目次
1.非上場株式の相続とは?基本を押さえよう
非上場株式と上場株式の違い
非上場株式とは、証券取引所に上場していない企業の株式のことです。上場株式と異なり、公開市場での取引がなく、流動性が低いため売却が難しい特徴があります。
一方、上場株式は市場で自由に売買可能であり、株価が常に公開されています。そのため、相続時の評価が容易であり、手続きも比較的スムーズです。
なぜ非上場株式の相続は難しいのか?
非上場株式の相続には、次のような課題があります。
- 市場価格が存在しないため、評価が難しい
- 相続後の経営権の問題が発生しやすい
- 分割が困難であるため、遺産分割協議が長引く可能性がある
特に、企業のオーナーや後継者にとって、経営権の承継は重要な問題となります。適切な準備をしないと、会社の経営が不安定になる可能性があります。
相続時の主な課題とは
非上場株式を相続する際の課題は以下の3つに分類できます。
- 評価額の確定が困難:適正な評価方法を選択しないと、相続税の計算に影響を与える
- 分割が難しい:株式を均等に分けることができないため、相続人同士のトラブルが発生しやすい
- 納税資金の準備が必要:株式自体は換金性が低いため、相続税の納税が難しくなることがある
2.非上場株式の評価方法|相続税の計算に影響するポイント

類似業種比準方式とは?
類似業種比準方式は、同じ業種の上場企業の株価を参考に評価する方法です。
この方式では、以下の3つの要素を考慮して計算されます。
- 配当金額(類似業種の配当水準を考慮)
- 利益金額(直近の利益額と比較)
- 純資産価額(会社の資産状況を基準に算定)
この方式は、利益を重視する企業に適しています。
相続税・贈与税算定のベースとなる非上場株式の評価額を求める方式。評価対象と類似業種の上場企業株価の平均値に、課税年の類似業種1株当たりの配当金額、利益金額、簿価純資産価額の3項目について各値を評価対象と比較した結果を掛け合わせて評価額を計算する。
(3)少数株主割引を活用する
純資産価額方式の計算方法
純資産価額方式では、企業の資産と負債を基に株価を算出します。
具体的な計算式は以下の通りです。
純資産価額 =(総資産−負債)÷ 発行済株式数
この方式は、不動産や有価証券を多く保有する企業に適しています。
時価純資産法とは、企業買収における主たる企業評価方法のひとつであるコストアプローチの計算手法である。具体的には、企業が保有する資産及び負債を基準日時点の時価に換算し、資産から負債を差し引いた純資産を企業価値とみなす。
併用方式による評価方法
類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせることで、より公平な評価が可能です。
3.非上場株式の相続手続き|スムーズに進めるための流れ
非上場株式の相続手続きは、上場株式と比べて複雑で時間がかかることが多いです。特に、相続人間での調整や会社の承認が必要になるケースがあるため、慎重に進める必要があります。ここでは、スムーズに手続きを進めるための具体的な流れを解説します。
相続人の確定と遺産分割協議を行う
非上場株式の相続を進める前に、まず相続人を確定させる必要があります。相続人の確定には、以下の書類を取得し、戸籍をたどる作業が必要です。
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
この作業を怠ると、相続人の抜け漏れが発生し、後々トラブルになる可能性があります。
相続人が確定したら、誰が非上場株式を引き継ぐのかを話し合う必要があります。
非上場株式は分割が難しく、単独で相続する方が望ましいケースが多いですが、以下の方法を検討できます。
- 単独相続:経営権を守るため、特定の相続人が株式を全て引き継ぐ。
- 共有相続:複数の相続人が株式を共有するが、意思決定が複雑になるため注意が必要。
- 売却して分配:相続人間で株式を買い取る、または第三者に売却する方法もある。
遺産分割協議がまとまったら、相続人全員の署名・押印をした「遺産分割協議書」を作成します。
株主名簿の変更手続きを行う
非上場株式を相続する際は、会社の「株主名簿」の変更手続きが必要になります。株主名簿の変更手続きを怠ると、正式な株主として認められず、配当金の受取や株主総会での議決権が行使できなくなる可能性があります。
(1) 会社に相続の通知を行う
相続人が株式を取得することになったら、会社に通知し、株主名簿の変更手続きを進めます。一般的に、以下の書類を会社に提出します。
- 被相続人の死亡を証明する書類(死亡届の写し、戸籍謄本など)
- 相続人が確定したことを示す書類(法定相続情報一覧図、遺産分割協議書など)
- 新たな株主(相続人)の本人確認書類(住民票、運転免許証の写しなど)
(2) 会社の定款を確認する
会社によっては、「株式の相続には取締役会の承認が必要」と定款で定めている場合があります。このようなケースでは、取締役会で承認を得た後に株主名簿の変更が行われます。
株式の名義書換と登記の必要性を確認する
(1) 名義書換の手続き
会社が株式の相続を承認した場合、株主名簿の変更とともに名義書換が行われます。名義書換の完了後、新しい株主(相続人)が正式に株式を所有することになります。
(2) 株式に関する登記の必要性
非上場株式の相続では、通常、法務局への登記は不要です。ただし、会社の定款によっては登記が必要な場合があるため、事前に確認が必要です。
相続税の申告と納税を行う
非上場株式の相続が発生すると、相続税の申告・納税が必要になります。
非上場株式の評価は、「類似業種比準方式」「純資産価額方式」「併用方式」などの方法で算出されます。適切な評価方法を選択し、税理士などの専門家に依頼するのが一般的です。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日から10か月以内です。期限を過ぎると延滞税が発生するため、早めに準備を進めましょう。
非上場株式は換金しにくいため、納税資金の確保が課題となります。以下のような方法を検討しましょう。
- 延納制度を利用(分割で納税する)
- 物納制度を利用(現金での納税が難しい場合、株式や不動産を納める)
- 会社からの配当を活用(会社が利益を出している場合、配当を受け取って納税資金を確保する)
4.非上場株式の相続税対策|負担を軽減する方法
非上場株式の相続では、相続税の負担が大きくなるケースが多く、事前の対策が重要です。特に、納税資金の確保が難しい場合や、経営権をスムーズに承継したい場合には、適切な税制を活用することが求められます。
本章では、相続税の負担を軽減するための具体的な方法として、以下の3つのポイントを詳しく解説します。
- 相続税の納税猶予制度の活用
- 贈与を活用した節税対策
- 事業承継税制の利用方法
1. 相続税の納税猶予制度とは?
