遺言書は、人生の最後に自分の大切な意思を家族や関係者に伝えるための重要な書類です。しかし、作成するだけでは十分ではなく、適切に保管することが非常に重要です。
誤った保管方法を選ぶと、紛失や改ざんのリスクが高まり、遺産相続の場面で思わぬトラブルに発展することもあります。
本記事では、遺言書の種類ごとの保管方法、安全に保管するためのポイント、さらに遺言書の紛失やトラブルを防ぐための対策を詳しく解説します。
目次
遺言書の種類と保管の重要性
自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
遺言書には大きく分けて、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つの種類があります。
自筆証書遺言は、自分自身で全文を手書きし、署名と押印をして作成するものです。手軽に作れる反面、法律上の要件を満たさないと無効になったり、紛失や改ざんのリスクも高いのが特徴です。
一方、公正証書遺言は公証人役場で公証人が作成し、証人2名の立会いのもとで署名します。法律的に強い効力があり、紛失や改ざんの心配が少ない点が大きなメリットですが、作成には手数料がかかり、公証役場へ出向く手間も必要です。
遺言書の保管が重要な理由
遺言書は作成しただけでは十分ではありません。適切に保管することで初めてその効力が発揮されます。不適切な保管による紛失や破損はもちろん、誰にも発見されずに遺志が無効になってしまう可能性もあります。また、遺言書が発見されたとしても、改ざんの疑いがあると相続手続きが遅れるなど、家族に大きな負担をかけることになります。
そのため、遺言書は「安全かつ確実に保管すること」が極めて重要なのです。
遺言書の安全な保管方法
1.自宅での保管
自宅で遺言書を保管する場合、耐火金庫や鍵付きの引き出しに保管するのが一般的です。この方法は手軽で費用もかかりませんが、火災や盗難、紛失のリスクが伴います。家族に遺言書の存在と保管場所を伝えることで、万が一の際にも確実に発見されやすくなります。
ただし、家族間のトラブルを避けるため、全員に内容を知らせるか、一部の信頼できる人だけに伝えるかは慎重に判断する必要があります。
2.法務局での保管(自筆証書遺言保管制度)
自筆証書遺言の場合、2020年から始まった「自筆証書遺言保管制度」を利用することで、法務局で安全に保管することができます。この制度を利用すると、紛失や改ざんの心配がなく、相続発生後も家庭裁判所での検認手続きが不要になるため、相続手続きがスムーズに進みます。
保管には事前の予約と手数料(3,900円程度)が必要ですが、安心して保管できるメリットは大きいでしょう。法務局での手続き後には「保管証明書」が発行され、これが遺言書の存在証明として役立ちます。
本人確認書類と遺言書を持参。
事前予約が必要な場合もある。
手数料(約3,900円)を支払い、遺言書を預ける。
保管が完了した証明書が交付される。
3.銀行の貸金庫での保管
銀行の貸金庫は、高いセキュリティと災害対策が施されており、遺言書の保管場所として非常に安全です。特に火災や盗難に強く、物理的な損傷のリスクが少ないのが特徴です。
ただし、相続発生後に貸金庫を開ける際は、相続人全員の同意や裁判所の許可が必要になる場合があり、手続きが煩雑になることもあります。また、年間利用料がかかる点も考慮が必要です。
また、銀行職員による、貸金庫の盗難事件の記憶も新しく、少し使いにくいサービスとなってしまいました。
4.弁護士や行政書士など専門家への保管依頼
遺言書の保管を弁護士や行政書士などの法律専門家に依頼する方法もあります。この場合、紛失や改ざんのリスクが大幅に減少し、さらに遺言書の内容に関するアドバイスや、必要に応じて法的手続きのサポートも受けられます。
信頼できる専門家に預けることで安心感は得られますが、保管料や相談料が発生するため、コスト面についても事前に確認しておくことが重要です。
遺言書の保管時に気をつけたいポイント
遺言書を保管する際は、いくつかの重要なポイントに注意する必要があります。
まず、遺言書の存在と保管場所を信頼できる家族や第三者に伝えておくことが大切です。誰にも伝えなければ、遺言書が発見されずに効力を発揮しない可能性があります。一方で、内容を広く伝えすぎるとトラブルの原因になることもあるため、バランスが重要です。
また、保管場所の環境にも配慮しましょう。湿気や直射日光、高温多湿の環境は紙の劣化を早めるため、避けることが望ましいです。耐火金庫の使用や防湿剤の設置など、物理的な対策も有効です。
さらに、遺言書は作成後も定期的に見直すことが推奨されます。家族構成や財産状況の変化、法律の改正などがあれば、内容を更新することで常に最新の状態を維持できます。
遺言書に関するよくある質問
Q1. 遺言書は複数作成してもいいですか?
はい、複数作成することは可能ですが、複数の遺言書が存在する場合は最新の日付のものが有効とされます。そのため、古い遺言書は無効になる可能性があるため、不要になったものは破棄するか、無効であることを明記しておくと安心です。
Q2. 遺言書が見つからなかった場合はどうすればいいですか?
遺言書が見つからない場合は、家族が保管している可能性のある場所を確認するほか、法務局での保管制度を利用している場合は照会手続きを行うことができます。もし遺言書が存在しないと判断された場合は、法律に基づいた通常の相続手続きが進められます。
Q3. 自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらが安全ですか?
公正証書遺言の方が安全性は高いとされています。公証人が作成し、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクがほとんどありません。ただし、費用がかかることや作成の手続きが複雑になる点も考慮する必要があります。
まとめ:遺言書は適切に保管してこそ意味がある
遺言書は、作成することがゴールではありません。大切なのは、「適切に保管し、確実に遺族へ届けること」です。自宅での保管、法務局の制度利用、銀行の貸金庫、専門家への依頼など、保管方法にはさまざまな選択肢がありますが、自分の状況に合わせて最適な方法を選ぶことが大切です。
家族が安心して遺志を引き継げるように、今すぐ遺言書の保管方法を見直してみましょう。