株の法人相続とは?手続き・経営権・節税まで専門家が徹底解説【事例付き】

目次

1:法人株式の相続とは?まず知っておくべき基本

株式は「財産」?「経営権」?

相続と聞くと、多くの人は現金・不動産・預貯金などを思い浮かべるでしょう。

しかし、会社を経営していた故人が所有していた「株式」も、立派な相続財産の一部です。特に、中小企業のオーナー経営者が所有する自社株は、単なる「財産」以上の意味を持ちます。なぜなら、株式はその企業における「経営権」「議決権」を伴う権利だからです。

つまり、株を相続するということは、会社の意思決定に関わる力も一緒に受け継ぐということを意味します。

これは、不動産や銀行口座を相続するのとはまったく異なる重大な意味を持っています。

個人財産の相続とどう違うのか

通常の相続財産(不動産・預貯金など)は、遺産分割協議によって公平に分配することが一般的です。

しかし、株式は公平に「分ける」ことができない性質を持っています。たとえば、オーナーが100%株主だった場合、それを相続人3人で33%ずつに分けてしまうと、会社の支配権が分散し、経営に大きな混乱を招く恐れがあります。

また、誰が株を持つかによって会社の運営方針すら変わってしまうため、個人財産のように「とりあえず均等に分ける」という考え方が通用しません。

相続と同時に「会社の未来」も決まってしまう?

株式の相続は、会社そのものの将来を左右します。

相続人が複数いる場合、「誰がどれだけの株を持つのか」によって、社長の選任・取締役の構成・経営方針の決定権など、あらゆる面に影響を及ぼします。

たとえば、相続人のひとりが経営に関心も能力もないにもかかわらず、株式の多数を持ってしまった場合、経営陣が思うように会社を動かせなくなってしまうことも。

つまり、株式の相続=経営権の相続という側面が非常に強く、「財産を受け取る」こと以上の重みを持っているのです。

2:法人株の相続に潜むリスクとトラブルの典型例

遺産分割トラブルが会社経営に与える影響

株式は相続財産であり、当然ながら相続人たちによる「遺産分割協議」の対象となります。

しかし、現実にはこの遺産分割がスムーズに進まず、会社の経営に深刻な影響を及ぼすケースが後を絶ちません。

たとえば、株式の承継をめぐって相続人同士が対立し、分割協議がまとまらないまま長期間経過すると、株主が不明確な状態となり、取締役の選任や決算承認などの重要な会社運営が行えなくなる可能性があります。

また、後継者として会社を引き継ぐつもりでいた人物が株式を相続できなかった場合、経営の意思決定権を持たないまま現場を任されるという、非常に不安定な状態に陥ることも。

経営権の争いが起きるケースとは

中小企業では、創業者や現社長が自社株のほとんどを保有しているケースが多く見られます。

このような場合、相続が発生すると、相続人の中で誰が会社の「支配権」を持つのかが大きな問題になります。

以下のようなケースで経営権争いが発生することがあります。

  • 長男が現場を支えてきたが、他の兄弟にも同じ割合で株が分配された
  • 相続人の一人が会社にまったく関与していないが、多数の株を取得してしまった
  • 経営を引き継ぐ予定だった人物が株式を得られず、第三者が経営権を握った

これらはすべて、事前の準備や合意形成が不十分だったことが原因です。

一度争いが始まると、親族間の関係が壊れるだけでなく、従業員の離反や取引先からの信用低下にもつながりかねません。

何もしなかった結果、会社が分裂・倒産!?