(1) 納税猶予制度の概要
「相続税の納税猶予制度」は、事業承継を円滑に行うための税制措置の一つで、一定の条件を満たせば、相続税の納税が猶予される制度です。
この制度を活用することで、非上場株式にかかる相続税の負担を軽減し、後継者が事業を継続しやすくなります。
(2) 対象となる株式と後継者の要件
納税猶予を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
✅ 対象となる株式
- 被相続人(先代経営者)が、会社の代表者であったこと
- 会社が中小企業であること(大企業の株式は対象外)
- 後継者が相続する株式が、総株式数の50%以上であること
✅ 後継者の要件
- 相続開始前から役員であること(原則として3年以上)
- 相続後に代表取締役に就任すること
- 相続した株式を一定期間保有すること(原則として5年以上)
(3) 納税猶予の仕組み
納税猶予制度を適用すると、株式評価額の最大80%にかかる相続税が猶予されます。
例えば、評価額1億円の株式を相続した場合、通常であれば約4,000万円(税率40%)の相続税が発生しますが、この制度を利用すれば、最大3,200万円(80%)の納税が猶予されます。
さらに、後継者が事業を継続し、一定の条件を満たした場合、最終的に猶予された相続税が「免除」される可能性もあります。
(4) 注意点とリスク
納税猶予制度は魅力的ですが、以下の点に注意が必要です。
- 事業を廃業すると猶予が取り消され、相続税を一括納付する必要がある
- 後継者が株式を売却すると、納税猶予が無効になる
- 制度の適用を受けるためには、税務署に特例承認申請が必要
このため、事業の長期的な計画を考えたうえで、納税猶予制度を利用するか判断することが重要です。
2. 贈与を活用した節税対策
生前に株式を贈与することで、相続時の税負担を軽減することが可能です。
(1) 生前贈与のメリット
✅ 相続税の節税
生前贈与によって、相続時の課税対象となる資産を減らすことができるため、相続税の負担を軽減できます。
✅ 後継者に早期に経営権を移譲できる
株式を早めに後継者に渡すことで、経営の安定化につながります。
✅ 事業承継の準備ができる
後継者が事前に経営に関与することで、スムーズな事業承継が可能になります。
(2) 贈与税の基礎控除の活用
生前贈与には、年間110万円までの基礎控除があります。これを活用すれば、毎年少しずつ株式を贈与し、贈与税をかけずに事業承継を進めることができます。
(3) 相続時精算課税制度の利用
「相続時精算課税制度」を活用すると、2500万円までの贈与税が非課税になります。
ただし、この制度を利用すると、将来の相続時に贈与分が相続財産として加算されるため、計画的な活用が必要です。
3. 事業承継税制の活用ポイント
(1) 事業承継税制とは?
事業承継税制は、非上場株式の相続税・贈与税を大幅に軽減できる特例制度です。
- 相続税・贈与税の100%を猶予(事業継続を条件に最終的に免除)
- 複数の後継者に株式を分割して承継可能
(2) 適用を受けるための条件
事業承継税制を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 被相続人(先代経営者)が会社の代表者であったこと
- 後継者が相続後に代表取締役に就任すること
- 相続税申告期限内に事業承継税制の適用申請を行うこと
(3) 事業承継税制の活用例
例えば、評価額1億円の非上場株式を相続する場合、通常は約4,000万円の相続税が発生します。
しかし、事業承継税制を適用すれば、この4,000万円が全額猶予され、事業を継続すれば最終的に免除される可能性があります。
(4) 事業承継税制の注意点
- 制度の適用には、税理士や専門家のサポートが必要
- 事業を廃業すると猶予された税金を一括納付する必要がある
5.非上場株式の相続に関するよくある質問
非上場株式の相続には、多くの疑問や不安が伴います。特に、評価額の算出方法、相続税の納税、株式の売却に関しては、適切な対策を講じることが重要です。ここでは、よくある質問に対して詳しく解説します。
Q,評価額が不明な場合はどうすればいい?
