個人事業主が死亡したら建設業許可はどうなる?相続・承継認可と事業継続を解説

建設業の個人事業主だった父親の死亡後、長男と母親が行政書士と事業や建設業許可の承継について相談している様子

建設業を営んでいた個人事業主が突然亡くなった。

施工中の現場があり、従業員も働いている。これから受注する予定だった仕事もある。

残された家族は、さまざまなことに対応しながら、これから事業をどうするのかを考えなければなりません。

建設業を続けるのであれば、建設業許可についても対応が必要になります。

この記事では、個人事業主が亡くなった場合に、事業を続けるかどうかの判断から、建設業許可の相続、必要となる手続までを順番に説明します。

目次

①経営者が亡くなっても、事業がそのまま続くとは限らない

「社長が亡くなったとしても、仕事も従業員も残っている。だったら、そのまま事業を続ければいい」

そう思うかもしれません。

でも、実際にはそんなに簡単ではありません。

私は会社員時代、そのことを嫌というほど実感した経験があります。

取引先の社長が、突然亡くなったときのことです。

その会社は、小さなIT商社でした。

社長は大手IT商社で部長まで務めたあとに独立。社員は奥様、長男、そしてAさんの3人でした。

私は営業担当として、その会社に商品を販売していました。

ある日、その社長が突然亡くなりました。

私も通夜に参列しました。

そこで今でも覚えているのが、集まった取引先の人たちの空気です。

もちろん、皆、亡くなった社長を悼んでいました。

ただ、それとは別に、誰もが気にしていることがありました。

売掛金です。

私の会社にも、まだ支払われていない代金がありました。

ほかの取引先も同じです。

誰も通夜の席で、「御社はいくら残っていますか」などと露骨に聞くわけではありません。

それでも、少し話をすれば分かります。

みんな同じことを考えていました。

この会社から、本当に代金を回収できるのだろうか。

亡くなった人の通夜でそんなことを考えるのは、薄情に聞こえるかもしれません。

しかし、取引先には取引先の事情があります。

営業担当者であれば、自社のお金を回収しなければなりません。

経営者が亡くなった瞬間から、周囲の人たちは、それぞれの立場で動き始めるのです。

「1か月だけ待ってください」

通夜が終わったあと、奥様から取引先に話がありました。

「皆さんへの支払いは必ずします。1か月だけ待ってください」

社長が突然亡くなったばかりです。

会社の整理にも時間がかかるでしょう。

私たちも、その言葉を信じて待つことにしました。

そして1か月後。

約束の支払日は月曜日でした。

朝、会社に着くと、私はすぐに入金を確認しました。

入っていません。

電話をかけました。

つながりません。

何度か試しても同じです。

嫌な感じがしました。

私は営業担当でしたから、そのまま取引先の会社まで行ってみることにしました。

着いて、驚きました。

オフィスには、何もありませんでした。

机もない。

商品もない。

人もいない。

本当に、もぬけの殻でした。

隣の会社の人に尋ねました。

「ここにあった会社、どうしました?」

返ってきた答えは、

「土曜日に引っ越しましたよ」

でした。

1か月待ってほしいと言われて、待った。

そして支払日の直前の土曜日に、何の連絡もないまま事務所を引き払っていた。

さすがに、これは穏やかではいられません。

会社へ戻り、上司に報告しました。

上司は登記簿謄本を取り寄せ、そこに記載されていた社長の自宅を確認しました。

二人で行ってみることにしました。

自宅に着くと、ガレージには見覚えのある机などが置かれていました。

オフィスで使っていたものです。

洗濯物も干されています。

人が生活している気配はありました。

呼び鈴を鳴らしました。

返事はありません。

もう一度鳴らしました。

やはり、誰も出てきません。

仕方なく、

「本日、伺いました」

と書いたメモを残して、会社へ戻りました。

