【完全ガイド】有価証券の相続|株・投資信託・手続き・税金・トラブル対策まで

目次

はじめに

有価証券の相続というと、どこか自分には関係ない話に思えるかもしれません。

けれど実際には、ご両親が証券口座を持っている方、投資信託や株式を保有しているご家庭にとって、有価証券の相続は避けて通れない重要なテーマです。

不動産ほどではありませんが、相続財産の中でも「分けにくい」財産の一つです。また、「評価しづらい」「感情的に揉めやすい」という三重苦を抱えるのが有価証券です。

たとえば、「お兄さんだけが優良株を相続して不公平」「株価が下がって想定より税額が低くならなかった」など、遺産の分け方や評価額を巡るトラブルが後を絶ちません。

そして、いざ相続が発生してからでは、選択肢が限られてしまうのも現実です。

名義変更の手続きに必要な書類が揃わなかったり、証券会社によって対応がバラバラだったりと、慣れていない方には大きな負担となるでしょう。

この記事では、そんな「有価証券の相続」にまつわる基本から実務、さらにトラブル回避や節税のポイントまでを網羅的に・わかりやすく解説します。

  • 有価証券にはどんな種類があるのか?
  • 相続の流れの中で、どこがつまずきやすいのか?
  • 税金対策として何をしておけばいいのか?
  • トラブルを避けるために、今できる準備とは?

さらに、実際に多く寄せられるQ&Aや、行政書士としての専門的な視点も交えながら、
「これで安心」と思えるような一歩をサポートします。

家族が揉めないために。
そして、ご自身や親御さんの資産を大切に活かすために。
相続の準備は、今からでも決して遅くありません。

第1章:そもそも「有価証券」とは?相続対象になるのはどれ?

相続において「有価証券」と聞いても、ピンとこない方も少なくありません。
けれど実際には、多くの家庭に該当する可能性がある資産カテゴリです。

まずは、有価証券とは何か、相続対象となるものにはどのような種類があるのかを理解しておきましょう。

有価証券とは?

有価証券とは、「財産的な価値を持ち、その証券自体が権利を表すもの」を指します。

具体的には以下のようなものがあります。

  • 株式(上場株・非上場株)
  • 投資信託
  • 債券(国債・地方債・社債など)
  • 証券化商品(REIT等)
  • 小切手・約束手形(相続対象になり得るがやや特殊)

日常的に証券口座を通じて売買されている金融商品も、これらに該当します。

つまり、「親がネット証券で株をやっている」「信託銀行に投資信託を預けている」という状況であれば、それらはすべて相続財産になるのです。

相続対象になる有価証券の例

種類内容と相続上のポイント
上場株式相続評価が明確。価格変動に注意。名義変更は比較的スムーズ
非上場株式評価が難しい。中小企業経営者の場合は要注意。税理士と連携が必須
投資信託証券会社・信託銀行で管理。評価額や分配金も相続対象
債券国債や社債など。償還日や利息の取り扱いに注意
ETF/REITなど上場株式に準じた扱いになることが多いが、証券会社ごとの手続きが異なる

現物保管 vs 証券口座

かつては「株券を紙で保管する」という時代がありましたが、現在はほぼすべての取引が電子化されています。

証券会社や信託銀行に開設した口座の中で管理されているため、「どの証券会社に、どんな口座があるのか」を正確に把握しておくことが重要です。

ただし、以下のようなパターンには注意が必要です。

  • 古い株券を物理的に保管していたケース(特に高齢者の場合)
  • 証券口座が複数あり、家族が把握していないケース
  • ネット証券のみ利用していたが、ID・パスワードが不明なケース

