遺言書は、個人の死後にその財産の分配やその他の意志を明確にするための重要な文書です。遺言書の管理は、将来のトラブルを防ぐために重要な手続きの一つです。その中でも近年注目を集めているのが、法務局による「自筆証書遺言書保管制度」です。本記事では、「自筆証書遺言書保管制度」を利用した場合のメリット、具体的な手続き方法、注意点を分かりやすく解説します。
目次
自筆証書遺言書保管制度
自筆証書遺言書保管制度は、遺言者が自ら手書きで作成した遺言書を法務局に保管してもらう制度です。これまでの遺言に関する課題を解決できる制度でありますが、万能ではない点注意が必要です。
2024年11月現在、毎月2,000通程度が同制度を利用しているようです。2020年に始まった制度ですから、普及はこれからといったところでしょうか?
法務省HP「遺言書保管制度の利用状況」
従来の遺言書、運用上の課題
自筆証書遺言書の課題
自筆証書遺言書を自宅に保管しているのは約3/4ほど、行政書士などに預けているケースは1/4となります。紛失・盗難の危険性や様式の不備で無効になるデメリットもありました。また、その所在が周知されていないと、遺言者が亡くなっても発見されないこともあります。一人暮らしにより遺言書が発見されないケースがあるでしょうし、実際にその遺言書を本人が書いたかどうかを証明するすべはなく、裁判に至る場合も考えられます。
公正証書遺言の課題
必要書類の事前準備や公証人との打合せなど、それなりの手間と時間が必要になります。また、財産に応じた費用がかかるため、多くの財産を持っている人ほど使いにくい制度となっています。また、遺言者が口述する場に、証人が必ず立ち会うため、遺言書の内容を秘密にすることが難しい可能性があります。
法務局で遺言書を保管するメリットとは?
安全性の向上
法務局では、遺言書原本は防災性の高い専用の保管庫で、合わせて画像データを150年間保管管理します。火災や盗難のリスクを回避できるため、大切な遺言書を確実に守ることができます。また、保管に際して証人の立会は不要なため、遺言書の内容の秘密が担保されやすいです。
検認手続きが不要
法務局で保管した遺言書は、家庭裁判所での「検認手続き」が不要となります。これにより、相続人の負担を軽減することが可能です。
信頼性の確保
法務局の保管制度では、厳格な本人確認を行い、遺言書の内容変更や取り出しには本人の意思確認が必要です。不正や改ざんのリスクを最小限に抑えられます。また、保管期間中に内容の閲覧や遺言の撤回が可能となっています。
低料金、比較的手間なく保管が可能
自ら作成した自筆の遺言書を法務局に持参するだけでよく、1通につき3900円で自筆証書遺言書は原本に加えて画像データも保管されます。
通知制度
関係遺言書保管通知
遺言者が死亡、(法定)相続人が、誰か一人でも遺言書の内容に関する証明書を取得し、遺言書を閲覧したりした場合、その他の相続人等に対しても、遺言書が保管されている旨が通知されます。
遺言者が指定した方への通知(指定者通知)について
遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合に、あらかじめ遺言者が指定した方(3名まで指定可)に対して、遺言書が保管されている旨をお知らせするものです。なお、この通知は、遺言者が希望する場合に限り実施します。
通知制度に関して、詳しくは10 通知〜通知が届きます!〜
法務局での遺言書保管の手続き方法
法務局で遺言書を保管するためには、以下の書類を準備します。
•自筆証書遺言書(封筒に入れず提出)
•本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
•住民票の写し
•申請書/届出書/請求書 ※法務局のウェブサイトからダウンロード可能です。
06 申請書/届出書/請求書等
遺言者自身が全文を手書きで作成し、署名と押印を行います。法務局では遺言書の内容についてアドバイスや確認は行いません(※制度上できない)ので、事前に専門家に相談することをお勧めします。
※制度上できないとは?
