親が亡くなり、兄弟姉妹で遺産を相続することになった場合、「どう分ければよいのか」「誰が手続きを進めるのか」など、判断に迷うことがあります。
兄弟姉妹は子どもとして同じ立場の相続人になることが多い一方で、親との関わり方や介護の負担、財産の把握状況、不動産の有無などによって、話し合いが複雑になることもあります。中には、一部の兄弟だけで相続手続きを進めようとしたり、財産の内容が十分に共有されないまま遺産分割協議が進んだりするケースもあります。
この記事では、親の遺産を兄弟で相続する場合の基本的な分け方や手続きの流れに加え、兄弟間で起こりやすいトラブル、その予防方法、話し合いがまとまらない場合の対応まで、実務の視点を交えてわかりやすく解説します。
目次
① 親の遺産を兄弟で相続する場合とは
親が亡くなった場合、その子どもは第1順位の法定相続人になります。
そのため、子どもが複数いる家庭では、兄・姉・弟・妹など、兄弟姉妹で親の遺産を相続することになります。
ここでいう「兄弟で相続する」とは、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になるケースではなく、親の子どもとして兄弟姉妹が相続人になるケースを指します。
なお、亡くなった方に子どもや親がおらず、その方の兄弟姉妹が相続人になるケースについては、「兄弟姉妹に相続権はある?相続順位・相続分と甥姪の扱いを解説」で詳しく解説しています。
たとえば、父が亡くなり、母もすでに亡くなっている場合には、子どもである兄弟姉妹だけで遺産を相続することがあります。
親が亡くなり、子どもである兄弟姉妹が相続人になるケース
親が亡くなったとき、子どもがいる場合は、その子どもが第1順位の法定相続人になります。
兄弟姉妹が2人いれば2人とも相続人となり、3人いれば3人とも相続人になります。
このとき、長男だから相続分が多くなる、同居していた子どもが優先される、といった扱いになるわけではありません。
基本的には、兄弟姉妹は親の子どもとして同じ順位の相続人になります。
ただし、遺言書がある場合や、生前贈与、特別受益、寄与分などが問題になる場合には、実際の遺産分割が単純な均等分割にならないこともあります。
二次相続で兄弟姉妹だけが相続人になることも多い
兄弟姉妹だけで親の遺産を相続するケースとして多いのが、いわゆる「二次相続」です。
たとえば、父が先に亡くなり、その際に母が多くの財産を相続したとします。
その後、母も亡くなった場合には、母の子どもである兄弟姉妹が相続人になります。
このような二次相続では、配偶者がすでに亡くなっているため、兄弟姉妹だけで遺産分割を行うことがあります。
一見すると、相続人が兄弟姉妹だけなので話がまとまりやすそうに見えますが、実際には、親との関わり方や介護の負担、過去の援助、実家不動産の扱いなどをめぐって意見が分かれることもあります。
② 兄弟で親の遺産を相続する場合の基本ルール
親の遺産を兄弟姉妹で相続する場合は、まず法定相続分や遺言書の有無を確認することが基本です。
ただし、実際の遺産分割では、必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありません。相続人全員が合意すれば、財産の内容やそれぞれの事情に応じて分け方を決めることができます。
法定相続分は原則として兄弟姉妹で均等
子どもが複数いる場合、それぞれの法定相続分は原則として均等です。
配偶者がいる場合を含め、誰が法定相続人になるのか、相続順位や法定相続分の基本については、「相続人とは?法定相続人の範囲・順位・法定相続分をわかりやすく解説」をご覧ください。
たとえば、母が亡くなり、相続人が兄と妹の2人だけであれば、それぞれの法定相続分は2分の1です。兄・姉・弟の3人であれば、それぞれ3分の1ずつとなります。
長男だから多く相続する、親と同居していたから当然に相続分が増える、といったルールはありません。
遺言書がある場合はその内容が優先される
親が有効な遺言書を残している場合は、原則としてその内容に従って相続手続きを進めます。
たとえば、「自宅は長男に相続させる」「預貯金は長女に相続させる」といった内容が遺言書に記載されていれば、法定相続分とは異なる分け方になることがあります。
そのため、兄弟で遺産分割の話し合いを始める前に、まず遺言書が残されていないか確認することが大切です。
ただし、相続人全員が合意すれば、遺言書とは異なる内容で遺産分割をすることも可能です。
子どもである兄弟姉妹には遺留分がある
親の子どもとして相続人になる兄弟姉妹には、遺留分が認められています。
遺留分とは、一定の相続人に最低限保障されている取り分です。
