個人事業主として建設業を続けてきたものの、売上や従業員が増え、そろそろ会社を設立しようと考える方もいるでしょう。
会社を設立すること自体は、それほど珍しいことではありません。しかし、すでに個人で建設業許可を取得している場合は、会社を作るだけでは終わりません。
個人で取得した建設業許可をどうするのか、新しく設立する会社をどのような形にするのか、会社を設立する前に考えておきたいことがあります。
この記事では、個人事業主が株式会社を設立して建設業を続ける場合を想定して、会社設立時に考えておきたいことから、建設業許可を会社へ引き継ぐ方法まで順番に説明します。
私は、建設業の個人事業主から会社設立について相談を受けた場合、まずどのような会社を作るのかから一緒に考えます。
目次
① 個人事業主を卒業して株式会社を設立する
個人事業主が株式会社を設立して事業を移すことは、一般に「法人成り」と呼ばれることもあります。
建設業の個人事業主から会社設立について相談を受けた場合、私は基本的に株式会社をおすすめしています。
| 項目 | おすすめする形 |
|---|---|
| 会社形態 | 株式会社 |
| 資本金 | 2,000万円を一つの目安にする |
| 発起人 | 個人事業主本人1人 |
| 出資者 | 本人が全額出資 |
| 株主 | 本人が全株式を保有 |
| 資金の準備 | 自己資金を基本に、必要に応じて融資も検討 |
| 事業用資産 | 車両・重機などは現物出資も検討できる |
これは法律上、この形にしなければならないという意味ではありません。
これまで自分で育ててきた事業の経営権を自分で持ちながら、将来の事業拡大や特定建設業許可、その先の事業承継まで考えたときに、私がおすすめしている会社の作り方です。
以下、その理由を順番に説明します。
株式会社をおすすめする理由
建設業の個人事業主が会社を設立するのであれば、私は基本的に株式会社をおすすめしています。
その理由を、順番に説明します。
現場を離れて経営に専念できる会社にする
個人事業主のうちは、自分自身が現場に出て、仕事を取り、従業員を動かし、事業を回している方も多いでしょう。
しかし、年齢を重ねても同じ働き方を続けるとは限りません。
会社を育てて従業員に現場を任せられるようになれば、自分は現場から離れ、取締役として会社の経営に専念するという働き方もできるようになります。
さらにその先には、後継者へ経営を任せ、自分は株主として会社を所有するという選択肢もあります。

株式会社は対外的な信用が高い
株式会社は合同会社より社会的な認知度が高く、取引先によっては会社形態を信用判断の一材料とする場合もあります。
一方、合同会社には、株式会社より設立費用を抑えられるメリットがあります。
しかし、建設業では、元請会社や取引先、金融機関など、多くの相手と長く付き合っていくことになります。これから何年、何十年と使う会社です。
私は、設立時の数万円程度の費用差を優先して合同会社を選ぶより、対外的な信用を考えて株式会社を選ぶことをおすすめしています。
株式会社は次の世代へ引き継ぎやすい
株式会社では、株主が亡くなった場合、その人が所有していた株式は相続の対象になります。そのため、将来誰に株式を引き継いでもらうのかを考えながら、事業承継を準備できます。
一方、合同会社では、社員(ここでいう社員とは従業員ではなく、会社法上の出資者のことです)が死亡すると原則として退社となり、相続人に持分を承継させるには、その旨を定款で定めておく必要があります。
会社を設立するときには気にならなくても、定款の作り方によって、何十年か後の事業承継で問題が生じる可能性があります。
最近は「無料で定款を作成します」といったサービスも見かけます。しかし、これから何十年と経営し、場合によっては次の世代へ引き継いでいく会社です。
私は、一生をかけて育てる会社を作るのであれば、「タダより高いものはない」と考えて、定款作成に慣れた専門家へ依頼することをおすすめします。
資本金2,000万円をおすすめする理由
株式会社は少ない資本金でも設立できます。また、一般建設業の許可を取得するために、資本金2,000万円が必要なわけでもありません。
それでも私は、個人事業主がこれから建設会社を設立するのであれば、資本金2,000万円を一つの目安として検討することをおすすめしています。
理由は、単に建設業許可の要件を満たすためではありません。建設業という事業の特徴や将来の会社の成長まで考えると、ある程度の資本を持ってスタートすることには意味があります。
資本金が少なすぎると、ちょっとした赤字で債務超過になる
会社を設立できる金額と、安心して事業を続けられる金額は別です。