その日の夕方、連絡が入った

その日の夕方です。

別の会社の社長から電話がありました。

「ちょっと来てほしい」

指定された場所へ行くと、その社長と奥様、そして従業員のAさんがいました。

奥様から、もう一度言われました。

「売掛金は必ず支払います。もう1か月待ってください」

正直なところ、その時点ではもう、最初のときのようには信用できませんでした。

一度、約束して待った。

ところが支払日になっても入金されず、電話にも出ない。

しかも、その直前に事務所まで引き払っていたのです。

それでも、もう1か月待つことになりました。

ただし私は、

「次に支払いがなければ、またご自宅へ伺います」

と伝えました。

Aさんは、その場にいた別会社の社長の会社で働くことになりました。

そして最終的には、私の会社も売掛金を回収することができました。

これで一件落着。

……なのですが、この話には、もう一つ忘れられない出来事があります。

最初の支払日に回収できた会社が、一社だけあった

あとで知ったのですが、最初に約束していた支払日に、きちんと代金を回収できた取引先が一社だけありました。

どうやって回収したのか。

その会社の営業担当者は、毎朝、その会社へ通っていたそうです。

彼は転職して、まだ3か月ほどでした。

しかも、その取引先は、前職時代の人脈を使って、自分が新しく開いた口座だったそうです。

もしそこで貸倒れを出したら、自分の社内での立場も危うくなる。

だから、必死だった。

毎朝通い、支払いを求め続けた。

その結果、その会社だけは最初の支払日に回収できていました。

この話を聞いたとき、私は妙に納得しました。

社長が亡くなって困るのは、残された家族だけではないのです。

取引先には、取引先の事情がある。

従業員には、従業員の生活がある。

銀行には貸したお金がある。

顧客には、約束した仕事がある。

そして営業担当者には、営業担当者の立場があります。

誰もが、亡くなった経営者の事情だけを考えて待ってくれるわけではありません。

社長が亡くなった瞬間から、事業を取り巻く関係は変わり始める

この出来事は、私の中にずっと残っています。

経営者が亡くなっても、会社の机や設備が突然消えるわけではありません。

仕事も残ります。

売掛金も、買掛金も残ります。

従業員もいます。

取引先もいます。

だから外から見ると、

「そのまま誰かが引き継げば、事業を続けられるのではないか」

と思うかもしれません。

しかし、本当に確認しなければならないのは、残っているモノだけではありません。

社長がいなくなったあとも、その事業を支えていた「関係」が残るのか。

ここです。

取引先、仕入先、金融機関、従業員。

それぞれが、これまでと同じ関係を続けてくれるとは限りません。

さらに、社長が担っていた営業、資金繰り、判断、人脈を、残された人たちで引き継げるのかという問題もあります。

経営者一人がいなくなっただけに見えても、実際には、その人を中心につながっていた多くの関係が一斉に動き始めます。

だから、残された家族が、

「この事業を続けたい」

と思っただけで、昨日までと同じ事業がそのまま続くとは限りません。

一つずつ状況を確かめながら、

事業を続けるのか。

誰かに引き継ぐのか。

それとも、ここで終えるのか。

判断することになります。

ここまでは、建設業に限った話ではありません。

どんな商売でも同じです。

ただし、建設業にはもう一つあります。

取引先でも、従業員でも、銀行でもない。

行政です。

事業を続けられる見通しが立ったとしても、建設業許可の問題が残ります。

次に考えるのは、誰がこの建設業を引き継ぐのかです。

②建設業を続けるなら、誰が事業を引き継ぐのかを決める

建設業を営んでいた個人事業主の死亡後、複数の相続人が話し合い、長男が建設業者としての地位を承継する流れを示した図
相続人が複数いる場合でも、建設業者としての地位を全員で共同して承継するのではなく、誰が建設業を引き継ぐのかを決めて承継認可の手続きを進めます。