これらの情報がわからないまま相続が発生すると、資産の把握・名義変更が困難になります。

有価証券は「揉めやすく、手間もかかる」

現金や不動産と比べて、有価証券は「価値が変動する」「分けにくい」「誰が持つかで将来の利益に差が出る」ため、相続トラブルの温床になりがちです。

だからこそ、早めに家族で情報共有し、遺言書などで明確にしておくことが大切なのです。

証券は、証券そのものに価値がある「有価証券」と、証券そのものには価値のない「証拠証券」に分類されます。

有価証券は、その証券の持つ財産的権利を小口に分けたり、譲渡したりできるのが特徴です。

「証拠証券」の具体例としては、レシートや預り証の他、保険証書、預金証書、借用証書、領収書、預金通帳などがあります。

第2章:相続の基本の“き”〜法定相続・遺言・遺産分割協議〜

有価証券の相続について深く理解するには、まず相続そのものの基本ルールを知っておく必要があります。

誰が相続人になるのか、どうやって財産を分けるのか。

そして、遺言書の有無が相続の流れをどう変えるのかを押さえておきましょう。

誰が「相続人」になるのか?法定相続のルール

相続が発生したとき、自動的に「この人が相続人です」と法律で決められている仕組みが法定相続です。

主な相続人の順位は以下の通りです。

優先順位相続人内容
第1順位配偶者+子ども配偶者は常に相続人。子が複数いる場合は等分
第2順位配偶者+父母など子どもがいない場合。父母が健在なら相続人に
第3順位配偶者+兄弟姉妹子・親がいない場合。兄弟姉妹が相続人に

配偶者は常に相続人になります。その他の相続人は、状況によって変わります。

法定相続分の基本

財産の分け方も法律で定められています(法定相続分)。

例:配偶者+子ども2人の場合
→ 配偶者:1/2、子ども2人:各1/4ずつ

ただし、この「法定通り」に分けるかどうかは、相続人同士の遺産分割協議で自由に決められます。
つまり、話し合いがつけば法定相続分通りでなくてもよい、というわけです。

「遺言書」がある場合はどうなる?

ここで重要なのが遺言書の有無です。

遺言書がある場合、基本的には遺言の内容が最優先されます。

つまり、被相続人(亡くなった方)が「株式は長男に、投資信託は配偶者に」などと明確に記していれば、その通りに相続が進むのです。

ただし、遺言があっても無条件にすべてが決まるわけではありません。
次のようなケースでは注意が必要です。

  • 遺留分侵害:他の相続人の取り分が極端に少ないとき
  • 無効な遺言書:形式不備や偽造など

行政書士の視点
法的に有効な遺言書の作成は、専門家のサポートを受けるのが安心です。
また、自分にとって都合のよくない遺言書が見つかると、隠蔽されてしまうこともよくあります。

「分けにくい財産」=トラブルの原因に

現金や預金と違って、有価証券のような財産は分けにくいことが特徴です。

  • 株式を誰が持つかで将来的な配当・値上がりに差が出る
  • 投資信託は途中売却すると損失が出ることもある
  • 「換金せず現物で分けたい」派と「早く現金化したい」派で対立

このように、有価証券は法定相続や遺言だけではうまく解決できないケースも多いのです。

遺産分割協議の注意点

遺産分割協議では、相続人全員の同意が必要です。
誰か1人でも反対すると、分割は成立しません。

とくに有価証券のように金額が変動する資産は、「いまの価格で合意するかどうか」が難しいポイントになります。

だからこそ、相続発生前の合意形成や遺言書の作成が重要です。

第3章:実録トラブル事例!有価証券相続のよくある落とし穴

有価証券の相続は、単に「財産を分ける」だけでは済みません。

金額の変動性・換金の難しさ・感情的対立などが重なり、トラブルに発展するケースが非常に多く見られます。

ここでは、実務上よくあるトラブル事例を紹介しながら、それぞれの背景と防止策について解説します。

実際にあったトラブル(6事例)

  1. 兄だけが株式を独占 → 財産の不公平感
  2. 株価変動で相続税が膨張 → 納税資金トラブル
  3. 名義変更の遅れで配当金が宙に浮く
  4. ネット証券のID不明で資産が動かせない
  5. 非上場株式の評価で親族間の対立
  6. 海外在住の相続人が手続きの足かせに

事例1:「兄だけが株式を独占」分けにくい資産が火種に

【背景】
父親が生前に上場株式を複数保有していたが、遺言書がなかった。
長男が「管理が面倒だから自分が株を全部引き継ぐ」と主張。
妹は「そんなに価値のあるものとは知らなかった」と反発。話し合いがこじれ、家庭内で長期の不和に発展。

【問題点】

  • 株式は現金のように等分しにくい
  • 将来の株価上昇による不公平感が生まれやすい

【防止策】

  • 遺言書で明確に分け方を指定
  • または、生前に一部売却・信託化して現金化し、分けやすくしておく
  • 価値だけでなく「管理負担」も考慮したバランス調整を

事例2:「相続税が予想以上に高額に!」株価変動の罠

【背景】
相続発生時に、証券口座に多くの株式があった。
遺族は「これくらいの評価だろう」と思っていたが、評価額は相続発生日の終値で計算されると知らず、想定より高額な相続税が発生。
納税資金の確保が間に合わず、あわてて売却したら、株価が下落して損失も。

【問題点】

  • 相続評価額はタイミングに左右される
  • 納税資金の準備が不十分だと負動産化も

【防止策】

  • 評価方法を事前に確認し、納税資金を想定しておく
  • 生前贈与や、生命保険による納税対策も有効
  • 士業や税理士と連携して試算しておく

事例3:「名義変更に時間がかかりすぎて…」配当金が宙に浮いた!

