親と同居していたら相続で有利?介護と寄与分の関係をわかりやすく解説

高齢の親を支える家族と農作業のイメージ|相続の寄与分を解説する記事

親と同居しながら介護を続けてきた人の中には、

「ずっと自分が親の面倒を見てきたのに、相続では別居していた兄弟と同じなの?」

と感じる方もいるのではないでしょうか。

親と同居していたというだけで、相続分が増えるわけではありません。
ただし、長期間の介護などによって親の財産の維持に特別な貢献をしていた場合は、「寄与分」として相続分に反映されることがあります。

この記事では、同居介護と寄与分の関係や、どのような事情が重視されるのかを、具体例や判例を交えてわかりやすく解説します。

目次

①親と同居していたら相続で有利になる?

高齢の父親と同居する長女が食事などの介護を行い、別居する長男が少し離れて見守る相続と介護のクレイ人形風イラスト。
親の介護を長期間担ってきた相続人がいる場合、その負担や貢献が相続でどのように考慮されるかが問題になることがあります。

親と同居していたというだけで、相続分が自動的に増えるわけではありません。

ただし、同居しながら長期間にわたって介護を続けるなど、親の財産の維持に特別な貢献をしていた場合は、「寄与分」として相続分に反映されることがあります。

同居していただけでは相続分は増えない

相続では、まず法定相続分が一つの基準になります。

たとえば、父が亡くなり、相続人が母・長男・長女の3人であれば、法定相続分は母が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1です。

このとき、長女だけが父と10年間同居していたとしても、同居していたという事実だけで長女の相続分が増えるわけではありません。

食事を作る、買い物を手伝う、病院へ送迎するといった日常的な助け合いは、家族として通常行われる範囲と考えられることもあります。

相続がいつ始まり、誰が財産を引き継ぐのか、遺言書がない場合にどのように財産を分けるのかなど、相続全体の基本については、「相続とは?」で解説しています。

介護など特別な貢献があれば「寄与分」が認められることがある

一方で、親の介護を長期間担うなど、通常の家族としての助け合いを超える負担があり、その結果として親の財産の維持に貢献していた場合は、寄与分が認められることがあります。

寄与分が認められるかは、単に「同居していた」「介護していた」というだけではなく、介護の期間や内容、親の状態などを確認して判断します。

「何年同居したか」だけでは決まらない

寄与分では、同居していた年数だけで判断するわけではありません。

長く同居していても親が自立して生活していた期間と、入浴や排泄などの介助が必要になった期間では、負担の程度が異なります。

そのため、「何年一緒に暮らしていたか」よりも、「いつから、どのような介護をしていたのか」を整理することが大切です。

②寄与分とは?

寄与分とは、相続人の一人が被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をしていた場合に、その貢献を相続分に反映するための制度です。

介護をしていた人への「ご褒美」や「慰労金」というより、家族の中で一人だけが特別な負担をしていた場合に、その事情を相続分へ反映するための仕組みと考えると分かりやすいでしょう。

寄与分は相続財産の維持・増加への特別な貢献を相続分に反映する制度

たとえば、親が重い介護を必要とする状態になり、長女が仕事を減らして自宅で介護を続けていたとします。

その結果、本来であれば必要だった介護サービスや施設利用などの支出が抑えられ、親の財産が維持されたのであれば、長女の介護が寄与分として考慮される可能性があります。

介護以外にも、

  • 親の家業を長期間、無償または低い報酬で手伝った
  • 親の借金や不動産ローンを自分のお金で負担した
  • 親の事業や不動産の維持に特別な貢献をした

といったケースで寄与分が問題になることがあります。

家族として通常期待される助け合いを超える貢献が必要

寄与分が認められるには、単に親を手伝っただけではなく、通常の親子や家族としての助け合いを超える「特別な貢献」が必要です。

たとえば、

「同居して食事を作っていた」
「ときどき病院へ送迎していた」
「買い物を手伝っていた」

といった事情だけでは、それだけで寄与分が認められるとは限りません。

一方で、親が一人では日常生活を送れない状態になり、排泄・入浴・着替えなどの身体介助を長期間、無償で担っていた場合などは、特別な貢献として評価される可能性があります。

判例でも、親が比較的自立していた時期の家事や世話と、重い身体介助が必要になってからの介護を分けて評価した例があります。

寄与分が、介護や家業への貢献などを相続分に反映する制度であるのに対し、生前に特定の相続人だけが住宅資金や学費などの援助を受けていた場合には、「特別受益」が問題になることがあります。遺言と生前贈与の関係については、「遺言と特別受益の関係」で詳しく解説しています。