事業を続けられる見通しが立ったら、次に考えるのは、誰が亡くなった個人事業主の建設業を引き継ぐのかです。

たとえば、父親が個人事業主として建設業を営んでいたとします。

妻がいて、長男と次男がいる。

長男は父親と一緒に建設業で働いていて、次男は別の会社に勤めている。

こうした家族であれば、「長男がずっと一緒に働いてきたのだから、そのまま長男が継げばいい」と考えるかもしれません。

しかし、建設業許可の相続では、長男が父親と一緒に働いていたという事実だけで、長男への承継が決まるわけではありません。

まず確認するのは、誰が相続人になるのかです。

建設業許可の承継認可には、相続のほか、事業譲渡・合併・会社分割による承継もあります。建設業許可の事業承継・承継認可の全体像はこちらで整理しています。

相続人が複数いる場合は、共同相続人全員の同意が必要

亡くなった人に複数の相続人がいる場合、その人たちを共同相続人といいます。

先ほどの例で、妻、長男、次男が相続人となるのであれば、この3人が共同相続人です。

建設業許可の相続認可では、相続人が2人以上いる場合、共同相続人全員の同意によって、亡くなった人が営んでいた建設業を承継する相続人を選ぶ必要があります。

つまり、「長男が父親と一緒に現場で働いていたから」「長男が事業を継ぎたいと言っているから」という理由だけで、長男が建設業を引き継げるわけではありません。

妻と次男を含めた共同相続人の間で、「父親の建設業は長男が引き継ぐ」という合意が必要になります。

ここで注意したいのは、遺産分割協議をすべて終わらせることとは別の話だということです。

預貯金をどう分けるのか。

自宅を誰が相続するのか。

車や重機などの財産をどうするのか。

こうした相続財産全体の分け方を決めることと、建設業者としての地位を誰が承継するのかを決めることは分けて考えます。

しかも、建設業許可の相続認可には死亡後30日以内という申請期限があります。

相続全体の話がまとまるのを待ってから建設業許可を考えるのでは、間に合わなくなる可能性があります。

誰が引き継ぐのかは、実際に事業を動かせるかも考えて決める

共同相続人の合意が必要だからといって、単に家族で誰か一人を選べばよいという話でもありません。

選ばれた人は、これから実際に建設業を営んでいくことになります。

先ほどの例なら、長男が父親と一緒に働いてきたのであれば、長男を承継者として考えることもあるでしょう。

これから取引先と話をし、従業員を動かし、現場を管理し、事業を運営していかなければなりません。

前の章で考えた、「残された人たちで本当に事業を続けられるのか」という問題は、ここでもつながっています。

そして建設業では、さらにもう一つ確認することがあります。

その人を中心とした体制で、建設業許可を引き継ぐことができるのか。

これは、「誰が事業を継ぎたいのか」とは別の問題です。

長男が10年、20年と父親のもとで働いていたとしても、それだけで建設業許可に必要な要件を満たしているとは限りません。

この点は、次の章で詳しく確認します。

相続人が引き継がないという選択肢もある

共同相続人で話し合った結果、「自分たちでこの事業を続けるのは難しい」という結論になることもあります。

その場合に、無理に相続人の誰かが事業を引き継ぐ必要はありません。

事業そのものに引き継ぐ価値があるのであれば、第三者への事業譲渡を検討する方法もあります。

事業を続けないのであれば、廃業するという選択肢もあります。

大切なのは、「父親が建設業をやっていたから、家族の誰かが継がなければならない」と考えないことです。

事業を続けるのか。

続けるのであれば、誰が引き継ぐのか。

そして、その人を中心とした体制で建設業許可を引き継げるのか。

ここで、もう一度大きな判断をすることになります。

③建設業許可を引き継げる体制か確認する

建設業許可の相続承継で、父親が満たしていた許可要件ではなく、長男が事業を引き継いだ後の人員や営業所、財産的基礎などの要件を確認する様子
建設業許可を相続によって承継する場合、亡くなった事業主が満たしていた要件がそのまま相続人へ移るわけではありません。承継後の体制で、建設業許可の要件を満たせるか確認する必要があります。