たとえば、資本金100万円で会社を設立した直後に重機が故障し、修理などで110万円の赤字が出たとします。ほかに利益の蓄積がなければ、それだけで純資産はマイナスとなり、債務超過です。
建設業では、車両や重機の故障、資材価格の上昇、工事のやり直しなど、予想していなかった支出がまとまって発生することがあります。
「いくらあれば会社を作れるか」ではなく、「どのくらいの損失まで耐えられる会社にするか」という視点でも資本金を考えておきたいところです。
資本金は取引先からの信用にも関係する
資本金は、取引先が会社の信用力を判断するときの材料の一つにもなります。
企業によって与信管理の方法は異なりますが、資本金を基準として、その一定割合を取引限度額の目安にする考え方もあります。
特に建設業では、仕事を受注すればすぐにお金が入ってくるとは限りません。請負契約では、工事を完成させてから請求することもあり、その間にも材料費、外注費、人件費などの支払いは発生します。
利益が出る工事であっても、入金より支払いが先に来れば資金繰りは苦しくなります。
資本金を極端に少なくして会社を作ることは、会社自身の資金余力だけでなく、取引先から見た信用という点でも慎重に考える必要があります。
将来の特定建設業許可まで考えておく
もう一つ、私が2,000万円を一つの目安としている理由が、将来の特定建設業許可です。
特定建設業では、財産的基礎の要件として、資本金2,000万円以上であることに加え、自己資本額や流動比率など複数の基準を満たす必要があります。
会社を設立した時点で特定建設業を取得する予定がなくても、会社が成長すれば、大きな工事を元請として受注し、多くの下請会社へ工事を発注するようになるかもしれません。
だからこそ、私は会社を「今必要な最低限」で作るのではなく、10年後にどのくらいの建設会社にしたいのかを考えて、設立時の資本金を決めることをおすすめしています。
将来、特定建設業の許可を取得する場合には、資本金2,000万円以上が財産的基礎の要件の一つになります。
特定建設業の財産的基礎や一般建設業との違いについては、こちらで詳しく説明しています。
一般建設業と特定建設業の違いを詳しく見る

車両や重機を現物出資する方法もある
資本金2,000万円というと、「2,000万円の現金を用意しなければならないのか」と思うかもしれません。
長く個人で建設業を営んできた方であれば、トラックや重機など、事業で使用している資産を所有していることもあります。株式会社を設立するときには、こうした財産を現物出資する方法もあります。
現物出資した車両や重機などは、新しく設立する会社の財産になります。
ただし、現物出資では財産の評価や定款への記載など、現金で出資する場合とは異なる手続が必要になります。何を現物出資し、何を別の方法で会社へ移すのかは、会社設立前に整理しておく必要があります。

本人一人での出資をおすすめする理由
資本金2,000万円を準備するとき、自分だけでは足りないから、家族や知人にも出資してもらおうと考えるかもしれません。
しかし私は、これまで自分で育ててきた事業を株式会社にするのであれば、本人一人を発起人として、本人が全額を出資する形を基本的におすすめしています。
出資してもらえば、会社の経営にも関わってくる
誰かに出資してもらうということは、単にお金を出してもらうことではありません。出資した人には株式が割り当てられ、会社の株主になります。
株主には株主総会での議決権があります。持株比率によっては、役員の選任をはじめ、会社の重要な意思決定にも影響を与えることになります。
つまり、資本金を用意するために出資してもらったつもりが、会社の経営についても相手の意向を無視できなくなるということです。
個人事業主のときには、自分一人で決められたことでも、株式会社にした途端にほかの株主との調整が必要になる。それでは、何のために自分の会社を作ったのか分かりません。
だから私は、経営権を自分で持ちたいのであれば、設立時は本人が全株式を持つ形から始めることをおすすめしています。
事業資金が必要なら、出資とは分けて考える
会社を経営するためのお金が足りないことと、会社の株式を誰が持つかは別の問題です。
個人事業主として建設業を続けてきたのであれば、売上や決算、取引実績といった積み重ねがあります。
必要な事業資金については、こうした実績を生かし、日本政策金融公庫などからの融資も含めて資金調達を検討する方法があります。
会社の所有権を渡して資金を集めるのか、経営権は自分で持ったまま必要な資金を調達するのか。
会社を設立するときには、この二つを分けて考えることをおすすめします。
株式会社を設立すると会社法のルールに従う
株式会社を設立すると、会社法に則って会社を運営することになります。