【背景】
父親の証券口座に株式と投信があったが、相続人がその存在を把握していなかった。
遺産分割協議にも時間がかかり、手続きが後回しに。
その間に配当金が発生したが、誰が受け取るのか不明確な状態に。
最終的に証券会社との調整に長期間を要した。

【問題点】

  • 証券会社の対応は一律ではなく、手続きも煩雑
  • 名義変更の遅れが配当や分配金の受取トラブルに直結

【防止策】

  • 証券口座の存在を事前に家族と共有
  • エンディングノートや財産リストで「どこに何があるか」を明記
  • 相続開始後は、早めに「仮名義変更(預かり扱い)」手続きを取る

事例4:「ネット証券のID・パスワードが不明」相続できない資産に!?

【背景】
親がネット証券で投資していたが、ログイン情報を共有していなかった。
メールもパスワード管理アプリも利用しておらず、遺族が証券会社に問い合わせたが、本人確認や書類不備で数カ月以上かかった。

【問題点】

  • ネット証券では紙の書類がほぼないため、口座の存在自体に気づけないこともある
  • ログイン情報が家族に伝わっていないと、調査や対応に手間と時間がかかる

【防止策】

  • 定期的に口座情報を家族と共有(できれば書面で)
  • 財産目録やパスワード管理ツールの活用
  • ネット証券も「残高証明書」などを発行しておく習慣を

事例5:「非上場株式の評価で大混乱」中小企業のオーナー家族がもめた

【背景】
父親が中小企業の社長であり、全株式を保有していたが、突然の他界。
会社の株式(=非上場株)が相続財産に含まれていたが、評価方法が複雑で、家族内での見解が分かれた。
後継者問題も絡み、親族間で泥沼の争いに。

【問題点】

  • 非上場株式は明確な市場価格がないため、評価が難しい
  • 会社の経営権や将来の収益との絡みもあり、感情的対立を招きやすい

【防止策】

  • 生前に事業承継対策をしておくことが重要
  • 会社の株式は、「経営に関わる人に承継」することを前提とした遺言の作成
  • 税理士・行政書士・中小企業診断士との連携がカギ

事例6:「相続人の一人が海外在住で手続きが進まない」

【背景】
兄弟3人で相続する予定だったが、長女がアメリカ在住。
遺産分割協議書に署名・捺印が必要なこと、各種書類の取り寄せ、在外公館での公証手続きなど、手続きが非常に煩雑になり遅延。
他の兄弟との関係が悪化した。

【問題点】

  • 海外在住者が相続人に含まれると、協議や手続きが非常に時間がかかる
  • 名義変更や税務処理もストップし、全体の相続が滞る

【防止策】

  • 生前に「相続人間での合意形成」を進める
  • 海外在住の相続人がいる場合は、委任状や代理人選任の準備を早めに
  • 専門家に相談して「スムーズに進める段取り」を明確にしておく

トラブルの共通点は「事前準備不足」

これらの事例に共通しているのは、いずれも生前に対策をしていれば防げたということです。

「うちは大丈夫」と思っていても、実際に相続が始まると、時間・お金・人間関係のすべてに影響が出ることがあります。

有価証券の相続は家族や親族の事情によってさらに複雑化するケースが多くあります。
備えなくして円満な相続は実現しない、と言っても過言ではありません。

だからこそ、今できる備えが、後々の大きな安心につながるのです。

第5章:有価証券の相続評価と税金〜どう計算されるの?〜

有価証券を相続すると、必ず関わってくるのが「相続税の評価」と「納税」の問題です。

現金とは違い、価値が日々変動する資産だからこそ、評価方法やタイミング次第で納税額が大きく変わることもあります。

この章では、有価証券の評価方法・相続税の計算・節税ポイントをわかりやすく解説します。

どんな有価証券が相続評価の対象になる?

相続税の評価対象になる主な有価証券は以下の通りです。

種類評価のポイント
上場株式相続発生日の株価(特定日)で評価
非上場株式類似業種比準法・純資産価額法など複雑な計算
投資信託相続発日の基準価額で評価(追加コスト要確認)
債券(国債・社債)額面と利息を含めた評価が必要
ETF・REITなど上場株式と同様に扱われることが多い

上場株式の評価方法は?

