目次
1. 株の相続とは?基本的な仕組みを理解しよう
1-1. 株はどのように相続されるのか?
株式は、現金や不動産と同じく遺産の一部として相続の対象となります。株を所有している人が亡くなった場合、その株は法定相続人に引き継がれます。相続の対象となる株式は、証券会社の口座にあるものや、紙の株券として保有されているものなどが含まれます。
株式の相続には、次のような特徴があります。
市場価値が変動する
株価は日々変動するため、相続時点での評価額と実際に売却する際の価格が異なる可能性があります。これにより、相続税の計算が難しくなる場合があります。
名義変更が必要
亡くなった方(被相続人)の名義で登録されている株を、そのままの状態で保持することはできません。相続人の名義へ変更する手続きが必要になります。
相続方法の選択肢がある
株をそのまま相続する以外にも、売却して現金化する、特定の相続人が取得して代償金を支払うなど、分け方にいくつかの選択肢があります。
相続人同士の話し合いや、税務上の計算が必要になるため、株の相続は他の財産に比べてやや複雑なケースが多いのが特徴です。
1-2. 株の相続にはどんな手続きが必要?
株を相続する際には、以下のような手続きが必要です。
被相続人がどの証券会社に口座を持っていたのか、どの企業の株を保有していたのかを調査します。証券会社から発行される取引明細書や、銀行口座の履歴を確認すると、株の存在を把握しやすくなります。
相続人が複数いる場合、誰がどの株を相続するのかを決める必要があります。話し合いがまとまらない場合、株を売却して現金で分配する方法もあります。
証券会社に連絡し、必要な書類を提出して名義変更を行います。これには、被相続人の戸籍謄本や遺産分割協議書などが必要になります。
相続税の計算を行い、税務署に申告・納税を行います。期限は「相続開始から10ヶ月以内」と決まっているため、早めの準備が必要です。
1-3. 株の相続で注意すべきポイント
株の相続には、以下のようなリスクや注意点があります。
株価の変動リスク
株の価格は日々変動します。相続時の評価額よりも、売却する際に大きく下がってしまうこともあり、税負担のバランスが崩れる可能性があります。
非上場株の相続は特に注意
非上場株(未公開株)の場合、相続税の評価が難しく、適切な価格で売却することも難しいため、事業承継の問題にも発展しやすいです。
相続人同士のトラブル
株の分け方をめぐって、相続人同士で争いになるケースが少なくありません。事前に遺言書を作成しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
2. 株を相続する際の具体的な手続き
2-1. まずは相続の対象となる株を確認する
被相続人がどのような株を所有していたのかを把握することが、相続手続きの第一歩です。株の調査には、以下のような方法があります。
証券会社の口座情報を確認する
被相続人が取引していた証券会社に問い合わせ、どの企業の株を持っているのかを確認します。
取引明細書や確定申告書をチェックする
株式の配当金や売買履歴が記載されているため、過去の取引履歴から保有株を特定することができます。
紙の株券が残っていないか確認する
以前は紙の株券が発行されていましたが、現在は電子化されています。古い株券が残っている場合、証券会社を通じて電子化手続きを行う必要があります。
2-2. 証券会社での名義変更手続き
株を相続する際には、証券会社を通じて名義変更の手続きを行う必要があります。主な手順は以下のとおりです。
相続人の本人確認書類
被相続人の戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本
遺産分割協議書(相続人全員の合意が必要)
各証券会社により手続きが異なるため、事前に確認が必要です。手続きが完了すると、新しい相続人の名義で株式が管理されるようになります。
株を相続した後に売却する場合は、証券会社の指示に従って売却手続きを行います。売却益には譲渡所得税がかかるため、税金の計算も忘れずに行いましょう。
2-3. 遺産分割協議の進め方
株を複数の相続人で分ける場合、遺産分割協議を行う必要があります。主な方法は以下の3つです。
- 株を売却し、現金で分ける
最も公平な方法で、相続人全員が納得しやすいですが、株価が変動するリスクがあります。 - 特定の相続人が株を取得し、代償金を支払う
例えば、長男が株を相続し、他の兄弟に現金を支払う方法です。これにより株の分割を回避できます。 - 共有名義で相続する
相続人全員の名義で株を共有する方法ですが、管理が煩雑になるため、あまりおすすめできません。
3. 株の相続税はいくらかかる?計算方法を解説
3-1. 相続税の基本ルール
株を相続すると、その評価額に応じて相続税が発生します。相続税は、現金や不動産などの遺産と合わせた総額に基づいて計算されます。
相続税の基礎控除額とは?