これは、建設業許可を取得した後、建設業法に従って決算変更届や各種変更届、更新などを行うのと基本的な考え方は同じです。
株式会社にも、会社として守らなければならないルールがあります。
一人会社でも株主総会は必要になる
自分一人が全株式を持つ会社でも、会社として意思決定するための手続があります。
株主総会で決議すべきことは決議し、必要に応じて議事録を残します。一人で決める会社であっても、個人事業主のように「自分が決めたからそれで終わり」とはなりません。
役員の任期や変更登記も管理する
株式会社の取締役には任期があります。また、役員や本店など登記事項に変更があれば、変更登記が必要になる場合があります。
建設業許可を取得している会社であれば、変更内容によっては、会社法上の手続や登記を行ったうえで、建設業許可の変更届も必要になります。
会社と個人のお金も分けて管理する
自分が100%出資した会社であっても、株式会社の財産と自分個人の財産は別です。
個人事業主を卒業して株式会社を設立するということは、単に事業の名前を変えることではありません。自分とは別の法人を作り、会社法のルールに従ってその会社を経営していくことになります。
そして、この「自分と会社は別」というところが、そのまま次の建設業許可の話につながります。
② 会社を設立しても、個人の建設業許可は会社の許可にはならない
株式会社を設立すると、これまで個人で取得していた建設業許可はどうなるのでしょうか。
ここでまず押さえておきたいのは、個人事業主だったあなたと、新しく設立した株式会社は法律上別の存在であるということです。
株式会社はあなたとは別の「人」
少し不思議に感じるかもしれませんが、株式会社は法律によって権利や義務を持つことが認められた「法人」です。
会社を設立したばかりで、代表取締役も自分、株主も自分、従業員も昨日までと同じだったとしても、あなた個人と株式会社は同じものではありません。
個人で建設業許可を取得していたのであれば、その許可を受けているのはあくまで個人事業主であるあなたです。新しく生まれた株式会社が、最初から建設業許可を持っているわけではありません。
個人から株式会社への「名義変更」はできない
そのため、個人の建設業許可について、名前だけを株式会社へ書き換えるような手続はできません。
たとえば、個人事業主が商号を変更する場合と、個人事業主が株式会社を設立する場合とでは意味が違います。
前者は同じ個人が事業を続けていますが、後者では新しい法人という別の主体が誕生します。
つまり、株式会社を設立しただけでは、これまで個人で取得していた建設業許可を使って、会社として建設業を営むことはできません。
個人から株式会社への承継だけでなく、合併・会社分割・相続を含めた承継認可の仕組みについては、こちらで整理しています。
建設業許可の事業承継・承継認可の全体像を見る
では、これまでの建設業を新しい株式会社へ引き継ぐにはどうすればよいのでしょうか。
③ 事業譲渡による承継認可なら、個人の建設業を株式会社へ引き継げる
そのための制度が、「事業譲渡による承継認可」です。
事前に認可を受けることで、個人事業主が持っていた建設業者としての地位を、新しく設立する株式会社へ承継することができます。
承継認可なら許可の空白期間をつくらずに引き継げる
承継認可制度ができる以前は、個人の許可を廃業し、法人で新たに許可を取得する方法が基本でした。
この方法では、個人の許可がなくなってから法人の新しい許可が出るまで、許可の空白期間が生じる問題がありました。
承継認可は、この問題を解消するために設けられた制度です。事前に認可を受けておけば、承継日に建設業者としての地位が新しい株式会社へ引き継がれます。
個人事業主から株式会社へ建設業を移行する場合は、事業譲渡による承継認可を利用する方法と、新しく設立した株式会社で建設業許可を取得する方法があります。
現在の許可内容や設立する会社の体制、事業を移行する時期などを確認し、どちらの方法が適しているかを検討します。
許可番号も原則として引き継がれる
承継認可では、建設業者としての地位が承継され、許可番号についても原則として承継前の番号が引き継がれます。ただし、承継後の許可状況などによって取扱いが異なる場合があります。
単に「株式会社でも許可が取れる」というだけではなく、これまで個人事業主として持っていた建設業者としての地位を引き継ぐ制度だというところがポイントです。
新しく設立する株式会社も許可要件を満たす必要がある
ただし、個人事業主が建設業許可を持っていれば、無条件で株式会社へ引き継げるわけではありません。
