いがある、またはその可能性がある
→ 弁護士に相談 - 書類の準備や手続きに不安がある
→ 行政書士
また、実務上は複数の専門家が連携して対応するケースも多く、状況に応じて適切な役割分担を行うことが重要です。
どの専門家に最初に相談するかによって、その後の手続きの進めやすさが大きく変わることもあります。スムーズに動いた事例を紹介します。
⑥:一人で進めるのが難しいポイント
ここまで、遺言執行者の選任申立ての流れや必要書類について見てきました。
一見すると、「書類をそろえて提出すればよい手続き」のように感じるかもしれません。
しかし実際には、多くの方が手続きを進める中で立ち止まるのは、書類作成そのものではなく、前提となる判断や整理の部分です。
ここでは、実務上「一人で進めるのが難しい」と感じやすいポイントを具体的に解説します。
自分のケースで本当に申立てが必要か判断できない
遺例えば、遺言書に「預貯金を長男に相続させる」と記載されている場合でも、遺言執行者がいなければ、金融機関によっては相続人全員の関与を求められることがあります。
この場合、他の相続人の同意や署名・押印が得られなければ、手続きが進まなくなります。
また、不動産についても同様に、遺言の内容だけでは登記手続きが完結せず、必要書類の整理や申請内容の判断に迷い、結果として手続きが滞るケースがあります。
さらに、相続人の一部が遠方に住んでいる場合や、連絡が取りづらい場合には、書類のやり取りだけでも時間がかかり、現実的に手続きを進めることが難しくなることもあります。
このような場合の主な対応方法
これらの課題に対しては、主に次のような対応が考えられます。
- 相続人全員で役割分担を決め、手続きを進める
- 必要書類を整理し、各機関ごとに個別対応していく
- 行政書士・司法書士などの専門家に手続きを分担して依頼する
- 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立て、手続きの主体を一本化する
つまり、「相続人全員で対応する」か「第三者に任せるか」が大きな分かれ目になります。
自分で進めるかどうかの判断の目安
では、どのような場合に自分で進められるのでしょうか。
判断の目安としては、次のように整理できます。
▶ 自分で進めやすいケース
- 相続人の人数が少なく、連絡・合意がスムーズに取れる
- 財産内容がシンプル(預貯金中心など)
- 手続きに時間をかけられる
▶ 専門家の支援を検討すべきケース
- 相続人の人数が多い、または関係性に不安がある
- 不動産が含まれている(登記が必要)
- 金融機関が複数あり、手続きが煩雑
- 書類収集や調整に時間を割けない
- 手続きを確実に進めたい
特に、「誰が手続きを主導するのかが決まらない」場合や、「相続人全員の協力を前提に進めるのが難しい」場合には、遺言執行者の選任や専門家への依頼を検討することが現実的です。
必要書類がケースごとに変わる
必要書類については一律に決まっているわけではなく、個別の事情に応じて追加の書類が求められることがあります。
例えば、
- 相続人の中に代襲相続がある場合
- 被相続人の本籍地が複数にまたがる場合
- 遺言書の内容について補足説明が必要な場合
など、前提となる事情によって、求められる書類の内容や範囲は変わります。
そのため、実務上は「書類を集めたつもりでも足りない」「何が不足しているのか分からない」という状態になることが少なくありません。
このような場合の対応方法
こうした状況に対応するためには、単に書類を集めるのではなく、相続関係を整理したうえで、必要な資料を組み立てていく視点が重要になります。
具体的には、次のような対応が考えられます。
- 戸籍を収集し、相続人の範囲を正確に確定する
- 手続きごとに必要となる書類を確認する(裁判所・金融機関・法務局など)
- 相続関係を整理した資料を作成する
- 必要に応じて専門家に整理・作成を依頼する
ここで重要なのは、書類は「集めること」よりも「整理すること」の方が難しいという点です。
実務上有効な整理方法
▶ 遺産分割協議書
相続人全員で合意した内容を書面にまとめたものです。
遺言がない場合や、遺言と異なる内容で手続きを進める場合に用いられ、金融機関や不動産手続きでも広く利用されます。
内容に不備があると手続きが進まないため、正確な作成が求められます。
作成は相続人自身でも可能ですが、実務上は行政書士や弁護士に依頼して作成するケースが多い書類です。
▶ 法定相続情報一覧図
被相続人と相続人の関係を一覧化した図で、法務局の認証を受けることで、公的な証明資料として利用できます。
戸籍一式の代替資料として使用できるため、金融機関や各種手続きにおいて、提出書類の簡略化につながります。