建設業許可を引き継げる体制か確認する

共同相続人の間で、誰が建設業を引き継ぐのかが決まった。

次に確認するのが、その人を中心とした体制で、建設業許可を引き継ぐことができるのかです。

ここは、相続の話と建設業許可の話を分けて考える必要があります。

共同相続人全員が、「長男が父親の事業を継ぐ」と同意していたとしても、それだけで建設業許可まで引き継げるわけではありません。

相続認可を受けるためには、承継後も建設業許可に必要な要件を満たす必要があります。

建設業許可の取得条件については、こちらで全体像を整理しています。
建設業許可の取得条件

そこで私であれば、まず、亡くなった事業主が建設業許可の中でどのような役割を担っていたのかを確認します。

亡くなった事業主が担っていた許可要件を確認する

個人事業主の場合、事業主本人が許可要件の重要な部分を担っていることがあります。

たとえば、

父親自身が常勤役員等の要件を満たしていた。

さらに、父親自身が営業所技術者等にもなっていた。

こうしたケースです。

この場合、父親が亡くなったことで、単に「経営者がいなくなった」というだけではありません。

建設業許可を維持するために必要だった人も、同時にいなくなったことになります。

そのため、承継後の体制で、

常勤役員等の要件をどう満たすのか。

常勤役員等の要件については、こちらで詳しく説明しています。
常勤役員等の要件と証明方法

営業所技術者等を誰が担うのか。

そのほかの許可要件を維持できるのか。

一つずつ確認していきます。

ここで大切なのは、亡くなった父親の代わりを、事業を引き継ぐ長男一人ですべて埋めなければならない、と考えないことです。

長男自身が満たせる要件もあれば、残っている従業員などを含めた体制で満たせる要件もあります。

承継する人だけを見るのではなく、承継後の事業全体で許可要件を満たせるかを見ることになります。

長男が父親のもとで何をしていたのか

ここで、先ほどの長男について考えてみます。

長男は、父親の個人事業で10年以上働いていたとします。

しかも、単なる手伝いではありません。

父親と長男でそれぞれ一つの班を持ち、長男は自分の班の職人をまとめて現場を任されていた。

これだけ聞くと、「それなら長男がそのまま継げるだろう」と思うかもしれません。

しかし、ここでも確認が必要です。

現場を任されていたことと、事業の経営に携わっていたことは同じではありません。

長男が現場で何をしていたのか。

どのような工事に携わっていたのか。

資格を持っているのか。

どのくらいの実務経験があるのか。

こうしたことは、営業所技術者等の要件を確認するうえで重要になります。

資格や実務経験による営業所技術者等の要件については、こちらで詳しく説明しています。
営業所技術者等の要件と確認方法

一方、常勤役員等について確認したいのは、別の部分です。

父親が仕事を取り、見積りを出し、契約を決め、資金繰りをし、従業員を雇い、事業全体の判断をしていた。

長男は、父親から任された現場をまとめていた。

このような役割分担だったのであれば、長男が長年働いていたという事実だけを見て、父親と同じように経営経験があるとは判断できません。

反対に、長男が父親と一緒に見積りや契約、取引先との交渉、従業員の管理などにも関わり、実際に事業の経営を補佐していたのであれば、その内容を詳しく確認することになります。

ですから、私は、「お父様のもとで何年働いていましたか?」だけではなく、「その間、具体的に何をしていましたか?」を確認したいところです。

同じ10年間でも、その中身によって確認することが変わるからです。

許可要件を満たせるなら相続認可へ進む

亡くなった事業主が担っていた役割を確認する。

事業を引き継ぐ人が、これまで何をしてきたのかを確認する。

残っている従業員なども含めて、承継後の体制を確認する。

その結果、建設業許可の要件を満たせるのであれば、相続認可によって建設業者としての地位を引き継ぐことを検討します。

一方で、確認した結果、どうしても許可要件を満たせないこともあります。

共同相続人全員が長男の承継に同意している。

長男自身も父親の事業を続けたいと思っている。

取引先や従業員との関係も維持できそうだ。

それでも、建設業許可の要件を満たせなければ、相続認可によって許可を引き継ぐことはできません。

ここは、気持ちだけではどうにもならない部分です。

ただし、建設業許可を引き継げないことと、今後一切建設業に関われないことは別です。

許可を必要としない軽微な建設工事の範囲で事業を続けることも考えられます。

たとえば、それまでの取引先に事情を説明して、当面は許可を必要としない規模の工事だけを受注するという方法もあるでしょう。

ほかの建設会社で経験を積み、将来、自分自身で建設業許可を取得して独立するという道もあります。

第三者へ事業を引き継ぐことや、建設業から離れることも選択肢です。

ここで大切なのは、相続認可を受けられるかどうかを早い段階で確認することです。

なぜなら、相続認可には時間の制限があるからです。

次に、この制度で最も重要な「死亡後30日」について見ていきます。

④相続認可は死亡後30日以内に申請する

建設業の個人事業主が亡くなった後、家族と行政書士が相続人や許可要件を確認し、必要書類をそろえて相続による承継認可を申請する流れ
個人事業主が亡くなった後は、相続人の確認、承継する人の決定、許可要件の確認、必要書類の準備などを進め、限られた期間内に相続による承継認可を申請する必要があります。

相続認可によって建設業を引き継ぐ場合、被相続人の死亡後30日以内に認可申請を行う必要があります。

建設業法では「被相続人の死亡後三十日以内」と規定されています。

(相続)
第十七条の三 建設業者が死亡した場合において、当該建設業者(以下この条において「被相続人」という。)の相続人(相続人が二人以上ある場合において、その全員の同意により被相続人の営んでいた建設業の全部を承継すべき相続人を選定したときは、その者。以下この条において単に「相続人」という。)が被相続人の営んでいた建設業の全部を引き続き営もうとするとき(被相続人が一般建設業の許可を受けていた場合にあつては相続人が当該一般建設業の許可に係る建設業と同一の種類の建設業に係る特定建設業の許可を、被相続人が特定建設業の許可を受けていた場合にあつては相続人が当該特定建設業の許可に係る建設業と同一の種類の建設業に係る一般建設業の許可を受けている場合を除く。)は、その相続人は、国土交通省令で定めるところにより、被相続人の死亡後三十日以内に次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者に申請して、その認可を受けなければならない。

