遺言と遺留分はどちらが優先?遺留分を侵害する遺言の扱いをわかりやすく解説

相続財産の取り分をめぐる遺言と遺留分のイメージ

相続が発生して遺言書を確認したとき、「遺言があるなら、その内容どおりに相続しなければならないの?」「自分の取り分が少なくても仕方がないの?」と疑問に感じることがあります。

遺言書がある場合は、まずその内容を前提に相続を考えるのが基本です。一方で、配偶者や子など一定の相続人には、遺留分(法律上保障された最低限の取り分)が認められています。

そのため、遺言があるからといって、必ずしも遺留分の問題がなくなるわけではありません。

この記事では、遺言と遺留分の関係や、遺留分を侵害する遺言があった場合の考え方について、わかりやすく解説します。

目次

①遺言と遺留分はどちらが優先?

遺言書をイメージした封筒と書類の前で財産を受け取る人物と、盾を持って遺留分を守る家族を表現したクレイアート風イラスト
遺言による財産の承継を基本としつつ、一定の相続人には遺留分による最低限の取り分が保障されています。

遺言と遺留分の関係では、まず遺言の内容が優先されると考えるのが基本です。

遺言によって「誰がどの財産を取得するのか」が決められている場合は、まずその内容を前提に相続手続きを進めます。

ただし、遺言が優先されるからといって、遺留分がなくなるわけではありません。遺言の内容によって、配偶者や子など一定の相続人の遺留分が侵害されている場合には、別途、遺留分の問題が生じます。

つまり、両者は同じ場面で「どちらか一方だけが有効になる」という関係ではありません。

まず遺言の内容に従って財産を承継し、その結果として遺留分が侵害されている場合に、遺留分の問題を考えるという順番で整理すると分かりやすいでしょう。

このあと、遺留分を侵害する内容の遺言があった場合に、その遺言が無効になるのかを詳しく見ていきます。

遺言書がある場合でも、相続人同士で別の分け方を話し合えるケースがあります。遺言と遺産分割協議の関係は別の記事で詳しく解説しています。
遺言と遺産分割協議はどちらが優先?

②遺留分を侵害する遺言はどうなる?

遺留分を侵害する内容の遺言があっても、そのことだけで遺言が当然に無効になるわけではありません。

たとえば、「全財産を長男に相続させる」という遺言があり、その結果として妻や次男の遺留分が侵害される場合でも、遺言そのものが自動的に効力を失うわけではありません。

ここで分けて考えたいのが、遺言そのものが有効かどうかと、その内容によって遺留分が侵害されているかどうかです。

遺言の有効性は、法律上求められる方式を満たしているか、作成時に本人に十分な判断能力があったかなどによって判断されます。一方で、遺留分の侵害は、有効な遺言の内容によって一定の相続人の最低限の取り分が侵害されているかどうかという別の問題です。

そのため、遺留分を侵害しているからといって、その遺言が無効になるわけではありません。

現在の制度では、遺留分が侵害された場合でも、原則として遺言による財産の承継そのものを取り消すのではなく、侵害された額に相当する金銭の支払いを求める仕組みになっています。

つまり、遺言が有効かどうかと、その遺言によって遺留分が侵害されているかどうかは、別々に考える必要があります。

公正証書遺言の場合に、遺留分がどのように扱われるのか知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
公正証書遺言があっても遺留分は請求できる?