戸籍の読み取りと関係整理が必要になるため、司法書士や行政書士に依頼されることも多い書類です。
自分で対応できるかの判断の目安
これらの対応を踏まえると、自分で進められるかどうかは次のように整理できます。
▶ 自分で対応しやすいケース
- 相続関係が単純である(代襲相続などがない)
- 戸籍の収集・整理に時間をかけられる
- 必要書類を一つずつ確認しながら進められる
▶ 専門家の支援を検討すべきケース
- 相続関係が複雑(代襲相続・再婚など)
- 必要書類の判断に迷っている
- 書類の不備による手戻りを避けたい
- 複数の手続き(裁判所・金融機関・登記)が並行する
特に、「何が不足しているのか分からない」状態になっている場合は、書類収集の段階から専門家の関与を検討した方が、結果的にスムーズに進むことが多くなります。に足りなかった」というケースも少なくありません。
適切な遺言執行者の選び方が分からない
申立ての際には、遺言執行者の候補者を立てることもありますが、「誰を選ぶべきか」で悩む方も多くいます。
相続人の中から選ぶことも可能ですが、その場合、
- 手続きの負担が一人に集中する
- 他の相続人との関係に影響が出る
といった問題が生じることがあります。
また、特定の相続人を遺言執行者として選んだ場合、その人に手続きの負担が集中することになります。
その結果、「なぜ自分だけが負担を負うのか」といった不満や、不公平感が生まれ、かえってトラブルにつながるケースもあります。
このような場合には、単に役割を決めるだけでなく、負担に対する配慮もあわせて検討することが重要です。
例えば、相続人全員で合意のうえ、遺産分割協議において一定の調整を行い、実務的な負担を担う相続人に対して配慮するという方法も考えられます。
また、そもそも相続人の中から選ぶことに不安がある場合には、専門家などの第三者を遺言執行者として選任することで、手続きを中立的に進めることができるというメリットもあります。
裁判所とのやり取りに戸惑う
家庭裁判所とのやり取りでは、一般的な日常用語とは異なる意味で言葉が使われることがあります。
例えば、「差支え」という言葉は、日常会話では「問題ない」という意味で使われることが多いですが、手続きの文脈ではスケジュール調整の可否を確認する際などに用いられます。
また、書面でのやり取りでは形式や表現が求められるため、「何を書けばよいのか分からない」と感じる場面も出てきます。
さらに、書類に不備があった場合には補正を求められることもあり、その対応に戸惑うケースも少なくありません。
このセクションのまとめ
ここまで見てきたように、遺言執行者の選任申立てにおいて難しいのは、書類を作成すること自体ではなく、
- 自分のケースの整理
- 必要な対応の判断
- 手続き全体の見通し
といった「前提となる理解と判断」の部分です。
そのため、次の章では、こうした点を踏まえたうえで、自分で進めるべきか、専門家に依頼すべきかの判断基準について解説します。
⑦:自分で進められるかの判断基準

あらためて重要なのは、この手続きは「できるかどうか」ではなく、
「無理なく進められるかどうか」で判断する必要があるという点です。
法律上は自分で申立てを行うことも可能ですが、実務上は状況によって難易度が大きく変わります。
そして、相続手続きは日常的に行うものではなく、多くの場合、数十年に一度あるかどうかの手続きです。
そのため、一度時間をかけて理解したとしても、次に同じ場面が訪れたときには、改めて調べ直すことになるケースがほとんどです。
さらに、この手続きでは、自分のケースに必要な対応を判断し、必要書類を正しく整理しながら、関係者との調整を進めていく必要があります。
こうした一連の流れは、単純な作業というよりも、経験がないと判断に迷いやすい部分が多く含まれています。
こうした性質を踏まえると、すべてを自分で抱え込むのではなく、必要な部分について専門家の力を借りることには合理的な意味があります。
たとえば、書類の作成や整理については行政書士、不動産が関わる場合の登記については司法書士、相続人間の調整や法的な判断が必要な場合には弁護士といったように、内容に応じて役割を分けて依頼することで、負担を抑えながら手続きを進めることも可能です。
また、遺言執行者として専門家が関与することで、手続きを進める主体が明確になり、相続人間の調整負担を軽減できるというメリットもあります。
では、自分で進められるかどうかはどのように判断すればよいのでしょうか。
実務上の感覚としては、「どこで手続きが止まりやすいか」を基準に考えると分かりやすくなります。