相続税には基礎控除額があり、以下の計算式で求められます。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が3人(配偶者と子供2人)いる場合、基礎控除額は以下のようになります。
3,000万円 +(600万円 × 3)= 4,800万円
遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税は発生しません。それを超える部分に対して課税されます。
相続税の税率
相続税の税率は、相続財産の額に応じて変わります。以下の表のように累進課税制度が適用されます。
課税対象額(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
例えば、相続税の対象額が5,000万円だった場合の計算は次のようになります。
5,000万円 × 20% − 200万円 = 800万円
3-2. 上場株と非上場株の評価方法の違い
相続税の計算では、株の評価方法が「上場株」と「非上場株(未上場株)」で異なります。
上場株の評価方法
上場株は市場で取引されており、時価が明確なため、以下のいずれかの方法で評価されます。
- 相続発生日の終値
- 相続発生前1ヶ月間の終値の平均
- 相続発生前3ヶ月間の終値の平均
これらのうち、最も低い価格が相続税の評価額として採用されます。
非上場株の評価方法
非上場株は市場での取引がないため、財務状況や利益などをもとに評価されます。代表的な方法は次の2つです。
類似業種比準方式
- 同じ業界の上場企業の株価や業績を参考に評価する方法
- 売上高や利益の水準を基準に算出
純資産方式
- 会社の資産と負債をもとに評価する方法
- 非上場株を持つ会社の内部資料が必要
非上場株は評価が難しく、税負担も大きくなるため、事前に相続対策を考えておくことが重要です。

3-3. 相続税の支払い方法と期限
相続税の支払いには期限があり、期限内に納税しなかった場合、延滞税が発生します。
相続税の申告期限
相続税の申告・納付期限は、「相続開始(被相続人の死亡)から10ヶ月以内」 と定められています。
相続税の支払い方法
一括納付(現金払い)
- 原則として、一括で現金納付が必要
- 銀行や税務署の窓口で支払う
延納(分割払い)
- 一括納付が困難な場合に適用
- 延納期間は最長20年、利子税がかかる
物納(不動産や株で納付)
- どうしても現金が用意できない場合、不動産や株で納税する方法
- 事前に税務署の審査が必要で、認められないこともある
納税資金を確保するために、生前贈与や生命保険を活用するのも一つの方法です。
4. 株の相続で発生しやすいトラブルと対策
4-1. 株価の変動によるトラブル
相続発生から実際に株を売却するまでの間に、株価が大きく変動することがあります。特に、以下のようなリスクがあります。
想定リスク
- 相続税の計算時より株価が下がる
→ 相続税は相続時の評価額を基に算出されるため、その後株価が下がっても税額は変わらない。 - 逆に株価が上がり、売却益に税金がかかる
→ 相続後に売却して利益が出ると、譲渡所得税(約20%)が発生する。
対策方法
- 相続発生後すぐに売却し、評価額との差を最小限に抑える
- 株価が不安定な銘柄は、相続前に整理する
- 信託を活用し、相続人に分配する方法を検討
4-2. 相続人間の意見の対立
株の分配方法について意見が対立し、相続人同士の関係が悪化することがあります。
よくあるトラブル例
- 「長男が会社経営を引き継ぎたいが、他の兄弟が売却を希望している」
- 「株を均等に分割できないため、公平性の問題が生じる」
対策方法
- 遺言書で相続の分配を明確にする
- 株の売却や代償分割(現金での補填)を検討する
- 事前にファミリー会議を開き、意向を確認する
4-3. 会社経営に関する問題(非上場株の場合)
非上場企業(未公開会社)の株式を相続する場合、上場企業の株式とは異なる特有の問題が発生します。特に、株式を相続した相続人が会社経営に関与するかどうかや、他の株主との関係性・議決権の扱いが重要なポイントとなります。ここでは、それぞれの問題と対策を詳しく解説します。
(1)株を相続した相続人が経営に関与するケース
事業承継としての相続か、単なる資産相続か?
