遺言が無効になるケースとは?トラブルを防ぐための基礎知識と対策

遺言は、遺された家族に自分の意思を伝える重要な手段ですが、一定の条件を満たさない場合、法律上無効とされてしまいます。遺言が無効になれば、相続人間で争いが生じ、家庭裁判所での手続きが必要になるケースもあります。本記事では、遺言が無効になる理由や具体例、トラブルを防ぐための対策について詳しく解説します。

遺言が無効になる主な理由とは?

遺言が無効とされるケースには、いくつかの共通する理由があります。ここでは、代表的な原因を詳しく解説します。

法律で定められた形式を満たしていない場合

日本の民法では、遺言書の形式に関して厳密なルールが定められています。たとえば、自筆証書遺言の場合、全文を遺言者自身が手書きする必要があり、署名と日付も必須です。これらの要件を欠いていると、遺言が無効とされる可能性が高まります。

遺言作成時の意思能力が欠けている場合

遺言者が認知症や精神疾患を患っている場合、遺言作成時に「意思能力」が欠如していると判断されることがあります。意思能力とは、物事を正しく理解し判断できる能力を指し、これがない場合、遺言書は無効とみなされる可能性があります。

詐欺や強迫による遺言の場合

第三者から詐欺や脅迫を受けた結果、遺言内容が歪められている場合も無効です。このようなケースでは、証拠を揃え、裁判所で不正行為を立証する必要があります。

公序良俗違反の場合

公序良俗に反する遺言は無効です。

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

(公序良俗)民法第九十条

代表的には不倫関係にある愛人に遺贈するケースです。

妻居住の不動産を含む、全財産を不倫相手に遺贈する内容の遺言に関して、公序良俗に違反するとして無効と東京地裁が判断しています。(東京地裁昭和58年7月20日判決)

遺言が無効とされる具体例

ここでは、遺言が無効となる典型的な例を挙げて解説します。

署名や押印が欠けている場合

自筆証書遺言では、遺言者自身の署名と押印が必須です。署名や押印がない場合、その遺言は無効となります。また、代筆やゴム印も認められません。

日付が不明確な場合

遺言には日付が記載されていなければなりません。「〇月吉日」や「令和○年」といった曖昧な記載では、法律上の要件を満たさず、無効と判断される可能性があります。

法定相続人を不当に排除している場合

遺留分を侵害している遺言内容は、一部無効となる可能性があります。遺留分は、法定相続人が最低限受け取る権利を保障する制度です。遺留分を無視した遺言は、相続人からの請求によって調整される場合があります。

遺言無効を争う手続きの流れ

遺言無効確認訴訟とは?

遺言無効確認訴訟は、家庭裁判所において遺言の有効性を争うための訴訟です。遺言が無効であると主張する側が、証拠を提示してその理由を立証する必要があります。

遺言書の検認手続きと無効の関係

遺言書が発見された場合、家庭裁判所での「検認手続き」が必要です。ただし、検認は遺言の有効性を確認する手続きではなく、あくまで現状を保全するための手続きです。そのため、検認後に無効とされるケースもあります。

必要な証拠とその集め方

遺言の無効を証明するためには、署名や押印の不備、遺言者の意思能力を示す医療記録、詐欺や強迫の証拠など、具体的な証拠を揃える必要があります。専門家のアドバイスを受けると、スムーズに進められるでしょう。

遺言無効を防ぐためにできること

遺言が無効とされるリスクを最小限に抑えるために、以下のポイントに注意しましょう。

公正証書遺言の活用

公正証書遺言は、公証人が遺言作成をサポートし、法律に基づいた内容と形式を確保します。そのため、無効となるリスクが極めて低く、信頼性が高い方法です。

専門家による事前確認の重要性

行政書士や弁護士に依頼して遺言の内容を確認してもらうことで、不備を防げます。特に、財産が多い場合や複雑な相続関係がある場合は、専門家のアドバイスが不可欠です。

最新の家族構成や財産状況に応じた見直し

言作成後に家族構成や財産状況が変化することがあります。その場合は、適宜遺言を見直すことが重要です。定期的なアップデートで、有効性を保つことができます。

遺言無効に関するよくある質問

Q,自筆証書遺言はどれくらいの割合で無効になりますか?

自筆証書遺言の約3割が何らかの形式不備で無効とされているといわれています。形式を守り、専門家の助言を受けることが重要です。

Q,遺言が一部無効の場合、全体も無効になりますか?

いいえ、一部無効と判断された場合でも、無効部分を除いた残りの内容が法律に適合していれば、その部分は有効です。

Q,遺言執行者がいない場合でも有効ですか?

はい。遺言執行者がいない場合でも遺言は有効です。ただし、執行にあたって相続人や家庭裁判所が調整する必要が生じる場合があります。

遺言を適切に作成して家族のトラブルを防ごう

本記事では、遺言が無効になる理由や具体例、無効を防ぐためのポイントについて詳しく解説しました。

遺言は、遺産相続における家族間のトラブルを防ぐための強力なツールです。しかし、形式や内容が法律に適合していなければ、遺言が無効となり、かえってトラブルの原因になることもあります。専門家のサポートを受け、正しい方法で遺言を作成することで、家族に安心を残しましょう。