③具体例で見る|全財産を長男に相続させる遺言があった場合

父の遺言により長男に家や預金など多くの財産が渡り、妻と次男との取り分に差が生じている様子を表すクレイアート風イラスト
遺言の内容によっては、特定の相続人に財産が多く渡り、ほかの相続人の取り分が少なくなることがあります。

具体例で考えてみましょう。

父が亡くなり、相続人が妻・長男・次男の3人、相続財産が4,000万円だったとします。父は「全財産を長男に相続させる」という遺言を残していました。

この場合、まず遺言の内容に従って、長男が4,000万円の財産を取得することになります。

しかし、妻と次男の遺留分までなくなるわけではありません。

このケースでは、妻には1,000万円、次男には500万円の遺留分があります。

そのため、「全財産を長男に相続させる」という遺言があったとしても、妻と次男については、それぞれの遺留分が侵害されていることになります。

相続人遺言によって取得する財産遺留分に相当する金額
0円1,000万円
長男4,000万円500万円
次男0円500万円

ここで重要なのは、遺言によって長男が全財産を取得することと、妻や次男の遺留分が侵害されていることは両立するという点です。

「妻や次男に遺留分があるから、長男が全財産を相続するという遺言が無効になる」というわけではありません。

まずは遺言の内容に従って財産を承継し、そのうえで、遺留分を侵害された妻や次男がどのように対応するかを考えることになります。

なお、実際の遺留分の金額は、相続財産の内容や生前贈与、債務などによって変わる場合があります。って変わる場合があります。

④遺言書を見つけたらまず何を確認する?

遺言書を見つけたら、まず次の点を確認します。

  • 誰がどの財産を取得することになっているか
  • 自分はどの財産を取得することになっているか
  • 遺言書に書かれていない財産も含めて、相続財産全体に何があるか
  • 自分が遺留分を持つ相続人に該当するか

特に重要なのは、遺言書に書かれた自分の取り分だけを見て判断しないことです。

遺留分が侵害されているかどうかを確認するには、遺言によって誰が何を取得するのかだけでなく、預貯金や不動産などを含めた相続財産全体を把握する必要があります。

また、遺留分はすべての相続人に認められているわけではありません。そのため、まず自分に遺留分があるのかを確認したうえで、実際にその遺留分が侵害されているかを見ていきます。

相続財産をどのように分けるのか、法定相続分や代表的な分け方を整理したい場合は、遺産分割の基本も確認しておくと理解しやすくなります。
遺産分割の基本・相続割合・分け方を詳しく見る

⑤遺言で遺留分を侵害された場合はどうする?

遺留分を侵害された場合の対応の流れ

遺留分を侵害されたからといって、すぐに訴訟を起こすわけではありません。

まずは自分に遺留分があるか、実際にどの程度侵害されているかを確認します。そのうえで相手方に請求の意思を伝え、話し合いで解決できない場合に調停や訴訟を検討します。

相続人や遺言・財産の確認から、請求、話し合い、裁判所の検討までの相続手続きの流れを表したクレイアート風イラスト
相続では、まず相続人や遺言、財産の内容を確認し、そのうえで請求や話し合いを進めます。解決が難しい場合には、最終的に裁判所での手続きを検討することもあります。

流れを整理すると、次のようになります。

自分に遺留分があるか確認する

まず、自分が遺留分を持つ相続人かどうかを確認します。

遺留分が認められるのは、原則として配偶者、子や孫などの直系卑属(子や孫など、自分より後の世代にあたる親族)、父母や祖父母などの直系尊属(父母や祖父母など、自分より前の世代にあたる親族)です。

一方、兄弟姉妹や甥・姪には遺留分がありません。

自分に遺留分があるのか、どのくらいの割合が認められるのかを確認したい場合は、遺留分の基本的な仕組みから確認しておきましょう。
遺留分とは?対象となる相続人・割合を詳しく解説

遺留分が侵害されているか確認する

自分に遺留分があっても、必ず請求できるわけではありません。

実際に取得した財産が遺留分を下回っているか、遺言や一定の生前贈与によって遺留分が侵害されているかを確認します。単に「法定相続分より少ない」というだけでは、遺留分侵害額請求ができるとは限りません。