非上場企業の株式を相続する場合、その株が「事業承継を伴うものか」、それとも「単なる資産としての株か」を明確にする必要があります。
- 事業承継としての相続(経営者として関与する)
→ 会社の運営に関与し、経営判断を行う立場になる - 資産としての相続(経営には関与しない)
→ 配当を受け取る株主として存在し、経営には関与しない
相続した株式の割合や、相続人の意思によって対応が異なるため、事前にどのような形で相続するのか決めておくことが重要です。
相続人が経営に関与する場合の課題
経営に関与する場合、以下のような課題が発生します。
経営能力の問題
- 相続人が経営経験を持っていない場合、事業の継続が難しくなる
- 従業員や取引先からの信頼を得るまでに時間がかかる
- 業界の知識やスキルが不足していると、会社の業績が悪化する可能性がある
他の相続人との対立
- 兄弟姉妹のうち、誰が経営を引き継ぐかで揉める
- 経営を引き継がない相続人が「株を売却したい」と言い出すことがある
- 会社の方向性をめぐって対立が生じる
資金繰りの問題
- 株の相続には相続税がかかるが、非上場株は現金化が難しいため納税資金の準備が必要
- 会社の資産を売却するか、銀行から借入れを行う必要が出てくる
解決策:事前の準備と対策
非上場株を相続した相続人が経営に関与する場合、事前の準備が重要になります。
- 事前に「誰が経営を引き継ぐのか」を遺言書で明確にしておく
- 遺言書がないと、相続人全員で遺産分割協議が必要になり、スムーズな承継ができなくなる
- 相続人が事業を引き継ぐ場合、早い段階で経営のノウハウを学ばせる
- 取引先や従業員との信頼関係を構築するために、段階的に経営権を移行する
- 生命保険を活用し、相続税の納税資金を準備する
- 事前に「事業承継税制」を利用し、相続税の軽減措置を受ける
- 「経営者としての条件」を定めたルールを作り、相続人が経営を引き継ぐ際の要件を明確化する
- 他の株主との関係性を事前に整理し、トラブルを防ぐ
(2)他の株主との関係性や議決権の取り扱い
非上場企業の株式を相続すると、他の株主との関係が重要になります。特に、議決権の扱いや会社の運営に影響を及ぼす可能性があるため、慎重に対応する必要があります。
非上場企業の株主構成と問題点
非上場企業の株主は、主に以下のような関係者で構成されています。
- 創業者(被相続人):生前に経営権を持っていた人物
- 相続人(新たな株主):株を相続する家族
- 共同経営者・役員:他の株主として経営に関与するケースがある
- 従業員持株会:会社の従業員が持ち分を持っている場合もある
株を相続した場合、他の株主とどのような関係を築くかが重要です。
議決権の取り扱いと影響
会社の重要な決定は、株主総会での議決権行使によって決まります。議決権の取り扱いを誤ると、以下のような問題が発生します。
経営権の奪取リスク
- 相続によって株式が分散すると、経営権が不安定になる
- 一部の相続人が会社の方針に反対し、経営の混乱を招く可能性がある
意思決定の停滞
- 相続人が複数いる場合、意思決定に時間がかかり、会社の運営がスムーズに進まない
- 会社の定款や株主総会の決議ルールを明確にしておく必要がある
株の買取・売却の問題
- 他の相続人が「株を売りたい」と言い出した場合、外部の第三者に売却される可能性がある
- 会社として株式を買い取る「自社株買い」の仕組みを整備しておくことが重要
解決策:株主間契約や定款の整備
株主間契約の締結
- 事前に「株を外部に売却しない」などのルールを決める
- 相続した株主が勝手に株を処分できないようにする
会社の定款に「株式譲渡制限」を設定
- 非上場企業では、定款に「株式の譲渡制限」を付けることができる
- 会社や他の株主の同意なしに、株式を第三者に売却できないようにする
株の買取制度を作る
- 相続人が株を売りたい場合、会社が優先的に買い取る仕組みを作る
- 株の適正な評価額を決め、トラブルを防ぐ
5. 株の相続をスムーズに進めるための対策
5-1. 遺言書を作成しておく
株の相続トラブルを避けるために、生前に遺言書を作成することが非常に重要です。遺言書があれば、相続人同士の争いを未然に防ぐことができます。
遺言書の種類と作成方法
遺言書にはいくつかの種類がありますが、株の相続には**「公正証書遺言」**が最も適しています。