承継する株式会社についても、常勤役員等、営業所技術者等、財産的基礎、社会保険など、建設業許可に必要な要件を満たせるか確認されます。
会社を設立すれば、個人で持っていた建設業許可が自動的についてくる制度ではありません。新しく設立する株式会社が建設業許可の要件を満たしたうえで、個人事業主の建設業者としての地位を承継するという仕組みです。
また、東京都で承継認可を利用する場合には、申請前の事前相談が必要です。事前相談については、後ほど詳しく説明します。

④ 株式会社で新たに建設業許可を取得する方法もある
個人事業主から株式会社へ建設業を移行する方法には、事業譲渡による承継認可のほか、新しく設立した株式会社で建設業許可を取得する方法があります。
どちらの方法が適しているかは、現在の許可内容、設立する会社の体制、事業を移行する時期などを確認して判断します。
ここでは、新しい株式会社で建設業許可を取得する場合について説明します。
新規許可では新しい株式会社として要件を満たす
新規許可を申請する場合、個人事業主として許可を持っていたことだけで、株式会社にも許可が与えられるわけではありません。
新しく設立した株式会社について、常勤役員等や営業所技術者等、財産的基礎、営業所など、建設業許可に必要な要件をあらためて確認することになります。
個人事業主だった本人の経験や、これまで一緒に働いてきた技術者の資格・経験などを生かせる場合はありますが、あくまで新しい株式会社として許可を取得するという点が承継認可との違いです。
新しい株式会社で建設業許可を取得するための要件については、こちらをご確認ください。
建設業許可の取得条件を詳しく見る
新規許可では個人事業から株式会社へ切り替える時期に注意する
新規許可を選ぶ場合でも、株式会社を設立した日に個人事業を廃業しなければならないわけではありません。
個人事業主として建設業を続けながら株式会社を設立し、新しい株式会社で建設業許可を申請することもできます。株式会社の許可を取得した後、新しく受注する工事を株式会社へ切り替えていく方法が考えられます。
ただし、個人事業主としてすでに請け負っている工事が、株式会社の許可取得によって自動的に株式会社の工事へ変わるわけではありません。
施工中の工事がある場合には、その契約の扱いも確認しながら、個人事業を終了する時期を決める必要があります。

⑤ 承継認可では事前相談が必要
事業譲渡による承継認可を利用する場合、東京都では、認可申請の前に事前相談が必要です。
この事前相談を経て認可申請へ進むため、株式会社の設立日や個人事業から会社へ切り替える日を先に決めてしまうのではなく、余裕を持って準備を始める必要があります。
承継認可の事前相談と申請スケジュール
承継認可は、事前相談で承継の内容や必要書類を確認し、準備が整ってから認可申請を行うという流れで進みます。
令和8年度の東京都の手引では、認可申請日から承継予定日まで開庁日25日を確保する必要があります。さらに、その前に事前相談が必要なため、25日だけを見てスケジュールを組むことはできません。
承継認可では、その前に事前相談があります。事前相談を始めてから認可申請までに必要な期間は一律に示されていないため、「事前相談に必要な期間+認可申請から承継予定日までの開庁日25日」を見込んでおく必要があります。
たとえば、4月1日に株式会社へ建設業を承継したい場合、そこから開庁日25日をさかのぼった日が認可申請の期限になります。事前相談は、さらにその前から始めることになります。
そのため、私は株式会社の設立を具体的に考え始めた段階で、承継認可についても事前相談を始めることをおすすめします。
承継認可で確認される要件と必要書類
承継認可を受けるには、新しく設立する株式会社も、建設業許可に必要な要件を満たす必要があります。
また、個人事業主から株式会社へ建設業を引き継ぐにあたって、どのような条件で事業を譲渡するのか、そのために必要な意思決定が適切に行われているのかも確認されます。
そのため、認可申請では、新しい株式会社の許可要件を確認するための資料に加えて、事業譲渡契約書など、事業承継の内容を確認するための書類も必要になります。
個人事業主が建設業許可を持っていれば、その許可をそのまま株式会社へ移せるという手続ではありません。
新しい株式会社が建設業者として必要な要件を満たしていることと、個人から株式会社へ建設業が適切に承継されることの両方を確認することになります。
「建設業に関する事業の全部譲渡」はどこまで必要か
事業譲渡による承継認可では、建設業に関する事業の全部を譲渡することが前提になります。許可を受けている建設業の一部だけを選んで承継することはできません。
ここで、個人事業主から新しく設立する株式会社への承継を考えると、疑問が出てきます。