寄与分を主張できるのは原則として共同相続人

寄与分を主張できるのは、原則として相続人です。

たとえば、父が亡くなり、妻・長男・長女が相続人となる場合、長女が父を長期間介護していたのであれば、長女が寄与分を主張することが考えられます。

一方、長男の妻など、被相続人の相続人ではない人が介護していた場合は、原則として寄与分を直接主張することはできません。

ただし、一定の要件を満たす親族については「特別寄与料」という別の制度が関係する場合があります。これは後ほど詳しく説明します。

寄与分を考える前提として、まず誰が相続人になるのかを確認する必要があります。法定相続人の範囲や順位、法定相続分については、「相続人とは?」で詳しく解説しています。

③どんな貢献なら寄与分が認められる可能性がある?

寄与分は介護だけの制度ではありません。

被相続人の財産を維持・増加させるために、相続人が特別な負担をしていた場合には、家業への従事や金銭負担なども寄与分として問題になることがあります。

貢献の内容寄与分が問題になりやすい例
長期間の介護入浴・排泄・着替え・食事など日常生活全般を継続的に介助していた
家業への従事親の農業や商店などを長期間、無償または低い報酬で手伝っていた
金銭負担親の借金や不動産ローンなどを自分の収入から負担していた
財産の維持・管理不動産や事業用財産の価値を維持するため、特別な管理や労務を担っていた

ただし、どのケースも「やっていた」という事実だけで寄与分が認められるわけではありません。

期間や負担の程度、対価を受けていたか、親の財産の維持・増加にどのようにつながったのかを個別に確認します。

親と同居して長期間介護していた場合

今回の記事で中心になるのが、親と同居しながら介護を担っていたケースです。

たとえば、親が一人では生活できない状態になり、

  • 毎日の食事を介助する
  • 入浴や排泄を手伝う
  • 着替えや移動を介助する
  • 夜間も起きて対応する
  • 通院や服薬管理を継続的に行う

といった介護を長期間、無償で担っていた場合です。

こうした介護によって、本来必要だった訪問介護や施設利用などの費用を抑え、親の財産の減少を防いだといえる場合は、寄与分として評価される可能性があります。

一方で、同居して食事を作ったり、買い物や通院を手伝ったりしていたというだけでは、家族として通常期待される助け合いの範囲と判断されることもあります。

家業を無償または低い報酬で支えていた場合

親が農業や商店などの家業を営んでいて、その仕事を子が長期間支えていた場合も、寄与分が問題になることがあります。

たとえば、

「ほとんど給与を受け取らずに何年も農業を手伝っていた」

「本来なら従業員を雇う必要がある仕事を家族が担っていた」

といったケースです。

判例では、親のみかん農業を支え、農地を荒廃させず価値を維持したことについて、寄与分が認められた例があります。

ただし、通常の給与を受け取っていたり、食費や家賃などを親に負担してもらっていた場合には、その利益も含めて判断されます。

親の借金や不動産ローンなどを負担していた場合

親のためにまとまった金銭を負担していた場合も、寄与分につながることがあります。

たとえば、

「親が所有する不動産のローンを、子が自分の収入から返済していた」

「親の債務を子が代わりに支払い、返してもらっていなかった」

といったケースです。

判例では、親の不動産ローンについて子世帯が実質的に700万円を負担し、その金額が寄与分として評価された例があります。

ポイントになるのは、単に親へお金を渡したということではなく、その負担によって親の借金が減り、財産の減少を防いだといえるかという点です。

親の不動産や事業用財産を維持していた場合

親が賃貸不動産や事業用の土地・建物を所有している場合、その財産の維持に特別な貢献をしていたケースでも寄与分が問題になることがあります。

たとえば、

  • 長期間にわたり無償で賃貸物件を管理した
  • 修繕業者の手配や入居者対応を継続的に行った
  • 事業用の土地や建物が荒れないよう管理した
  • 財産を失わないための手続きに特別な労力をかけた

といった場合です。

ただし、単に親の通帳を管理していた、書類の手続きを代行していたという程度では十分とは限りません。

その管理によって、本来必要だった管理費用を節約したり、財産価値の低下を防いだりしたことまで具体的に確認する必要があります。

寄与分は誰が決める?

