親の借金も相続される?負債相続の対処法と放棄の方法を解説

親や配偶者など大切な家族が亡くなった後、残された家族にのしかかるのが「相続」の問題です。相続といえば遺産や財産の分配を思い浮かべる方が多いですが、実は借金や未払いローン、保証債務といった「負債」も相続の対象になります。

「まさか自分が親の借金まで背負うなんて…」と戸惑う人は少なくありません。しかも、相続の方法を間違えれば知らないうちに借金を受け継いでしまう危険性すらあるのです。

この記事では、親などの身内の負債が相続される仕組みや法律的な根拠、借金を相続しないための「相続放棄」や「限定承認」といった制度の活用法、さらによくあるトラブルの実例と回避策を網羅的に解説します。

負債相続を避けたい人、トラブルを未然に防ぎたい人、専門家の助けを借りるか迷っている人へ向けて完全ガイドをお届けします。

目次

1. 親の負債は相続されるのか?基本ルールを知ろう

1-1. 相続の対象になる財産とは?

相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産上の一切の権利と義務を、法律で定められた相続人が引き継ぐことを意味します。民法896条では、相続人は被相続人の「一切の権利義務を承継する」とされており、現金・不動産・株式などのプラスの財産だけでなく、借金・未払い金・損害賠償責任などのマイナスの財産(負債)もすべて含まれるとされています。

1-2. 具体的な負債の例

被相続人が残した負債には以下のようなものが該当します。

  • 消費者金融・銀行・クレジット会社からの借入
  • 住宅ローン・自動車ローン・教育ローン
  • クレジットカード利用残高
  • 携帯端末の分割払い残高
  • 滞納していた税金や公共料金
  • 個人間の借用書による貸し借り
  • 連帯保証人としての債務責任

1-3. 複数の相続人がいる場合の負債の扱い

相続人が複数いる場合は、法定相続分に応じて負債も分割して相続されます。例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者が1/2、子どもたちが1/4ずつ負債を受け継ぐことになります。ただし、これを避けたい場合には「相続放棄」や「限定承認」といった選択肢を検討することが重要です。

2. 相続放棄とは?負債を背負わないための最も確実な方法

2-1. 相続放棄の仕組み

相続放棄とは、被相続人の財産(プラスもマイナスも含む)を一切相続しないという意思表示を家庭裁判所に提出する手続きです。相続放棄をすれば、相続人ではなかったことになります。そのため、借金の相続を完全に免れる唯一の制度といえます。

2-2. 相続放棄の申請方法と期限

相続放棄を行うには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出する必要があります。提出には以下の書類が必要です。

  • 相続放棄申述書(裁判所指定の様式)
  • 申述人と被相続人の戸籍謄本
  • 収入印紙(800円分)
  • 送付用の切手(裁判所によって異なる)

この申立ては、相続の開始を知った日から3か月以内に行う必要があります。期限を過ぎると原則として放棄は認められません。

2-3. 相続放棄後の注意点

相続放棄後に、うっかり故人の財産(たとえば預金)を引き出したり、不動産の名義を変更したりすると「単純承認した」と見なされてしまい、放棄が認められない可能性があります。放棄の手続きが完了するまで一切の財産に手を付けないことが重要です。

2-4. 他の相続人への影響

相続放棄をすると、次順位の相続人(たとえば兄弟や甥姪)に相続権が移ります。その結果、負債の請求がそちらへ行く可能性があるため、家族間で情報共有することが大切です。しまうと、家庭裁判所に「相続の意思あり」と判断され、放棄が認められなくなる可能性があります。

3. 限定承認という選択肢|資産と負債を比較して判断する方法

3-1. 限定承認とは何か?

相続には「単純承認」「相続放棄」と並び、もうひとつ「限定承認」という選択肢があります。

限定承認とは、相続した財産の範囲内でのみ、負債を返済するという制度です。つまり、プラスの遺産の額を上限としてマイナスの遺産(借金)を引き受けるというものです。

たとえば、被相続人が300万円の預金と500万円の借金を残して亡くなった場合、単純承認すれば差額200万円の赤字を相続人が補填する必要がありますが、限定承認なら300万円を上限として負債を返済すればよく、差額の200万円は支払わなくて済むのです。

3-2. 限定承認が向いているケース

限定承認は以下のようなケースで有効です。

  • 遺産にプラスとマイナスが混在していて、実態が不明
  • 家や土地など、どうしても手放したくない財産がある
  • 相続放棄するとデメリットが大きい(例:事業継続)

限定承認を選ぶことで、プラスの財産を残しつつ、負債のリスクを最小限に抑えることが可能になります。

3-3. 限定承認の手続きの流れと注意点

限定承認も相続開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。
このとき注意すべき点は以下の3点です。