建設業法

この30日の間に、相続人の確認、共同相続人の同意、承継後の許可要件の確認、必要書類の準備を進めて、認可申請まで行います。

葬儀やほかの相続手続も重なる時期ですが、建設業を続けるのであれば、相続手続がすべて終わるのを待つことはできません。

認可申請から処分までは「みなし許可」となる

相続認可には、申請から認可または不認可の処分が出るまでの間、建設業を継続するための仕組みがあります。

これがみなし許可です。

相続人が期限内に認可申請をした場合、被相続人の死亡の日から認可または不認可の通知を受ける日まで、被相続人が受けていた建設業許可は、相続人に対してしたものとみなされます。

たとえば、

  • 9月1日 父が死亡
  • 9月15日 長男が相続認可を申請
  • 10月20日 相続認可

となった場合でも、みなし許可は申請日の9月15日からではなく、父が死亡した9月1日から適用されます。

したがって、「30日間だけ無許可になり、申請した日から再び許可業者になる」という仕組みではありません。

期限内に相続認可を申請することによって、被相続人の死亡から認可まで、建設業許可をつなぐ制度になっています。

死亡から認可申請までの工事は行政庁へ確認する

実務上、もう一つ確認しておきたいのが、被相続人が亡くなってから相続認可を申請するまでの工事をどうするかです。

建設業を営んでいた個人事業主が亡くなった時点で、すでに請け負っている工事や施工中の現場があることもあります。

さらに、その間にも新しい見積依頼や契約予定の工事が入ってくるでしょう。

相続認可を申請した場合、みなし許可は被相続人の死亡の日から適用されます。

ただし、実際の事業では、すでに請け負っている工事をそのまま続けてよいのか、新たな工事を受注してよいのかという判断が必要になります。

そのため、被相続人が亡くなった時点で工事を抱えている場合には、まず現在の工事をどのように扱うのかを許可行政庁へ確認します。

あわせて、相続認可を申請するまでの間に、新たな工事の受注、請負契約、着工などを予定している場合も確認しておくとよいでしょう。

建設業では、すでに現場が動いていることがあります。

相続認可の申請だけを考えるのではなく、現在の工事とこれから受注する工事をどう扱うのかも、早い段階で許可行政庁へ確認する。

経営者が亡くなった直後だからこそ、この確認も必要になります。

30日以内に申請できるよう早めに準備する

相続認可の30日という期限の中では、単に申請書を作成するだけではありません。

共同相続人の確認と同意、承継する許可、承継後の許可要件、必要書類などを確認したうえで申請します。

そのため、建設業を引き継ぐ方向が決まったら、30日目を申請の目標日にするのではなく、できるだけ早く申請準備に入る必要があります。

次に、東京都で相続認可を申請する場合の手続と必要書類を確認します。

⑤相続認可の申請に必要な書類

相続認可では、相続認可申請書のほか、相続関係や承継後の建設業許可の要件を確認するための書類を提出します。

ただ、すべてを一から準備するとは限りません。

亡くなった事業主が、建設業許可の更新、毎年の決算変更届、各種変更届などを適切に行っていれば、これまで提出した書類の控えが残っている可能性があります。

まずは、亡くなった事業主の建設業許可関係のファイルを確認してみましょう。

ここでは必要書類を、次の3つに分けて整理します。

  • 既存確認:これまでの建設業許可の申請・届出書類をまず確認するもの
  • 要再確認:過去の書類も参考になるが、承継後の状態をあらためて確認するもの
  • 新規  :相続が発生したことにより、新たに作成・取得するもの

※「既存確認」は、過去の書類をそのまま提出できるという意味ではありません。既存の申請・届出書類を確認したうえで、相続後の内容に合わせて作成・更新が必要になる場合があります。

主な書類・確認資料確認する内容準備区分建設業許可関係で確認する書類
相続認可申請書(様式第22号の10)相続認可の申請内容新規―
被相続人の死亡を確認する書類死亡の事実・死亡日新規―
申請者と被相続人との続柄を証する書類申請者と被相続人の相続関係新規―
共同相続人の同意書誰が建設業者としての地位を承継するのか新規―
営業所一覧表承継後の営業所既存確認直近の許可申請・更新申請、営業所に関する変更届
営業所技術者等一覧表承継後の営業所技術者等既存確認直近の許可申請・更新申請、営業所技術者等の変更届
工事経歴書最近の工事実績既存確認直近の決算変更届
直前3年の各事業年度における工事施工金額過去3年の工事施工実績既存確認決算変更届
財務諸表財務状況既存確認直近の決算変更届
使用人数従業員等の状況既存確認直近の許可申請・更新申請等
常勤役員等に関する確認資料承継後の経営体制・経験要再確認直近の許可申請・更新申請、常勤役員等に関する変更届
営業所技術者等に関する確認資料承継後の資格・実務経験等要再確認直近の許可申請・更新申請、営業所技術者等に関する変更届
社会保険等に関する確認資料社会保険等の加入状況要再確認直近の許可申請・変更届、事業所で保管している関係資料
財産的基礎を確認する資料承継後も財産的基礎の要件を満たすか要再確認過去の許可申請・更新申請を参考に、承継時点の状態を確認
営業所を確認する資料承継後の営業所の実態要再確認直近の許可申請・営業所変更届を確認し、現在の状態と照合
身分証明書などの証明書類欠格要件等新規取得するものあり―
建設業許可の相続認可に必要な書類を、既存の許可関係書類、相続関係書類、承継後の許可要件を確認する書類の3つに分けた図
相続認可では、亡くなった事業主の建設業許可関係書類だけでなく、相続関係を確認する書類や、承継後も許可要件を満たすことを確認するための書類を準備します。