遺言書の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
自筆証書遺言 | 自分で書く | 手軽に作成できる | 書き方を間違えると無効になる |
公正証書遺言 | 公証役場で作成 | 法的に有効で信頼性が高い | 費用がかかる |
秘密証書遺言 | 内容を秘密にできる | 改ざんされにくい | 手続きがやや面倒 |
株を特定の相続人に譲りたい場合、「〇〇証券の××株式は長男に相続させる」と明確に記載しておくことが大切です。
遺言書がない場合のリスク
- 法定相続分に基づいて分割されるため、意図しない相続が発生する
- 相続人同士でトラブルになりやすい
- 名義変更や遺産分割協議がスムーズに進まない
遺言書を作成することで、これらのリスクを回避し、スムーズな相続が可能になります。
5-2. 生前贈与を活用する
相続税の負担を減らす方法の一つとして、生前贈与があります。生前に株を贈与することで、相続税の課税対象を減らすことができます。
生前贈与の主な方法
暦年贈与(年間110万円まで非課税)
- 1年間に110万円以内であれば贈与税がかからない
- 毎年少しずつ株を子供や孫に贈与することで、相続税対策になる
相続時精算課税制度
- 60歳以上の親から20歳以上の子への贈与に適用
- 2,500万円まで非課税だが、相続時に相続財産として加算される
生前贈与の注意点
- 贈与税の課税対象になる可能性がある(110万円を超えると贈与税が発生)
- 相続時精算課税制度を使うと、最終的な相続税の計算に含まれる
- 名義変更の手続きが必要(証券会社で手続きを行う)
**「相続税対策として少しずつ株を贈与する」**という方法を取ることで、相続税の負担を減らすことができます。
5-3. 信託を利用して株の承継を円滑にする
家族信託を活用することで、株の承継をスムーズに行うことができます。
家族信託とは?
家族信託とは、自分の財産(株など)を信頼できる家族に託し、自分や家族のために管理・運用してもらう仕組みです。
家族信託のメリット
- 認知症対策になる(株の管理を家族に任せられる)
- 遺産分割協議を避けられる(あらかじめ承継先を決めておける)
- 非上場株の相続にも有効(事業承継を円滑に進められる)
例えば、父親が持っている非上場株を長男に引き継ぐ場合、「長男を受託者にして信託契約を結ぶ」ことで、スムーズな承継が可能になります。
6. 株の相続に関するよくある質問
6-1. 株の相続税はどのくらいかかる?
株の評価額によって異なりますが、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税が発生します。具体的な税率は、相続財産の総額によって10%〜55%の範囲で決まります。
6-2. 相続人が複数いる場合、株はどう分ける?
- 共有名義で相続する方法(ただし管理が複雑になるため非推奨)
- 株を売却して、現金で分配する方法
- 一人の相続人が株を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法
遺産分割協議で話し合い、相続人全員が納得できる方法を選ぶことが大切です。
6-3. 株の相続手続きはどれくらいの期間がかかる?
- 名義変更手続き:1〜3ヶ月程度
- 遺産分割協議:相続人間での合意が必要なため、数ヶ月以上かかることも
- 相続税の申告と納税:相続開始から10ヶ月以内
状況によっては1年以上かかるケースもあるため、早めの手続きを心がけましょう。
7. まとめ|株の相続は早めの対策が鍵!
株の相続には、手続きの複雑さや税金の負担、相続人間のトラブルなど、さまざまな問題が発生する可能性があります。そのため、以下の3つの対策を取ることが重要です。
- どの株を誰に相続させるのか、具体的に記載する
- 公正証書遺言を活用し、法的なトラブルを防ぐ
- 年間110万円以内の贈与を継続し、相続財産を減らす
- 相続時精算課税制度を利用し、大きな贈与を事前に行う
- 家族信託を利用し、スムーズな株の承継を行う
- 非上場株を持つ場合は、事業承継税制の活用を検討する
相続の準備は「早めに、具体的に」行うことが重要です
また、相続税の負担を軽減する方法も事前に把握しておくことで、家族の負担を減らせます。早めの準備が成功の鍵ですので、今から対策を始めましょう!