たとえば、遺言によって特定の兄弟姉妹にほとんどの財産を相続させる内容になっている場合でも、他の兄弟姉妹が遺留分を請求できることがあります。
ここは、亡くなった方の「兄弟姉妹」が相続人になるケースとは扱いが異なる点です。
法定相続分どおりに分けなければならないわけではない
法定相続分は、遺産分割の基準になる割合ですが、必ずその割合どおりに分けなければならないわけではありません。
相続人全員が合意すれば、たとえば一人が実家を取得し、他の兄弟姉妹が預貯金を多めに取得するなど、財産の内容に応じた分け方もできます。
大切なのは、一部の兄弟だけで決めるのではなく、相続人全員が内容を確認し、合意したうえで遺産分割を進めることです。
③ 兄弟の遺産相続で揉めやすい理由とよくあるトラブル

親の遺産を兄弟で相続する場合は、法定相続分だけを確認すれば円滑に進むとは限りません。
兄弟ごとに親との関わり方や財産について持っている情報が異なるうえ、介護、生前の援助、不動産の扱いなど、それぞれが「公平」と考える基準も違うからです。
また、相続をきっかけに、それまで表面化していなかった兄弟間の不満が出てくることもあります。
ここでは、兄弟の遺産相続で特に問題になりやすい場面を整理します。
親の遺産に実家や土地がある場合、法定相続分どおりに共有すればよいとは限りません。共有名義にする前に、誰が不動産を取得するか、現預金とどう組み合わせるかを検討することが大切です。詳しくは、兄弟で不動産を相続する場合の分け方と共有名義の注意点で解説しています。
財産に関する情報の差から不信感が生まれる
親と同居していた兄弟や、通帳・不動産関係の書類などを管理していた兄弟は、他の兄弟よりも親の財産を詳しく把握していることがあります。
それ自体は珍しいことではありません。しかし、他の兄弟に十分な説明がない状態で相続手続きが進むと、「本当にこれがすべての財産なのか」「何か隠しているのではないか」という不信感につながることがあります。
遺産の存在や内容を十分に知らされない
預貯金や不動産などの内容が一部の兄弟にしか共有されておらず、他の兄弟が遺産の全体像を知らないまま遺産分割の話し合いに入るケースがあります。
この状態では、提示された分け方が適切なのかを判断することも難しくなります。
遺産分割を始める前に、まずどのような財産があるのかを確認し、相続人全員が同じ情報を把握できる状態にしておくことが重要です。
兄弟の一人が勝手に遺産を使った・相続を進めた
「兄弟が勝手に相続した」という相談でも、実際に行われていることはさまざまです。
親の預金を引き出した、財産を処分した、他の兄弟に十分な説明をせず手続きを進めたなど、何をしたのかによって考え方は異なります。
たとえば、葬儀費用や未払金の支払いに使った場合と、自分のために遺産を使った場合を同じように扱うことはできません。
また、遺産分割が必要な財産について、一部の兄弟だけで自由に取得者を決めることもできません。
まずは、どの財産について、いつ、誰が、どのような行為をしたのかを整理する必要があります。
介護や生前の援助をめぐって公平感が一致しない
兄弟同士でも、親との関わり方は同じではありません。
親と同居して介護をしていた人もいれば、遠方に住んでいて日常的な世話には関われなかった人もいます。一方で、生前に住宅購入費や学費などの援助を受けた兄弟がいる場合もあります。
こうした違いが、相続の場面で「公平とは何か」という認識の違いにつながります。
親を介護した兄弟が多く相続すべきだと主張する
長期間にわたって親の介護や看護を担ってきた兄弟が、「自分は他の兄弟より多く相続すべきだ」と考えることがあります。
介護をしたという事実だけで当然に法定相続分が増えるわけではありませんが、一定の要件を満たす場合には寄与分が問題になることがあります。
ただし、介護の内容や期間、金銭的負担について兄弟間で認識が異なることも多いため、感情だけではなく、具体的な事情を整理して考えることが必要です。
生前の援助を理由に不公平だという主張が出る
兄弟の一人が親から住宅購入資金や学費、事業資金などの援助を受けていると、「すでに財産をもらっているのだから、今回の相続では少なくするべきだ」という意見が出ることがあります。
生前贈与の内容によっては特別受益として考慮される場合がありますが、親から受けた援助がすべて特別受益になるわけではありません。
いつ、何のために、どの程度の援助があったのかを確認したうえで判断する必要があります。
実家や土地など不動産の分け方で意見が対立する
遺産の中に実家や土地が含まれていると、兄弟間の調整が難しくなることがあります。
