遺言と法定相続分は、相続手続きにおいて重要な役割を果たします。それぞれの概念や違い、活用法を正しく理解することで、相続トラブルを回避し、スムーズな手続きが可能になります。本記事では、遺言と法定相続分の関係性について、基本的な知識から実際の手続き方法まで詳しく解説します。
目次
遺言とは?法定相続分との関係を理解する
遺言の基本
遺言とは、遺言者(故人)が自らの財産をどのように分配するかを指定した意思表示です。法律で定められた形式に従って作成された遺言書には法的効力があり、相続手続きにおいて優先されます。
遺言の形式には以下の3種類があります。
- 自筆証書遺言:本人が全文を手書きするもの
- 公正証書遺言:公証人の関与で作成されるもの
- 秘密証書遺言:内容を秘密にして公証人に証明を受けるもの
法定相続分とは?
一方、法定相続分とは、民法で定められた相続人ごとの遺産の取り分です。この人たちのことを法定相続人と呼びます。被相続人が遺言を残さなかった場合に適用される基準で、以下の割合が規定されています。

配偶者だけの場合 | すべて配偶者 |
配偶者と子供がいる場合 | 配偶者1/2、子供1/2(人数で均等割) |
配偶者と直系尊属(父母)がいる場合 | 配偶者2/3、直系尊属1/3(人数で均等割) |
配偶者と兄弟姉妹がいる場合 | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(人数で均等割) |
遺言がある場合でも、遺留分(最低限保証された取り分)が確保されます。
遺言と法定相続分:どちらが優先されるのか?
遺言が優先される原則
遺言が法定相続分に優先する理由は、被相続人の最終的な意思が尊重されるためです。遺言が適法に作成されている場合、その内容に基づいて遺産分割が行われます。
例: 遺産総額が3,000万円で、法定相続分が配偶者1/2、子供1/2の場合でも、遺言で「配偶者に2,000万円、子供に1,000万円」と指定されていれば、その内容が適用されます。
遺留分の考慮
法定相続人には遺留分が認められています。この遺留分の割合は、法定相続分の1/2という決まりになっています。遺留分を侵害する遺言は無効ではないものの、遺留分を請求する権利(遺留分侵害額請求)が発生します。
配偶者、子供 | 遺産全体の1/2 |
直系尊属のみ | 遺産全体の1/3 |
法定相続分は兄弟姉妹に存在しますが、遺留分の対象になっていないことには注意が必要です。
遺言を活用するメリット
遺言を作成することで、被相続人の意思を明確に伝えることができます。以下は遺言を作成する主なメリットです。
1. 相続トラブルを回避できる
法定相続分だけでは、相続人間で意見が対立しやすい場面があります。遺言があれば、被相続人の意向に基づいて公平な分配が行えます。
2. 特定の相続人を優遇できる
例えば、介護や生活費の負担を負った相続人に多くの財産を遺すことで、その貢献を評価できます。
3. 家族以外への財産分配も可能
法定相続分では血族の一部に限定されますが、遺言を使えば友人や慈善団体に財産を遺すことも可能です。
遺言書作成の注意点
1. 法的要件を満たすこと
遺言書が法的に無効とされることを防ぐため、法律で定められた形式に従って作成しましょう。特に自筆証書遺言では、日付や署名、押印が必要です。
2. 公証人の活用
公正証書遺言は、作成時に公証人が関与するため、形式不備による無効リスクが最も低い方法です。
3. 遺留分への配慮
遺言書を作成する際には、遺留分を侵害しない範囲で内容を検討することが重要です。
法定相続分を理解する際のポイント
1. 法定相続人の範囲を確認
「法定相続人」は配偶者が必ず含まれ、他には子供、直系尊属、兄弟姉妹が該当します。法定相続人の範囲を確定することで、法定相続分を正しく計算できます。
2. 法定相続人ではない相続人の存在
遺言者が、遺書の中で自分の遺産を分けたい人を指名していたら、その人は法定相続人でなくとも、遺産を受け取ることができます。この人を「相続人」といいます。
3. 財産の分割方法
法定相続分に従った分割を行う際、現金、土地、不動産などさまざまな資産の性質を考慮する必要があります。
遺言や法定相続分に関するよくある質問
Q1. 遺言書があっても法定相続分に従う必要がありますか?
遺言書がある場合は、原則として遺言内容が優先されます。ただし、遺留分が侵害される場合には、相続人から請求が行われる可能性があります。
Q2. 遺言書がない場合、相続人間で合意があれば法定相続分を無視できますか?
相続人全員の同意がある場合には、法定相続分にとらわれず自由に分割することが可能です。
Q3. 自筆証書遺言はどこに保管すればいいですか?
安全性と相続手続きの円滑化のため、法務局の「自筆証書遺言保管制度」を利用することが推奨されます。
まとめ:遺言と法定相続分を賢く活用しよう
遺言と法定相続分は、相続を円滑に進めるために欠かせない要素です。遺言を活用すれば、被相続人の意思を明確に伝え、相続人間のトラブルを防ぐことができます。一方で、法定相続分は遺言がない場合の指針となり、相続人の公平を図る基準です。
相続手続きをスムーズに進めるためには、事前に遺言書を作成し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが重要です。今後の円滑な相続のために、ぜひこの記事を参考に遺言と法定相続分の知識を深めてください。