評価方法には、以下の4つの日のうち最も低い価格を採用するというルールがあります。

  1. 相続発生当日の終値
  2. 相続発生月の終値の平均
  3. 相続発生前月の終値の平均
  4. 相続発生前々月の終値の平均

つまり、「一番安く見積もれる価格」を使ってOKということ。
この評価基準によって、相続税額が大きく変わることがあります。

非上場株式はさらに注意が必要!

中小企業の株など、市場で価格がついていない非上場株式は、専門的な評価方法を使います。

  • 類似業種比準価額方式:同業他社の株価などをベースに評価
  • 純資産価額方式:会社の資産や負債をもとに評価
  • 配当還元方式:小規模会社の少額保有株などに使う簡便法

評価方法の選択はケースバイケースで、税理士など専門家の助言が不可欠です。

有価証券にかかる相続税の計算

相続税の基本的な計算ステップは以下の通りです。

  1. 相続財産の合計額を算出(有価証券を含む)
  2. 基礎控除を引く
     → 「3,000万円+600万円×法定相続人の数」
  3. 残った金額に対して相続税を計算(累進課税)
  4. 各相続人に応じて按分・加算減算を適用

有価証券が相続税額に与えるインパクトは大きい!

たとえば、投資信託や株式を多く保有していると、それだけで課税対象となる財産が急増します。
しかも、有価証券は「気づいたら値上がりしていた」というケースもあり、納税資金の確保が後手に回るリスクも。

そのため、以下のような準備が重要です。

節税ポイントはここ!

生前贈与の活用

  • 年間110万円までの贈与は非課税
  • 「相続時精算課税制度」も選択肢(累積2,500万円まで)

生命保険で納税資金を確保

  • 生命保険金は「500万円 × 法定相続人の数」まで非課税
  • 納税資金として有効に使える

遺言で資産配分をコントロール

  • 有価証券を誰が相続するかによって、評価額と税率が変わる
  • 例えば「高額資産は税率が低い人に集中させる」など、戦略的な配分が可能

死亡直後の価格チェック

  • 上場株の場合、「4つの基準日のうち最も安いもの」で評価できるため、価格をしっかり記録しておくと有利

税務調査に注意!

相続税の申告後、税務署による調査が入ることがあります。

特に有価証券は「相続財産に含め漏れていないか」「名義預金になっていないか」といった視点で見られやすく、故意でなくても申告漏れと判断されるケースも。

財産リストや残高証明の整理・保管は徹底しましょう。

専門家と連携することで税リスクを大幅に回避できる

有価証券の評価や相続税対策は、専門性の高い領域です。

行政書士・税理士と連携することで、適切な評価と納税方法を選ぶことができ、リスクやトラブルを未然に防ぐことが可能になります。

第6章:備えあれば憂いなし!トラブルを防ぐ3つの準備

これまで見てきたように、有価証券の相続には複雑な手続き・トラブルの火種・税務リスクが数多く存在します。

しかし、適切な準備をしておけば、これらの問題の多くは未然に防ぐことが可能です。

この章では、相続トラブルを回避し、家族が安心できるための「3つの備え方」をご紹介します。

準備①:有価証券を明記した遺言書の作成

もっとも効果的な備えが「遺言書の作成」です。

とくに、有価証券のように分割が難しい財産は、明確な指示を遺すことが極めて重要です。

なぜ遺言書が必要なのか?

  • 相続人同士で「誰が何を相続するか」の話し合いが不要になる
  • 名義変更や解約の手続きがスムーズになる
  • 配分や税率を考慮した戦略的な資産移転が可能になる

ポイントは「財産ごとに具体的に指定する」こと。
「証券口座の株式は長男に、投資信託は配偶者に」などと記しておけば、解釈の余地がなくトラブルも防げます。

公正証書遺言の活用を

自筆証書遺言も有効ですが、実務上は公正証書遺言が圧倒的に安心です。

  • 証人が必要/手数料がかかるが、法的トラブルになりにくい
  • 家庭裁判所の検認が不要ですぐに使える
  • 専門家と一緒に作成することで、内容の抜け漏れが防げる

準備②:相続人間での「事前共有」

遺言書があっても、家族間での認識のズレが大きいとトラブルにつながります。

そのため、できる範囲で「財産の存在を家族に共有しておくこと」が大切です。

財産リストをつくっておく

  • どの証券会社に口座があるのか
  • どんな金融商品があるか(株式・投資信託・債券など)
  • ログイン情報や連絡先
  • 管理のしかた(自分だけでなく家族もわかるように)