預貯金は金額に応じて分けやすい一方、不動産はそのまま兄弟の人数で均等に分けられるとは限りません。
一人は実家に住み続けたい、別の兄弟は売却して現金で受け取りたい、といったように希望が分かれることもあります。
不動産については、一人が取得する方法、売却して代金を分ける方法、共有する方法などがありますが、それぞれメリット・注意点があります。
特に共有名義にすると、将来売却や管理をするときにも共有者間で調整が必要になるため、その場だけではなく将来のことも考えて決めることが大切です。
兄弟本人以外の事情が話し合いに影響することもある
相続では、財産そのものとは別に、兄弟それぞれの家庭事情や過去の人間関係が影響することがあります。
兄弟それぞれの配偶者の意見が入ると話し合いがこじれやすい
行政書士として相続手続きに関わっていると、兄弟本人だけでなく、それぞれの配偶者の意見が間接的に加わるケースでは、話し合いがこじれやすいと感じることがあります。
たとえば、「介護をしてきたのだから多くもらうべき」「その分け方では不公平だ」といった配偶者の意見を受け、相続人本人の主張が強くなることがあります。
兄弟本人同士であれば調整できた内容でも、それぞれの家庭の事情や配偶者の考えが加わることで、話し合いが複雑になることがあります。
なお、相続人同士の見解の相違が大きくなり、紛争として解決が必要な段階になると、行政書士が仲裁や代理交渉を行うことはできません。当事務所でも、そのような案件について最終的な解決まで関与しているわけではありません。
あくまで行政書士として相続手続きに関わった範囲での実務上の印象ですが、配偶者の意見が間接的に加わるケースは、特に話し合いが難しくなりやすいと感じています。
話し合いに応じない・音信不通の兄弟がいる
兄弟の一人が遺産分割の話し合いに応じなかったり、長年音信不通になっていたりするケースもあります。
遺産分割協議は原則として相続人全員の合意が必要なため、その兄弟を除外して協議を成立させることはできません。
住所がわからない場合は戸籍の附票などから確認する必要があり、それでも所在がわからない場合には家庭裁判所での手続きが必要になることもあります。
一方、連絡は取れるものの意見が対立して合意できない場合は、単なる手続き上の問題ではなく、紛争としての対応を検討する段階になります。
④ 実際にあった事例|遺産の内容を十分に知らないまま遺産分割協議書に押印したケース

当事務所が実際に関わった相続の中で、今でも印象に残っている事例があります。
父親はすでに亡くなっており、その後、母親が亡くなったことで、兄・妹・弟の3人が相続人となりました。
母親は自宅不動産のほか、実家の農地も所有していました。
当事務所が依頼を受けたのは、妹と弟からの遺産分割協議書の作成業務です。依頼された内容に基づいて協議書を作成し、業務自体は通常どおり完了しました。
ところが、報酬を受領して業務が終了した後になって、兄には遺産の全体像が十分に伝えられておらず、妹と弟が中心となって相続手続きを進め、兄が十分な情報を持たないまま遺産分割協議書に押印していたことを知りました。
依頼を受けた時点では、当事務所はこうした事情を把握していませんでした。
しかし、結果として当事務所が作成した遺産分割協議書が、そのような状況で使われたことは、今でも後味の悪い仕事として記憶に残っています。
遺産分割協議書に押印する前に遺産の全体像を確認する
この事例から強く感じるのは、遺産分割協議書を作成する前に、まず相続人全員が遺産の全体像を確認することの重要性です。
遺産分割協議書には、「誰がどの財産を取得するのか」が記載されます。
しかし、そもそもどのような財産があるのかを十分に知らなければ、その分け方が自分にとって妥当なのかを判断することはできません。
特に、親と同居していた兄弟や、親の通帳・不動産関係の書類などを管理していた兄弟がいる場合は、相続人間で持っている情報に差が生じることがあります。
そのため、遺産分割協議を始める前に、預貯金や不動産などの財産を調査し、必要に応じて財産目録にまとめるなど、相続人全員が同じ情報を確認できる状態を整えておくことが大切です。
遺産分割協議書を作ること自体が目的ではない
遺産分割協議書は、相続人全員が合意した内容を書面に残すための重要な書類です。
一方で、書類を作成して署名・押印をそろえれば、それだけで適切な相続手続きになるわけではありません。
その前提として、誰が相続人なのか、どのような遺産があるのか、各相続人が内容を理解しているのかを確認したうえで、遺産分割の話し合いを進めることが重要です。