特に影響が大きいのは、相続人の人数や関係性、そして遺言の内容に解釈の余地があるかどうかです。これらに問題がある場合、手続きそのものというよりも、調整の問題に発展しやすくなります。
一方で、戸籍の収集や書類の作成といった作業は時間がかかるものの、手順自体は明確であることが多く、時間を確保できれば対応できるケースも少なくありません。裁判所とのやり取りについても、書面での対応が中心となるため、落ち着いて進めれば対応可能な範囲といえます。
このように考えると、自分で進められるかどうかは、「作業ができるか」ではなく、
関係性や前提条件に不安がないかによって大きく左右されます。
もし、誰が手続きを主導するのかが曖昧であったり、必要な対応の全体像が見えていないと感じる場合には、無理に進めるよりも一度整理することが重要です。
専門家に相談することで、全体の流れを把握し、どこを自分で対応し、どこを任せるべきかを切り分けることができます。
専門家への依頼は、必ずしもすべてを任せる必要はありません。
書類作成のみ、一部の手続きのみといった形で関与の範囲を調整することも可能です。
重要なのは、「すべて自分でやるか、すべて任せるか」という二択ではなく、
どこまでを自分で行い、どこからを専門家に任せるかを判断することです。
まとめ
遺言執行者の選任申立ては、単なる書類手続きではなく、
「誰がどのように手続きを進めるか」を決める手続きです。
そのため、自分の状況の中でどこに負担があるのかを見極め、必要に応じて専門家の力を活用することが、結果として手続きを確実かつ円滑に進めることにつながります。
⑧:よくある質問(Q&A)
Q1 遺言執行者の選任申立ては自分でもできますか?
法律上は、自分で申立てを行うことは可能です。
ただし実務上は、必要書類の判断や相続関係の整理、裁判所とのやり取りなど、経験がないと迷いやすい場面が多くあります。
特に、自分のケースで何が必要か判断できない場合には、途中で手続きが止まる可能性もあるため、状況に応じて専門家への相談を検討するのが現実的です。
Q2 費用はどれくらいかかりますか?
家庭裁判所への申立て自体にかかる費用は、収入印紙や郵券などで数千円程度が一般的です。
ただし、戸籍の取得費用や、専門家に依頼する場合の報酬は別途発生します。
専門家費用は依頼内容や範囲によって異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
Q3 遺言執行者の選任は必ず必要ですか?
すべてのケースで必要になるわけではありません。
例えば、相続人全員で問題なく手続きを進められる場合には、あえて選任申立てを行わないケースもあります。
一方で、手続きを進める主体が曖昧な場合や、相続人間の調整が難しい場合には、選任が必要になることがあります。
「法律上可能か」ではなく「実務上進められるか」で判断することが重要です。
Q4 遺言執行者は誰でもなれますか?
遺言執行者になるために特別な資格は必要ありません。
判断能力があれば、相続人や第三者など、誰でも就任することが可能です。
ただし、実務上は手続きの負担や中立性の問題もあるため、状況によっては専門家を選任することも検討されます。
Q5 どの専門家に相談すればよいですか?
手続きの内容によって適切な専門家は異なります。
- 書類作成や整理 → 行政書士
- 不動産の登記 → 司法書士
- 相続人間の調整や紛争 → 弁護士
実務上は複数の専門家が関与することも多いため、まずは全体像を整理できる専門家に相談することが有効です。
まとめ
遺言執行者の選任申立ては、単なる書類手続きではなく、
「誰がどのように手続きを進めるか」を決める手続きです。
そのため重要なのは、
- 手続きの流れを理解すること
- 自分のケースで何が必要かを判断すること
- 無理なく進められるかを見極めること
です。
法律上は自分で進めることも可能ですが、実務では判断や調整が求められる場面が多く、状況によって難易度が大きく変わります。
そのため、すべてを自分で抱え込むのではなく、
必要に応じて専門家の力を活用することが、結果として手続きを確実かつ円滑に進めることにつながります。
また、将来同じことで困らないためには、遺言を作成する段階で遺言執行者を指定しておくことも重要です。
あらかじめ役割を明確にしておくことで、相続開始後の負担やトラブルを大きく減らすことができます。
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- 経歴:IT業界出身/相続・遺言分野を専門取り組み中
- 趣味:競泳
- メッセージ:
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