まずは建設業許可関係のファイルを探す

私が相談を受けるのであれば、最初に確認したいのが、亡くなった事業主が保管していた建設業許可関係のファイルです。

特に確認したいのは、

  • 直近の許可申請・更新申請
  • 毎年の決算変更届
  • 常勤役員等に関する変更届
  • 営業所技術者等に関する変更届
  • 営業所に関する変更届

などです。

これらの書類がそのまま相続認可に使えるとは限りません。

ただ、亡くなった事業主がどのような体制で建設業許可を維持していたのかを確認する重要な手掛かりになります。

たとえば、直近の決算変更届が残っていれば、工事経歴書や財務諸表などを確認できます。

営業所技術者等の変更届が残っていれば、亡くなった事業主以外に営業所技術者等となっている人がいるのか、その人がどのような資格や経験で要件を満たしていたのかを確認する手掛かりになります。

まず既存の書類を確認してから、不足しているものを整理していく方が効率的です。

相続が発生したことで新たに作成・取得する書類

一方、相続認可だからこそ、新たに準備しなければならない書類があります。

代表的なのが、相続認可申請書です。

また、被相続人が亡くなったことや、申請者との続柄を確認するための書類も必要になります。

そして、相続人が複数いる場合に重要になるのが、共同相続人の同意書です。

たとえば、父親が亡くなり、妻、長男、次男が共同相続人で、長男が建設業を引き継ぐのであれば、

「長男が父親の建設業者としての地位を承継する」

ことについて、共同相続人全員の同意を得ます。

前に説明した共同相続人の合意が、ここで実際の申請書類になります。

過去の書類だけでは判断できないものもある

建設業許可関係のファイルがきれいに残っていたとしても、過去の書類をそのまま相続認可の申請に使えるとは限りません。

相続によって事業を引き継ぐ以上、承継後の内容に合わせて確認したり、書類を作り直したりする必要があるものがあります。

たとえば、亡くなった父親自身が常勤役員等を担っていたのであれば、過去の許可申請書には父親の名前が記載されています。

相続後は、父親に代わって誰が常勤役員等を担うのかを確認し、承継後の体制に合わせた書類を準備します。

営業所技術者等についても同じです。

また、工事実績や財務関係の書類についても、過去に提出した決算変更届だけですべて確認できるとは限りません。

たとえば9月に亡くなったのであれば、前年までの決算変更届には、その年の1月から死亡するまでの工事実績はまだ反映されていません。

さらに確認したいのが、これまで必要な届出が適切に行われているかです。

たとえば、過去の申請書には以前の営業所技術者等が記載されているのに、実際にはすでに別の人へ交代している。営業所を移転しているのに、その変更届が見当たらない。毎年提出する決算変更届が途中の年度から残っていない。

こうした状況が見つかることも考えられます。

相続認可を進める前提となる許可関係の届出に不足が見つかった場合には、不足している届出を自己判断で処理してから相続認可を申請するのではなく、東京都の窓口へ相談して、必要な手続と順序を確認します。