当事務所でも、この経験を踏まえ、単に遺産分割協議書を作成するだけではなく、その前提となる相続関係や財産の内容が適切に整理されているかを重視しています。
※実際の事例をもとに、個人が特定されないよう一部内容を変更しています。
⑤ 兄弟で親の遺産相続を進める基本的な流れ
兄弟で親の遺産を相続する場合は、いきなり遺産の分け方を話し合うのではなく、まず相続人と遺産の内容を確認することが大切です。
基本的には、次の流れで進めます。

戸籍を確認し、親の相続人になる子どもを確定します。前婚の子、認知した子、養子などがいないかも含めて確認します。
なお、親の子どもの一人が親より先に亡くなっている場合は、その子どもである孫が代わって相続人になる「代襲相続」が発生することがあります。詳しくは、「代襲相続とは?親の相続で兄弟が死亡している場合や遺言との関係を解説」をご覧ください。
親が遺言書を残している場合は、原則としてその内容を確認したうえで手続きを進めます。遺言書があるからといって、すぐに兄弟だけで分け方を決めてよいとは限りません。
預貯金、不動産、有価証券、自動車などのプラスの財産だけでなく、借金や未払金などの負債も確認します。
調査した財産を一覧にまとめることで、兄弟全員が遺産の全体像を把握しやすくなります。財産情報の偏りを防ぐうえでも有効です。
遺言書で分け方が決まっていない財産について、相続人全員で誰がどの財産を取得するのかを話し合います。
話し合いがまとまったら、その内容を書面にします。協議書を作成する前に、相続人全員が内容を十分に理解していることが重要です。
遺産分割協議書などをもとに、不動産の相続登記や預貯金の解約・払戻し、各種名義変更を進めます。
兄弟間の相続では、遺産分割協議そのものよりも、その前段階である「相続人の確認」と「遺産の把握」が重要です。ここが曖昧なまま話し合いを進めると、後になって別の相続人や財産が判明し、協議をやり直すことにもなりかねません。
⑥ 兄弟間の相続トラブルを防ぐために重要なこと
兄弟間の相続トラブルを防ぐためには、話し合いのテクニックよりも、その前提となる情報を正確にそろえることが重要です。
特に、相続人や遺産の内容が曖昧なまま遺産分割協議を始めると、後から「知らない財産があった」「別の相続人がいた」といった問題につながることがあります。
戸籍を確認して相続人を正確に確定する
まず確認したいのが、誰が相続人になるのかという点です。
親の相続では、兄弟姉妹は「亡くなった親の子ども」として相続人になります。
普段から付き合いのある兄弟だけで判断せず、戸籍を確認して、前婚の子、認知された子、養子なども含めて相続関係を確定する必要があります。
養子や連れ子など、家族関係によって相続権があるか判断に迷う場合は、「養子・連れ子・胎児に相続権はある?相続分や婿養子との違いも解説」で詳しく解説しています。
相続人を一人でも除いた遺産分割協議は成立しないため、最初の段階で正確に確認しておくことが大切です。
遺産を調査して財産目録を作成する
次に重要なのが、親がどのような財産を残しているのかを確認することです。
預貯金や不動産、有価証券などの財産だけでなく、借入金や未払金などの負債についても調査します。
そして、判明した財産を財産目録として一覧にしておくと、兄弟全員が遺産の全体像を確認しやすくなります。
特に、一部の兄弟だけが親の財産を管理していた場合には、財産目録を作成することで情報の偏りを小さくできます。
相続人全員が同じ財産情報を確認してから話し合う

財産を調査しただけでは十分ではありません。
重要なのは、その内容を相続人全員が確認できる状態にすることです。
一部の兄弟だけが通帳や不動産の情報を持ち、他の兄弟には分け方だけが示される状態では、納得して遺産分割協議を行うことが難しくなります。
遺産の内容を共有したうえで、「誰が何を取得するのか」を話し合うことが、兄弟間の不信感を防ぐうえでも重要です。
合意した内容を遺産分割協議書にまとめる
兄弟全員で分け方について合意できたら、その内容を遺産分割協議書として書面にまとめます。
口頭だけで合意していると、後になって「そのような話はしていない」「認識していた内容と違う」といった問題になることがあります。
誰がどの財産を取得するのかを具体的に記載し、相続人全員が内容を確認したうえで署名・押印することが大切です。
当事務所では誰かが不利益を受けるおそれのある業務は極力受任しない
行政書士の業務は、遺産分割協議書という書類を作成することだけではないと当事務所では考えています。
先ほど紹介した事例のように、相続人の一人が十分な財産情報を知らないまま協議書に押印してしまえば、形式上は書類が完成していても、後味のよい相続手続きとはいえません。