寄与分は、介護した本人が一方的に金額を決めるものではありません。

まずは相続人どうしで、寄与分を認めるか、いくらにするかを話し合います。相続人全員が合意できれば、その内容を相続分に反映できます。

話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判で判断されます。

④同居介護で寄与分が認められるかは何を見る?

同居しながら介護していた場合でも、寄与分が認められるかは「何年一緒に暮らしていたか」だけでは決まりません。

親がどのような状態だったのか、どこまで介護していたのか、その介護によってどれだけ費用負担を抑えられたのかなどを総合的に見ていきます。

介護が必要だった期間と親の状態を見る

まず確認されるのが、親がいつから介護を必要とする状態になったのかです。

たとえば、10年間同居していたとしても、そのうち最初の7年間は自分で食事や着替え、買い物ができていて、最後の3年間だけ本格的な介護が必要だったのであれば、10年間すべてが同じように評価されるわけではありません。

実際の判例でも、7年以上介護していたと主張されたケースで、重い介助が必要になった最後の81日間だけが寄与分として評価された例があります。

そのため、

  • 要介護認定を受けた時期
  • 入院や退院の時期
  • 一人で歩けなくなった時期
  • 排泄や入浴に介助が必要になった時期

などを確認しながら、介護負担が重くなった時期を整理することが大切です。

食事・排泄・入浴など、どこまで介助していたかを見る

元気な母親への買い物や食事などの生活支援と、歩行が難しい母親への移動・着替えなどの身体介助を比較したクレイ人形風イラスト。
親への支援といっても、買い物や食事の手伝いと、継続的な身体介助では負担の程度が大きく異なります。寄与分を考える際も、介護の内容や頻度、期間などが重要になります。

寄与分を考えるうえでは、どのような介護をしていたのかも重要です。

たとえば、

「食事を作っていた」
「買い物をしていた」
「月に何度か病院へ送迎していた」

という支援と、

「毎日食事の介助をしていた」
「排泄や入浴、着替えを手伝っていた」
「夜間も起きて対応していた」

という介護では、負担の程度が大きく異なります。

特に、食事や排泄、入浴、着替えなど、本人が一人ではできない日常生活の動作を継続的に介助していた場合は、通常の家族としての助け合いを超える負担だったかどうかを考えるうえで重要になります。

また、介護のために仕事を休んだり、勤務時間を減らしたり、退職したりした事情も、介護負担の大きさを考える材料になります。

ただし、仕事を辞めたことだけで寄与分が認められるわけではありません。実際にどのような介護をしていたのか、その介護が親の財産の維持につながっていたのかとあわせて確認されます。

こうした考え方は、実際の判例(裁判所が個別の事件について示した判断)にも表れています。

要介護4から5の親について、食事や排泄、洗身、着替えなど日常生活全般を介助し、痰の吸引まで行っていたケースでは、寄与分が認められています。

一方で、親が自分で運転や買い物、調理、通院などをできていたケースでは、食事を届けるなどの世話をしていても、通常の親族間の助け合いの範囲と判断された例もあります。

介護によって親の財産の減少をどれだけ防いだかを見る

寄与分では、介護そのものの大変さだけではなく、介護によって親の財産がどの程度維持されたかも重要になります。

たとえば、家族が在宅介護を続けたことで、

  • 訪問介護を利用する回数を減らせた
  • 有料の付添看護を利用せずに済んだ
  • 施設への入所をせず在宅生活を続けられた

という事情があれば、本来必要だった介護費用の支出を抑えたと考えられることがあります。

実際の判例でも、家族の介護によって外部の介護サービス費が節約されたことが、寄与分を考える際の重要な事情として評価されています。

無償で介護していたかを見る

介護に対して、すでに相応の対価を受け取っていたかどうかも確認されます。

たとえば、

  • 毎月まとまった金銭を受け取っていた
  • 親から給与を受けていた
  • 住居費や生活費を全面的に負担してもらっていた
  • 介護へのお礼として多額の生前贈与を受けていた