過去の変更届に未提出が見つかった場合の対応については、こちらで詳しく説明しています。
建設業許可の変更届を出し忘れた場合の対応

つまり、亡くなった事業主の建設業許可ファイルは、単に相続認可に使えそうな書類を探すためだけのものではありません。

これまでの建設業許可が、現在の実態ときちんとつながっているかを確認するための資料でもあります。

ここまで確認したうえで、相続認可に必要な書類を現在の状態に合わせて整えていきます。

この記事では、東京都が公開している建設業許可の手引・申請書類を参照して説明しています。実際に申請する際には、最新の資料を確認してください。

東京都「建設業許可 手引、申請書類等」

⑥許可番号も引き継がれる

相続認可では、被相続人が受けていた建設業許可が承継されます。

そのため、新規許可のように新しい許可番号が付与されるのではなく、原則として被相続人の許可番号を引き継ぎます。

これは、父親の個人事業をいったん廃業して、長男が新しく建設業許可を取得する場合との大きな違いです。

許可の有効期間は認可日の翌日から5年間になる

もう一つ重要なのが、許可の有効期間です。

相続認可を受けた場合には、被相続人の許可の残り期間をそのまま引き継ぐのではありません。

認可を受けた日の翌日から起算して5年間が、承継した建設業許可の有効期間となります。

たとえば、父親の建設業許可の有効期限が翌年に迫っていたとしても、相続認可を受ければ、その残り期間だけを引き継ぐわけではありません。

ここは「相続認可を申請すると更新と同じように5年間延びるのか?」という疑問にもつながるところです。

ただし、正確には更新したのではなく、相続認可によって許可の有効期間が認可日の翌日から5年間となるという仕組みです。

⑦相続認可を受けられない場合はどうするか

相続認可を受けられないからといって、選択肢がなくなるわけではありません。

たとえば、長男が事業を継ぎたいと思っていても、承継後の体制では建設業許可の要件を満たせないことがあります。

その場合は、「父親と同じ形で事業を続ける」ことからいったん離れて、今後どうするかを考えます。

許可が不要な工事に絞って続ける

今後請け負う工事が軽微な建設工事だけであれば、建設業許可を受けずに事業を続けられる場合があります。

たとえば、これまでの元請会社に事情を説明して、今後は許可が必要となる規模の工事を受注しないという方法です。

もちろん、一つの工事を許可不要の金額にするために分割することはできません。

建設業許可が必要となる金額基準と分割発注の考え方については、こちらで詳しく説明しています。
500万円未満・以上の判定と分割発注

将来あらためて新規許可を目指す

相続認可を受けられなくても、将来、本人が建設業許可の要件を満たせるようになれば、新たに建設業許可を取得することは考えられます。

たとえば、別の建設会社で働きながら必要な経験を積むなど、現在不足している要件を満たすための方法を検討します。

ただし、これは父親の許可を後から引き継ぐということではありません。

個人事業主として独立する場合でも、法人を設立する場合でも、その時点の体制で許可要件を満たしたうえで、新規に建設業許可を申請することになります。

建設業をやめる

家族の誰かが、必ず父親の事業を継がなければならないわけではありません。

事業を続けることが難しいのであれば、施工中の工事や取引先、従業員、債権債務などを整理して、事業を終えることも選択肢です。

事業を第三者へ引き継ぐ

家族が事業を続けるのではなく、別の事業者へ事業を引き継ぐ方法も考えられます。

ただし、亡くなった父親の建設業許可を、そのまま第三者へ移すことはできません。
第三者への事業承継を検討する場合には、現在の事業・許可の状況を確認したうえで、どのような手続が可能かを個別に整理する必要があります。

事業譲渡と建設業許可の承継については、事業譲渡による建設業許可の承継で詳しく説明します。

「相続できるか」だけで考えない

相続認可を受けられないと分かった場合には、

許可不要の範囲で続けるのか。
将来自分で許可を取るのか。
事業を終えるのか。
第三者へ引き継ぐのか。

改めて選択することになります。

父親の事業をそのまま残すことだけを前提にせず、残された人たちがこれからどうするのかを考えることが大切です。

⑧建設業許可の相続でよくある質問

Q:個人事業主の父が建設業許可を持っていました。長男がそのまま許可を引き継げますか?

相続人であるというだけで、自動的に建設業許可を引き継げるわけではありません。

父親が個人事業主として受けていた建設業許可を長男が引き継ぐには、相続による承継認可を受ける必要があります。

そのためには、長男を中心とした承継後の体制で建設業許可の要件を満たすことが必要です。また、共同相続人がいる場合には、長男が建設業者としての地位を承継することについて、共同相続人全員の同意も必要になります。

なお、法人が建設業許可を受けていて、その代表者である父親が亡くなった場合は、この相続認可の話とは別です。

Q:個人事業主が亡くなった場合、相続認可はいつまでに申請しますか?

建設業法では、相続人が建設業者としての地位を承継しようとする場合、被相続人の死亡後30日以内に認可を申請することとされています。

この30日の間に、誰が事業を引き継ぐのかを決め、共同相続人がいる場合にはその同意を得たうえで、承継後の許可要件や必要書類を確認し、認可申請まで進める必要があります。

そのため、相続認可を利用する可能性がある場合には、早い段階で準備を始める必要があります。

Q:「死亡後30日以内」は、死亡した日から数えますか?