自筆証書遺言の保管に関して、不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)や預貯金通帳など財産についての書類や、遺産をわたす相手の住民票などはありません。
つまり、これらの誤記は法務局が関与するところではなく、書き損じ等によって、適切な相続手続きができなかったとしても自己責任であるということです。
自筆証書遺言書の法律上の要件(968条)は、次のとおりです。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(自筆証書遺言)民法第九百六十八条
法務局での自筆証書遺言書保管制度を利用する際には、この通常の要件に加えて次の要件も満たさなければなりません。
1.次の用紙で作成すること
サイズ:A4サイズ
模様等:記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの
余白 :最低限次の余白を確保すること。
上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、
左20ミリメートル、右5ミリメートル(一文字でもはみ出していれば保管不可)
2.用紙の片面のみに記載すること
3.各ページに、総ページ数とページ番号を記載すること(「1/2」「2/2」など)
4.複数ページにわたる場合でもホチキスなどで綴じないこと
5.消えるインクなどは使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用すること
5.遺言者の氏名は戸籍どおり(外国籍の方は公的書類記載のとおり)に記載すること。
ペンネームはいくら周知のものであっても不可
03 遺言書の様式等についての注意事項
遺言書の作成ができたら、遺言書を保管してもらう法務局(遺言書保管所)を決め、法務局に予約(電話、またはホームページから)を入れます。
保管先とすることのできる法務局は、次のいずれかです。
- 遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
- 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
- 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所
保管手続きが出来る法務局は決まっていますので、最寄りの法務局では対応できない場合があります。法務局HPで、ご自身の住所地等の管轄を調べることができます。
法務局HP「管轄のご案内」
予約した法務局に出向き、窓口で申請を行います。申請時には、遺言書の内容確認(形式面)が行われます。
代理人は不可、必ず本人が出向く必要があります。難しい場合は、公正証書遺言を検討してください。遺言者が口述することで、公証人という法律のプロフェッショナルが作ってくれます。遺言者が病気などで外出できない場合には出張してくれることもあります。また、公証役場なら、どこでも保管してもらえます。
遺言書1通につき3900円の手数料の支払いを行い、遺言書の保管が完了すると「保管証」が発行されます。この保管証は、遺言書の保管状況を確認する際に必要です。保管証は、遺言書の保管を行ったことを示す書類で、遺言者氏名・生年月日、遺言書を保管した遺言書保管所(法務局)の名称のほか、保管番号が記載されています。
法務局で遺言書を保管する際の注意点
法務局による遺言書の内容確認は不可
法務局では、遺言書の内容が法律に適合しているかどうかの確認を行いません。そのため、不適切な内容である場合、後々無効となる可能性があります。事前に弁護士や行政書士に内容を確認してもらうことを推奨します。
法務局は書式や形式面(用紙のサイズ、署名、日付、押印など)は確認しますが、法的に不備(財産分与についての記述が不正確)があるかどうかまでは確認してもらえません。
遺言者本人に「この遺言書の保管を申請する意思があるかどうか」についてはきちんと確認しているからです。また、遺言者本人の認知症がかなり進行していて、手続きが行えない場合もあるようです。
また、遺言書についての相談も受け付けておりません。
保管後の変更は本人のみ可能
遺言書の閲覧や撤回を行う際は、本人が直接法務局に出向く必要があります。代理人による手続きは認められていません。
費用と時間
法務局の保管サービスには手数料がかかります(現行3,900円)。また、予約が必要なため、急ぎの対応には向きません。
法務局での遺言書保管に関するよくある質問
Q1: 保管できる遺言書の種類は?
法務局で保管できるのは、自筆証書遺言書のみです。公正証書遺言や秘密証書遺言は対象外です。
Q2: 相続人が遺言書を確認するには?
遺言者が亡くなった後、相続人は遺言書保管ファイルの閲覧や証明書の交付を申請できます。必要な書類や手続きは法務局に問い合わせてください。
Q3: 遺言書の保管期間は?
遺言者が死亡してから50年間保管されます。その後、廃棄されるため、相続手続きは早めに行うことが推奨されます。
まとめ:遺言書の適切な管理で安心な相続を
法務局での自筆証書遺言書保管制度は、安全性や信頼性の面で非常に有用で、従来の自筆証書遺言書のデメリットを大きく減じることが可能となります。
一方で、内容の確認や手続きの制約もあるため、事前に専門家と相談しながら進めることが重要です。
大切な遺言書を正しく管理し、家族や相続人の安心を守りましょう。
最後に自筆証書遺言書保管制度のパンフレットをご案内します。
ご興味あれば、ダウンロードしてみてください。