といった事情がある場合です。

反対に、少額の小遣い程度であれば、それだけで必ず寄与分が否定されるわけではありません。

「介護をしていたか」だけでなく、その負担が実質的に無償だったのかまで確認されます。

他の兄弟姉妹や介護サービスとの分担も見る

同居していた人がすべての介護を一人で担っていたとは限りません。

たとえば、

「平日は長女が介護し、週末は長男が対応していた」

「日中はデイサービスを利用し、朝晩だけ家族が介護していた」

というケースもあります。

このような場合は、誰がどの程度介護を担当していたのか、外部サービスをどれくらい利用していたのかも確認します。

つまり、寄与分では、

同居年数ではなく、介護が必要だった期間・介護内容・無償性・費用の節約・他の家族との分担

を具体的に見ていくことが重要です。

⑤寄与分が認められた例・認められなかった例

寄与分は、介護していた期間の長さだけで決まるものではありません。

実際の判例を見ると、親の状態や介護内容、無償性、財産の維持へのつながりなどによって結論が分かれています。

寄与分が認められた例

(1)要介護4〜5の親を介護し、約750万円が認められた例

親が要介護4から5の状態となり、両手足にまひがあったため、食事、排泄、洗身、着替えなど日常生活の多くに介助が必要だったケースです。

介護をしていた相続人は、こうした介助を無償で継続し、痰の吸引まで行っていました。

このケースでは、家族が介護することで外部の介護サービスにかかる費用を抑え、親の財産の減少を防いだことなどが評価され、約750万円の寄与分が認められています。

(2)独りで歩くことが難しくなった親を継続的に介護し、750万円が認められた例

親と同居していた子が、洗髪や排泄介助、失禁後の清掃、夜間対応などを継続的に行っていたケースです。

親が比較的自立していた時期の家事は通常の家族協力とされましたが、独りで歩くことが難しくなってからの身体介助については特別な寄与として評価され、750万円の寄与分が認められました。

(3)親の不動産ローン700万円を負担した例

親が所有する不動産のローンについて、子の世帯が実質的に700万円を返済していたケースです。

返済によって親の債務が減り、財産の維持につながったとして、700万円相当の寄与分が認められました。

寄与分が認められなかった・一部だけ認められた例

(1)7年以上介護していても最後の81日間だけ評価された例

看護師経験のある長女が、親と同居しながら7年以上介護していたと主張したケースです。

しかし、その期間すべてが評価されたわけではなく、親がトイレへの移動などにも介助を必要とする状態になった最後の81日間だけが、特別な寄与として評価されたとされています。

(2)食事を届けるなどの支援をしても認められなかった例

子が朝夕に親のもとを訪れ、朝食を作ったり夕食を届けたりしていたケースです。

ただし、親は入院直前まで自分で車を運転し、買い物や昼食の準備、通院などもしていました。

そのため、こうした支援は通常の親族間の協力の範囲と判断され、寄与分は認められませんでした。

(3)家業を手伝っていても給与や生活費を受けていたため認められなかった例

親が営む簡易郵便局で、子が働いていたケースです。

子は低い給与で働いていたと主張しましたが、実際には相応の給与を受け、さらに食費や家賃も親が負担していました。

そのため、無償または著しく低い報酬での特別な貢献とはいえないとして、寄与分は認められませんでした。

⑥寄与分がある場合の相続分はどう計算する?

寄与分が認められた場合は、その金額を考慮して相続分を計算します。

考え方としては、まず相続財産から寄与分を差し引き、その残りを法定相続分で分けます。そのうえで、寄与した相続人に寄与分を加えます。

寄与分を相続財産から先に差し引いて考える

たとえば、父が亡くなり、相続財産が4,000万円あったとします。

相続人は、

  • 長男
  • 長女

の3人です。

長女は父と同居しながら長期間介護をしており、その寄与分が600万円と認められたとします。

この場合、まず相続財産4,000万円から寄与分600万円を差し引きます。

4,000万円 − 600万円 = 3,400万円

この3,400万円を、法定相続分に応じて分けていきます。

妻・長男・長女の3人で計算する具体例

このケースでは、法定相続分は、

  • 妻:2分の1
  • 長男:4分の1
  • 長女:4分の1

です。

3,400万円をこの割合で分けると、

  • 妻:1,700万円
  • 長男:850万円
  • 長女:850万円

となります。

そして、長女には寄与分600万円を加えます。

そのため、最終的な取得額は、

相続人取得額
1,700万円
長男850万円
長女1,450万円

となります。

長女が多く受け取るのは、「同居していたから」ではありません。

長期間の介護によって父の財産の維持に特別な貢献をしたと認められ、その寄与分600万円が相続分に反映されたためです。

寄与分を考慮した相続分が分かっても、実際に不動産や預貯金を誰が取得するかは別に決める必要があります。相続財産の具体的な分け方や手続きについては、「遺産分割とは?」で詳しく解説しています。