相続財産や生前贈与などを確認して侵害額を整理する

遺留分の侵害額を確認するには、相続開始時の財産だけでなく、一定の生前贈与や被相続人の債務なども確認します。

また、不動産が含まれる場合は、その評価額によって侵害額が変わることがあります。生前贈与についても、いつ、誰に、どのような贈与が行われたのかによって扱いが異なります。

相手方に遺留分侵害額請求の意思を伝える

遺留分が侵害されていると判断したら、財産を多く取得した相手方に対して、遺留分侵害額請求の意思を伝えます。

請求には決められた専用書式があるわけではありません。ただし、後から「いつ請求したのか」を確認できるよう、書面で行うのが一般的です。

また、この段階で必ずしも請求額を完全に確定させておく必要はありません。まず期限内に請求の意思を示し、その後に財産内容や評価額を確認しながら金額を整理していくこともあります。

実際に請求する場合の方法や期限、相手方への伝え方については、遺留分侵害額請求の記事で詳しく解説しています。
遺留分侵害額請求の方法・期限を詳しく見る

相手方と金額や支払いについて話し合う

請求の意思を伝えたあとは、侵害額や支払い方法について相手方と話し合います。

財産の評価額や生前贈与の有無などについて双方の認識が一致していれば、話し合いで解決できることもあります。

一方で、不動産の評価額や生前贈与の内容、支払額などについて意見が分かれると、当事者だけでの調整が難しくなることがあります。

話し合いでまとまらない場合は調停・訴訟を検討する

当事者同士の話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所での調停や訴訟を検討します。

相手方が請求そのものを拒否している場合や、侵害額、不動産の評価額、生前贈与の有無などについて争いがある場合は、弁護士への相談も検討した方がよいでしょう。

遺留分侵害額請求には期限がある

遺留分侵害額請求は、いつでもできるわけではありません。

原則として、相続が開始したことと、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年以内に請求する必要があります。

また、遺留分の侵害を知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過すると、原則として請求できなくなります。

そのため、遺留分が侵害されている可能性に気づいた場合は、期限ぎりぎりまで待たず、早めに状況を整理することが大切です。

⑥公正証書遺言なら遺留分より優先される?

公正証書遺言を象徴する書類と印鑑、その横で盾を持つ家族を配置し、公正証書遺言と遺留分が並存することを表したクレイアート風イラスト
公正証書遺言を作成していても、一定の相続人に認められた遺留分がなくなるわけではありません。

公正証書遺言(公証人が関与して作成する遺言)であっても、遺留分より優先されて、遺留分がなくなるわけではありません。

公正証書遺言は、法律で定められた手続きに沿って作成されるため、遺言の方式をめぐるトラブルを防ぎやすいという特徴があります。しかし、公正証書で作成したからといって、配偶者や子などに認められている遺留分まで排除できるわけではありません。

たとえば、公正証書遺言で「全財産を長男に相続させる」と定めていた場合でも、その内容によって妻や次男の遺留分が侵害されていれば、遺留分について別途確認する必要があります。

これは、自筆で作成した遺言の場合でも、公正証書遺言の場合でも基本的な考え方は同じです。遺言によって特定の人に多く財産を残しても、一定の相続人には遺留分が認められます。

つまり、公正証書遺言だから遺留分を無視できるわけではないということです。

⑦遺留分を考えて遺言を作成することも大切

自宅や預金、家族のことを考えながら遺言書を作成する高齢の親を表したクレイアート風イラスト
遺言を作成するときは、財産の分け方だけでなく、家族関係や遺留分、相続後のトラブルまで考えて内容を検討することが大切です。