「エンディングノート」や「資産一覧表」など、形式は自由で構いません。
大事なのは、わかりやすくまとめておくことです。

準備③:信託・贈与など計画的な資産移転

場合によっては、生前のうちに資産を一部移転しておく方が、相続手続きもスムーズです。

生前贈与の活用

  • 年110万円までは贈与税がかからない(暦年贈与)
  • 相続税対策としても有効
  • 複数年に分けて、計画的に贈与することで財産圧縮に

家族信託の活用

  • 親が判断能力を失っても、事前に信託契約をしておけば、子どもがスムーズに財産管理できる
  • 認知症対策や資産凍結リスクの回避に有効
  • 信託された有価証券は、遺産分割の対象外になるケースもあり、トラブル回避につながる

家族信託は新しい制度であるため、専門家と一緒に設計することが推奨されます。

備えは「家族への思いやり」

相続の準備というと、どこか縁起が悪いと感じる方もいるかもしれません。
しかし、現実には「準備をしていた人」と「していなかった人」とでは、家族の苦労も相続税も、まったく違う未来になります。

遺された家族が揉めることなく、安心して次の一歩を踏み出せるように。
「備えること」そのものが、最大の相続対策であり、家族への愛情の表れです。

第7章:よくある質問Q&A(実務で多い疑問にズバッと答えます)

有価証券の相続は、経験がなければわからないことだらけです。

ここでは、実務の中でよく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
基本的な疑問から、ちょっと専門的なことまで、幅広くカバーしています。

Q1. 相続人の中に未成年がいる場合、有価証券の手続きはどうなりますか?

A. 未成年者が相続人になる場合は、代理人(通常は親権者)が手続きを行います。
ただし、親権者が他の相続人でもある場合は「利益相反」にあたるため、家庭裁判所で特別代理人の選任が必要になります。
証券会社もこの点には厳密なので、対応には時間がかかることがあります

Q2. 株式の名義変更にかかる時間と費用はどのくらい?

A. 上場株式であれば、必要書類が揃っていれば2週間〜1ヶ月程度で完了するのが一般的です。

費用は原則かかりませんが、郵送費や戸籍の取得費用などの実費は必要です。
非上場株式の場合は、会社側の同意や議決が必要なこともあり、数ヶ月以上かかるケースも。

Q3. 相続人の1人が証券口座の存在を知らなかった場合どうなる?

A. 証券口座の存在を知らない相続人がいても、相続人全員の同意がなければ手続きできません。

また、隠していたと判断されれば、遺産隠匿や不当利得の問題に発展することも。
あらかじめ財産目録を作成・共有しておくことが、透明性と信頼を保つカギになります。

Q4. 海外の証券(外国株やETFなど)も相続対象になりますか?

A. はい、もちろん相続対象になります。

ただし、海外証券の場合は現地法・税制・証券会社の対応の違いがあるため、手続きは複雑です。
日本国内に資産を戻すには、為替手続き・税務申告・英文書類の取得などが必要になることもあります。
→ 外国株を多く保有している場合は、国際相続に詳しい専門家への相談を強くおすすめします。

Q5. 生前に一部売却しておくのは節税になりますか?

A. 状況によりますが、場合によっては有効です。

たとえば、生前に株式を売却し、現金化してから贈与すれば、贈与税の非課税枠(年間110万円)を使って少しずつ資産移転できます。

ただし、売却によって譲渡所得税(20.315%)が発生する点には注意が必要です。
「節税になるからといってすぐに売る」のではなく、贈与・相続・税のバランスを見ながら判断しましょう。

Q6. 証券会社に預けたままの株券をどう扱えばいいの?

A. 現在、株券は原則電子化(ペーパーレス化)されており、「証券会社に預けてある状態=電子管理されている状態」です。

そのため、実際の紙の株券が手元になくても、証券会社に対して相続手続きをすればOKです。
ただし、昔の株券が紙のまま残っている場合は、証券保管振替機構(ほふり)などを通じた手続きが必要になります。