建設業法では、相続認可の申請期限を「被相続人の死亡後30日以内」と定めています。

ただし、東京都の案内では、この30日の具体的な起算方法までは明示されていません。

相続認可は申請できる期間が短く、相続人の確認や共同相続人の同意、許可要件の確認、必要書類の準備も必要です。そのため、期限ぎりぎりで判断せず、相続が発生したら早めに東京都へ相談し、申請期限を確認しながら準備を進めるとよいでしょう。

Q:相続認可を申請すれば、認可が出るまで建設業を続けられますか?

期限内に相続認可を申請した場合には、認可または不認可の処分があるまで、被相続人に対してした建設業許可は相続人に対してしたものとみなされます。

いわゆる「みなし許可」です。

ただし、個人事業主が亡くなった時点ですでに施工している工事や、死亡後に新たな工事を請け負う場合など、実際の事業継続について判断に迷うこともあります。

死亡から認可申請までの期間も含め、受注済み・施工中の工事や新たな契約をどう扱うか判断できない場合には、許可行政庁へ確認してから進めるとよいでしょう。

Q:長男が許可要件を満たせない場合、会社を設立すれば父の許可を引き継げますか?

できません。

相続による承継認可は、亡くなった個人事業主の相続人が建設業者としての地位を承継する制度です。

長男が新たに設立した会社は、父親の相続人ではありません。そのため、その会社が相続認可によって父親の建設業許可を引き継ぐことはできません。

長男が会社を設立して建設業を続けるのであれば、その会社の体制で建設業許可の要件を満たし、新規に建設業許可を取得することを検討します。

Q:父が生前に受けた監督処分も、相続認可で引き継ぎますか?

相続認可では、被相続人の建設業者としての地位が相続人に承継されます。

そのため、被相続人に対して行われた監督処分や、生前の違反行為に関する行政上の取扱いについても、承継後の事業に影響する場合があります。

また、被相続人の死亡後に生前の不正行為等が判明した場合には、承継した相続人に対して監督処分が行われることがあります。

一方、被相続人本人に科される刑罰そのものを、相続人が承継するわけではありません。

⑨まとめ|まず「誰が、どのように事業を続けるのか」を考える

個人事業主が亡くなったとき、最初に考えることは建設業許可の手続だけではありません。

取引先や従業員との関係を維持できるのか。残された家族の中に事業を引き継ぐ人がいるのか。そして、その人を中心に事業を続けていけるのか。

まず、これから事業をどうするのかを考える必要があります。

そのうえで建設業を続けるのであれば、建設業許可をどうするのかを確認します。

相続による承継認可を利用する場合には、被相続人の死亡後30日以内という申請期限があります。共同相続人がいる場合にはその同意が必要となり、事業を引き継ぐ人が承継後も建設業許可の要件を満たす必要があります。

一方、相続による承継認可が難しい場合でも、父親と同じ形で事業を残すことだけが選択肢ではありません。

「父親の建設業許可をどう引き継ぐか」ではなく、「これからこの事業をどうするのか」から考える。

この記事で一番お伝えしたかったのは、この点です。

事業を続けるのか。別の形で引き継ぐのか。それとも終えるのか。

その方向を確認したうえで、相続による承継認可を利用するのか、別の方法で事業を引き継ぐのか、必要となる建設業許可の手続を考えていきます。

個人事業主の死亡後、何から手をつければよいか分からない場合はご相談ください

個人事業主が突然亡くなった場合、短期間に確認しなければならないことがいくつもあります。

  • 誰が事業を引き継ぐのか
  • 共同相続人の同意を得られるのか
  • 承継後も建設業許可の要件を満たせるのか
  • これまでの変更届や決算変更届に不足がないか
  • 現在受注している工事をどうするのか

しかも、相続による承継認可の申請期限は被相続人の死亡後30日以内です。

IT行政書士事務所では、東京都知事許可の建設業者について、現在の許可内容や残されている申請・届出書類、事業を引き継ぐ方の状況などを確認し、相続による承継認可を利用できるのか、まず何を確認すべきなのかを整理します。

「父が亡くなったが、建設業を続けられるのか分からない」

「誰が事業を引き継ぐか、まだ決まっていない」

「許可関係の書類はあるが、何を見ればよいのか分からない」

という段階でも構いません。

まずは現在の状況を確認し、相続による承継認可を利用するのか、ほかの方法で事業を引き継ぐのか、その後に必要となる手続をご提案します。

当事務所へ相続による承継認可をご依頼いただく場合の対応範囲や料金については、事業承継・承継認可サポートをご確認ください。。