寄与分の金額には一律の相場はない

寄与分には、「3年間介護したら300万円」「要介護5なら○万円」といった一律の金額が決まっているわけではありません。

介護の場合は、

  • 親の状態
  • 介護の内容
  • 介護した期間
  • 無償性
  • 外部の介護サービスをどの程度利用していたか
  • 他の家族との分担
  • 親の財産の減少をどの程度防いだか

などを踏まえて考えます。

実際の判例でも、介護サービスの報酬額などを参考にしながら介護日数や負担の程度を考慮して寄与分を算定した例がありますが、その計算方法がすべてのケースにそのまま当てはまるわけではありません。

そのため、判例で認められた金額は「相場」として見るのではなく、どのような事情が評価されたのかを参考にすることが大切です。

⑦寄与分は誰が決める?

寄与分は、介護した本人が一方的に「自分には600万円の寄与分がある」と決められるものではありません。

まずは相続人どうしで、寄与分を認めるか、認める場合はいくらにするかを話し合います。

まずは相続人どうしの話し合いで決める

相続人全員が、

「長女が長年介護していたので、その負担を相続分に反映しよう」

と合意できれば、その内容を踏まえて遺産を分けることができます。

たとえば、介護期間や介護内容、仕事への影響、介護サービスの利用状況などを確認しながら、相続人どうしで寄与分の金額を話し合います。

このとき、介護した本人の感覚だけではなく、他の相続人から見ても分かるように、介護の内容や期間を具体的に整理しておくことが大切です。

話し合いで決まらない場合は家庭裁判所で判断する

相続人どうしで、

「そこまでの介護ではなかった」

「寄与分の金額が高すぎる」

「自分も介護をしていた」

など意見が分かれ、話し合いでまとまらない場合もあります。

その場合は、家庭裁判所の調停や審判の手続きの中で寄与分を定めてもらうことになります。

家庭裁判所では、介護の期間や内容、親の状態、無償性、他の家族との分担、親の財産の維持にどのようにつながったかなどを確認しながら判断します。

介護した本人が自由に金額を決められるわけではない

長年介護を続けてきた人ほど、

「これだけ介護したのだから、その分は多く相続したい」

と感じるのは自然なことです。

ただし、寄与分は介護期間だけで金額が決まるものではなく、一律の相場もありません。

そのため、後から寄与分について話し合うことになったときに備えて、介護している段階から「いつ、どのような介護をしていたのか」を記録しておくことが重要になります。

次では、寄与分を考えるときに確認したい具体的な資料について見ていきます。

⑧寄与分を考えるときに確認したい資料

親を介護する娘が、カレンダーや領収書、介護サービスの書類を整理しながら介護日記をつけているクレイ人形風イラスト。
介護の内容や頻度、支出した費用などを日頃から記録しておくと、家族内で状況を共有しやすくなり、相続時に寄与分を検討する際の事実確認にも役立ちます。