まだまだ不安なことがある方へ

これらの質問はあくまで一部です。

実際には、相続人の人数や状況、保有している証券の種類、税務上の条件などにより、対応すべき内容は異なります。

少しでも不安を感じたら、専門家への相談が何よりの近道です。
「自分たちだけで何とかしよう」と抱え込む前に、信頼できる行政書士・税理士に相談してみてください。

第8章:行政書士として伝えたいこと

有価証券の相続には、法律・税務・金融の知識が絡み合い、専門家でも慎重な判断が求められる場面が多く存在します。

だからこそ、私はこのテーマに対して「もっと早く準備していればよかった」という後悔の声を、何度も耳にしてきました。

この章では、行政書士として、相続に携わる立場から皆様にどうしてもお伝えしたいことを3つにまとめてお話しします。

1. 問題が起きてからでは、選択肢が限られてしまう

相続に関するご相談は、多くの場合「すでに問題が起きてから」始まります。

  • 家族間での対立が深刻になっている
  • 証券会社とのやり取りで手続きが止まっている
  • 税務署から指摘を受けて初めて申告漏れに気づいた

こうした状態では、使える選択肢は限られ、「最善の解決」よりも「最小限のダメージで収める」対応にならざるを得ません。

だからこそ、相続対策は何も起きていない今が最も自由度が高く、理想に近い形を実現できるタイミングなのです。

2. 「感情の対立」を避けるには、正確な準備が一番のクスリ

相続トラブルの多くは、「お金」よりも「感情」によるものです。

  • 「自分だけ知らされていなかった」
  • 「兄ばかり得している気がする」
  • 「親の想いが伝わってこなかった」

こうした不満は、曖昧な情報や不公平に見える分配が原因で生まれます。
そしてその結果、兄弟・親族間での関係が崩れてしまうのです。

でも逆に言えば、情報を見える化し、公平性を感じられるように準備するだけで、ほとんどの対立は避けられるのです。

  • 財産リストの作成
  • 有価証券の記載された遺言書
  • 相続人間の事前共有
  • 手続きを専門家とともに進める体制づくり

それらの一つ一つが、家族を守るための思いやりです。

3. 専門家に相談することは「費用」ではなく「投資」

相続や手続きに関するご相談では、「自分たちでできると思っていた」「専門家に頼むほどじゃないと思っていた」というお声も少なくありません。

ですが実際には、自力での手続きミスや税務上のトラブルによって、結果的に高額な税金・手数料・労力・家族の不和という代償を払うことになるケースが多くあります。

専門家に相談することは、「費用」ではなく「安心のための投資」です。
未来のトラブルを防ぎ、相続を円満に終わらせるための大きな価値があると、私は確信しています。

相続は財産をどう残すかではなく、想いをどうつなぐか

有価証券の相続というテーマを通して、私はいつも「これは単なるお金の話ではない」と感じています。

相続とは、想いを引き継ぐこと、家族の絆をつなぐこと。
その大切な一歩を、少しでも支えられる存在でありたいと、行政書士として心から願っています。

まとめ

有価証券の相続は、預金や不動産とはまた違った見えにくい複雑さを持っています。

  • 手続きが煩雑
  • 評価額が変動する
  • 分けにくい
  • 感情的な対立を招きやすい
  • 税金の計算も一筋縄ではいかない

だからこそ、備えがすべてのカギです。

この記事では、有価証券の種類から相続手続きの流れ、よくあるトラブル、税金の知識、そしてトラブルを防ぐ具体的な備えまでを幅広く解説してきました。

ひとつでも「知らなかった」「なるほど」と思っていただけたなら、それが備えの第一歩です。

相続は「起きてから考える」では遅い

相続のトラブルの多くは、「準備していれば防げた」ものばかりです。

有価証券のように扱いが複雑な財産ほど、生前からの対策・情報の整理・遺言書の作成が、家族の未来を左右します。

専門家に相談するという選択肢

相続に関する悩みは、「誰に聞けばいいかわからない」ということが多いものです。

もしあなたが今…

  • ご両親が証券口座をお持ちで不安がある
  • 将来、兄弟姉妹でもめたくないと思っている
  • 遺言やエンディングノートの作成を検討している
  • 何をどう備えたらよいのか漠然と不安を感じている

そんな時は、ぜひ一度、行政書士などの相続の専門家にご相談ください。
知識と経験に基づいたアドバイスで、「安心して次の一歩を踏み出せる状態」をご一緒につくります。

【ご相談・お問い合わせはこちら】

相続・遺言に関するご相談は、以下からお気軽にどうぞ!

あなたの大切な資産と、ご家族の未来を守るために。

「いま」行動することで、「その時」慌てずにすむ未来をつくりましょう。
相続を、「不安な出来事」ではなく、「安心と想いの橋渡し」にしていくお手伝いをさせていただきます。