最悪のケースでは、株式の相続対応を放置したために会社が立ち行かなくなることもあります。

たとえば、以下のような流れです。

  1. 株式の分割について相続人同士が揉める
  2. 合意が得られず、株主総会が開けない
  3. 取締役の任期が切れ、法的には「経営陣不在」の状態に
  4. 銀行からの融資が停止され、運転資金が枯渇
  5. 従業員が離職し、業績悪化
  6. 会社が実質的に機能停止、廃業へ

こうした事態を防ぐためにも、株式の相続については発生する前の準備が何より重要です。

3:法人株を相続する際の手続きと流れ【図解付き】

相続開始後にやるべきこと(相続人確定〜評価額算出)

株式の相続も、他の相続財産と同様に、まずは「誰が相続人なのか」「何をどれだけ相続するのか」を確定するところから始まります。

以下は基本的な流れです。

法人株相続の主な流れ(概要)

被相続人の死亡 → 相続開始
相続人の確定(戸籍の収集など)
相続財産の調査・確定(株式含む)
株式の評価額の算出
遺産分割協議(株式の扱いを決定)
株式名義の変更
相続税申告・納税(期限:10か月以内)

※特に非上場企業の株式は評価が難しく、専門家の協力が不可欠です。

会社の対応(株主名簿変更、登記、議事録など)

相続によって株主が変わった場合、会社としての手続きも忘れてはいけません。

  • 株主名簿の書き換え: 新しい株主情報を正確に記載
  • 議事録の作成: 株式譲渡承認などの内容を理事会や株主総会で文書化
  • 会社登記: 株式の譲渡自体は登記対象外ですが、役員変更があった場合は商業登記が必要になります

また、定款の内容によっては「相続による株式取得」でも承認が必要な場合があるため要注意です。

税務対応(相続税申告、納税、時期の注意点)

株式の相続において最も複雑かつリスクが高いの「相続税」の申告と納税」です。

  • 非上場株式の評価方法
    原則的評価方法として「類似業種比準価額方式」や「純資産価額方式」がありますが、いずれも専門知識が求められます。
  • 納税資金の問題
    株式そのものは換金性が低いため、相続税の納税に充てる現金が不足することがあります。事前に生命保険や現預金で準備しておくことが重要です。
  • 申告期限
    相続開始から10か月以内に税務署に申告・納税をしなければなりません。遅れると延滞税・加算税などのペナルティが課されます。

補足:相続放棄と株式の関係

相続人が相続放棄をすると、株式を含めたすべての財産を引き継がないことになりますが、会社にとっては「株主不在の株式」が発生するリスクがあります。

そのまま放置してしまうと、議決権行使や配当処理が複雑になるため、会社側でも対応策(株式の再取得・第三者承継など)を検討しておく必要があります。

4:節税と円滑な承継のための対策とは?

生前贈与・遺言書の活用

法人株式の相続で重要なのは、「誰に、どのタイミングで、どう引き継がせるか」をあらかじめ決めておくことです。そのために有効なのが生前贈与と遺言書の活用です。

生前贈与のメリット

  • 相続発生前に株式の移転が可能
  • 将来の評価額上昇による相続税増加を回避できる
  • 相続人間のトラブル予防になる

ただし、生前贈与には贈与税がかかる場合があるため、税務対策とのセットが必須です。

遺言書の活用

  • 株式の承継先を明確に指名できる
  • 他の財産と合わせて全体のバランスを取ることができる
  • 遺産分割協議の手間を軽減し、トラブル防止につながる

なお、遺言書は公正証書遺言にすることで法的効力が強まり、のちの紛争をより確実に防げます。

株式の評価を下げるテクニック

株式の評価額が高くなると、その分相続税の負担も大きくなります。

そのため、生前の段階で株式の評価を下げておく工夫も重要です。

よく使われる評価引き下げ策

  • 役員報酬を上げる: 利益が圧縮され、会社の評価が下がる
  • 退職金を支給する: 純資産が減少し、評価額を下げられる
  • 不動産などの固定資産を活用: 簿価と時価の差を利用する
  • 利益剰余金を設備投資や借入金返済に回す

ただし、いずれもバランスが大切で、過剰な節税は税務署から否認される可能性もあるため、必ず専門家と連携して行うべきです。

持株会社・信託・事業承継税制の活用方法

より戦略的に法人株の承継を進めたい場合は、以下の制度・仕組みも有効です。

持株会社の設立

  • 株式を別法人(持株会社)に集約することで、承継を簡略化
  • 節税や資産管理を一本化できる
  • ただし、設立・運用コストや法的整備が必要

民事信託(家族信託)