寄与分について話し合うときは、「介護していた」という記憶だけでなく、当時の状況が分かる資料を整理しておくことが大切です。

一つの資料だけで判断されるわけではありません。介護の期間や内容、親の状態、金銭負担などが分かる複数の資料を組み合わせて確認していきます。

親の介護状態や介護期間が分かる資料

まず確認したいのが、親がいつから、どの程度の介護を必要としていたのかが分かる資料です。

たとえば、

  • 要介護認定に関する資料
  • 診断書や診療記録
  • ケアプラン
  • 介護サービスの利用票
  • 入退院の記録

などがあります。

こうした資料があると、「何年間同居していたか」ではなく、実際に介護負担が重くなった時期を整理しやすくなります。

実際に行った介護内容が分かる資料

次に、どのような介護をしていたのかが分かる記録です。

たとえば、

  • 介護日記
  • カレンダーへの記録
  • 通院の記録
  • ケアマネジャーとのやり取り
  • 家族間のLINEやメール

などがあります。

特に介護日記は、

「いつ」
「何をしたか」
「どのくらい時間がかかったか」

を後から確認しやすくなります。

数年前の介護内容を正確に思い出すのは難しいため、今まさに介護をしている方は、無理のない範囲で日々の記録を残しておくことをおすすめします。

介護や親のために支払った費用が分かる資料

親のために自分のお金を負担していた場合は、その支出が分かる資料も確認します。

たとえば、

  • 医療費や介護用品の領収書
  • 銀行振込の記録
  • 通帳
  • 親のローンを返済した記録
  • 施設費や生活費を立て替えた記録

などです。

「自分が払った」という記憶だけではなく、誰のお金から、いつ、いくら支払ったのかが分かる形で残っていると整理しやすくなります。

仕事を減らしたことや家業への貢献が分かる資料

介護のために仕事を減らしたり、家業を無償または低い報酬で手伝っていた場合は、その事情が分かる資料も参考になります。

たとえば、

  • 休職・退職に関する資料
  • 勤務時間を変更した記録
  • 給与明細
  • 家業の給与台帳
  • 帳簿
  • 確定申告資料

などです。

こうした資料は、介護や家業への負担がどの程度だったのかを客観的に確認する材料になります。

調査した判例でも、介護日誌、要介護認定、診療録、ケアプラン、領収書、勤務変更資料、預金履歴などが重要な資料として挙げられています。

⑨親が元気なうちにできること

寄与分は、親が亡くなったあとに相続人どうしで話し合うことがあります。

ただ、介護を受けている本人が「誰に、どのような負担をかけているのか」を把握しているのであれば、その気持ちを生前のうちに整理しておくことも大切です。

誰がどのような介護を担っているのか共有しておく

家族の中で一人に介護負担が集中していても、離れて暮らしている兄弟姉妹には、その実態が十分に伝わっていないことがあります。

たとえば、

  • 毎日の食事や排泄を介助している
  • 夜間も何度も起きて対応している
  • 通院のたびに仕事を休んでいる
  • 勤務時間を減らして介護している

といった事情です。

介護をしている本人だけが負担を抱え込むのではなく、できる範囲で家族にも状況を共有しておくと、後から「そこまで介護していたとは知らなかった」という認識のずれを減らしやすくなります。

介護している人は介護日記を残しておく

今まさに親の介護をしている方には、介護日記をつけておくことをおすすめします。

毎日長い文章を書く必要はありません。

「8月10日 入浴・排泄介助、通院付き添い」
「8月11日 夜間2回起きて介助」
「8月15日 通院のため仕事を半日休む」

といった簡単な記録でも、積み重ねておくことで、いつから、どのような介護をしていたのかを後から確認しやすくなります。

介護中は目の前のことで精いっぱいになりやすく、数年後に当時の状況を正確に思い出すのは簡単ではありません。

将来寄与分を主張するためだけではなく、介護の状況を家族で共有したり、医療・介護サービスを見直したりするためにも役立ちます。

助けてくれた家族へ多く残したいなら遺言で意思を残す

長年介護してくれた娘に感謝する高齢の母親と、遺言書や印鑑を置いたテーブルを描いたクレイ人形風イラスト。
長年支えてくれた家族への感謝や、財産を多く残したい理由は、遺言の付言事項などで言葉として伝えることもできます。

介護を受けている本人が、

「長女には何年も介護してもらっている」

「仕事を減らしてまで自分の生活を支えてくれている」

と感じているのであれば、その貢献を踏まえて財産の分け方を考えることもできます。

亡くなったあとに、介護した子自身へ「自分がどれだけ介護したのか」を兄弟姉妹に説明させるのではなく、介護を受けた本人が、その負担を認めたうえで遺言に意思を残しておくという方法です。

介護した人にとっても、単に財産を多く受け取ることだけではなく、「自分がしてきたことを親が分かってくれていた」と感じられることには、大きな意味があるでしょう。

ただし、財産の分け方によっては遺留分など別の問題も関係するため、現在の財産や家族構成を確認しながら内容を考えることが大切です。

遺言では、誰にどの財産を残すかを決めるだけでなく、付言事項を使って、介護してくれた家族への感謝や財産の分け方を決めた理由を伝えることもできます。遺言の種類や作成方法については、「遺言とは?」で詳しく解説しています。

公正証書遺言なら自分で文字を書くことが難しくても作成できる

介護が必要になると、

「もう字がうまく書けないから遺言は作れない」

と思う方もいるかもしれません。

しかし、公正証書遺言は自筆証書遺言とは異なり、本人が遺言書の全文を自分で書く必要はありません。

また、病気や身体の状態などによって公証役場へ行くことが難しい場合には、公証人に自宅や病院などへ出張してもらい、公正証書遺言を作成できる場合もあります。

ただし、自分で字を書けるかどうかと、遺言を作るために必要な判断能力があるかどうかは別の問題です。

そのため、「まだ自分の意思をしっかり伝えられるうちに」、介護してくれている家族への感謝や、どのように財産を残したいのかを整理しておくことをおすすめします。

⑩相続人ではない家族が介護していた場合は?