そのため当事務所では、相続人や遺産の内容が十分に確認されていない場合や、関与することで誰かが不利益を受けるおそれがあると判断した場合には、事情を確認し、必要に応じて業務をお受けしないこともあります。
遺産分割協議書を作ること自体がゴールではありません。
相続人を正確に確認し、遺産の内容を整理し、相続人全員が必要な情報を把握したうえで手続きを進めることが、結果として兄弟間のトラブルを防ぐことにつながります。
⑦ 兄弟で遺産分割の話し合いがまとまらない場合
兄弟で親の遺産について話し合っても、どうしても意見が一致しないことがあります。
不動産を誰が取得するのか、介護の負担をどこまで考慮するのか、生前贈与をどう扱うのかなど、見解の違いが大きくなると、当事者同士だけでは解決が難しくなることもあります。
その場合は、無理に遺産分割協議書を作成しようとせず、現在どこで意見が分かれているのかを整理することが重要です。
まずは争点を整理する
話し合いがまとまらない場合は、「兄弟仲が悪い」という形で捉えるのではなく、何について合意できていないのかを具体的に整理します。
たとえば、
- 遺産の範囲に争いがある
- 親の預金を一人の兄弟が使っていた
- 介護への貢献をどこまで考慮するか意見が違う
- 生前贈与の有無や金額について認識が異なる
- 実家を誰が取得するか決まらない
といったように、問題となっている点によって対応も変わります。
単に「遺産分割がまとまらない」と考えるのではなく、どこまで事実関係が確認できていて、どの点について見解が異なるのかを分けて整理することが大切です。
行政書士が兄弟間の争いを仲裁することはできない
行政書士は、相続人調査や財産関係の資料整理、遺産分割協議書の作成などを行うことができます。
一方で、兄弟間ですでに見解の相違が生じている場合に、どちらか一方の代理人として交渉したり、両者の間に入って紛争を解決したりすることはできません。
たとえば、「兄が使った預金を返してほしい」「自分にはもっと多く相続する権利がある」といった主張について、行政書士が相手方と交渉して解決することはできません。
行政書士へ相談する場合でも、手続きの整理を依頼する段階なのか、すでに法律上の紛争になっているのかを見極める必要があります。
話し合いで解決できない場合は遺産分割調停を検討する
相続人同士の話し合いで遺産分割がまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用する方法があります。
遺産分割調停では、裁判官や調停委員を介して、相続人それぞれの事情や主張を確認しながら合意を目指します。
相続人の一人が話し合いに応じない場合や、不動産の分け方などについて意見が大きく異なる場合にも検討される手続きです。
ただし、調停になれば自分の希望どおりの分け方が実現するとは限りません。合意ができず審判に移行した場合には、法定相続分などを基準として裁判所が分け方を判断することになります。
その結果、誰も取得を希望しない実家や土地について、売却して代金を分ける方向になることもあります。
特に、交通の便が悪い地域や需要の少ない土地では、思っていた価格では売れず、売却まで長期間かかることもあります。状況によっては、当初想定していた金額を大きく下回る価格でなければ買い手が見つからないこともあります。
当事務所が関わった案件でも、立地や需要によっては、当初想定していた価格を大きく下回る金額でなければ、売却が難しいケースもあります。
そのため、兄弟間で話し合いができる段階であれば、単に法定相続分だけを見るのではなく、実家を残したいのか、売却するのか、誰かが取得して他の兄弟に代償金を支払うのかなど、将来の処分方法まで含めて検討することが大切です。
紛争になっている場合は弁護士への相談を検討する
すでに兄弟間で主張が対立している場合や、相手方との交渉が必要な場合は、弁護士への相談を検討します。
特に、使い込まれた遺産の返還を求めたい場合、遺産分割協議の有効性について争いがある場合、寄与分や特別受益について主張が対立している場合などは、法律上の判断が必要になることがあります。
相続手続きは、最初からすべてが紛争になるわけではありません。
しかし、意見の違いが明確になった段階で無理に書類作成だけを進めると、かえって問題が複雑になることがあります。
「手続きを進めるための整理」と「紛争を解決するための対応」は別のものとして考え、状況に応じて適切な専門家へ相談することが大切です。
⑧ 兄弟の遺産相続でよくある質問
兄弟で親の遺産を相続する場合によくある疑問をまとめます。
Q:兄弟の一人が勝手に相続を進めることはできる?