個人事業主の場合、「個人事業」という別の法人が存在するわけではありません。本人が工事を請け負い、従業員を雇い、営業所を使用し、車両や重機などを所有して建設業を営んでいます。
では、「建設業に関する事業の全部」を株式会社へ譲渡するとは、実際に何をどこまで移せばよいのでしょうか。
施工中の工事や取引先との契約はどうするのか。従業員は新しい株式会社へ移るのか。営業所技術者等になる従業員はどうするのか。営業所、車両、重機、工具などの事業用資産はどうするのか。売掛金や買掛金などの債権・債務はどう扱うのか。
こうして考えていくと、単に個人の建設業許可を株式会社へ移せば終わり、という話ではありません。
一方、個人事業主から新しく設立する株式会社への承継について、これらを具体的にどこまで引き継げば「建設業に関する事業の全部譲渡」と認められるのか、詳細な判断基準までは公開されていません。
このあたりは、自分たちだけで判断して会社の形を決めてしまうのではなく、事前相談の段階で確認しておきたいところです。
現在の建設業許可に未提出の届出がある場合
もう一つ、私が行政書士として事前相談の前に確認しておきたいのが、個人事業主として現在持っている建設業許可の状態です。
たとえば、毎年の決算変更届は提出されているか。営業所や営業所技術者等に変更があった場合の届出は済んでいるか。現在届け出ている内容と実態に違いはないか、といった点です。
建設業許可で変更が生じた場合に必要となる手続は、こちらで整理しています。
建設業許可の変更届を確認する
承継認可では、新しい株式会社が単独で新規許可を取得するのではなく、個人事業主の建設業者としての地位を承継します。監督処分や経営事項審査の結果なども承継の対象になります。
では、過去に決算変更届や変更届の遅れ・未提出があった場合、承継認可はどうなるのでしょうか。
この点について、どのような状態なら認可され、どのような状態なら認可されないのかという詳細な判断基準までは公開されていません。
そのため、未提出の届出があるから承継認可を受けられない、と一律にいうこともできません。
それでも、これまでの建設業者としての地位を新しい株式会社へ引き継ぐのであれば、私は、現在の許可内容と実態が一致しているか、必要な届出が済んでいるかを確認したうえで、事前相談へ進むことをおすすめします。
⑥ 特定建設業は個人事業主でも取得できる
特定建設業の許可は、株式会社などの法人だけを対象とした制度ではありません。個人事業主でも、必要な要件を満たせば取得できます。
そのため、株式会社を設立したから特定建設業になるわけでも、個人事業主だから一般建設業しか取得できないわけでもありません。
一般建設業と特定建設業の違いは事業者の形態ではない
一般建設業と特定建設業の違いは、個人か法人かではなく、元請として工事を請け負ったときに、下請へどのくらいの工事を発注するのかにあります。
将来、株式会社として事業を大きくし、元請として大きな工事を受注するようになれば、特定建設業の許可が必要になる可能性があります。
だからこそ、会社設立の段階から将来の事業規模を考えておきたいところです。
この記事の前半で、私が資本金2,000万円を一つの目安としておすすめした理由もここにつながります。
会社設立時には一般建設業で十分でも、将来、特定建設業へ進む可能性があるのであれば、そのときになって会社の資本構成を考え直すより、最初から会社の成長を見据えて設計しておくという考え方です。
⑦ 国土交通大臣許可も個人事業主で取得できる
国土交通大臣許可も、法人だけを対象とした許可ではありません。個人事業主でも、要件を満たせば取得できます。
知事許可と大臣許可の違いは、個人か法人かではなく、建設業を営む営業所をどこに設置するかです。
知事許可と大臣許可の違いは営業所の所在地
一つの都道府県内だけに建設業の営業所を設ける場合は、その都道府県知事の許可を受けます。
一方、二つ以上の都道府県に建設業の営業所を設ける場合は、国土交通大臣の許可が必要になります。
たとえば、大田区で個人事業を営んでいる方が株式会社を設立しても、建設業の営業所が東京都内だけであれば、引き続き東京都知事許可の範囲です。
その後、会社が成長して神奈川県にも建設業の営業所を設けるのであれば、国土交通大臣許可を検討することになります。
つまり、株式会社を設立することと、大臣許可になることは別の話です。
個人事業主から株式会社へ移行する際には、まず新しい会社でどこに営業所を置くのかを確認し、その営業所の配置に応じて知事許可か大臣許可かを判断します。
⑧ 個人事業主から株式会社へ移行するときの建設業許可Q&A
Q:株式会社を設立すれば、個人の建設業許可をそのまま使えますか?