  1. 相続人全員の合意が必要
     1人でも反対する相続人がいると手続きができません。
  2. 遺産目録の作成が必要
     財産と負債の一覧を作成して提出しなければなりません。
  3. 手続きが煩雑で専門家の助けが必要
     清算報告書の作成や債権者への公告など、相当の事務処理が求められます。

また、限定承認後に相続財産を売却して債務を清算する場合、譲渡所得税が発生する可能性があるため、税理士と連携することが望ましいです。

4. 相続放棄や限定承認が認められないケースとリスク

4-1. 「単純承認」とみなされる行動に注意

相続放棄や限定承認を希望していても、以下のような行動をしてしまうと「単純承認した」とみなされてしまうことがあります。

  • 被相続人の預金を引き出す
  • 不動産の管理や売却を行う
  • 借金の一部を支払う

このような行為をすると、放棄や限定承認が一切認められなくなる可能性があるため、手続き完了までは絶対に財産に手を付けないよう注意が必要です。

4-2. ほかの相続人に負債が集中するリスク

ある相続人が放棄し、他の相続人が単純承認してしまった場合、負債は承認した相続人がすべて引き継ぐことになります。
これにより、家族間の不信感やトラブルが生まれることもあるため、事前に親族全員で対応方針を共有することが望ましいです。

4-3. 相続債権者(借金取り)からの請求とその対応

債権者からの請求が届いた場合でも、相続放棄をしたことを証明する書類(家庭裁判所の受理通知書など)を提示すれば、請求は止まるのが一般的です。

ただし、債権者が強硬に取り立ててくるケースもあるため、その際は速やかに弁護士など専門家へ相談しましょう。

5. 家族に借金があるか確認するには?調査方法と注意点

「うちの親に借金なんてあるはずがない」と思っていても、実は内緒で借金を抱えていたというケースは少なくありません。
相続をめぐるトラブルを避けるためには、被相続人が生前または死後に、どのような借金を抱えていたのかを客観的に確認することが非常に重要です。

5-1. 信用情報機関への照会

借金の履歴は、以下の信用情報機関に記録されています。

  • CIC(株式会社シー・アイ・シー):クレジットカード・信販系
  • JICC(日本信用情報機構):消費者金融系
  • KSC(全国銀行個人信用情報センター):銀行・保証協会系

相続人であれば、被相続人の死亡証明書や戸籍、相続関係がわかる書類を提出することで、代理で開示請求が可能です。

5-2. 郵送物や書類からのチェック

信用情報機関への照会と並行して、以下のような遺品・書類を確認しましょう。

  • 請求書、督促状、支払明細
  • ローン契約書、借用書、保証契約書
  • クレジットカード会社や金融機関からの封筒

とくに自宅に届いたまま放置されている郵送物や、通帳の引き落とし履歴などもチェックすべき重要情報です。

5-3. 確認できなかった場合はどうする?

確認できなかった場合でも、相続放棄や限定承認を検討することは可能です。とくに、資産よりも負債が多い可能性がわずかでもあるなら、限定承認が有効です。
なお、債権者からの連絡がないまま3か月が経過すると、単純承認と見なされる恐れもあるため、期限管理も徹底しましょう。

6. 実際のトラブル事例から学ぶ「負債相続」の落とし穴

6-1. 父親の借金を知らずに自己破産へ追い込まれた事例

Aさんの父親が亡くなったあと、Aさんは遺産分割協議を済ませ、形見分けとして実家を受け継ぎました。ところが数カ月後、消費者金融から500万円の借金返済の督促が届きました。

Aさんは相続放棄も限定承認もしておらず、既に父の財産を使っていたため、単純承認したと判断され、借金返済の義務を負うことに
支払い能力がなく、結果として自己破産を余儀なくされました。

このように、「借金なんてないだろう」と思い込んでいたばかりに、重大な結果を招くことがあるのです。

6-2. 相続放棄の連絡不足で兄弟が揉めた事例

B家では、長男が父の負債を理由に相続放棄を行いましたが、次男・三男にはその情報が共有されていませんでした。
その結果、放棄をしていない弟たちに債権者からの督促が届き、大混乱に。最終的には家庭裁判所に説明と対応を求めることとなりました。

相続放棄は個人単位で行われるため、家族全体での意思疎通が非常に重要です。

6-3. 限定承認を知らず損をした事例

Cさんは、父が残したマンションと車、現金を相続。しかし、その後に知られざる保証債務が発覚し、被相続人が知人の借金の連帯保証人になっていたことが判明しました。

Cさんは既にマンションの名義変更を終えていたため、単純承認と見なされ、約800万円の保証債務を肩代わりすることに。
このような事態を防ぐためにも、「限定承認」という制度を知っておくことが重要です。

7. 相続対策として生前にできること

将来、相続人が負債で困らないようにするためには、被相続人となる可能性のある人が、生前から準備をしておくことが非常に有効です。

7-1. 借金の見える化と整理

まずは、自身の借金を一覧にして整理することから始めましょう。ローンの内容や借入先、返済状況を明確にし、必要であれば一本化(おまとめローン)や債務整理を検討します。