親の介護をしていた人が、必ずしも相続人とは限りません。

たとえば、長男の妻が義父母と同居し、長年にわたって介護を担っていたというケースもあります。

長男の妻などは原則として寄与分を直接主張できない

寄与分を主張できるのは、原則として共同相続人です。

そのため、長男の妻が義父を長年介護していたとしても、長男の妻自身が義父の相続人でなければ、通常の寄与分を直接主張することはできません。

一方で、判例では、相続人の妻による介護を、その相続人の寄与を補助する行為として評価した例もあります。

ただし、誰がどのような立場で介護していたのかによって扱いが変わるため、「家族として介護していたから当然に寄与分になる」とは考えない方がよいでしょう。

一定の親族には「特別寄与料」が認められる場合がある

相続人ではない親族が被相続人の療養看護などを無償で行い、その結果として被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をしていた場合には、「特別寄与料」という別の制度が関係することがあります。

たとえば、一定の要件を満たす長男の妻などが、義父母を長期間介護していたケースです。

寄与分と特別寄与料は似ていますが、誰が請求できるのか、どのような手続きになるのかが異なります。

そのため、相続人ではない家族が介護を担っていた場合は、通常の寄与分とは分けて考えることが大切です。

⑪寄与分についてよくある質問

Q:親と同居していただけで相続分は増えますか?

いいえ。親と同居していたというだけで、相続分が自動的に増えるわけではありません。

寄与分が問題になるのは、長期間の介護など、通常の家族としての助け合いを超える特別な貢献があり、その結果として親の財産の維持・増加につながっていた場合です。

Q:何年介護すれば寄与分が認められますか?

「○年以上介護すれば寄与分が認められる」という一律の基準はありません。

介護していた年数よりも、

  • 親がどの程度介護を必要としていたか
  • どのような介助をしていたか
  • どのくらいの頻度で介護していたか
  • 無償で行っていたか
  • 他の家族や介護サービスとどのように分担していたか

などを総合的に見て判断されます。

実際の判例でも、7年以上介護していたと主張されたケースで、そのすべてではなく、重い介助が必要になった最後の81日間だけが評価された例があります。

Q:要介護認定を受けていれば寄与分になりますか?

要介護認定を受けていることは、親がどの程度介護を必要としていたのかを確認するための重要な資料になります。

ただし、「要介護○だから必ず寄与分が認められる」というものではありません。

実際に家族がどのような介護をしていたのか、その介護によって親の財産の減少をどの程度防いだのかなども確認されます。

Q:親の生活費を負担していた場合も寄与分になりますか?

親の生活費や借金、住宅ローンなどを子が負担していた場合、その内容によっては寄与分が問題になることがあります。

ただし、通常の扶養の範囲なのか、まとまった金額を長期間負担していたのか、返してもらっていたのかなどによって扱いは異なります。

実際の判例では、親の不動産ローン700万円を子の世帯が実質的に負担し、その金額が寄与分として評価された例があります。

Q:兄弟の一人だけが親を介護していた場合はどうなりますか?

一人の相続人に介護負担が集中していた場合、その介護が通常の家族としての助け合いを超えるものであれば、寄与分として相続分に反映される可能性があります。

ただし、「自分だけ介護した」という事情だけで決まるわけではありません。

介護の期間や内容、親の状態、他の兄弟姉妹の関わり、介護サービスの利用状況なども確認します。

Q:相続人ではない嫁が介護していた場合はどうなりますか?

長男の妻など、被相続人の相続人ではない人は、原則として通常の寄与分を直接主張することはできません。

ただし、一定の要件を満たす親族については、「特別寄与料」という別の制度が関係することがあります。

そのため、誰が介護していたのかだけでなく、その人が法律上どのような立場にあるのかも確認する必要があります。

まとめ|同居していたかではなく「どのように支えてきたか」が大切

親と同居していたというだけで、相続分が自動的に増えるわけではありません。

ただし、長期間にわたる介護などによって親の財産の維持に特別な貢献をしていた場合は、「寄与分」として相続分に反映されることがあります。

寄与分を考える際は、

  • いつから介護が必要だったのか
  • どのような介護をしていたのか
  • 無償で介護していたのか
  • 他の家族や介護サービスとどのように分担していたのか
  • 親の財産の減少をどの程度防いだのか