いいえ。個人事業主と新しく設立する株式会社は別の存在です。
個人で取得した建設業許可を、株式会社の許可としてそのまま使用することはできません。事業譲渡による承継認可を利用するか、株式会社で新たに建設業許可を取得する必要があります。
Q:株式会社を設立する前に承継認可の事前相談が必要ですか?
はい。承継認可を利用して法人成りする場合は、株式会社を設立する前の段階から、東京都への事前相談を含めてスケジュールを組むことをおすすめします。
令和8年度の東京都の手引では、事前相談を経て認可申請を行い、認可申請日から承継予定日まで開庁日25日を確保する必要があります。
事前相談に必要な期間は一律に決まっていないため、会社の設立日を先に決めるのではなく、承継認可のスケジュールと合わせて会社設立を進めることになります。
Q:承継認可を利用できなかった場合はどうなりますか?
新しく設立した株式会社で、建設業許可を新規に取得する方法があります。
Q:個人事業主でも特定建設業の許可を取得できますか?
はい。特定建設業は法人だけの制度ではありません。
個人事業主でも要件を満たせば取得できます。一般建設業と特定建設業の違いは、個人か法人かではなく、元請として工事を請け負った場合の下請への発注規模などによって決まります。
Q:個人事業主でも国土交通大臣許可を取得できますか?
はい。国土交通大臣許可も法人だけを対象としたものではありません。
個人事業主でも、二つ以上の都道府県に建設業を営む営業所を設ける場合には、国土交通大臣許可の対象になります。
Q:会社を設立するなら、株式会社と合同会社のどちらがよいですか?
私は、建設業の個人事業主が会社を設立するのであれば、基本的に株式会社をおすすめしています。
株式会社は所有と経営を分けて考えることができ、将来自分が現場を離れて経営に専念したり、次の世代へ会社を引き継いだりすることも考えやすい会社形態です。
Q:資本金はいくらにすればよいですか?
株式会社は、資本金1円でも設立できます。しかし、私は建設会社を設立するのであれば、資本金2,000万円を一つの目安として検討することをおすすめしています。
資本金が少なすぎると、少し大きな赤字が出ただけでも債務超過になりやすく、取引先から見た信用や資金繰りにも影響します。
また、将来、特定建設業の許可を取得する場合には、資本金2,000万円以上が財産的基礎の要件の一つになります。
まとめ|会社を作る前に、建設業許可の引継ぎまで決めておく
個人事業主として建設業を続けてきて、これから会社を設立するのであれば、会社設立と建設業許可を一緒に考えることが大切です。
私であれば、基本的に株式会社を選び、将来の会社の成長まで考えて資本金2,000万円を一つの目安とし、本人が全額を出資する形から検討します。
そして、個人で持っている建設業許可については、事業譲渡による承継認可を利用する方法と、新しい株式会社で新規許可を取得する方法を比較します。
現在の許可内容、設立する会社の体制、事業を移行する時期などを確認し、どちらの方法が適しているかを整理したうえで会社設立へ進みます。
承継認可を利用する場合は、認可申請の前に事前相談が必要です。会社を先に作るのではなく、株式会社をどのように設立するのか、いつ個人事業から会社へ建設業を引き継ぐのかまで含めて進めていきます。
「とりあえず会社を作る」のではなく、どんな会社を作り、建設業をどう引き継ぐのかまで決めてから設立する。
これが、個人事業主から株式会社へ移行するときに、私がおすすめしている進め方です。
個人事業から株式会社への移行をご相談ください
法人成りに伴う建設業許可の承継については、現在の許可状況と設立する法人の体制を確認し、承継認可を利用するか、新法人で新規許可を取得するかを確認したうえで進めます。
当事務所へご依頼いただく場合の対応範囲や料金については、事業承継・承継認可サポートをご確認ください。