遺産分割が必要な財産について、一部の兄弟だけで自由に分け方を決めることはできません。
遺産分割協議を行う場合は、原則として相続人全員の合意が必要です。
ただし、「勝手に相続を進めた」と感じる場合でも、実際に行われた手続きによって法律上の扱いは異なります。
預金の払戻し、不動産に関する手続き、遺産分割協議書への署名・押印など、何が行われたのかを具体的に確認することが重要です。
Q:兄弟の一人が親の遺産を使っていた場合はどうなる?
まず、親が亡くなる前に使われたのか、亡くなった後に使われたのかを確認する必要があります。
また、葬儀費用や親の未払金などのために支出した場合と、個人的な目的で使用した場合でも事情が異なります。
通帳の取引履歴などを確認し、いつ、いくら、何のために使われたのかを整理することが必要です。
返還請求などをめぐって兄弟間で主張が対立している場合は、行政書士が仲裁や代理交渉をすることはできないため、弁護士への相談を検討します。
Q:兄弟の一人が話し合いに応じない場合は?
遺産分割協議は原則として相続人全員の合意が必要なため、一人が話し合いに応じないからといって、その人を除外して協議を成立させることはできません。
連絡をしても協議に応じない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用する方法があります。
無理に署名や押印を求めるのではなく、何について意見が一致していないのかを整理することが大切です。
Q:音信不通の兄弟がいる場合でも遺産分割できる?
音信不通だからという理由だけで、その兄弟を除外することはできません。
まずは戸籍の附票などを取得し、現在の住所を確認します。
それでも所在が確認できない場合などには、状況に応じて不在者財産管理人など家庭裁判所での手続きが必要になることがあります。
Q:親を介護した兄弟は多く相続できる?
介護をしたという理由だけで、当然に相続分が増えるわけではありません。
ただし、通常期待される範囲を超えて親の療養看護などに貢献し、親の財産の維持や増加に特別な寄与をしたと認められる場合には、寄与分が問題になることがあります。
また、兄弟全員が合意すれば、介護を担った兄弟が多く取得する内容で遺産分割をすることも可能です。
Q:兄弟で必ず均等に遺産を分ける必要がある?
必ず均等に分けなければならないわけではありません。
法定相続分は法律上の基準となる割合ですが、相続人全員が合意すれば、それとは異なる割合で遺産を分けることもできます。
たとえば、一人が実家を取得し、他の兄弟が預貯金を取得するなど、財産の種類や家庭事情に応じて分け方を決めることも可能です。
重要なのは、一部の兄弟だけで決めるのではなく、遺産の内容を確認したうえで相続人全員が納得して合意することです。
⑨ まとめ
親の遺産を兄弟で相続する場合は、法定相続分だけを確認して分け方を決めればよいわけではありません。
兄弟ごとに親との関わり方や介護の負担、生前に受けた援助、財産について把握している情報が異なるため、それぞれが考える「公平」に差が生じることがあります。
特に注意したいのが、一部の兄弟だけが財産の内容を詳しく把握している状態で遺産分割を進めることです。
遺産の全体像を十分に知らないまま遺産分割協議書へ署名・押印してしまうと、後になって「聞いていなかった財産があった」「この内容なら合意しなかった」といった問題につながる可能性があります。
兄弟で親の遺産相続を進める際は、
- 戸籍を確認して相続人を正確に確定する
- 預貯金や不動産などの遺産を調査する
- 財産目録などを作成し、相続人全員で情報を共有する
- そのうえで遺産の分け方を話し合う
- 合意した内容を遺産分割協議書として残す
という順序を意識することが大切です。
遺産分割協議書は重要な書類ですが、遺産分割協議書を作ること自体がゴールではありません。
その前提となる相続人や財産の内容を正確に確認し、相続人全員が必要な情報を把握したうえで合意することが、兄弟間の相続トラブルを防ぐためにも重要です。
一方で、すでに兄弟間で見解の相違が生じ、財産の返還や相続分などをめぐって争いになっている場合は、行政書士が仲裁や代理交渉を行うことはできません。そのような場合は、家庭裁判所の遺産分割調停や弁護士への相談を検討する必要があります。
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