これから遺言を作成する場合は、自分の希望だけでなく、相続人の遺留分も確認しておくことが大切です。

特定の相続人に多く財産を残したい事情がある場合でも、その結果としてほかの相続人の遺留分を大きく侵害すると、相続後に金銭の請求が行われる可能性があります。

特定の相続人に多く財産を残す場合は遺留分を確認する

たとえば、「長男に事業用の不動産を残したい」「同居している子に自宅を相続させたい」など、特定の相続人に多く財産を残したいケースはあります。

そのような場合でも、ほかの相続人に遺留分があるのであれば、その金額をあらかじめ確認しておくことが重要です。

遺言の内容だけを決めるのではなく、その遺言によって誰の遺留分がどの程度侵害される可能性があるのかまで見ておくと、相続後のトラブルを想定しやすくなります。

不動産が多い場合は遺留分を支払えるかまで考える

相続財産の大部分が不動産の場合は、特に注意が必要です。

たとえば、長男に自宅や事業用不動産を相続させた結果、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受けても、長男の手元に十分な現金がないことがあります。

このような場合、不動産を残したいという希望があっても、実際には遺留分を支払うための資金をどう用意するかまで考えておく必要があります。

遺言を作成するときは、誰に何を残すかだけでなく、その内容を実際に実行できるかという視点も大切です。

不公平感のある遺言を残す場合は付言事項の活用も検討する

特定の相続人に多く財産を残す理由がある場合は、付言事項(遺言者の考えや家族への思いなどを記す部分)を活用する方法もあります。

たとえば、「長男に自宅を残すのは、これまで同居して介護を続けてくれたためです」など、なぜそのような財産の分け方にしたのかを言葉で残しておくことができます。

もちろん、付言事項を書いたからといって遺留分がなくなるわけではありません。

ただ、遺言の内容だけでは伝わりにくい事情や気持ちを残しておくことで、ほかの相続人がその背景を理解するきっかけになることはあります。

⑧遺言と遺留分についてよくある質問

Q:遺言と遺留分はどちらが優先されますか?

遺言が優先されます。

Q:遺留分を侵害する遺言は無効になりますか?

遺留分を侵害していたとしても、遺言は無効にはなりません。

遺言が有効かどうかと、その内容によって遺留分が侵害されているかどうかは別に判断します。

Q:遺言書があっても遺留分を請求できますか?

遺留分が侵害されていれば、請求できます。

ただし、法定相続分より取り分が少ないというだけでは請求できません。実際に遺留分が侵害されているかを確認する必要があります。

Q:公正証書遺言なら遺留分を避けられますか?

避けられません。

公正証書遺言で作成したからといって、相続人の遺留分がなくなるわけではありません。

Q:全財産を一人に相続させる遺言は作れますか?

作れます。

ただし、その内容によって、ほかの相続人の遺留分を侵害することがあります。「全財産を長男に相続させる」という遺言でも、ほかの相続人の遺留分が問題になる場合があります。

Q:遺言で遺留分を侵害されたら、遺産を分け直すのですか?

原則として、遺産そのものを分け直すわけではありません。

現在の遺留分侵害額請求では、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求めます。

遺産分割協議そのものの進め方や、相続人全員でどのように話し合うのかについては、別の記事で詳しく解説しています。
遺産分割協議の進め方を詳しく見る

Q:付言事項を書けば遺留分の請求を防げますか?

防げません。

付言事項に財産の分け方を決めた理由や家族への思いを書いても、相続人に認められた遺留分そのものがなくなるわけではありません。

まとめ|遺言があっても遺留分はなくならない

遺言がある場合は、まずその内容に従って相続を進めるのが基本です。

一方で、遺言によって配偶者や子など一定の相続人の遺留分が侵害されていても、その遺言が無効になるわけではありません。遺言による財産の承継と、遺留分が侵害されているかどうかは、分けて考える必要があります。

また、公正証書遺言で作成していたとしても、遺留分を避けられるわけではありません。

遺言によって自分の取り分が少なくなっている場合は、まず遺言書の内容や相続財産を確認し、自分に遺留分があるか、実際に侵害されているかを整理しましょう。

これから遺言を作成する場合も、誰に何を残すかだけでなく、ほかの相続人の遺留分や、相続後に金銭を支払えるかまで考えておくことが大切です。

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