といった事情を具体的に整理することが大切です。

今まさに介護を担っている方は、毎日の介護内容や通院、仕事への影響などを、無理のない範囲で介護日記に残しておくことをおすすめします。

一方、介護を受けている方が「自分を支えてくれた家族に、その負担も踏まえて財産を残したい」と考えているのであれば、その気持ちを遺言に反映しておく方法もあります。

特に、公正証書遺言であれば、自分で全文を書く必要はなく、身体の状態によっては公証人に自宅や病院へ出張してもらって作成できる場合もあります。

介護する側には記録を残すこと、介護を受ける側には感謝と意思を遺言に残すこと。

将来の相続を家族任せにせず、できることから準備しておくことが大切です。

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補足:この記事の作成にあたって参照した判例・資料

この記事では、寄与分の制度や介護負担との関係について、裁判所の資料、判例・審判例、専門書や専門家による判例解説などを参照しています。

特に、同居介護については「何年介護したか」だけではなく、親の状態、介護内容、無償性、他の家族との分担、介護によって親の財産の減少をどの程度防いだかなどが重視されている点を、複数の判例から確認しています。

介護に関する主な判例

東京高裁2017年9月22日決定

要介護4から5の親について、食事、排泄、洗身、着替えなど日常生活全般を介助し、痰の吸引まで行っていたケースです。

家族による介護によって外部の介護サービス費を抑え、親の財産の減少を防いだことなどが評価され、約750万円の寄与分が認められた例として参照しています。

  • 東京高裁2017年9月22日決定
  • 平成29年(ラ)1238号
  • 原審:横浜家裁川崎支部2017年5月31日

東京高裁2023年11月28日決定

看護師経験のある長女が、親と同居しながら7年以上介護していたと主張したケースです。

長期間すべてが寄与分として評価されたわけではなく、親がトイレへの移動などにも介助を必要とするようになった最後の81日間だけが特別な寄与として評価されたとされています。

この記事では、「同居年数や介護年数だけでは寄与分は決まらない」という点を説明する際の参考としています。

広島家裁呉支部2010年10月5日審判

子が親のもとを朝夕訪れ、朝食を作ったり夕食を届けたりしていたケースです。

一方で、親自身は入院直前まで車を運転し、買い物や昼食の準備、通院なども自分で行っていました。

そのため、こうした支援は通常の親族間の協力の範囲とされ、寄与分は認められませんでした。

  • 広島家裁呉支部2010年10月5日審判
  • 家月63巻5号62頁

介護以外の寄与分に関する主な判例

大阪高裁2015年3月6日決定

親が所有する不動産のローンについて、子の世帯が実質的に700万円を返済していたケースです。

その返済によって親の債務が減少し、財産の維持につながったとして、700万円相当の寄与分が認められた例です。

  • 大阪高裁2015年3月6日決定
  • 平成26年(ラ)1395号

大阪高裁2015年10月6日決定

親のみかん農業を相続人が支え、相続財産である農地が荒廃しないよう維持していたケースです。

農地の価値の低下を防いだことが特別な寄与として評価され、農地評価額の30%相当が寄与分とされた例として参照しています。

  • 大阪高裁2015年10月6日決定
  • 平成27年(ラ)908号

札幌高裁2015年7月28日決定

親が営む簡易郵便局で子が働き、低い給与だったとして寄与分を主張したケースです。

しかし、実際には相応の給与を受け取り、食費や家賃も親が負担していたため、無償または著しく低い報酬による特別な貢献とは認められませんでした。

  • 札幌高裁2015年7月28日決定
  • 平成27年(ラ)6号

これらの裁判例からも、寄与分は「親のために何かした」という事実だけで決まるものではなく、通常の家族としての助け合いを超える負担だったのか、その行為が親の財産の維持・増加にどのようにつながったのかが重要であることが分かります。

制度の確認に参照した公的資料・専門書

寄与分の制度や手続きについては、以下の資料も参照しています。

  • 裁判所「寄与分を定める処分調停」
  • 東京家庭裁判所「寄与分を定める処分調停」
  • 大津家庭裁判所等「寄与分について」
  • 潮見佳男『詳解相続法』第2版
  • 片岡武・管野眞一編著『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』第4版
  • 松原正明『全訂 判例先例相続法Ⅱ』
  • 古谷友美「寄与分と立替扶養料求償の関係」

なお、一部の裁判例については、判例データベースや専門家による判例解説を通じて内容を確認しています。裁判年月日や金額などを具体的に紹介する場合は、可能な限り判例誌や判例データベースなどの原典を確認することが望まれます。