  • 経営権と財産権を分離して、柔軟な承継が可能
  • 認知症など将来的な判断能力低下にも対応しやすい
  • 近年、中小企業経営者に急増中

事業承継税制の活用

  • 2027年までの特例措置を活用すれば、相続税が最大100%猶予・免除される場合も
  • 一定の条件(5年間の継続経営など)があるが、適用できれば非常に強力
  • 都道府県への申請や計画書の提出が必要で、準備期間が長い点に注意

専門家と連携した「多層的な備え」が鍵

節税・承継対策は単独の施策で完結するものではなく、複数の制度や仕組みを組み合わせて計画的に準備することが成功の鍵です。

そしてなにより、早期の着手が最も大きな節税・トラブル回避策です。

会社の将来を守るためにも、税理士・行政書士・司法書士などと連携して、段階的な対策を講じていきましょう。

5:実際にあった法人株相続の事例【2パターン紹介】

① 事前対策によりスムーズに承継できた事例

ケース:製造業を営むA社(非上場企業)/社長:父・相続人:長男+長女

A社の社長である父は、60代の頃から自分の相続に備えて対策を進めていました。
主な施策は以下の通りです。

  • 株式の評価額を税理士と共に算出
  • 長男に経営を引き継がせる前提で、毎年少しずつ生前贈与を実施
  • 財産全体のバランスを考慮し、不動産や預金は長女にも相応に配分
  • 内容を明記した公正証書遺言を作成

結果、父が亡くなった際には遺産分割で揉めることなく、長男が100%の株式を相続し、スムーズに社長に就任。

長女も相続内容に納得し、家族間の関係も良好なまま維持されました。

専門家チーム(税理士・司法書士・行政書士)と連携していたため、相続税の申告・納税・登記関係もミスなく完了。

学びポイント
事前準備があれば、経営・家族関係・税務の三方で揉めない相続が実現できる

② 準備不足で大混乱…トラブルに発展した事例

ケース:飲食チェーンを展開するB社/社長:父・相続人:長男・次男・三男

B社では、社長が突然の病気で亡くなったため、事前の相続対策がまったくなされていませんでした。

問題となったのは以下の点です。

  • 株式の90%以上を社長が保有していたが、誰に承継するかが決まっていない
  • 遺言書も存在せず、相続人3人で均等に株式を分ける形に
  • 長男が経営に携わっていたものの、議決権は全員が33%ずつ所持
  • 経営方針をめぐって次男・三男と意見が割れ、株主総会が開催できない事態に

さらに、株式の評価額が高額だったため、相続税の支払いに追われ、会社の資金繰りにも悪影響が出る始末。

結果的に従業員が多数離職し、一部店舗を閉鎖する事態に発展しました。

学びポイント
「遺言がない」「承継者が決まっていない」「株の分散」――この3点が揃うと、会社経営そのものが大きく揺らぐ

この2つから学べること

2つの事例を比較すると、事前準備があったかどうかが結果を大きく分けたことがわかります。

観点スムーズな事例トラブル事例
株式の引継ぎ方生前贈与+遺言で明確遺産分割でバラバラに
相続税対策計画的に評価調整評価額が高く、資金難
経営権の安定後継者に集中3人に分散し対立
結果安定承継・関係良好経営停滞・関係悪化

結論として、法人株式の相続は「会社の未来」を左右する重大な局面であり、相続が起きる前に備えることが最大のリスク回避となります。

6:専門家に相談すべきタイミングと選び方

税理士・司法書士・行政書士の役割の違い

法人株の相続には、法務・税務・手続きといった多面的な対応が必要です。そのため、一人の専門家ではカバーしきれない領域が多く、複数の専門家と連携することが重要です。

以下は、それぞれの専門家が担う主な業務の違いです。

専門家主な対応範囲相談内容の例
税理士相続税の申告、評価額の算出、節税対策「株式の評価はどうする?」「相続税を抑えるには?」
司法書士相続登記、会社の役員変更登記など「役員変更はどう登記する?」「名義変更の手続きは?」
行政書士遺言書の作成支援、遺産分割協議書の作成「遺言はどう作る?」「家族間での書面をまとめたい」