また、借用書や契約書はすぐに見つかるよう保管場所を決め、家族に伝えておくことが重要です。

7-2. 遺言書による意思表示

借金を誰に相続させるかを遺言書で明記することは可能です。ただし、法的には相続人全員に対して等しく債務が分配されるため、完全に拘束力のあるものではありません。

それでも、家族が遺産分割協議を行う際の指針や意思表示として活用できます。

7-3. 生命保険の活用

被相続人が生命保険に加入しておくことで、万が一の借金に対する返済原資を準備することができます。
生命保険の受取人を法定相続人とすることで、500万円×法定相続人の非課税枠も活用でき、節税効果も期待できます。

8. 負債相続で困ったら|行政書士・弁護士に相談を

8-1. 専門家に依頼するメリット

負債相続のようなデリケートな問題は、法律・制度・手続きが複雑なだけでなく、感情的な衝突を招くことも少なくありません。

行政書士や弁護士などの専門家に相談することで、以下のようなメリットがあります:

  • 期限管理の徹底:相続放棄や限定承認の「3か月ルール」を適切に管理
  • 正確な書類作成:裁判所の基準を満たす申述書や添付資料の作成
  • 家族間トラブルの予防:他の相続人への説明や調整のサポート
  • 債権者対応:督促への対応や通知書類の作成を代行

「間違いのない手続きをしたい」「精神的な負担を軽くしたい」と考えている方には、専門家のサポートは非常に有効です。

8-2. 行政書士と弁護士の役割の違い

専門家主な業務特徴
行政書士相続放棄申述書の作成、戸籍収集、手続き代行(裁判所提出は不可)手続き全般に強く、費用が比較的安価
弁護士債権者との交渉、裁判対応、相続トラブルの代理人法的紛争に対応可能、費用はやや高め

行政書士は書類作成と手続きサポートのプロ。一方で、弁護士は交渉や裁判の専門家です。
状況に応じて、どちらに相談すべきか判断しましょう。

8-3. 相談時に準備しておくと良い情報

専門家に相談する際は、以下の情報があるとスムーズです。

  • 被相続人の戸籍謄本・死亡診断書
  • 相続人全員の関係図(家系図)
  • 負債が疑われる資料(借用書、督促状、通帳など)
  • 遺産の概要(不動産、預金、保険など)

これらの資料が揃っていれば、専門家はより正確にリスクを評価し、最適なアドバイスを提供してくれます。

9. 【Q&A】負債相続に関するよくある質問

9-1. Q:親に借金があるかわからない場合、相続放棄はできる?

A:できます。
たとえ借金の存在が不明でも、「将来的に多額の負債が判明するかもしれない」という懸念がある場合には、相続放棄や限定承認を選択することが可能です。とくに、負債の有無が不透明なときは、限定承認が有効な手段です。

ただし、どちらも相続を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があるため、早めの対応が必要です。

9-2. Q:相続放棄したのに債権者から督促状が届きました。どうすればいい?

A:放棄を証明する書類を提示しましょう。
相続放棄が家庭裁判所に受理された場合、**「相続放棄申述受理通知書」**という書類が交付されます。これをコピーして債権者に送付すれば、通常は督促が止まります。

それでも支払いを強要されたり、強引な取り立てが続く場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

9-3. Q:兄が相続放棄したと聞きました。私は何かしないといけませんか?

A:自分が相続人となる可能性があるため、判断が必要です。
上位の相続人が放棄すると、次順位の人(たとえば兄弟姉妹、甥姪など)が相続人になることがあります。何もせず放置してしまうと、「単純承認」と判断されるリスクがあるため、自分も放棄するか検討しましょう。

9-4. Q:保証人としての責任も相続される?

A:はい、相続されます。
被相続人が誰かの保証人になっていた場合、その保証債務も相続対象となります。これを避けたい場合も、相続放棄または限定承認を行う必要があります。

保証人関係は債権者から明かされないことも多いため、信用情報機関への開示請求や調査が重要です。

9-5. Q:放棄や限定承認の手続きは自分でできますか?

A:可能ですが、専門的な知識が必要です。
裁判所の書類作成や添付書類の収集には、一定の法的知識が求められます。不備があると却下される恐れもあるため、行政書士や弁護士などの専門家に依頼することが安心です。

まとめ:負債相続のリスクは「知識」と「準備」で回避できる

借金や保証債務などの負債も、相続の対象となります。
しかし、相続放棄や限定承認といった制度を正しく理解し、適切に対処すれば、思わぬ借金を背負うリスクを防ぐことができます。

相続問題は一人で悩まず、早めに調査・判断・専門家相談という3つのステップを踏むことが肝心です。