非上場株式の評価額は、上場株式と異なり市場価格がないため、専門的な計算が必要になります。評価額が不明な場合、以下の手順で適切な方法を選択しましょう。
(1) 評価方法の種類を理解する
税務上、非上場株式の評価方法には主に3つの方式があります。
✅ 類似業種比準方式
→ 同じ業種の上場企業の株価を基準に評価する方法。利益水準や資産規模を考慮して算出される。
✅ 純資産価額方式
→ 会社の資産(不動産・預金・売掛金など)から負債を差し引き、株式1株あたりの価値を算出する方法。
✅ 併用方式
→ 上記2つの方法を組み合わせる方式。会社の規模や収益性によって、どの方法を適用するか変わる。
どの方法を選択するかで評価額が大きく異なるため、適切な方式を選ぶことが重要です。

(2) 税理士や専門家に相談する
評価方法を誤ると、相続税の計算ミスや税務調査の対象になる可能性があります。そのため、税理士や公認会計士などの専門家に相談し、適切な評価方法を決定しましょう。
✅ 相談すべき専門家
- 相続税に詳しい税理士
- 企業価値評価を行う公認会計士
- 事業承継に詳しい専門家
評価額が不明なまま相続手続きを進めると、後々トラブルになりやすいため、専門家のアドバイスを早めに受けることが重要です。
Q,相続税の納税が困難な場合の対処法は?
非上場株式の相続では、納税資金の確保が大きな課題となります。現金が手元にない場合でも、適切な方法を活用すれば納税負担を軽減できます。
(1) 延納制度を利用する(分割払い)
相続税の納付期限は、被相続人が亡くなった日から10か月以内ですが、一括で支払えない場合、延納制度を利用することが可能です。
✅ 延納制度のポイント
- 最長20年まで分割払いが可能
- 一定の要件を満たせば、年払いで相続税を納付できる
- 延納期間中は、税務署に利息(延納利子税)を支払う必要がある
例えば、相続税5000万円が発生した場合でも、延納制度を使えば、毎年の負担額を軽減できます。
(2) 物納制度を活用する(現金以外で納税)
どうしても現金が用意できない場合、物納制度を活用して、非上場株式や不動産などで相続税を納めることができます。
✅ 物納制度の条件
- 相続税の納期限までに延納を申請していること
- 延納でも支払えない事情があること
- 物納に適した資産(不動産や非上場株式など)があること
ただし、非上場株式の物納は、国がその株式を受け入れるかどうかの審査があるため、必ずしも認められるわけではありません。
✅ 物納が認められやすい資産
- 売却しやすい不動産(商業地、住宅地など)
- 国や自治体が活用しやすい資産
逆に、換金が難しい非上場株式は、物納が認められにくいため、早めに税理士に相談することが大切です。
Q,株式を売却して相続することは可能?
可能ですが、売却先の確保が必要です。相続した非上場株式を売却することで、現金化して納税資金を確保する方法もあります。ただし、売却にはいくつかの注意点があります。
(1) 売却先の確保が必要
非上場株式は市場で自由に売買できないため、買い手を探す必要があります。一般的な売却先として、以下のような選択肢があります。
✅ 他の相続人に売却
相続人のうち、会社を継ぐ人が株式を取得し、他の相続人に現金を支払う方法。
✅ 会社(発行法人)に買い取ってもらう
会社が自社株を買い取る「自己株式取得」の方法を活用する。ただし、資金力のある会社でなければ難しい。
✅ 第三者への売却
同業他社や投資家に売却することも可能。ただし、会社の許可が必要な場合が多い。
(2) 会社の定款を確認する
非上場企業の多くは、株式の譲渡に制限を設けているため、勝手に売却することができません。
✅ 譲渡制限の例
- 「取締役会の承認が必要」
- 「株主総会で承認が必要」
- 「株式の譲渡を禁止している」
売却を検討する前に、会社の定款を確認し、必要な手続きを把握しておくことが大切です。
(3) 株式売却の税務上の注意点
株式を売却した場合、売却益(譲渡所得)に対して税金が発生します。
✅ 売却益の計算方法
譲渡所得 = 売却価格 − 取得価格 − 必要経費
売却益には、20.315%の譲渡所得税(所得税15.315%+住民税5%)が課税されるため、税負担も考慮した上で売却を検討しましょう。
6.まとめ|非上場株式の相続を円滑に進めるために
✅ 納税猶予制度を活用し、相続税の負担を一時的に猶予する
✅ 生前贈与を活用し、贈与税の基礎控除を利用する
✅ 事業承継税制を利用して、最終的な税負担をゼロにする
非上場株式の相続税対策には、さまざまな方法があります。早めに対策を講じ、税負担を最小限に抑えながら、スムーズな事業承継を実現しましょう。