これらの専門家が連携し、ワンストップで対応できる体制があると、スムーズに手続きを進めることができます。

相談のタイミングは「相続前」こそ重要

多くの人が「相続が起きてから相談すればいい」と考えがちですが、これは大きな間違いです。

相続が発生した後は、10か月という限られた期間内に多くの対応をしなければならず、時間的にも精神的にも余裕がありません。

一方、生前に相談しておけば、次のようなメリットがあります。

  • 株式の評価方法や節税策をじっくり検討できる
  • 遺言や生前贈与の計画が立てられる
  • 家族間での事前の合意形成がしやすい
  • 相続税の納税資金の準備ができる
  • 突然の相続にも慌てず対応できる

つまり、まだ元気なうちにが最適な相談タイミングなのです。

良い専門家を見つけるためのチェックポイント

では、信頼できる専門家はどう選べばよいのでしょうか?

以下のような点をチェックしてみてください。

  • 専門分野に「相続・事業承継」が含まれているか
    → 通常の税務顧問や登記業務とは別に、相続・法人株承継を得意とするかを確認。
  • 非上場株式の評価経験が豊富か
    → 非上場株の評価は特殊な知識が必要。経験不足だと税務リスクが高くなる。
  • 複数士業と連携している
    → 税理士・司法書士・行政書士などと連携できるネットワークを持っているか。
  • 相談に対する説明が丁寧で具体的か
    → 初回相談時の説明がわかりやすく、リスクと対策を明確に示してくれる人は信頼度◎。
  • 契約前に報酬体系が明確に提示されるか
    → 曖昧な料金設定は要注意。見積もりや報酬規定の説明があると安心。

一人で悩まず、早めの一歩を

法人株の相続は、会社経営・家族関係・税務のすべてに関わる繊細なテーマです。

自分ひとりで判断するのではなく、専門家の力を借りて戦略的に備えることが、会社と家族の未来を守ることに直結します。

「まだ早い」と思う今こそが、最も適切なタイミングです。

ぜひ一度、専門家に相談してみましょう。

7:まとめ|法人株の相続は経営の相続。今から準備を!

相続は「会社の未来を守る準備」

ここまで見てきたように、法人株の相続は、単に財産を受け継ぐ話ではありません。

それは、会社の支配権や経営権、ひいては事業そのものの将来を左右する重大なテーマです。

中小企業の経営者にとって、株式とは「財産」であると同時に、「経営の舵取り権」でもあります。
その株式が相続によって思わぬ形で分散されたり、意図しない人物に渡ったりすれば、会社の安定は一瞬で崩れかねません。

つまり、株式の相続=経営の相続。

財産管理の一部ではなく、経営戦略の中核として考える必要があります。

まず何から始めるべきか?今日できる一歩

「難しそう」「まだ時間がある」と思っているうちに、突然相続は起きてしまうかもしれません。

だからこそ、今できる小さな一歩を踏み出すことが大切です。

今日からできること

  • 自社株を自分がどれだけ持っているかを再確認する
  • 後継者候補と将来について一度話してみる
  • 相続税や株価評価について、顧問税理士にざっくり相談してみる
  • 遺言書の作成や生前贈与について調べてみる
  • 専門家に「無料相談」だけでも申し込んでみる

どれか一つでも構いません。

「動くこと」が、会社と家族を守る最善のスタートになります。

将来のために、今から備える人が勝ち組

法人株式の相続は、一見すると複雑で面倒に感じるかもしれません。

しかし、何も対策をしないまま放置しておくことこそ、最大のリスクです。

将来、会社を円滑に次世代へバトンタッチし、家族が争わず、従業員や取引先も安心して働き続けられる環境を作るには、今この瞬間の準備が必要不可欠です。

「後悔する相続」ではなく、「納得と安心のある相続」を目指して、一歩踏み出してみませんか?